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【Web版】追放された【重力使い】は万有引力を支配し、最強に至る  作者: 茨木野
二章

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85

 俺とリィナがヴィーナスからの攻撃にやられそうになったとき。

 メルクリウスが姉の支配から脱却し、戦うことを決意した。

 メルクリウスが酸素の供給をしてくれたおかげで、リィナも俺も死なずにすんだ。


 危ないところだった。

 まだ少しふらふらする。それに、全身が火傷を負うように熱く痛む。


「電波を利用して、相手を燃やすことができるのだ。気をつけるのだ」


「あ、ああ」


 正直なところ、原理はよくわからない。

 電波という目に見えない波動について、理解が及んでいない部分もある。

 だが、メルクリウスはずっとヴィーナスの傍にいた。姉がどこまでできるのか、ここに居る誰よりも熟知している。


 ならば真実なのだろう。


「滅せよ、神敵どもよっ」


 ヴィーナスが俺たちを冷酷に睨みつける。

 瞬間、再び俺たちの身体が激しく燃え上がった。

 電波による加温。だが、メルクリウスが瞬時に音波の風を操り、炎を吹き飛ばした。


「助かった。いくぞ。メルクリウスっ」


 俺は己を縛る枷を外し、魔人状態を解放する。

 周囲に強烈な重力波が発生した。ビリビリと祭壇の周囲の大気が鳴動する。

 俺の肉体が、完全な魔人へと変貌を遂げた。


「■■■■■■■■■■■■■■■っ」


 リィナを、そしてノエルを容赦なく傷つけた怒りが、血液を沸騰させて全身を駆け巡る。

 重力の魔人となった俺は、ヴィーナスめがけて一気に駆け出した。

 自らを無重力状態にし、空を駆ける。いつも以上に異常な速さだ。


 背後のメルクリウスが、弦楽器の遺物《アーティファクト》を激しくかき鳴らしている。

 彼女が音波を巧みに操り、俺の移動速度を限界まで後押ししてくれているのだ。

 無重力の俺と、音波による推進アシスト。


 二つの力が合わさることで、凄まじい速さでの飛翔が可能となる。

 ヴィーナスから見れば、俺はほぼ瞬間移動したように見えたはずだ。

 俺は重力を乗せた必殺の一撃をヴィーナスにお見舞いする。


 だが、ヴィーナスはそれを紙一重の動きで完全に回避した。


「ハァッ」


 ヴィーナスはがら空きになった俺の背中に、冷酷なかかと落としを食らわしてくる。

 ズンッ。

 一瞬、背中が爆発したのかと錯覚した。


 ものすごい勢いで叩き落とされたのだ。

 俺はそのまま硬い大理石の地面に激突する。

 ボコォッと床が深く陥没するほどの、絶大な威力だった。


 ヴィーナスは倒れ込んだ俺に向かって、自身の角であるアンテナをへし折り、脳髄へ突き刺そうと迫る。

 俺は背後に圧縮した重力球を出現させ、そのアンテナを強引に吸い寄せた。


「ちっ」


「■■■■ぉっ」


 俺は今度こそ拳に極大の重力を集中させ、跳ね起きると同時にヴィーナスを殴りつける。

 だが、あいつはまたもやゆらりと回避してみせたのだ。

 どうなっている。


 そう思考する間もなく、ヴィーナスは俺の脇腹に鋭い蹴りを食らわせた。

 空中で姿勢を崩しながらも、重力を操作して強制的に制止する。

 それにしても、なんてパワーだ。あんな細身の身体で、これほどの物理的な破壊力を発揮するとは。


 いや、それよりも、あの回避行動は常軌を逸している。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ」


 駄目だ。俺の肉体が完全に暴走し始める。

 頭で考える間もなく、本能のままに相手へ突っ込んでしまう。


「まるで知性のない獣ですね」


 パチンとヴィーナスが優雅に指を鳴らすと、またも俺の全身が発火した。

 電子レンジの原理を応用したという、恐るべき加温能力だ。

 電波の力で、一体どうやって対象を発火させているのか理解が追いつかない。そもそも、電波能力は相手の精神を操るだけの力ではないのか。


「終いです」


 炎に気を取られている俺の眼前に、ヴィーナスが音もなく忍び寄る。

 渾身の力を込め、奴は俺の胸部へ貫手を放ってきた。

 その鋭い指先は、俺の心臓を正確に捉えている。


