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【Web版】追放された【重力使い】は万有引力を支配し、最強に至る  作者: 茨木野
二章

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 塔の階層を次々と攻略していく。

 立ち塞がる敵は、どれもSランク相当の恐るべきモンスターばかりだった。

 軍隊猿、死熊、単眼悪魔《グレムリン》。

 いずれも地下迷宮の最下層に出てきてもおかしくない、凶悪な猛者たちである。


 だが、こちらには魔人が二人もいる。

 

「ちょりゃっ」


 上級の蜥蜴人《リザードマン》の群れに向かって、メルクリウスが突っ込む。

 ガンッ、と重い音を立てて彼女が蹴り上げた。


 空中に浮いた蜥蜴人めがけて、リィナが大剣を容赦なく振り下ろす。


「重力剣っ」


 リィナは重力を付与された大剣を思い切り振り下ろす。

 強靭な刃が、蜥蜴人の分厚く硬い鱗を易々と砕いた。

 メルクリウスが蹴り上げた時の勢いも上乗せされ、相手の首が軽々と宙を舞う。


 ドサリと、蜥蜴人の巨体が石畳に倒れ伏した。


「めるちゃん、ないすっ」


「お姉ちゃんもないすーっ」


 血まみれの死骸を前に、二人が無邪気に勝利のハイタッチを交わしている。

 もうすっかり仲良しだな。

 人間を虫けらほどにしか思っていなかった魔人が、人間と仲良くしている。本当に喜ばしいことだと思う。


 そう、俺たち魔人は決して化け物なんかじゃないのだ。

 その確認作業を、メルクリウスを通して行っているように思えて、少しだけ気まずい。


「お疲れ、二人とも。飲んでおけ」


 俺は背負った背嚢から水袋を取り出し、二人に渡す。

 彼女らが喉を潤している間に、俺はここまでの道のりを手持ちの地図に書き込んだ。

 チワさんからここの構造についての話を聞き、マッピングした地図を持ってきたのだが。


「…………」


「どうしたの、ガイア」


「いや、この迷宮の……塔の成長速度が異常だと思ってな」


 迷宮は、よく巨大な生き物に例えられる。

 魔力を吸い、日々その形を少しずつ変化させているのだ。

 だが、その速度は本来、何年もかけてゆっくりと進行するはずなのに。


 チワさんから貰った地図、つまり彼女の一族が把握していた範囲を、この階層はもうとっくに超えている。

 今は俺が完全に一から地図を書き込んでいる状態だ。


「ゲーヒィンの野郎が都市長を追い出してから、そこまで日は経っていない。だというのに、この迷宮は異常な速度で成長している」


 そういえば、道中で倒れている作業員(元町民)が複数いた。

 ヴィーナスに操られ、強制労働させられていたのだろう(彼らは全てセーフゾーンまで運んだけれども)。


 もしかして、作業員たちに迷宮を強制的に成長させるための資材を運ばせていたのかもしれない。

 生き物である迷宮に、魔力や資材という「エサ」を大量に食わせることで、通常より遥かに早く成長させていたのだとしたら。


 だが、そこまでして塔を高くすることに、一体何のメリットがあるというのだろうか。

 ヴィーナスが「音波」に関係する魔人としての性質を持っていると仮定すれば。

 塔を異常なまでに高くすることによるメリットは。まさか。


「いかん、本気で時間がないかもしれない」


 無闇に焦っては駄目だが、タイムリミットが迫っているのは確かだ。

 なんとかして、この塔をもっと早く登る必要がある。

 しかし、どうやって。


「グボロロロロオロオオオオオッ」


「ガイアっ。また敵だよっ。魔物……?」


 そのとき、通路の奥からズルズルと重い体を引きずりながら、何かが現れた。

 巨大なナメクジ、だろうか。

 上半身は人間に近い形状をしているが、ケンタウロスのように下半身が別の生き物になっている。ただし、馬ではなく醜悪なナメクジだ。


 だが、そのナメクジ人間の顔には、どこか強い既視感があった。

 どこかで見たことのあるような、下劣な顔立ちをしている。


「キショいなお前っ。消えちまえっ」


 パチンッ、とメルクリウスが指を鳴らし、不可視の音波の弾丸を飛ばす。

 ボッ、と気味の悪い音を立てて、ナメクジ人間の右腕が吹き飛んだ。


「お姉ちゃん、さっきと同じコンボなのだっ」


 相手が怯んだ隙に、メルクリウスが一気に接近する。

