魔力ゼロの【田舎令嬢】、都でSランク魔道具師となる~婚約者は無能な私より妹が好きらしいので、婚約解消し、都に出て宮廷魔導士選抜試験を受けたら、千年に一人の天才だったことが判明した~
「【アウラ】。君との婚約は、本日をもって破棄させてもらう」
日差しが差し込む、男爵邸の応接室。
対面のソファにふんぞり返るようにして座る子爵令息【ヒラヤ】が、冷ややかな声で告げた。
その腕には、アウラの妹であるクズチカがすがりつくように身を寄せており、勝ち誇ったような視線をこちらへ向けている。
「理由を——お伺いしてもよろしいでしょうか?」
アウラは、白磁のティーカップをソーサーにことりと置き、静かに問い返した。
膝の上で両手を揃え、まっすぐに相手を見つめる。そこに悲壮感はない。ただ事実を確認するだけの、透き通った声だった。
「ふん。決まっているだろう。アウラ、先日の加護の儀で、君にはいかなる加護も下りず、おまけに体内魔力がゼロだと判明したからだ。魔力ゼロの無能を妻に迎えるわけにはいかない」
ヒラヤは鼻を鳴らし、忌々しげに吐き捨てる。
「その点、双子の妹であるクズチカは……素晴らしい水魔法の素養がある。それに君と違って、油と鉄の匂いをさせて、薄暗い部屋で得体の知れないガラクタばかり作ったりしないからな」
「アウラお姉様、ごめんなさいっ。でも私、ヒラヤ様と惹かれ合ってしまって……お姉様の分まで、私が彼を幸せにしますわ」
クズチカが高級な香水の匂いを漂わせながら、甘ったるい声で言い添える。
「それに、魔力がまったくないアウラお姉様がいくら鉄くずをいじったところで、本物の魔法には敵わないもの。ヒラヤ様も、私の水魔法が美しいと褒めてくださるのよ」
クズチカの言葉に、ヒラヤは満足そうに頷いた。彼らにとって、アウラが部屋に籠って作っていた『周囲の魔力を集めて微風を起こす扇風機』や『魔力を光に変換する永久ランプ』などは、ただの不気味な玩具にしか見えていないらしい。
アウラの心は、ひどく穏やかだった。魔力ゼロ。その言葉に傷つく時期は、とうの昔に過ぎ去っている。
かつて、アウラの世界は暗闇だった。生まれつき光を失っていた彼女の毎日は、冷たい静寂の中にあった。
そこに色彩を与えてくれたのは、通りすがりの魔法使いが施した治癒魔法だった。
まぶたの裏を突き抜けるような、圧倒的な熱と光。初めて見た空の抜けるような青さ。風を巻き起こし、世界を改変する不可思議な力。
魔法という現象の美しさに、アウラは強烈に心を奪われた。
自分もあんな風に、美しい奇跡をこの手で形にしてみたい。人を笑顔にするあの温かな光を、紡ぎ出してみたい。
——しかし、彼女の体内魔力は完全にゼロだった。どれほど焦がれても、自身の体から魔法を生み出すことはできない。残酷な現実がそこにあった。
ならば、作ればいい。自然界に満ちる魔力を取り込み、術式を代行する器を。
その日から、アウラは狂気的なまでの情熱を魔道具作りに注いできた。自分の作った道具で魔法が発動し、誰かがそれを使って喜んでくれること。それが彼女の至上の幸福だった。
本物の魔法に敵わないと言われようと、彼女の胸の内に秘められた炎が消えることはない。ヒラヤへの恋慕など、魔導への情熱に比べれば塵のごときものである。
「理解いたしました。婚約解消の件、謹んでお受けします」
アウラが深く頭を下げると、同席していた父親が、重々しい革袋をテーブルの上に放り投げた。
ジャラリ、と硬貨がぶつかり合う鈍い音が室内に響き渡る。
「アウラ、お前は我が男爵家の恥だ。お前のような穀潰しは今日限りで追放とする。それは手切れ金だ。さっさと荷物をまとめて出ていきなさい」
父親の冷酷な宣告。
しかし、その革袋の膨らみを見た瞬間、アウラの胸の奥で静かなる情熱の炎が燃え上がった。
(これほどの金額があれば、王都へ行ける。ずっと欲しかったあの稀少な雷鳴晶も買えるし、王都の最先端の魔導部品も手に入るわっ)
