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第56話 今度は、誰も暗闇で待たなかった

 午後六時十二分。


 帝国北部の大気魔力濃度が、平常比マイナス八・三パーセントまで落ちた。


 前回なら、その数字を見てから各地へ使者を走らせ、農業部門へ警戒を伝え、水道設備の予備魔石を確認し、治療院へ連絡し、通信中継所の出力を切り替えていた。


 今回は違った。


「北部第三農業区、種苗区画の保温結界へ切替完了」


「帝都北区揚水所、独立魔石運転へ移行」


「中央治療院、自然魔力補助器具の使用制限開始。重症区画は独立系統へ」


「北方中継線、最低限警報モードに切り替えます」


 報告が、異常発生のあとに準備を始めるためではなく、事前に決めた手順が予定どおり動いていることを確認するために届く。


 エレナは国立魔導研究院の国際通信室で、それを聞いていた。


 大きな机の上には、帝国全土と周辺諸国の観測値を並べた地図。


 その周囲をノア、リナ、研究院の観測員、外務部の連絡官たちが囲んでいる。


「カルディア」


 ノアが受信紙を引き寄せた。


「北部マイナス七・九。中央部マイナス三・一。国際共通符号で第二段階警戒入り」


「エルグラン」


「地下魔力井戸、二か所で一〇パーセント超低下。鉱山設備は非必須系統を停止」


「故国は?」


「王都周辺マイナス四・八。まだ注意域ぎりぎり。でも北西部でマイナス八」


 エレナは時刻を書き込む。


 やはり。


 一国だけではない。


 しかも前回より、広い。


「帝国南部は?」


「まだマイナス二・二」


「地域差はある」


「はい」


 数値が下がっている。


 怖い。


 それは前回と同じだった。


 けれど。


 通信室の空気は違う。


 誰も「どうする」と最初から聞かない。


 何をするか。


 もう決まっている。


「ノアさん」


「はい」


「主系統の減衰は?」


「北部第五―六番間で一四パーセント。まだ余裕があります」


「予備周波数」


「待機済み」


「私信」


「全部停止」


「分かりました」


 そこでノアが、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「会いたい、も停止です」


「今それ言います?」


「確認です」


「災害対応中です」


「だから切ってます」


 隣でリナが笑いそうになり、すぐ咳払いで誤魔化した。


 緊張が。


 ほんの少しだけ緩む。


 それでいい。


 午後七時。


 北部。


 マイナス一一・二。


 気温低下。


 農業警戒区画。


 保温開始。


 マティアスから短い通信。


『第三農業区、種苗・主要区画優先。周辺低優先畑は保護縮小。農家へ説明済み』


 全部守らない。


 守るものを選ぶ。


 前回より。


 早く。


 迷わず。


「マティアスさん」


 エレナは通信石へ向かって言う。


「現地の反応は?」


『不満はある』


 すぐ返る。


『当然だ。自分の畑が低優先だと言われて喜ぶ農家はいない』


「……はい」


『でも、前もって説明した。種苗を守れば次がある。全部に薄く魔力を撒けば、全滅もあり得ると』


「納得してもらえました?」


『全員ではない』


 マティアスの声には。


 現場の疲れ。


 でも。


 誤魔化しはない。


『それでも、昨日言うのと凍ってから言うのとでは違う』


 その言葉を。


 エレナは記録した。


 準備とは。


 物を置くだけではない。


 人へ。


 先に話すことでもある。


 午後七時半。


 帝都の街灯が点灯した。


 ただし。


 いつもの半分。


 大通り。


 病院周辺。


 橋。


 治安上必要な交差点。


 そこだけ明るい。


 商店街や住宅路地では、灯りが一段落とされている。


 窓の外。


 研究院前の通りも。


 普段より暗い。


「暗くなりましたね」


 リナが窓辺から言った。


「はい」


「前回なら、これを見たら怖かったと思います」


 エレナも。


 窓を見る。


 暗い。


 でも。


 完全な闇ではない。


 必要な灯りを。


 残している。


「今は」


 エレナが言う。


「消したんだって分かります」


「消えたんじゃなく?」


「はい」


 それだけで。


 意味が違う。


 故障ではない。


 選んで止めた。


 大事なところへ。


 力を回すために。


「エレナさん」


