第58話 山の下に眠っていたもの
大陸中央高地の地下から返ってきた反応は、自然の岩盤にしては規則正しすぎた。
一定の間隔。
似た強度。
角度を変えても消えない直線状の反射。
そして何より、前夜に空を青白く染めた魔力脈動と、地下深部から返ってくる反応の周期が近かった。
だからといって、エレナは「地下に古代文明の巨大施設があります」とは言わなかった。
翌朝の国際技術部会で黒板に書いたのは、もっと地味な言葉だった。
『中央高地地下・規則的反応構造』
「夢がないですね」
ノアが小声で言った。
「正式名称ですから」
「予想どおりの返事でした」
会議卓の向こうでは、各国の地質技師、魔力研究者、外務官、軍関係者が、昨日届いた反応図を見つめている。
自然地層か。
巨大な結晶帯か。
過去の地下空洞か。
あるいは人工物か。
候補はまだ複数残っていた。
「人工構造物である可能性は、どの程度です?」
カルディアの代表が尋ねた。
「数字にはできません」
エレナは答えた。
「ただ、自然の断層や結晶脈だけで説明するのは難しくなっています」
「理由は?」
「間隔が揃いすぎています。それに、少なくとも三方向から測っても、反応の角がほぼ同じ場所に出ています」
エルグランの地質技師が補足する。
「自然の岩盤でも直線に近い割れ目はできる。だが、これだけ大きな規模で、ほぼ一定間隔に同じ反応材が並ぶ例は、私は知らん」
「古代遺跡?」
東方王国の政府代表が聞いた。
エレナはすぐ首を横に振った。
「まだそこまで言えません」
「しかし人工なら」
「人工であることと、古代文明のものだということも別です」
「現代のものではあり得ないでしょう」
「可能性は低いと思います。でも、調べる前に決めないほうがいいです」
また慎重だ、と誰かの顔に書いてある。
それでもいい。
昨日までは「世界の魔力が中央へ集まっている」という話だけでも、十分に大きかった。
そこへ「地下に謎の古代施設がある」まで加えれば、人間はすぐ物語を作る。
兵器。
神殿。
世界を動かす装置。
封印。
秘宝。
それらしい言葉ほど、事実より速く走る。
「では、どう確認する?」
ベルナールが尋ねた。
「近づきます」
エレナが答えると、今度はクロムウェルの代理で参加していた帝国軍務官が眉を寄せた。
「先日の事故があった場所へ?」
「同じところまでは行きません」
「どうやって見る」
「外縁からです」
大陸中央高地では、前夜の異常が収まったあとも地下魔力濃度は平常よりかなり高かった。ただし、事故時ほどではない。
だから今回は、人間をいきなり中心へ送らない。
まず、過剰魔力遮断核を備えた無人測定器を複数置く。
さらに、旧式の地響き式魔力反応測定器を組み合わせ、地下の「硬い反応」がどこまで続いているかを外側から描き出す。
「完全な形は分かりません」
エレナは言った。
「でも、少なくとも自然地層なのか、一定の形を持っているのかはもう少し絞れます」
「何日?」
「設置に二日。測定に一日。ただし天候次第です」
「また待つのか」
軍務官が少し不満そうに言う。
ハロルドが横から答えた。
「急いで二人目を怪我させたいなら、自分で行け」
「そういう意味ではない」
「なら待て」
ぶっきらぼう。
でも。
誰も反論しなかった。
三日後。
最初の断面図が届いた。
エレナは研究院の大机いっぱいに紙を広げた。
ノア。
ミレイア。
オルディス。
ベルナール。
エルグランの地質技師。
カルディアの観測技師。
それぞれが別方向から届いた測定図を照合する。
「ここ」
ノアが指を置いた。
「やっぱり直線です」
「一つじゃない」
エレナが別の図を重ねる。
「平行に三本」
「いや」
エルグラン技師が通信石越しに言う。