膝の上で揃えていた指先が、歓喜に小さく震える。アウラは微かに上気する頬を隠すため、ふっと伏し目がちになり、銀色の長い髪を耳にかけた。
「今まで育てていただき、ありがとうございました」
淑女としての完璧な礼の裏側で、彼女の心はすでに、未知の素材が眠る王都のことで頭がいっぱいだった。
これでもう、窮屈な男爵邸でコソコソと研究をする必要はない。誰に咎められることもなく、堂々と魔道具を作ることができるのだ。
冷ややかな視線を送る家族や元婚約者など、今の彼女にとっては道端の石ころと同義だった。
アウラは静かに席を立つと、衣擦れの音を小さく響かせながら、未練なく応接室を後にした。
重厚な木製の扉が背後で閉ざされた瞬間、アウラは大きく息を吐き出した。
廊下の窓から差し込む陽光が、彼女の銀髪をきらきらと照らし出している。足取りは軽く、自室へ向かうステップには弾みすらついていた。
手早く鞄に詰め込んだのは、ドレスや宝石ではない。これまで描き溜めてきた魔道具の設計図と、使い込まれた工具、そして試作品の数々だった。
部屋の隅に立てかけてあった、フリルがあしらわれた可愛らしい日傘を手に取る。
一見するとただの淑女用の小間物だが、その中身は魔力伝導率の高い特殊合金で打ち直された銃身を持つ、長銃型の魔導器である。
「ふふっ。ついに、この子を広い世界で試す時が来たのね」
日傘の柄を撫でながら、アウラは目を輝かせた。
馬車に乗り込み、住み慣れたはずの領地を離れる時も、彼女の瞳に涙は一滴も浮かばなかった。窓の外を流れる田園風景は、これから始まる大いなる実験への序章でしかない。
王都には、どんな未知の魔力が渦巻いているのだろうか。どんな凄い素材が売られているのだろうか。
手切れ金の入った革袋を胸に抱きしめ、アウラは淑女らしく、しかし野心に満ちた笑みを深めたのだった。
☆
王都へと続く街道を、乗合馬車が土埃を巻き上げて進んでいく。
車輪が石を跳ねる乾いた音と、春の若草の匂いが、風に乗って車内に流れ込んでいた。
アウラ・ローラは硬い木製の座席に揺られながら、膝の上に乗せた革鞄を愛おしげに撫でていた。
彼女は転生者だ。前世の記憶はおぼろげだが、一つだけ鮮明に覚えていることがある。
それは、光を失った暗闇の世界で、冷たい絶望を抱えながら死を迎えたという記憶だった。
そしてこの世界に生まれ落ちてもなお、彼女の両眼は光を捉えることができなかった。
農村の片隅で、ただ息を潜めて生きるだけの灰色の毎日。
それを劇的に変えてくれたのは、偶然村を訪れた伝説の賢者ノアカーターだった。
彼がアウラのまぶたに触れ、治癒魔法を施した瞬間。
世界は極彩色となって彼女の眼前に広がった。弾けるような熱と、空間を焦がすオゾンの匂い。
それはアウラにとって、命そのものよりも鮮烈な魔法という名の奇跡の体験だった。
自分もこの手で、あの温かな奇跡を紡ぎ出したい。そう願ったアウラだったが、彼女には致命的な欠陥があった。
体内魔力が完全にゼロだったのだ。どれほど魔法の知識を詰め込んでも、指先から火の粉一つ出すことができない。
だが、彼女は諦めなかった。
自身の体から生み出せないのなら、外にある魔力を取り込んで再現すればいいのだと。
そうして彼女がたどり着いたのが、魔道具という概念だった。
自然界に満ちる魔力を動力源とし、術式を代行する器を作り出す技術である。
男爵家の長女という立場上、彼女はこれまで領地の外へ自由に出ることを許されなかった。
薄暗い自室に籠もり、独学で鉄や鉱石を削って魔道具の試作を繰り返すしかなかったのだ。
「もう、私を縛るものは何もないのね」
アウラは小さく呟き、ふわりと微笑んだ。
窓枠に肘をつき、流れる景色を見つめる。
遠くの空には、王都を囲む巨大な城壁が霞んで見え始めていた。
手切れ金として押し付けられた硬貨の入った袋は、ずっしりと重い。