 やばい。このままじゃ重力の防御が間に合わない。


「ずぇえええええええええええええええええええええいっ」


 ヴィーナスの顔面に、メルクリウスの強烈な跳び蹴りが突き刺さった。

 不意を突かれたヴィーナスは、そのまま真横に吹き飛んでいく。

 何度も床でバウンドし、無様に転がった。


「お兄ちゃんっ。無事なのだっ」


 メルクリウスが音波の風を起こし、俺を包んでいた炎を綺麗に吹き飛ばしてくれた。


「■■」


 助かった。

 だが、明らかにおかしい。奴は俺の全ての攻撃動作を完全に読み切っていた。

 俺相手に先読みできるのなら、メルクリウスの動きも読めるはずだ。


 攻撃が来ると分かっていながら、どうしてメルクリウスの蹴りは回避できなかったのだ。


「メルクリウスぅっ。貴様ぁっ」


 ヴィーナスが激怒している。

 身体から立ち昇るどす黒い殺意は本物だ。つまり、妹相手だからと油断や手加減をしたわけではない。

 メルクリウスからの攻撃は、完全に予想外だったのだ。


 あいつはメルクリウスが裏切ったことをすでに知っている。

 その上で予想外。攻撃してくるのは分かっていたはずなのに、そのタイミングを予測できなかった。

 そうか。


「■■■■ぉお」


 駄目だ。この状態では、人間の言葉がうまく喋れない。

 どう伝えればいい。


「大丈夫、わかるよ。お兄ちゃんのうなり声。その微細な音のパターンから、お兄ちゃんの言っていることがわかるのだ」


「っ。■■■」


 俺は低く唸りながら、奴の回避能力のカラクリについて予測を立てた。


「舐めるなよ、ガキどもがぁっ」


 ヴィーナスが再び指を鳴らす。俺とメルクリウス、二人の身体が同時に燃え上がる。

 だが。


「甘いっ」


 メルクリウスは自身の炎を音波で吹き飛ばすと同時に、直線的な跳び蹴りを繰り出した。

 音速を超える、回避不可能な必殺の一撃。

 だが、ヴィーナスは余裕綽々とした態度で半身をよじり、これを紙一重で回避した。


 ニヤリと勝利を確信して笑う奴の顔面に、俺は重力を極限まで込めた拳を叩き込む。


「ぎゃぁっ」


 俺の全力の一撃をまともに受けたヴィーナスは、そのまま錐揉み回転しながら吹き飛び、巨大な祭壇に激突した。

 硬質な祭壇に深い亀裂が走る。よし。


「なぜだ。なぜ」


 ヴィーナスは理解できていない。自身の能力の欠陥について。


「愚妹っ。なぜ手を組むのです。そいつは魔人でありながら、人間に与する汚らわしい反逆者なのですよっ」


 星から産み落とされた魔人。

 魔人の真の目的は、この星の害虫である人間を皆殺しにすることだという。

 つまり、人を守るために戦う俺は、魔人側からすればあいつの言う通り裏切り者の存在だ。

 

「決まってるのだ」


 メルクリウスは桃色の髪を揺らし、堂々と胸を張って宣言する。


「わたしもまた、反逆者なのだっ」


 魔人でありながら、人であるリィナを愛している。

 そして、リィナの大切な人のために命を懸けて戦う。今の彼女は、俺と同じ気高き戦士だ。


「いくぞ、お兄ちゃんっ」


「■■ぉっ」


 俺とメルクリウスが左右から同時に突っ込む。

 俺が前に出て重力の拳を大振りに放つ。

 ヴィーナスは脳波を読み取ってそれを回避しようとするが、それはフェイクだ。


「はぁっ」


 すでにメルクリウスが上空へと跳躍し、眼下に向けて音速のかかと落としを振り下ろしている。

 ヴィーナスはもろに頭部へ攻撃を受けた。

 そう、奴はおそらく相手の思考を電波として受信し、読み取っているのだ。


 俺が攻撃するという意識の波を拾い、その軌道を先読みして回避している。

 しかし、その高度な先読み処理ができる対象は、一度に一人だけだ。

 俺の思考を読み取っている瞬間、メルクリウスの思考までは読めない。その致命的な隙を突いた。


 どちらかが派手な攻撃を仕掛けることでヴィーナスに思考を読ませ、その一瞬の隙にもう一人が本命の一撃を叩き込む。


「出会ったばかりだというのに、なんだ、その完璧なコンビネーションは。一体どうやって」


 するとメルクリウスはふふんと得意げに胸を張り、眩しい笑顔で言い放った。


「わたしとガイアお兄ちゃんは、同じ人を愛する同志なのだっ」


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