『こちらの角度から見ると、四本目がある』
「四本?」
『薄いが、ある』
図をずらす。
確かに。
ある。
「間隔」
ベルナールが定規を当てる。
「ほぼ同じですね」
「誤差は?」
「地響き式なので大きいです。それでも偶然にしては揃っている」
さらに。
別方向。
縦。
横。
交差。
少しずつ。
輪郭。
出る。
巨大。
正確な大きさは。
まだ。
分からない。
でも。
人間の建物なら。
宮殿どころではない。
「これ」
リナが。
しばらく黙っていたあと。
言う。
「町一つくらいありません?」
「そこまで?」
エレナ。
測定尺度を見る。
「少なくとも、研究院よりかなり大きいです」
「研究院って相当大きいですよ」
「はい」
「地下に?」
「はい」
誰も。
少し。
言葉がない。
「自然?」
リナ。
今度は。
エレナも。
即答しなかった。
「……人工構造物の可能性が、かなり高くなりました」
初めて。
そこまで。
言った。
ノア。
息を吐く。
「じゃあ本当に」
「でも」
エレナがすぐ続ける。
「何のために作られたかは全く分かりません」
「兵器じゃない?」
「分かりません」
「魔力を集める装置?」
「分かりません」
「空を光らせる?」
「それも」
エレナは。
図。
見る。
「結果かもしれません」
目的。
と。
結果。
別。
壊れた魔導具。
そこを。
間違えると。
修理できない。
「もし」
エレナは。
ゆっくり。
言う。
「これが正常に動いていないとしたら」
誰も。
少し。
身を乗り出す。
「今起きている現象が、本来の機能だとは限りません」
魔力を集める。
空へ放出。
広域低下。
それが。
設計目的。
とは。
限らない。
「むしろ」
ミレイアが言う。
「故障してるから、こんな偏りが出てる可能性もある?」
「あります」
「また仕事が増えそうね」
「……はい」
少し。
エレナは。
嫌そうに。
でも。
嬉しそうに。
返事。
ミレイアが。
笑う。
「やっぱり嬉しいでしょう」
「少しだけ」
「かなり、の間違いでは?」
「怖さもあります」
「なら半分」
「それくらいです」
次の課題は。
外側だけでも。
直接見ること。
地下へ。
降りる。
簡単ではない。
だが。
幸運。
という言葉を。
使っていいか。
分からない。
前夜の高魔力異常のあと。
山腹。
一部。
崩落。
地割れ。
発生。
そこから。
人工らしき。
平滑な。
暗い材質。
露出。
最初に見つけたのは。
混成観測隊ではない。
中央高地の外縁へ戻っていた。
カルディアの山岳案内人。
彼。
言った。
「山にこんな平らな面はない」
報告。
来た。
写生。
粗い。
でも。
確かに。
岩ではない。
角。
面。
継ぎ目。
エレナ。
見た瞬間。
立ち上がった。
「行きたい」
リナ。
「知ってます」
「今回は」
エレナ。
止まる。
「……行く必要」
考える。
精密回路。
未知構造。
魔力反応。
自分。
専門。
前回。
高地地理。
地質。
自分は。
専門外。
でも。
人工魔導構造。
なら。
「ありますね」
リナが。
エレナの顔を見て。
先に言った。
「たぶん」
今度は。
行く。
でも。
すぐではない。
現地安全確認。
魔力値。
地盤。
崩落。
気象。
医療。
退避路。
全部。
確認。
そして。
国家魔導技師長だから。
一人で。
前へ。
ではない。
第一調査隊。
帝国。
エレナ。
精密測定技師。
通信技師。
カルディア。
高地技師。
エルグラン。
地質・地下魔力技師。
故国。
結界専門。
医療。
護衛。
また。
混成。
出発前夜。
クロムウェル。
執務室。
「今度は行くのか」
「はい」
「必要?」
「今回は」
エレナ。
頷く。