「はい?」


「それ、かなり大きい違いですね」


「そうですね」


 午後八時。


 中央治療院から。


 アメリア。


『地方救護所から治癒瓶使用報告、二件』


「重症?」


『一件は転倒による骨折疑い。もう一件は作業事故の裂傷。どちらも低~中出力で安定。搬送中』


「自然魔力補助器具は?」


『軽症区画では止めた。全部独立魔石に切り替えると備蓄がもたないから』


「重症区画だけ?」


『そう。あと治癒魔導師も三交代』


 アメリアの声。


 少し。


 得意げ。


『ちゃんと休ませてるわよ』


「私に言ってます?」


『半分』


「半分?」


『半分は自慢』


 エレナは。


 少し笑った。


「そのままお願いします」


『そっちも休みなさいよ』


「今はまだ」


『“今は”が危ないの』


「交代表あります」


『本当に?』


「あります」


 リナが横から通信石へ顔を寄せる。


「あります。私が持ってます」


『なら信じる』


「私では?」


『実績』


 通信が切れる。


 エレナは。


 少しだけ。


 納得いかない顔をした。


「私の信用」


「育成中です」


 リナが言う。


 午後八時四十三分。


 北部第五―六番通信区間。


 減衰。


 二一パーセント。


「予備へ」


 ノアが即座に切り替える。


 エレナは。


 何も言わない。


 もう。


 ノアの仕事。


「主系統は監視継続。予備周波数で警報のみ。通常報告は一時間ごとにまとめてください」


「了解」


 通信員が動く。


 その横。


 別の受信石。


 短い符号。


 八。


 通信障害。


 続いて。


 十。


 受信確認。


「エルグラン?」


「はい。山岳中継所で反射増大。でも、共通符号は通ってます」


「文字通信は?」


「止めるそうです」


「分かりました」


 世界中で。


 同じように。


 機能を減らす。


 全部。


 普段どおりにしようとしない。


 必要なものだけ。


 残す。


 その考え方が。


 国を越えて。


 揃い始めていた。


 午後九時。


 帝国北部。


 マイナス一五・七。


 カルディア北部。


 マイナス一六・一。


 エルグラン地下魔力井戸。


 マイナス一八。


 前回より。


 深い。


「下げ幅が大きいですね」


 ノア。


「はい」


「回復兆候」


「まだありません」


 少し。


 胸が重くなる。


 百五十年前。


 三日目。


 戻らなかった。


 その記録が。


 頭をよぎる。


 でも。


 今夜は。


 今夜。


 先の恐怖を。


 全部。


 ここへ持ってこない。


「被害報告」


 エレナが聞く。


「水道停止なし」


「医療重大事故なし」


「農業、保温区画正常」


「冷蔵倉庫?」


「南部二施設で補助出力低下。独立魔石へ切替済み」


「交通」


 別の連絡官。


「魔導軌道実証線、第一便出発準備完了」


 エレナが。


 顔を上げる。


「何を積んでます?」


「予備魔石、治癒瓶、乾燥食料。北側集積所まで」


「十一キロだけ?」


「はい」


「その先は?」


「バルクさんの馬車隊が引き継ぎ」


 そこ。


 繋がった。


 魔導列車だけで。


 全部運ぶわけではない。


 十一キロ。


 そこから。


 馬車。


 人。


 現実。


「出します?」


 連絡官が聞く。


 エレナは。


 ユルゲンの承認記録を見る。


 交通設備局。


 安全確認済み。


 運転要員。


 限定。


 速度。


 半分。


 過剰魔力遮断核。


 搭載済み。


「交通局の判断で」


「すでに出発承認です」


「では」


 エレナは。


 少しだけ笑う。


「お願いします」


 数分後。


 短い通信。


『実証貨物列車、出発』


 研究院で。


 その報告を見る。


 実際の音は。


 ここまで。


 聞こえない。


 それでも。


 エレナの頭には。


 車輪が。


 軌道を刻む音が。


 浮かんだ。


 以前。


 試験だったもの。


 今。


 人を助けるために。


 走っている。


 午後九時半。


 最初の農業被害報告。


『北部第四区。低優先区画で軽度霜害』


 エレナの胸が。


 少し痛む。


「種苗区画は?」


「無事」


「主力畑」


「表面温度一・四度。維持」


「人的被害」


「なし」