王都に行けば、見たこともない魔導部品や、高度な術式が記された専門書が山のようにあるはずだ。
想像するだけで、指先がうずうずと疼いてくる。
「まずは滞在費を稼ぎつつ、研究拠点を探さなくては。ふふっ、忙しくなるわね」
誰に気兼ねすることもなく、大好きな魔道具作りに没頭できる。
自分を無能と見下したヒラヤやクズチカのことなど、すでに彼女の頭から完全に抜け落ちていた。
アウラの透き通った瞳は、ただ純粋に、これからの輝かしい未来だけを見据えていた。
☆
マデューカス帝国、帝都カーター。
硬い石畳を踏みしめた瞬間、鼻をくすぐる香辛料や鉄の匂いに、アウラの胸は期待に大きく高鳴った。
行き交う豪奢な馬車の車輪の音、立ち並ぶ重厚なレンガ造りの建造物。そして何より、大通りに面して軒を連ねる魔道具店や素材屋の数々である。
硝子張りのショーウィンドウには、田舎では決して見ることのできない純度の高い魔石や、精緻な金細工の歯車が飾られている。
アウラは思わず足を止め、食い入るようにそれらを見つめた。
「素晴らしいわっ。どれも一級品の素材ばかりね」
銀色の瞳をきらきらと輝かせたアウラだったが、添えられた値札を見て、ふうと小さく息を吐き出した。
手切れ金として父親から受け取った革袋の金は、当面の生活費としてなら十分すぎる額だ。しかし、本格的な魔道具開発を行うにはあまりに心許ない。
これまでは、領地に住む領民たちの手伝いをして研究費を捻出していた。
壊れた農具の修繕や、害獣除けの小さなからくり作りを請け負い、駄賃として小銭や廃材を譲り受けて、細々とやりくりしていたのだ。
王都の最先端の素材を買い揃え、理想の魔道具を組み上げるためには、莫大な資金と専用の工房が必要となる。
「やはり、安定した研究費を稼ぐ手段を見つけなくてはなりませんね」
顎に指を当て、そう思案しながら歩いていたアウラの目に、広場に立てられた立派な掲示板が飛び込んできた。
ひときわ大きな羊皮紙に記されていたのは、『宮廷魔導師選抜試験』の文字である。
「宮廷魔導師……選抜試験……」
宮廷魔導師。文字通り、宮廷に仕える魔法使いたちのことだ。
募集要項を読み進めるうち、アウラの瞳が微かな熱を帯びていく。
「合格者には帝国からの莫大な給金が支払われ、さらには宮廷内にある最新鋭の魔導工房の自由使用権が与えられる……」
(これだわ。これなら資金の心配をすることなく、いくらでも魔道具の研究ができます)
宮廷魔導師といえば、一握りの才あるエリートたちが集う場所である。しかし、アウラに気負いはなかった。
自分の作り上げた魔道具が、本物の魔法使いの集う王都でどれほど通用するのか。純粋に試してみたいという探求心もある。
試験要項には、魔道具の持参不可とはどこにも書かれていない。
ならば、魔力ゼロの自分でも受かる可能性は少しはあるだろう。
「記念受験も兼ねて、受けてみましょうか」
アウラは淑女らしく口元に手を当て、ふふっと上品に微笑んだ。
ずしりとした頼もしい重みを持つ、日傘に偽装した長銃型の魔道具をしっかりと握り直す。
彼女は迷うことなく、出願受付が行われている教会へと歩き出した。
☆
アウラは帝都の宿屋に泊まり、情報を集めた。
宮廷魔導師選抜試験は一週間後、帝国立魔法学院で行われるらしい。
受験資格は特になし。広く募集をかけることで、隠れた才能を見逃さないという帝国の方針だ。
定員もなく、願書は当日まで受け付けているという。
アウラはすぐさま願書を提出し、一週間後、試験会場である魔法学院へとやってきた。
学院の正門をくぐると、手入れされた芝生の青い香りが鼻をくすぐる。
すれ違う受験生たちは皆、緊張した面持ちで杖を握りしめていた。
アウラはフリルがあしらわれた日傘の柄を両手で包み込むように持ち、期待に胸を高鳴らせて指定された面接室の扉の前に立つ。
重厚な樫の木の扉を押し開けると、蝶番が低く重い音を立てる。
