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【Web版】追放された【重力使い】は万有引力を支配し、最強に至る  作者: 茨木野
二章

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 俺たちは塔を登っていた。ただし、内部から登るのではない。

 塔の側面に足をついて、垂直に駆け上がっているのだ。


 やり方としては単純である。俺たちにかかる重力の向きを、壁側へと変更したのだ。

 これにより、塔からの落下を防ぐことができる。


 俺、リィナ、メルクリウスは塔の側面を走る。

 内部での余計な戦闘をカットし、最短距離で最上階を目指すためだ。


「まってろ、ヴィーナスっ」


 リィナが遥か上空を睨みつけながら叫んだ。

 彼女の大切な友達を、ヴィーナスが操っているのだ。


 リィナとしては、そんな酷いことをした魔人を許せないのだろう。

 一方で、メルクリウスはずっと黙ったままだった。


 あのナメクジ人間を相手にしてから、どうにも様子がおかしい。妙に元気がないように思える。

 全く苦戦などしていなかった。

 相手に特に不審な点も見られなかったはずなのだが。


 メルクリウスはなぜ黙っているのだろうか。

 分からないが、深く考えている余裕もなくなってきた。


 俺たちの登る塔は雲を抜け、さらに高高度の空へと続いている。

 徐々に空気が薄くなっていくのを感じた。


 この星は地面に近い方が空気が多く、空へ向かうとその分、空気量が減っていく。


 だから、通常上へ上へと登っていくと、厳しい寒さと、空気の薄さという問題に直面する。


 だが、そこでメルクリウスの出番だった。

 彼女は音波を自在に操ることができる。


 音とともに、それを震わせる空気をまた操ることができるのだ。

 空気弾を使えたのも、そういう理屈である。


 彼女に空気を操作してもらい、俺たちへ常に酸素を供給してもらう。

 音波による空気供給、そして俺の重力操作を組み合わせることで、高所だろうと普通に活動できていた。


 ここへは、俺一人だけでは到底辿り着けなかった。

 メルクリウスが居るから、仲間として協力してくれるからこそ。


「ここが、最上階」


 塔の頂。

 そこには、雲ひとつない澄み切った蒼空が広がっていた。


 最上階は広いお盆のような構造になっている。

 中央には巨大な祭壇があり、そこに裸身の女が跪いて、一心に祈りを捧げていた。


 今なお、周囲では祭壇が徐々に構築されていっている。

 おそらく、まだ祭壇は完成していない。だが、もう間もなくといったところだろう。


「リィナ」


「飛燕斬っ」


 リィナが鋭く剣を振るう。剣士のスキル、飛燕斬。


 剣を勢いよく振ることで風の刃を作り出し、遠くにいる敵を攻撃する絶技だ。

 だが、飛ばした刃はヴィーナスに届く前に、明後日の方向へと逸れて消えてしまった。


「う、ぐっ」


 リィナが苦しげに喉を押さえ、その場に崩れ落ちる。


「リィナっ。どうし、た」


 突如として、俺も激しい息苦しさを覚えた。

 なんだ、これは。

 ヴィーナスの力への対抗策は講じてきたはずだ。


 なら、これはどういうことだ。

 俺も耐えきれず、片膝をつく。視界が激しく明滅する。これはまるで、急激に酸素が奪われているような。


「解せませんね」


 ヴィーナスがゆっくりとこちらを振り向く。

 空色の髪をした、露出の激しい女だ。

 彼女が、ひどく不満そうに呟いた。


「わたくしはお前たちを支配しようと力を使った。しかしそちらはキャンセルされてしまい、結局、メルクリウスを操ることしかできなかった」


 やはり対抗策はきちんと効いていたのだ。

 しかし、メルクリウスを操る。


 背後を振り返ると、メルクリウスが静かに立っていた。

 だがその目は、ギンコさんたちと同じ、生気のない虚ろな目をしている。

 支配を受けている。馬鹿な。きちんと俺たちはそうならないための策を。

 俺たちの周囲の空気を奪っているのは、操られた彼女の仕業だったのだ。


「なるほど。あなたたちは、ミスリル銀を頭に巻いてきたのですね」


 俺たち三人は、ここへ来る前に帽子を深く被っていた。

 マジコさんが身につけていたのと同じ、ミスリル銀が細かく編み込まれた特別な布地だ。


「確かにミスリル銀は、我が力を遮断する性質がある。なるほど、小賢しい。貴様の策ですね、重力の魔人」


 そう、奴の力は。


「しかし、貴様が小細工をするのは分かっていた。だからこちらもまた、小細工をもって対抗させてもらったのです。この愚妹に、アンテナを立てることで」


「アンテナ。そう、か」


 見れば、メルクリウスの側頭部、髪の毛に隠れた見えにくい位置に、金色の針が深く刺さっていた。

 ナメクジ人間にされたゲーヒィンが、戦闘のどさくさに紛れて刺したのだろう。

 そのアンテナのせいで、俺たちの対策をすり抜け、奴の力は通じてしまったのだ。


「我が能力を看破したことは褒めてあげましょう、重力の魔人。褒美に名乗りを聞く権利を与えます。わたくしは、ヴィーナス。御星様より与えられし力は、電波」


 そう、こいつは。

 ヴィーナスは、電波の魔人なのだった。


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― 新着の感想 ―
そう言えばアンテナがどうとか言ってたっけ。 まあ逆を言えばアンテナさえどうにかできればってことでしょ知らんけど。
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