 そして、顎を砕く蹴り上げを放とうとしたが。


 ガシッ。


「「なっ」」


 嘘だろう。吹き飛ばしたはずの右腕が、瞬時に再生している。

 メルクリウスは死角から攻めた。だが、彼女の超音速の蹴りを、相手は再生した右腕で易々と受け止めたのだ。

 そうか、あいつは超高度な再生能力持ちなんだ。


「めるちゃんっ」


「離せっ。離すのだ……っ」


 メルクリウスが至近距離で音波を飛ばし、ナメクジ人間の巨体をズタズタに引き裂く。

 だが、すぐに相手の肉が蠢き、瞬く間に再生してしまう。異常な再生速度だ。

 これでは、リィナが剣で斬ったところで無意味だろう。


「リィナっ。俺を飛ばせっ」


 俺はリィナに向かって走り出す。

 彼女は鋭く頷き、下段に剣の平を構えた。

 俺は自身の自重を減重でゼロにし、彼女の剣の上へ軽やかに乗る。


「せぁあああっ」


 リィナが全力で剣を振り上げる。

 その凄まじい勢いに乗って、俺は前方へ飛び出した。

 重力をゼロにした俺は、弾丸のごときスピードで一直線に発射される。


 捕まっているメルクリウスの元へ到達する。


「びびび、びじょぉおお……おんなぁ…………」


 間近で聞くと、ひどく気色の悪い声を上げるナメクジ人間。

 俺は奴の醜い頭をガシッと掴んだ。


「加重っ」


 ズンッ。

 奴の全身に極大の重力が掛かる。

 グシャリと嫌な音を立てて、その場に平伏すナメクジ人間。


「リィナっ。迷宮の壁を破壊しろっ」


「うんっ。せやぁいっ」


 リィナが重力付与の大剣を横薙ぎに振るう。

 ドガァンという轟音と共に、分厚い石壁が完全に粉砕された。

 ぽっかりと空いた大穴の向こうに、遥か眼下の海が見える。


「メルクリウスっ。外へ吹っ飛ばせっ」


「わかっ……たのだっ」


 俺はメルクリウスと瞬時にスイッチする。

 彼女は音波に乗って加速し、音速の蹴りをナメクジ人間の腹に叩き込んだ。


「ぷぎゃぁあああああああああああああああああああああああっ」


 ナメクジ人間は砲弾のような速さで壁の穴から吹き飛んでいく。

 メルクリウスの蹴りの威力に加えて、俺が相手の重力をゼロにしたからだ。

 無重力状態となったナメクジ人間は、遥か遠くの海めがけて放物線を描いて飛んでいく。


 ドボォオオオオオン。


 大きな水柱を立てて、ナメクジ人間が海に落下した。


「これでよし」


「また戻ってくるんじゃないのっ」


 リィナが剣を構えたまま不安げに尋ねる。


「大丈夫だ。あいつは海に落ちた。あの体は巨大なナメクジで構成されている。塩分には極端に弱いはずだ」


 だから、あいつを海に落とせば、浸透圧で干からびていき、最後には消滅するだろう。


「…………」


 あの下劣な顔、そしてあの耳障りな声。

 どこかで聞き覚えがあった。まさか。


「ゲーヒィン……」


 あの下品な男が、あんな醜悪な化け物へと変貌してしまっていた。その可能性はなくはない。

 魔人であるヴィーナスの力によるものか。だが、彼女にそんな肉体改造のような真似ができるのだろうか。

 あの「音波」の力でそこまでのことができるとは、到底考えにくい。


 倒したあいつが本当にゲーヒィンだったのかどうかは、今のところ分からない。

 だが、そんなことを呑気に考察している暇はない。


「ガイアっ。階段が……上に続く階段がないよぅ」


 もうこの階層はあらかた調べ尽くした。

 だが、上に続く階段がない。どういうことだ。まさか、転移装置のようなギミックがあるのか。

 まずい。そんなものを探し回っていたら、さらに無駄な時間がかかる。


 こうなったら、仕方ない。

 これは非常に危険な手段なのでやりたくなかったが。


「リィナ、メルクリウス。ここからは、文字通り段階を飛ばしていくぞ」


「うんっ」


「…………」


 リィナはよく分かっていないのか首を傾げたが、すぐに信頼に満ちた瞳で頷いてくれた。

 一方で、メルクリウスはどこか虚ろな目でぼうっとしているように見えた。


「メルクリウス」


「……わかった、の……だ」


 彼女はひどく言葉に詰まりながら、ゆっくりと頷く。

 なんだ。戦闘の疲れが出ているのか。


「……わかった、わかった……のだ。わかった……わかった……から……」


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