 守れなかったところがある。


 全部。


 守れたわけではない。


 でも。


 守ったものがある。


「記録してください」


「被害も?」


「はい」


「防げた分も?」


「両方」


 良いところだけ。


 残さない。


 それが。


 次へ。


 午後十時。


 北部。


 マイナス一九・八。


「二〇近い」


 ノア。


 帝都も。


 マイナス六・四。


 研究院の照明が。


 わずかに。


 揺れる。


 すぐ。


 予備魔石。


 切替。


 消えない。


 誰も。


 悲鳴を上げない。


 操作員が。


 淡々と。


 記録する。


「帝都まで」


 リナが言う。


「来ましたね」


「はい」


「怖いです」


 小さな声。


 エレナは。


 リナを見る。


「私もです」


「言うんですね」


「最近は」


「成長」


「今それ言います?」


 二人とも。


 少し笑った。


 怖い。


 だから。


 準備する。


 笑える。


 だから。


 まだ。


 考えられる。


 午後十時二十分。


 帝国北部の一つの地方治療所。


 重傷患者。


 馬車転覆。


 胸部圧迫。


 治癒魔導師。


 別地域へ出動中。


 治癒瓶。


 使用。


『中出力十三分』


『呼吸安定』


『搬送継続』


 その通信を。


 エレナは。


 黙って読む。


 以前。


 治癒瓶を。


 誰でも使える救命具へ。


 そう考えた。


 今。


 遠く。


 自分がいない場所で。


 誰かが。


 使っている。


 そして。


 通信網が。


 その結果を。


 届けてくれる。


「エレナさん」


 リナ。


「はい」


「笑ってます」


「そうですか?」


「少し」


 エレナは。


 自分の口元に。


 気づく。


 こんな夜に。


 笑うのは。


 不謹慎かもしれない。


 でも。


 嬉しかった。


 技術が。


 届いている。


「よかったです」


 それだけ。


 言った。


 午後十一時。


 低下。


 さらに深まる。


 帝国北部。


 マイナス二二・四。


 カルディア。


 二一・九。


 エルグラン地下井戸。


 二四・一。


 まだ。


 回復しない。


「前回の最低値を」


 ノアが言う。


「超えました」


「はい」


「このままなら」


「分かりません」


 エレナは。


 先回りを止める。


「今の値を見ます」


 そのとき。


 宮殿から。


 クロムウェル。


 通信。


『重大事故は』


 簡潔。


「現時点でなし」


 エレナが返す。


『被害』


「農業軽度。一部設備切替。治癒瓶使用数増加。水道停止なし」


『通信』


「維持」


『食料』


「冷蔵補助切替。大規模損失なし」


 少し。


 間。


『よく備えた』


 短い。


 その言葉。


 胸へ。


 落ちる。


 でも。


 エレナは。


 すぐ。


 返信する。


「まだ終わってません」


 返答。


『分かっている。だから続けろ』


 そのあと。


 もう一行。


『ただし交代時間は守れ』


 エレナの顔が。


 少し。


 固まる。


 横から。


 リナ。


「見せてください」


「私信です」


「最後だけ見えました」


「……」


「交代」


「分かってます」


「あと三十分です」


「はい」


 午前零時。


 低下。


 横ばい。


 帝国北部。


 マイナス二三前後。


 初めて。


 下がり止まる。


 でも。


 戻らない。


 ノアが。


 グラフを見る。


「底?」


「まだ分かりません」


「百五十年前の」


「今は考えすぎない」


 エレナは。


 自分にも言う。


 今夜。


 できること。


 やる。


 午前零時十分。


 農業報告。


『種苗区画被害なし』


 零時十四分。


 水道。


『全主要都市、給水継続』


 零時二十分。


 医療。


『重大治療停止なし』


 零時二十六分。


 通信。


『国際共通符号、全参加国で接続維持』


 零時三十一分。


 貨物列車。


『北側集積所到着』


 そこから。


 バルクの馬車隊。


 魔石。


 北へ。


 運ぶ。


 エレナは。


 それらを。


 一つずつ。


 確認する。


 低下。


