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俺は、ゆっくりと重い瞼を押し上げた。
視界いっぱいに広がるのは、一切の陰影を持たない、果てしなく純白な空間だった。
音もなく、匂いすらない、完全な静寂がそこにはある。
『やぁ』
俺に向かって軽く手を挙げるそいつは、顔のない人影だった。
人間型の光、とでもいうのだろうか。
青白く、それでいて温かみのある光を放つ謎の存在が、ひどく親しげに話しかけてくる。
『おいおい、何を警戒してるんだよ。命の恩人に対して失礼とは思わないのかいっ』
命の恩人か。確かにその通りだ。
あの電波塔での死闘の最中、俺は自身の巨大な重力を制御しきれていなかった。
俺が魔人としての力を十全に発揮できたのは、絶望の土壇場で、俺の耳にこいつの澄んだ声が直接届いたからに他ならない。
その瞬間、俺の身体の奥底に、膨大な自然エネルギーである闘気が流れ込んできたのだ。
俺の両腕に巻かれている重い枷が、過去の遺物であること。
そして、闘気とこの枷を組み合わせることで、空間に局所的な万有引力を発生させるという神業を教えてくれたのも、目の前にいるこいつだ。
『そう、つまりは君の恩人ってわけさ』
その偉大な恩人は、一体何者なのだろうか。
俺に味方し、力を貸してくれたということは、ヴィーナスと対立する者。すなわち、人間サイドの存在ということなのだろうか。
『地球は誰の味方でもないよ』
地球。
『君らが青き星と呼ぶ、この星のことさ』
星、か。
こいつがこの星そのものの化身だとして、どうして俺にばかり贔屓をしてくれるのだろうか。
正直なところ、ヴィーナスとの戦いでは、こいつの助言がなければ俺たちは確実に敗北し、命を落としていただろう。
『そう卑下するものじゃないよ。君と、君の仲間たちの頑張りがあってこそだろっ。もし地球の助言がなかったとしても、どうにかしたと思うよ』
果たして、そうだろうか。
『まあ、しいて助言するなら、君の名前の意味を考えてみることだね』
俺の名前。
ガイア。それが、一体なんだというのだ。
『ねえ、ガイア。君の名前は、いったい誰がつけたのかなっ』
誰が、だと。
そんなもの、俺の両親に決まっている。
いや、待て。
魔人は本来、この星から直接生み出される存在であるはずだ。
だが、俺には人間の両親がきちんと存在し、彼らに育てられた温かな記憶がある。ガイアという名前も、両親が愛情を込めてつけてくれたものだ。
いや、でも決定的におかしい。それは、ひどく矛盾している。
魔人に、人間の親がいるはずなどないのに。
『まあ、これは宿題ってことで。今は完全勝利を、仲間たちと喜ぶといいよ』
すぅっと、青白い光を放っていた星の化身が、空間に溶けるように静かに姿を消していく。
それと同時に、泥に沈むように俺の意識が深く遠のいていった。
『また会おうね、ガイア』