「人工魔導構造の可能性が高いです」
「君の専門」
「はい」
「他の技師では」
「できます」
即答。
クロムウェル。
少し。
眉。
「なら」
「でも」
エレナ。
続ける。
「私は設計思想の読み取りと、回路材の確認ができます。それに」
「うん」
「国家間調整も、その場で必要になる可能性があります」
「なるほど」
「現地で何か見つかったとき、誰か一国だけで判断しないためにも」
「君がいる意味がある?」
「あると思います」
クロムウェル。
しばらく。
エレナを見る。
「皇帝としては」
「はい」
「妥当だと思う」
「恋人としては?」
「かなり嫌だ」
エレナ。
少し。
笑う。
「前にも聞きました」
「今回のほうが嫌だ」
「すみません」
「謝るな」
クロムウェル。
椅子。
少し。
後ろ。
「ただ」
「はい」
「英雄になるな」
エレナ。
表情。
少し。
変わる。
「一人で最深部まで入るな」
「はい」
「壊れた装置があっても」
「はい」
「その場で直そうとするな」
エレナ。
一瞬。
沈黙。
「そこは」
「返事」
「……はい」
「弱い」
「努力します」
「不安しかない」
エレナ。
少し。
笑う。
「でも」
クロムウェル。
声。
静か。
「帰ってこい」
エレナ。
胸。
温かい。
「はい」
ちゃんと。
言う。
「帰ってきます」
数日後。
中央高地。
エレナは。
初めて。
その場所の空気を。
吸った。
冷たい。
薄い。
岩。
雪。
遠く。
風。
だけ。
人工の音。
何もない。
なのに。
手首に着けた携帯魔力計。
通常より高い。
「平常比プラス一八」
精密技師が言う。
「安全域?」
「我々の設定では、今は」
「過剰魔力遮断核」
「全装備に」
エレナ。
自分の工具箱。
見る。
父。
残した。
古い箱。
ここまで。
持ってきた。
でも。
今日は。
使わないかもしれない。
「行きましょう」
現地案内人。
先頭。
露出地点。
歩く。
一時間。
斜面。
岩。
崩落。
そして。
見えた。
最初。
エレナは。
岩壁だと思った。
黒灰色。
高さ。
三メートル以上。
でも。
近づく。
「……違う」
表面。
滑らか。
自然岩。
ではない。
僅か。
規則的。
溝。
一定間隔。
縁。
直線。
エルグラン技師が。
手袋越しに。
触ろうとする。
「待って」
エレナ。
止める。
「先に反応」
「そうでした」
遠隔。
小型感応板。
近づける。
反応。
弱い。
でも。
ある。
「動いてる?」
誰か。
「少なくとも」
エレナ。
計器。
見る。
「完全に死んではいません」
表面温度。
外気より。
僅か。
高い。
「材質」
試料。
取れるか。
外側。
崩落で。
欠けた。
小片。
ある。
直接削らない。
落ちている破片。
拾う。
黒。
でも。
光。
当てる。
内部。
細かい。
層。
「複合材?」
エレナ。
呟く。
「魔石?」
「違う」
重い。
でも。
金属だけでもない。
「導魔材と絶縁材が」
よく見る。
「交互?」
「そんなに細かく?」
故国結界技師。
「今の技術でも?」
エレナ。
正直。
「作れます」
「同じもの?」
「いいえ」
そこ。
違う。
「今なら」
もっと。
別。
方法。
ある。
「これは」
設計思想。
古い。
でも。
粗末。
ではない。
「一層一層で魔力の向きを変えてます」
ノアの代わりに現地参加した通信技師。
「向き?」
「たぶん」
エレナ。
破片。
光。
「全部を通すんじゃなくて」
層。
見る。
「少しずつ分けてる」
「何のため?」
「まだ」
分からない。
そこ。
言う。
次。
露出面。
さらに。
沿う。
十メートル。
二十。
ずっと。
続く。
途中。
崩落。
隙間。
内側。
空洞。
「入口?」
護衛。
緊張。