 止められていない。


 現象そのものは。


 何も解決していない。


 でも。


 人の側は。


 動けている。


 午前零時半。


 交代。


 リナが。


 エレナの前へ。


 立った。


「時間です」


「あと」


「駄目です」


「でも」


「夜勤統括います」


「ノアさんは」


「交代です」


 ノアが。


 すでに。


 上着を着ていた。


「俺も帰ります」


「珍しい」


「主任に言われたくない」


 エレナは。


 少し。


 迷う。


 このまま。


 残りたい。


 数字。


 見たい。


 でも。


 ここで。


 残ったら。


 前と。


 同じ。


「……分かりました」


 立つ。


 夜勤責任者へ。


 引継ぎ。


 起こす条件。


 重大事故。


 急変。


 通信断。


 中央高地異常。


 最後。


 その言葉で。


 少し。


 引っかかる。


「中央高地」


「今のところ?」


 夜勤責任者。


 記録を見る。


「大気プラス一四。地下推定プラス四一。前回高値より低い」


「下がってる?」


「少し」


「分かりました」


 なら。


 帰る。


 研究院の外。


 帝都。


 暗い。


 でも。


 真っ暗ではない。


 橋。


 治療院。


 警備所。


 必要な場所。


 灯り。


 残っている。


 歩く人も。


 落ち着いている。


 少し。


 不安そう。


 でも。


 混乱。


 ない。


 商店も。


 早く閉めている。


 魔石を。


 節約。


「静かですね」


 リナ。


「はい」


「怖い静かさじゃなく」


「準備している静かさ」


 エレナは。


 そう思った。


 百五十年前。


 人々は。


 突然。


 暗くなった街で。


 理由も分からず。


 待った。


 今は。


 違う。


 誰も。


 暗闇で。


 ただ待ってはいない。


 翌朝。


 エレナが研究院へ来る。


 最初。


 確認。


「回復?」


 夜勤責任者。


 首を横に振る。


「まだです」


 胸。


 少し。


 重い。


「北部?」


「マイナス二一・八」


「少し戻った?」


「二三から二二弱」


「カルディア」


「同程度」


「エルグラン」


「地下井戸マイナス二二」


 大きな回復ではない。


 でも。


 悪化も。


 していない。


「被害」


「夜間追加。軽度霜害、五地区。治癒瓶使用八件。重大副作用なし。水道停止ゼロ。通信断ゼロ」


「死者」


 聞く。


 少し。


 怖い。


「現時点で」


 夜勤責任者が答える。


「この魔力低下を直接原因とする死亡報告はありません」


 エレナは。


 目を閉じそうになる。


 でも。


 しない。


「分かりました」


 大きな息。


 吐く。


「皆さん」


 通信室を見る。


 夜勤。


 疲れている。


「ありがとうございます」


 それだけ。


 言う。


 そして。


 すぐ。


 交代。


 朝班。


 仕事。


 午前九時。


 国際合同会議。


 各国。


 速報。


 カルディア。


 農業被害。


 前回比。


 大幅減。


 エルグラン。


 鉱山停止。


 計画的。


 事故。


 なし。


 故国。


 王都外周照明を削減し、治療院へ独立魔石集中。


 ローディア。


 灌漑施設を手動運用。


 大きな作物被害。


 まだなし。


「事前警戒」


 外務官が言う。


「効果があった、と公表します?」


 エレナは。


 少し考える。


「まだ」


「なぜ?」


「異常が終わっていません」


「でも被害は少ない」


「はい」


「なら」


「“現時点で被害抑制に有効とみられる”までです」


「相変わらず慎重だな」


「後で増えるかもしれないので」


「分かった」


 昼。


 少し。


 空気が。


 緩んだ。


 ところが。


 午後一時。


 ノアが。


 突然。


 席を立った。


「主任」


 その声。


 昨日と。


 違う。


「中央高地」


 エレナの顔。


 変わる。


「どうしました?」


「大気」


「値」


「プラス二八」


「昨日一四」


「はい」


「地下」


 ノア。


 紙。


 見る。


「プラス七二」


 室内。


 静か。


