表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その指が温かくなるまで。  作者: 銀子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/34

第30話 与えられた力

 三人が現れる。いよいよ警戒が勝ってきたのか、すぐさま呪いを差し向けてくることはしなかった。だがそれはそれで好都合だった。

 こちらから距離を縮め、慌てて札を出そうとする一人の腕を切りつけ、次いで首を裂く。追尾の呪を発動したままだった一人は、さらに簡単に首を裂けた。

 三人目は、札を出すことすらできていなかった。セナはその首を狙い、ナイフを振るう。

 だが刃はガラスの上を滑るような手応えとともに、皮膚の上を滑った。

 防御の呪だった。違和感があった。彼ら肌の白い――遠隔で戦う呪術師は、そういった呪をまず使わない。札や呪具で対応するからだ。それゆえに、距離さえ詰めればセナが優位を取れるのがほとんどだった。

 そんな違和感にほんの一瞬動きを止めたセナの隙を突くように、男が後ろ手に持っていた短刀を薙ぎ払った。

 とっさに身を引いたセナの頬を、切っ先がなぞる。セナはそのまま後退して距離を取った。

 短刀を持つ男を改めて見やる。だがやはりその肌の色は、遠隔の呪術師達のそれと同じで、体格も、防御の呪を編み込めるほど鍛えたようには見えない。

「不思議そうだな」

 短刀を構えたまま男が言った。セナはその姿から目を逸らさず答えた。

「あんたらが蛮族の呪を使うとは思わなかったよ」

 先ほど蔑んできた男がいたように、彼らは近接型を見下すだけでなく、その呪術も原始的なものとして忌み嫌っている。そもそも系統が違う為に、仮に使おうとしてもすぐさま使えるものではないのだが。つまりこの男は、元より主たる戦法が近接型ということになるが、それでもにわかには信じられなかった。

「信じる信じないはお前の自由だ」

 男はセナの心を読んだかのように言うと、地面を蹴りつけ距離を詰めてきた。

 振りかぶられる短刀を、ナイフで受け止める。多少の重さはあるが、膂力はそれほど感じられない。噛み合わない感覚が、さらに強くなった。

 弾いて腕を切りつけるが、衣服は裂けたものの、やはりその下の皮膚は手応えなく滑る。

 男の身のこなしは軽く、次々と短刀で切りつけてきた。それらは難なく避けられるものの、有効打を出すことができない。切りつけた刃は、すべて皮膚の上を滑っていく。ナイフに呪を乗せようにも、男はその隙を与えなかった。

 その時、避けて踏みしめたはずの地面が、ふいに滑った。疲労は想像以上に蓄積していたようだった。

 短刀が迫る。首を狙うその刃を、セナはとっさに素手で握って止めた。

 すると男が、はっきりとした動揺を見せた。奇妙な反応だと思った。近接型なら己が手で刃を止めることなど、よくあることだからだ。

 違和感がなにかの形を得た。セナはそのまま力を籠めると、短刀を握った手を強く横に払った。

 短刀はあっさりと男の手から離れた。男の動揺が強くなる。セナは短刀を投げ捨てると、その手で男の手首を掴んだ。衣服越しに、異様な体温が伝わってくる。呪の負荷に体が耐えられていないのだ。

「お前、生来の近接型じゃないな」

 男は手を振りほどこうともがくが、手首を掴んだセナの手はびくともしなかった。

「早く解かないと、死ぬぞ」

 気が付けば、男は肩で息をしていた。相当に苦しいはずだが、それでもなお必死にセナを睨みつける。

「お前を連れ帰れば、解かれることになっている」

 つまり、誰かに無理矢理呪を編み込まれたということだろう。だがあの屋敷に近接型はセナしかおらず、遠隔型にこの呪は使えない。となると外部から呼んだのか。

 そんな権限があるのは当主しかおらず、そして当主は、そんな口約束は守らない。つまりこいつは、どうあっても死ぬのだ。

 湧いた憐憫がなにに由来するものなのか、セナにはわからなかった。それが憐憫であることにすら、気づいていなかったかもしれない。

 掴んだ腕を引き、男の体を地面に倒す。

「ひとつだけ教えてやろう」

 手首から手を放すと馬乗りになり、男の頭を掴んで上を向かせる。自然とその顎が開いた。

「この呪が唯一効力をなさない場所。それは口内だ」

 呪を滑らせたナイフを、男の口の中に突き立てる。その体が硬直するが、悲鳴は上がらなかった。

 やがて男の体はゆっくりと脱力していき、ナイフを引き抜いて手を離すと、倒れた男はもう動くことはなかった。

 セナはその顔に手を伸ばすと、見開かれたままの目を閉じさせた。

 ゆっくりと立ち上がり、男から離れる。だがその瞬間、唐突に背中に強い衝撃を感じ、セナはふらついた。

 強い悪寒。呪い。易くはないもの。

 即座に帰すための呪を唱え始めながら、背後を振り返る。そこにいたのは、別の追っ手らしき男達だった。呪いを放ったと思しき先頭の男が、鼻で笑ってセナを見やる。

「随分大人しく死なせてやったんだな。どういう風の吹き回しだ」

 答えず、静かに呪を唱え続ける。だが今までのものとは重みが違った。容易に返させない強さがある。相手もそれをわかっているのか、セナの呪を遮ろうとすることなく続けた。

「だいぶ殺したようだが、そろそろ限界だろう。娘の居場所を答えろ」

 その言葉に、セナは今更のように気付いた。こちらを捉えることなどおよそできなさそうな、驕った遠隔型を一帯にばらまいた理由。彼らの役割はエマを殺してセナを連れ帰ることではなく、セナを消耗させることにあったのだ。

 だが彼らは恐らく、ただ捉えろ、もしくは殺して連れ帰れとしか言われていなかったのだろう。相性の悪い近接型とはいえ、相手は一人、さほどの労苦もないと。

 結果彼らは、本来すべき対策もせず、死んでいった。人を駒としか思わない、あの男らしい手段だと思った。そしてその大量の死は、確かに効果を出していた。

 呪の詠唱を続ける。食い込んだ呪いは徐々に体から剥がれつつあった。男が顔をしかめ、懐から札を取り出して呪を唱える。すると背に負った呪いが重さを取り戻した。

 指先が凍てつくように凍え始め、それとは逆に、心臓から焼けるような痛みが広がり始める。強い嘔吐感に加え、視界が渦を巻くように歪み始めた。

「さっさと答えろ」

 足元が定まらず、思わず膝をつく。胸元と脚の傷からは血が滲み出し、衣服に滲んでいた。

 それでもどうにか詠唱を続け、それ以上の侵食をとどめていると、男が苛立ったように片手を上げた。

後ろにいた二人の男が歩み出て、セナに近づいてくる。抵抗することもできず、右腕を取られた。なにをされるかすぐに予想はついた。

 そして、せめて詠唱を止めないよう唱え続けるセナの肘が、逆方向に折られた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