「自然に割れた場所です」
エレナ。
答える。
「入口とは限りません」
中。
暗い。
冷たい。
でも。
魔力計。
反応。
上がる。
「中へ?」
全員。
一瞬。
沈黙。
事前基準。
大気プラス二五以上。
中止。
今。
外。
一八。
隙間前。
二一。
「五メートルだけ」
現地共同責任者。
決める。
「先行は二人」
「私も」
エレナ。
言いかける。
「三人」
カルディア技師。
「技師長一人を数に入れると、護衛が倒れます」
「……はい」
結局。
エレナ。
精密技師。
護衛。
三人。
綱。
通信線。
五メートル。
だけ。
中。
入る。
空気。
乾いている。
岩。
ではない。
床。
僅か。
傾斜。
壁。
何かの。
管。
太い。
でも。
継ぎ目。
ない。
「これ」
エレナ。
目。
奪われる。
壁。
沿って。
複数の。
筋。
発光。
ほとんど。
消えている。
でも。
一定間隔。
ほんのり。
青。
「動作中」
精密技師。
「微弱ですけど」
「はい」
計器。
壁。
近づける。
反応。
周期。
上がる。
下がる。
数秒。
また。
「外の地下魔力脈動」
エレナ。
記録。
見る。
「周期が近い」
「連動してる?」
「可能性が高いです」
さらに。
中央。
床。
溝。
左右へ。
別れる。
まるで。
流れ。
分配。
する。
よう。
「これ」
精密技師。
「魔力路?」
「かもしれません」
「規模が」
「大きすぎます」
今の。
都市結界。
主導路。
より。
何十倍。
いや。
もっと。
太い。
でも。
形。
似ている。
流れを。
集め。
分ける。
「吸収装置?」
護衛。
「それなら」
エレナ。
壁。
見る。
「分ける必要がありません」
「では?」
「調整」
言葉。
口から。
出る。
でも。
すぐ。
止める。
「……かもしれません」
「調整?」
「入ってきた魔力を」
床。
分岐。
「一方向に送るだけではなく」
複数。
出口。
「分けるための構造に見えます」
「世界から集めて?」
「本来は逆かもしれない」
エレナ。
胸。
早い。
「集まりすぎた場所から」
分ける。
「薄い場所へ戻す?」
精密技師。
「そこまでは」
断定。
できない。
「でも」
設計。
見える。
エレナ。
魔導具職人。
感覚。
刺激。
「これは」
単純な貯蔵設備ではない。
貯めるなら。
こんな。
複数。
分岐。
いらない。
「流れを」
エレナ。
小さく。
「均すためのものに見えます」
その瞬間。
壁。
青い筋。
一度。
強く。
光る。
「下がって!」
護衛。
エレナ。
後退。
計器。
警報。
黄。
でも。
赤。
ではない。
数秒。
発光。
弱まる。
「外へ」
エレナ。
自分から。
言う。
もっと。
見たい。
でも。
今日は。
ここまで。
外。
出る。
共同責任者へ。
報告。
「内部」
「人工構造?」
「ほぼ間違いないと思います」
初めて。
そこまで。
エレナ。
言う。
「機能は?」
「不明です」
「兵器?」
「判断できません」
「魔力吸収?」
「現状では」
少し。
考える。
「流れを分ける機構が見えました」
「分配?」
「はい」
「なら」
エルグラン技師。
顔。
変わる。
「地下魔力脈と繋がってる?」
「可能性は高いです」
空。
静か。
数日前。
青白く。
光った。
その下。
巨大。
構造。
今も。
微弱。
動く。
調査隊。
帰還。
その日の夜。
速報。
六か国。
同時。
共有。
そこで。
別の問題。
すぐ。
出た。
「発見地点は」
東方王国の政府代表。
「誰の領土なのです?」
エレナ。
少し。
嫌な予感。
地図。
中央高地。
国境線。
古い。
曖昧。
「正式には」
外務官。
「境界未確定区間です」
「なら共同?」
カルディア。