窓が黒い布で覆われた室内は薄暗く、乳香の匂いがねっとりと漂っていた。
部屋の中央には長机が置かれ、その奥に威圧感のある三人の面接官が腰を下ろしている。
いずれも深いローブのフードを目深に被り、顔は見えない。
ただ、彼らから放たれる魔力の圧だけが、肌を刺すような冷気となって部屋を満たしていた。
「受験番号四百二番。名を名乗れ」
中央に座る面接官が、低く響く声で告げた。
普通の受験生であれば、その声と威圧感だけで膝を震わせるだろう。
だが、アウラは日傘の柄をそっと撫で、きょとんとした表情で小首を傾げた。
シルクの衣擦れの音が、静寂の落ちた室内に微かに響く。
(奇妙な魔力の流れ。まるで、出来の悪い魔道具みたいだわ)
アウラの視界には、まったく別の光景が広がっていた。
彼女の体内魔力は、完全にゼロである。
自身の内に魔力というノイズを持たない彼女の肉体は、外界の魔力を弾くことなく、そのまま知覚できる特異な体質へと変化していたのだ。
透明な水がわずかなインクの濁りを捉えるように。
アウラの眼には、目の前に座る三人の男たちが、不自然に編み込まれた魔力の塊にしか見えなかった。
呼吸の音もしなければ、体温も感じられない。
空間の魔力がそこだけ陽炎のように歪んで停滞しているのだ。
アウラは小さく息を吸い込むと、澄んだ声で口を開いた。
「あの。どなたもいらっしゃらないようですが、こちらの魔力で構成された幻影に向かってご挨拶をすればよろしいのでしょうか」
室内に、しんと静まり返った沈黙が落ちた。
アウラは目の前の幻影には目もくれず、視線をすっと右側の壁へと移す。
「それとも、そちらの壁の裏側にいらっしゃる方々に、お話しした方がよろしいですか」
アウラが壁に向かって優雅に一礼した直後。
ふっと目の前の三人の面接官が霧散するように消え去り、部屋を満たしていた重い圧迫感も嘘のように晴れた。
「まさか、これほど一瞬で見破るとはな」
壁の一部が音もなく開き、そこからローブ姿の初老の男が姿を現した。
男は驚きを隠せない様子で、アウラをまじまじと見つめる。
「これは宮廷魔導師が何人も束になって編み上げた、最高位の幻術だ。魔力の残滓すら感知させない精巧な作りのはずだが、お嬢さん、一体どうやって見抜いた」
「どうやって、と言われましても」
アウラは困ったように微笑み、長い銀髪を指先でそっと耳にかけた。
「空気がそこだけ不自然に固まっておりましたから。あれでは、魔力の流れが滞ってしまってひどく息苦しいですわ」
アウラにとっては、魔力が不自然に密集している様は、部屋のど真ん中に巨大な岩が置かれているのと同じくらい違和感のある光景だった。
男は信じられないものを見るような目でアウラを見つめた後、深く息を吐き出して手元の羊皮紙にペンを走らせた。
「見事だ。魔力の流れそのものを直感で視認できるとは。一次試験は文句なしの合格だ。奥の扉から二次試験の会場へ向かいなさい」
「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」
アウラはふわりとドレスの裾をつまみ、完璧な淑女の礼をとる。
踵を返し、指定された奥の扉へと向かう彼女の足取りは、小鳥のように軽やかだった。
(拍子抜けですけれど、これで次の試験に進めるのね。次はどんな魔法が見られるのかしらっ)
これから起こる未知の実験への期待に、アウラは頬を微かに紅潮させながら、二次試験の会場へと足を踏み入れた。
☆
一次試験の後に課された筆記試験は、魔導書を読み漁ってきたアウラにとって退屈な確認作業に過ぎなかった。
難なく突破した彼女は、いよいよ実技試験の会場である屋外の修練場へと足を踏み入れた。
修練場の中央には、巨大な岩の的がいくつも並んでいる。
そして的の手前には、腕を組んで立つ長身の男の姿があった。
男の身体からはバチバチと青白い火花が散っている。空気が焦げるような匂いが辺りに充満していた。
