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【Web版】追放された【重力使い】は万有引力を支配し、最強に至る  作者: 茨木野
二章

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 ノエルは静かに目を閉じ、過去を思い出す。

 まだ、彼女が冷え切った実家で暮らしていた時のことを。


 彼女の家は、代々優秀な魔法使いを輩出する由緒正しき貴族の名家だった。

 そう、「だった」のだ。


 数代前から領地の運営が上手くいかず、資金繰りには常に困窮していた。

 父の代で限界まで膨れ上がった借金は、もはやどうしようもない状態に陥っていた。


 貴族の子女たちが通う学院。

 ノエルはそこでリィナと運命的な出会いを果たすことになる。

 ノエルは実家に頼らず、自ら奨学金を借りてその学院へ通っていた。

 彼女は両親とそりが合わずにいた。いつまでも空虚な貴族のプライドにしがみつき、多額の浪費を抑えられない愚かさに呆れ果てていたからだ。


 学院を卒業したら、家を出る。

 ずっとそう決めていた。……しかし。


『げっひひ、お前がノエルだなぁ〜』


 卒業を間近に控えたある日、実家から緊急の呼び出しを受けた。

 親が危篤だという知らせを受ければ、さしものノエルであっても帰らざるを得なかったのだ。


 しかし、薄暗い応接間で待っていたのは、下卑た笑みを浮かべる変態貴族、ゲーヒィンだった。


『今日から貴様は吾輩の女だぁ。さぁ、おいで』


 意味がわからなかった。この男の女?

 困惑して立ち尽くすノエルの尻を、ゲーヒィンは無遠慮に撫で回してきた。

 背筋が凍るような気色悪さに、ノエルは咄嗟に男を強く突き飛ばす。


『おいおいおい、お前は吾輩に売られたのだぞぉ』


『売られた……? まさか……っ』


『げひひっ。そのまさかさぁ』


 実家は巨額の金を得る代わりに、実の娘であるノエルを借金のカタとして嫁に差し出したのだ。

 ノエルの了承も得ず、彼女の意思を完全に無視して。


 ノエルの胸に、深い絶望と悲しみが広がった。

 まさかそこまで落ちぶれているとは思っていなかったからだ。

 元より良い親ではなかったが、この一件で、完全に両親への愛想が尽きた。

 借金のために娘を身売りするような親を、どうして好きでいられようか。


 ゲーヒィンはすっかり、ノエルを我が物にした気でいた。

 身体も心も、すでに自分の所有物になったのだと。

 その慢心の隙を突き、ノエルは実家から、そしてゲーヒィンからも逃げ出したのだ。


『のえるー? どうしたのっ』


 学院を去る前に、ノエルはリィナのもとへ向かった。

 事情を説明し、これから逃亡する旨を、唯一の親友にだけ打ち明けた。


 彼女は、あの堅苦しい学院でできた、たった一人の大切な友達。

 せめて最後に、お別れだけは言いたかったのだ。だが。


『んっ。了解っ。あたしも……学院、辞めーるっ』


『は……?』


『ノエルについてくよっ』


『なに……言ってるの……?』


 本気で、リィナが何を言っているのか分からなかった。

 貴族のステータスである学院を辞め、逃亡者であるノエルについてくる?


『そんなの……あなたになんのメリットがあるの……?』


『親友がさみしそうにしてる。ほっとけねーっ。ってわけよっ』


『リィナ……』


『それにさ、あたしも嫌々学院通ってたし、卒業してもどうせお家に帰って、親が決めた好きでもない相手と結婚させられるの。そんなのやーだっ』


 リィナもまた貴族の子女だ。

 彼女の家は高名な剣士の家系だが、ひどい男尊女卑の傾向があるらしい。

 女であるリィナは家を継げず、政略結婚の道具にされるだけの運命だったそうだ。


『やりたくないことやるより、やりたいことやるっ』


『……なにやりたいの』


『わからんっ。けど……今は、ノエルの涙を止めたいかなっ』


 気づけば、リィナはノエルの目元を、柔らかなハンカチで優しく拭ってくれていた。

 そこで初めて、彼女は自分が涙を流していることに気づいた。

 頬を伝う雫が、ひどく熱かった。


『あれ……なんで……』


 ノエルは、この涙が何が原因で流れているのか、分からなかった。

 本当に、自分がここに至り、リィナに涙を拭われるまで、気づきもしなかったのだ。自分が泣いていることさえも。


『ノエルは、あれだ。もっともっと、自分の心に素直になるといいと思うっ』


 いつだって真っ直ぐに、偽りなく自分を見てくれた親友。

 彼女の屈託のない笑顔を見ていたら、知らず知らずのうちに、ノエルの口から本音がこぼれ落ちていた。


『……リィナと、離れたくないよぉ……っ』


 実の親に捨てられたこと、下品な貴族の慰み者にされそうになったこと。

 そんなことよりも、もう二度と、大好きな親友と離ればなれになってしまうこと。

 それが何より、耐え難いほど悲しかったのだ。


『そんじゃ……いこーっ。誰の手も、目も届かない……場所へっ』


『……うんっ』


 こうしてノエルとリィナは学院を飛び出し、冒険者としての道を歩むことになったのだ。

 といっても、すぐに正規の冒険者になれたわけではない。


 元々箱入りだった貴族の彼女らが冒険者になるため、まずは冒険者学校に通う必要があった。

 幸いにも、それは自分たちの故郷から遠く離れた辺境の地にある学校だった。

 ゆえに、ゲーヒィンたちに見つかることなく過ごせたのである。


 月日は流れ、彼女らは厳しい訓練を乗り越え、冒険者としての確かな技能を身につけた。

 そうして、ガイアと運命的な出会いを果たすことになるのだった。


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