「我が国の旧国境図ではこちら側だ」
エルグラン。
「こちらの条約図では違う」
「地下構造が我が国側へ伸びているなら」
「その理屈なら複数国に跨がる」
「所有権は」
来た。
エレナ。
胸。
重く。
なる。
技術。
分かり始めた。
その瞬間。
所有。
軍事。
利権。
出る。
「一つ」
帝国側軍務官。
「もしこの設備を制御できれば」
皆。
見る。
「魔力循環そのものへ介入できる可能性がある」
その言葉。
空気。
変わる。
「軍事利用」
誰か。
小さく。
「敵国の魔力を」
「待ってください」
エレナ。
強く。
言う。
いつもより。
早い。
「まだ機能も分かっていません」
「しかし可能性は」
「可能性だけで所有権や軍事利用の話を先にしないでください」
軍務官。
少し。
眉。
「技師長。国家は可能性も考える」
「それは分かります」
「では」
「でも」
エレナ。
立つ。
「技術判断と所有権問題を分けてください」
部屋。
静か。
「この装置が」
エレナ。
「何なのか」
指。
資料。
「何をしているのか」
「……」
「今の異常とどう繋がっているのか」
それ。
先。
「誰のものかは」
あと。
「でも国家にとっては」
誰か。
「所有者が調査権を持つ」
「なら」
エレナ。
見る。
「もしこの構造が大陸全体の魔力循環に繋がっていたら」
誰も。
少し。
黙る。
「一国が」
エレナ。
ゆっくり。
「自分の所有物だからと勝手に触っていいんですか?」
それ。
答え。
簡単。
ではない。
「もし止めたら」
エレナ。
「別の国の水道が止まるかもしれない」
「もし出力を上げたら」
「別の国で過剰魔力が起きるかもしれない」
「まだ仮説ですが」
そこ。
忘れない。
「もし世界中の生命線に繋がる設備なら」
声。
少し。
強く。
「一国だけが握るべきではありません」
帝国代表。
何人か。
複雑。
顔。
帝国。
技術。
国力。
利益。
当然。
欲しい。
でも。
エレナ。
そこ。
譲らない。
「技術部会として」
ベルナール。
助ける。
「共同調査継続を提案します」
カルディア。
「賛成」
エルグラン。
少し。
間。
「条件付きで」
「条件?」
「生データを全参加国へ同時共有」
「賛成です」
エレナ。
即答。
「軍事転用可能性が出た場合」
軍務官。
「公開範囲は?」
エレナ。
少し。
考える。
「それは別部会で決めてください」
「逃げた?」
「分野が違います」
少し。
笑い。
でも。
事実。
全部。
自分。
決めない。
その日の夜。
宮殿。
クロムウェル。
報告。
「世界の生命線」
彼。
言う。
「かなり大きく出たな」
「言いすぎました?」
「いや」
「でも、まだ仮説です」
「分かってる」
クロムウェル。
机。
資料。
見る。
「帝国が独占すれば」
エレナ。
顔。
上げる。
「かなり有利ですか」
「圧倒的に」
迷わず。
答える。
「もし制御可能なら」
「はい」
「他国の魔力供給へ影響できるかもしれない」
「はい」
「交渉材料にも」
「はい」
「軍事にも」
「はい」
エレナ。
胸。
少し。
重い。
「だから」
クロムウェル。
続ける。
「独占しない」
エレナ。
少し。
驚く。
「いいんですか?」
「よくはない」
「……」
「皇帝として」
クロムウェル。
少し。
苦笑。
「欲しい」
「正直ですね」
「当然だ」
「でも?」
「もし本当に大陸全体へ繋がる設備なら」
静か。
「帝国だけが所有すれば」
「他国は恐れます」
「永遠にな」
「はい」
「そして」
クロムウェル。
エレナ。
見る。
「私が死んだあと」
エレナ。
少し。
息。
止まる。
「次の皇帝が」
彼。
続ける。
「私と同じ判断をする保証はない」
それ。
制度。