「次、受験番号四百二番」
男が低く、雷鳴のような声で呼んだ。
彼の名はガンダールヴル。「雷帝」の異名を持つ若き天才であり、今回の実技試験の試験官である。
「はい、アウラ・ローラと申します」
アウラが優雅に歩み出ると、ガンダールヴルは鋭い眼光で彼女を射抜いた。
次の瞬間、彼の太い眉が不快げに寄せられる。
「貴様、魔力が全くないな。ただのゼロではない。魔力を留める器すら持っていない空っぽの肉体だ」
「はい。おっしゃる通りですわ」
「ふざけるなっ! 魔力を持たぬ者が宮廷魔導師の試験を受けるなど、魔導への冒涜だ! さっさと立ち去れ!」
雷帝の怒気とともに、強烈な電撃が地面を這う。
普通の人間なら腰を抜かすほどの威圧感だが、アウラは微動だにしない。
(なんて素晴らしい魔力。術式を組むことすらせず、ただ特性を帯びた魔力を放出しているだけだわ。それなのに、これほどの出力があるなんて)
アウラの特異な視界は、彼から止めどなく溢れ出し、無駄に大気中へ散っていく膨大な雷の魔力を捉えていた。
極上の動力をただ垂れ流しているだけの状態に、アウラは内心で舌を巻く。
「試験官様。魔道具の持ち込みは、規則で禁じられておりませんわ」
アウラは淑女の笑みを浮かべたまま、手にした可愛らしい日傘の石突きをカチャリと外した。
フリルに覆われていた軸の部分が露わになる。
それは魔力伝導率の高い特殊合金で打ち直された、長銃型の魔導器であった。
「魔道具だと? 自身の力も持たぬ輩が、そんな玩具で何をするつもりだ」
「少し、お力を拝借いたしますわね」
アウラは日傘の柄を肩に当て、銃身を岩の的へと向けた。
引き金に指をかけると同時に、銃身に刻まれた緻密な術式が起動する。
周囲の空間に散っていたガンダールヴルの雷魔力が、凄まじい勢いでアウラの魔導器へと吸い込まれていく。
大気中の魔力を強制的に収束させ、術式へと変換するアウラ特製の機構である。
「なっ、私の魔力が、吸われているだと!?」
ガンダールヴルが驚愕に目を見開く中、魔導器の銃身に眩い雷光が凝縮されていく。
かつてアウラが森で遭遇した雷獣の術式を組み込んだ、特製の電磁投射砲だ。
「いきますわ。【千雷招来】」
アウラが引き金を引いた瞬間。
鼓膜を破るような轟音とともに、極太の雷の奔流が放たれた。
雷光は瞬きする間もなく岩の的を粉砕し、修練場を囲う強固な防壁をも容易く消し飛ばす。
射線上にあった大地は黒く焦げ、もうもうと土煙が舞い上がっていた。
「素晴らしいわっ! やはり試験官様の魔力は、最高の動力源ですわね!」
アウラは熱を帯びた銃身を愛おしげに撫でながら、歓喜に頬を染めて叫んだ。
これほど純度の高い雷魔力を充填できたのは初めての経験である。
彼女の魔導への情熱は最高潮に達していた。
一方、ガンダールヴルは眼前で起きた規格外の破壊を前に、戦慄して立ち尽くしていた。
魔力を持たぬただの少女が、あのような絶大な魔法を引き起こしたというのか。
「ば、馬鹿なっ! 自身の魔力ではなく、道具の力に頼るなど紛い物だ! 私は貴様を魔導師とは認めないぞ!」
ガンダールヴルは激昂し、顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
だが、彼にどれだけ反発されようとも、アウラの心には一点の曇りもない。
「構いませんわ。わたくしは、この子がしっかり機能することが証明できれば、それで満足ですから」
アウラは淑女らしく優雅に一礼する。
その透き通った瞳の奥には、狂気的なまでの魔導への探求心が、青白い炎のように静かに燃え盛っていた。
☆
数日後。アウラの元に、宮廷からの正式な合格通知が届けられた。
雷帝ガンダールヴルの猛反発はあったものの、試験を監督していた審査委員会は、アウラの規格外の破壊力と、それを成し遂げた魔道具の技術的価値を極めて高く評価した。