「上がった?」


「急に」


「変化率」


「二時間で二六ポイント」


 高い。


 しかも。


 速い。


「現地に人は?」


「観測隊は撤退済み。仮設遠隔観測器だけ」


 そこ。


 少し。


 安心。


「装置」


「過剰魔力遮断核第一型を追加した観測器」


「動いてる?」


「今のところ」


 受信。


 新しい。


『大気プラス三三』


 ノアの顔。


 硬くなる。


「まだ上がってます」


「地下」


「……八一」


 前回事故時。


 それより。


 高い。


「周辺国へ」


 エレナ。


「高地上昇警報」


「送ります」


 国際共通符号。


 十二。


『広域同時発生確認』


 加えて。


 臨時。


『中央高地・魔力急上昇』


 数分。


 各国。


 受信。


 午後一時二十分。


 帝国北部。


 マイナス二〇。


 中央高地。


 プラス三八。


 午後一時四十分。


 北部。


 マイナス二一。


 中央。


 プラス四四。


 ノアが。


 大陸地図を見る。


「これ」


 声。


 小さい。


「やっぱり」


 エレナも。


 見ている。


 周囲で。


 低下。


 中央で。


 上昇。


「集まってる?」


 リナ。


 今度は。


 誰も。


 すぐ否定できない。


「少なくとも」


 エレナ。


 慎重。


 でも。


 以前より。


 一歩。


 踏み込む。


「同じ時間帯に、広域低下と中央高地の急上昇が起きています」


「偶然?」


「可能性は」


 言う。


「かなり下がりました」


 そのとき。


 遠隔観測器。


 新しい記録。


『遮断核 黄』


「第一型?」


 エレナ。


「はい」


「余剰吸収」


「五八パーセント」


「交換できない」


「無人です」


「本体保護」


「継続」


 さらに。


『遮断核 赤』


 数秒。


『主回路停止』


 エレナの胸。


 強く鳴る。


「止めた?」


「自動遮断成功」


 今回。


 壊れる前に。


 止まった。


 過剰魔力遮断核。


 事故から。


 作った。


 それが。


 現場で。


 初めて。


 本当に。


 装置を守った。


「記録は?」


「停止直前まで来てます」


「回路温度」


「上限内」


 エレナは。


 ほんの少し。


 肩の力を抜く。


「……よかった」


 でも。


 次の瞬間。


 別の仮設観測器。


 まだ。


 生きている。


 簡易型。


 精度。


 低い。


 でも。


 空。


 光量。


 測れる。


『可視域発光反応』


 ノアが。


 読み上げ。


 止まる。


「可視?」


「はい」


「昼間ですよ」


「それでも」


 反応。


 出ている。


「どこ?」


「中央高地」


 エレナの背中。


 冷たくなる。


 百五十年前。


 第五日。


『北方の空、青白く明るむ』


『帯のごとき光』


 過去。


 記録。


 まだ。


 夜ではない。


 今は。


 昼。


 だから。


 見えない。


 でも。


 装置は。


 もう。


 何かを。


 捉えている。


「夜まで」


 リナが。


 小さく言う。


「続いたら」


 誰も。


 その先を。


 言わない。


 エレナは。


 大陸中央高地の印を。


 見つめた。


 今回の低下は。


 止められなかった。


 それでも。


 誰も。


 暗闇の中で。


 何も知らず。


 待たなかった。


 医療は動いた。


 水は止まらなかった。


 種苗は守られた。


 通信は繋がった。


 貨物も走った。


 それだけで。


 世界は。


 前回より。


 少し強くなっている。


 けれど。


 異常は。


 まだ。


 終わっていない。


 むしろ。


 世界中から失われた魔力が。


 大陸中央で。


 別の形になろうとしている。


 夕刻まで。


 あと。


 数時間。


 百五十年前の記録と。


 同じように。


 もし。


 今夜。


 空が光るのなら。


 それは。


 過去の伝承ではなく。


 今の自分たちが。


 初めて。


 観測器を向けたまま。


 目撃することになる。

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