同じ。
誰か。
良い人。
だから。
任せる。
ではない。
「一人の人格で」
クロムウェル。
「世界を預かる仕組みは弱い」
エレナ。
少し。
笑う。
「私が前に言ったことに似てます」
「影響された」
「私に?」
「かなり」
エレナ。
少し。
頬。
熱く。
なる。
「では」
「うん」
「共同管理?」
「まだ早い」
「所有権が」
「決まってない」
「はい」
「まず」
クロムウェル。
「何なのか調べろ」
「はい」
「壊すな」
「はい」
「勝手に直すな」
エレナ。
少し。
詰まる。
「……はい」
「間があった」
「技師としては」
「分かっている」
「直したいです」
「知っている」
「かなり」
「だろうな」
クロムウェル。
少し。
笑う。
「だから先に言った」
エレナ。
負け。
「努力します」
「努力では困る」
「……約束します」
「よし」
翌日。
正式に。
『中央高地地下構造国際共同調査協定・暫定版』
締結。
調査。
共同。
生データ。
同時共有。
単独国による構造変更。
禁止。
軍事転用研究。
別途審査。
所有権。
保留。
異例。
でも。
必要。
そして。
第二次調査。
今度。
内部。
五メートル。
ではなく。
十。
十五。
少しずつ。
過剰魔力遮断核。
設置。
退避路。
作る。
壁。
床。
分岐。
全部。
記録。
その途中。
見つかる。
大きな。
円形。
構造。
直径。
十メートル以上。
中心。
閉じた。
厚い。
壁。
周囲。
十二本。
魔力路。
接続。
「十二」
エレナ。
図。
見る。
外。
大陸。
主要地下流動方向。
これ。
重ねる。
「……似てる」
ノア。
帝都。
通信越し。
「何が?」
「方向」
エレナ。
紙。
置く。
十二本。
全部。
大陸各方角。
向く。
「これ」
カルディア技師。
「分配器?」
「可能性」
エレナ。
胸。
早い。
「高いと思います」
そして。
円形構造。
中心。
微弱。
脈動。
青。
光。
十二本。
一度。
順番。
光る。
一。
二。
三。
四。
途中。
止まる。
また。
最初。
やり直す。
「同じ」
精密技師。
「何が?」
「昨夜の地下脈動周期」
エレナ。
記録。
比べる。
ほぼ。
同じ。
「まだ動いてる」
「はい」
完全に。
止まっていない。
でも。
正常。
にも。
見えない。
一定。
順番。
回す。
途中。
失敗。
戻る。
何度も。
「これ」
ノア。
通信。
「壊れてるんじゃ」
エレナ。
答えない。
まだ。
ただ。
目。
離せない。
巨大。
古い。
構造。
地下深く。
百五十年前。
そして。
今。
同じ周期。
動く。
十二本。
大陸。
各方向。
伸びる。
流れ。
分ける。
ためのように。
見える。
「もし」
エレナ。
小さく。
言う。
「これが」
最初から。
魔力を集めるためのものではなく。
「集まりすぎないように」
分ける。
もの。
だったら。
誰も。
少し。
動かない。
その瞬間。
円形構造。
中心。
強く。
光る。
十二本。
魔力路。
一斉。
反応。
計器。
鳴る。
「上がった!」
「全員下がって!」
エレナ。
すぐ。
指示。
でも。
中心。
何か。
壊れる。
音。
ではない。
むしろ。
古い巨大な機械が。
遠く。
もう一度。
目を覚まそうとする。
ような。
低い。
振動。
足元。
伝わる。
そして。
地下魔力計。
脈動。
一回。
二回。
三回。
世界中の観測所へ。
ほぼ同時に。
小さな変化。
届く。
大陸の下で。
何百年。
あるいは。
もっと長い時間。
眠っていた何かは。
壊れているのか。
それとも。
まだ。
仕事を続けているのか。
その核心部だけが。
今も。
世界の魔力と同じ周期で。
確かに。
動いていた。