結果として、彼女は帝国の歴史上初となる魔力ゼロの魔女として合格を果たしただけでなく、特例中の特例である『Sランク魔道具師』の称号と、宮廷内の専用工房を与えられることになったのである。
「素晴らしいわっ。これほどの設備が自由に使えるなんて」
宮廷の奥に用意された真新しい工房で、アウラは純度の高い雷鳴晶をルーペで覗き込みながら、歓喜の溜息を漏らした。
壁一面には貴重な魔導書が並び、作業台には王都でも最高級の工具が揃っている。手切れ金など到底及ばない、莫大な研究予算まで割り当てられていた。
「おい、アウラ! 今日も貴様のイカサマを暴きに来てやったぞ!」
工房の扉を荒々しく開け放ち、ガンダールヴルがずかずかと踏み込んできた。
彼はあれからというもの、何かと理由をつけてはアウラの工房に入り浸っていた。魔道具など認めないと言いつつも、彼女の作り出す常識外れの道具が気になって仕方がないらしい。
「まあ、いらっしゃいませ。ちょうど良かったですわ。こちらの新型魔導器の動力源として、少し魔力を分けていただけませんか?」
「馬鹿を言えっ! 誰が貴様の玩具の動力などに……おい、いきなりコードを繋ぐなっ!」
「ふふっ。ありがとうございます。おかげで素晴らしいデータが取れそうですわ」
文句を言いながらも、結局は大人しく雷の魔力を供給させられているガンダールヴルを見て、アウラは淑女の笑みを深める。
自分が精魂込めて作り上げた魔道具が、強力な魔力を持つ彼の手によって起動し、その性能を遺憾なく発揮する。それはアウラにとって至福の時間だった。
☆
一方その頃。王都から遠く離れた田舎の男爵邸では、ヒラヤとクズチカが青ざめた顔で一枚の新聞記事を見つめていた。
そこには、宮廷魔導師選抜試験を圧倒的な成績で首席合格し、異例のSランク魔道具師に任命された天才少女、アウラ・ローラの姿が大々的に報じられている。
「嘘だ……魔力ゼロの無能だったはずだぞ。なんで、あの得体の知れないガラクタが、国家の最高技術に認定されているんだっ!」
ヒラヤは頭を抱え、膝から崩れ落ちた。
魔力ゼロだと見下し、追放した女。それが、マデューカス帝国でも千年に一人と言われるほどの天才頭脳だったというのだ。
アウラがもし自分の妻になっていれば、子爵家は帝国の中枢に食い込み、莫大な富と名声を得ていたはずだった。それを自らの手で手放したばかりか、手切れ金まで渡して追い出してしまった。
「お、お姉様が、そんな……っ。私の水魔法の方が、ずっと美しかったはずなのに……」
クズチカもわなわなと震えながら、床にへたり込む。
アウラの魔道具の価値に気づけず、目先の小さな魔法の素養だけで彼女を追放した男爵家と子爵家は、いずれ帝国の笑い者になり、没落の道を辿ることは火を見るより明らかだった。
二人は今更ながらに取り返しのつかない絶望と後悔に打ちひしがれ、ただ暗い部屋の中でうずくまることしかできなかった。
☆
「くそっ、この魔導器は出力が暴れすぎるっ! もう少し魔力変換の効率を見直せ!」
「あら。ガンダールヴル様ほどの魔力なら、これくらい容易く制御できると思っておりましたのに。少し残念ですわね」
「なんだとっ! よし、もう一度貸せ! 完璧に使いこなしてやる!」
田舎の愚者たちがどれほど後悔に泣き濡れようと、アウラの知ったことではない。
彼女は今、王都の最先端の工房で、優秀な魔力供給源であり良きツッコミ役でもある雷帝と共に、心ゆくまで魔道具の開発に没頭している。
「ふふっ。次は、どんな魔道具を作りましょうか」
アウラは工具を手に取り、上品に、けれど狂気的なまでの情熱を込めて、優雅に微笑むのだった。
【作者からお願いがあります】
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「面白い!」
「続きが気になる!」
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