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俺たちはいったん、リィナ達と合流した。
ノエル、チワさんも無事だったようだ。
そして、ノエルは意外な人物を連れていた。
「あなたは……マジコさんっ」
黄昏の竜のパーティメンバー、マジコさんだった。
三角帽子をかぶった彼女は、俺の顔を見るなり「ガイア君っ」と涙目になって、抱きついてきたのである。
リィナ程の巨乳ではないのだが、普通に胸は大きい。
ぐにゅり、と俺の顔の前で胸が潰れる。
大人のお姉さんの、ひどく甘くて良い匂いがする。
「……ガイア。ふざけてないで、ちゃんとして」
ノエルの極低温の声が、俺の背筋をひやりとさせる。
「むぅうう。って、どうしたの、メルクリウスちゃんっ」
メルクリウスはリィナから少し距離を取って、もじもじしていた。
さっきの会話を踏まえてのリアクションだろう。
リィナを魔人だと、メルクリウスは思っていたのだ。
でも違った。
その上でどうリアクションを取れば良いのか、あいつ自身よくわかっていないようだった。
リィナに腹芸は向かない。
だから俺はストレートに伝える。
「リィナ。ノエル。お前たちのことを、メルクリウスは魔人だと思っていたらしい」
「どういうことー」
ノエルは今の言葉で、二者間にあった勘違いに気づいたようだ。
だが、リィナはそうでない様子だった。
「……リィナはそのままでいいよ」
「あたしはあたしだけど……え、会話についていけないの、あたしだけ……」
まったく。
リィナはいつも通りだった。
「リィナ。お前にとってメルクリウスはどんな存在だ」
「え、友達っ」
今度は、即答してくれた。
多分自分の中で揺るがないものだったのだろう。
メルクリウスはそんなリィナの言葉が嬉しかったらしい。
「リィナお姉ちゃんっ」
メルクリウスが飛びつく。
リィナは彼女を正面からしっかりと受け止めた。
「……仲いいのはよろしいですけど」
ぴきぴき、と額に青筋を浮かべながら、チワさんが言う。
「状況を考えてくださいまし」
「「「「あ、はい……」」」」
メルクリウスすらも、今のチワさんを怖いと思ったのだろう。
誰よりも戦う力は無いはずなのに、底知れなく怖かった。
彼女の背後に巨大な狼の幻影を見た気がした。
「お兄ちゃん、あいつも魔人かっ」
「いや、獣人だから」
空気を入れ替え、マジコさんたちと一緒に俺たちは手近な空き家に入る。
「いやぁ、助かったよー。助けを呼びにいこうとはしたんだけど、なーんか上手く飛べなくてねー」
どうやら黄昏の竜の面々は、ノエルの予想通り、魔法で空を飛んで潜入したらしい。
「上手く飛べないとは」
「文字通り。自分の思ったところに飛べなかったの。本当はふわっと着地する予定だったんだけど、普通に墜落してさ」
「原因は」
「不明。まじさいあく……。そのせいで、敵にみっかっちゃってさ。ギンちゃんは……あたしらを逃がしてくれたんだ」
「……敵」
「うん。見るからに下品な貴族、その手下」
ゲーヒィンのことか。
つまり、ギンコさんはゲーヒィンに捕まっている。
くそっ。嫌な予感があたってしまった。
足が勝手に塔へ向かおうとする。
だが、ぐっと拳を握りしめて堪える。
そう、無策で向かったところで、逆にヴィーナスに支配されてジエンドになってしまう。
「…………許せない」
ノエル、そしてチワさんの表情にも深い怒りが見えた。
ノエルは一緒に冒険していた仲間としての怒り。
チワさんは多分、捕らわれたギンコさんに、自身の友であるキースホンドを重ねているのだろう。
「ブトーさんとかは」
「あいつらは、突然変な感じになってさ。塔に自ら向かって行った」
きゅっと、マジコさんが三角帽子を目深に被る。
目の端から涙がこぼれているのが見えた。
仲間を全員失ってしまった悲しみから来るのだろう。
俺も今すぐに、あのゲーヒィンとか、ヴィーナスとかをぶん殴ってしまいたい。
だが今は耐えるときだ。
ドゴォン。
「が、ガイア……あんな大きな音たてないで」
「え、ああ……すまない、ノエル……」
どうやら無意識のうちに加重が発動していたようだ。
全くいかんな。
「うがーっ」
リィナが吠え、物陰から飛び出そうとする。
メルクリウスもその後に続く。
俺は加重を使って、二人をその場に拘束した。
「はなしてよーっ」
「駄目だ。戻れ」
「うがーっ」
俺も別に冷静ではない。
だが、自分より怒ってくれる人がいるからだろう、高ぶった気持ちが次第に静まっていくのを感じた。
「ありがとね、みんな。うちらのために、怒ってくれてさ」
マジコさんが少しだけ笑う。
でも元気は出ていない。
そりゃそうだ。仲間が捕らわれたままなのだから。
「マジコさん以外に、ヴィーナスの支配を退けている人って居ないんですか」
「うちが知ってる限りでは居ないかな」
ノエルたちも、見つけた正常な人は彼女だけだったという。
「…………」
不可思議な点は二つある。
一つは、俺たちがまだどうして無事なのか。
もう一つは、どうしてマジコさんだけが、ヴィーナスの支配から逃れられているのか。
前者は、多分だがヴィーナスがまだ俺たちを捕捉しておらず、支配の力を使っていないから、で説明が付く。
でも、ヴィーナスはどうして俺らの侵入に気づいていないのだろうか。
たとえば、相手を使い魔のようにする力だったとしよう。
使い魔なら五感を共有できる。
街の連中の目や耳をとおして、俺らの侵入には気づけたはずだ。
ヴィーナスの支配は、たとえ相手を支配したとしても、情報を共有できるわけではないのか。
多分その可能性は高い。
問題は、なぜ黄昏の竜のなかで、マジコさんが無事か、だ。
ギンコさんをはじめとした面々が支配されたと言うことは、その時点でヴィーナスの支配力を受けたのだろう。
でもマジコさんだけが無事というのは、やっぱり引っかかりを覚える。
「あの……」
チワさんが静かに口を開く。
「日も暮れますし、今日は休みましょう。ここでただぐだぐだしていても、無意味ですわ」
確かにチワさんの言う通りだ。
彼女は本当は誰よりも早く敵を排除してほしいと思っているだろう。
でも、無理に特攻しても無駄だとわかっているのだ。
「ですね」
「でも休むってどこで。ここを使うの。誰かさんのおうち勝手に使うのはよくないよーっ」
するとチワさんは答える。
「塔への秘密ルートがありますの。そこなら、奴らも把握してないと思います」
そういえば、チワさんは塔から逃げてきたのだった。
そのときの道が使えるというわけか。なるほど。




