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第50話 魔力は消えたのではなく、どこかへ集まっている?

 百五十年前の記録に残された「空の発光」を、エレナは最初から重要な証拠だとは考えなかった。


 むしろ、扱いに困る記述だと思っていた。


 夜空が青白く光った。


 帯のように見えた。


 雲ではなかった。


 稲妻でもなかった。


 そんな文章は、技術記録としては曖昧すぎる。観測器もなく、数値もなく、見た人によって表現が変わる。しかも百五十年前だ。


「きれいだった、怖かった、不吉だった、神の徴だった。そういう感想が混ざっている可能性もあります」


 翌朝の資料会議でエレナが言うと、ベルナールは素直に頷いた。


「その通りです。だから空の発光だけを追うのは危険でしょう」


「でも捨てもしない?」


 ノアが尋ねる。


「捨てません」


 エレナは答えた。


「ただし、別枠です」


 黒板には、現在の広域魔力異常に関する観測項目が並んでいる。


 大気魔力低下。


 地下魔力井戸低下。


 設備出力低下。


 回復時刻。


 過去記録。


 その横へ。


『魔力上昇』


 と新しく書いた。


 ノアが首を傾げる。


「上昇?」


「はい」


「今まで下がったところしか見てませんよね」


「だからです」


 エレナは振り返る。


「私たち、最初から『魔力が減っている』と思い込んでいませんでしたか?」


 部屋が少し静かになった。


 ベルナールが先に反応した。


「消失ではなく、移動の可能性?」


「まだ可能性です」


「でも」


「一応、確認したいです」


 今回の異常で注目されたのは、魔力濃度が下がった地域ばかりだった。


 当然だ。


 困るから。


 灯りが暗くなる。


 水が止まる。


 畑が凍る。


 治療器具の出力が落ちる。


 人は困った場所を見る。


 だから。


 もしかすると。


 困っていない場所の異常を。


 見逃しているかもしれない。


「平常値より上がった記録」


 エレナは言う。


「全部探しましょう」


「どのくらい?」


 リナが聞く。


「同時観測夜の前後三日」


「全部の国?」


「できる範囲で」


「また増えましたね」


「増えました」


「嬉しそう」


「少し」


 自覚はある。


 怖い。


 でも。


 分からなかったことが。


 少しずつ。


 形になる瞬間は。


 やっぱり。


 好きだった。


 午前中。


 帝国内十二観測所の記録を。


 もう一度見る。


 低下。


 低下。


 低下。


 帝都。


 南部。


 西部。


 すでに確認済み。


 でも。


 エレナは。


 最低値ではなく。


 最大値を見る。


「南東山岳観測所」


 ノアが言った。


「これ」


「何です?」


「同時観測夜、二十二時十四分」


 紙を渡す。


 平常比。


 プラス七・九パーセント。


 エレナの手が止まる。


「上がってる」


「そのあと」


 さらに。


 二十二時三十二分。


 プラス一一・八。


 二十二時四十六分。


 プラス九・三。


 二十三時十六分。


 ほぼ平常。


「これ」


 エレナが紙を持ち上げる。


「誰が誤差扱いしました?」


「俺です」


 ノアが手を上げた。


 一瞬。


 誰も何も言わない。


「すみません」


「責めてません」


「でも」


「私も見ました」


 エレナは。


 資料を読み返す。


 あの夜。


 見るべきものが多すぎた。


 北部。


 カルディア。


 エルグラン。


 水道。


 医療。


 通信。


 低下。


 回復。


 南東山岳観測所の上昇は。


 孤立した一件。


 しかも。


 そこで設備障害は報告されていない。


「私も」


 エレナは言う。


「重要だと思いませんでした」


 ノアが。


 少しだけ安心した顔をする。


「これだけなら、今でも測定誤差の可能性はあります」


「あります」


「でも」


「他国にもあれば」


 二人の声が重なる。


 その日の午後。


 カルディアから。


 上昇記録が来た。


 東部高地。


 同時観測夜。


 平常比プラス八・一パーセント。


 約二十分後。


 最大プラス一〇・七。


「また山?」


 リナが言う。


「はい」


「偶然?」


「まだ」


 さらに。


 エルグラン。


 中央山系西端。


 魔力井戸ではなく。


 地表大気。


 平常比プラス十三・二パーセント。


「……三か所」


 ノアが言った。


「離れてる」


 エレナは地図へ。


 印を置く。


 帝国南東山岳。


 カルディア東部高地。


 エルグラン中央山系西端。


「時刻」


「全部、低下が深くなる時間帯と近いです」


「完全一致?」


「しません」


「どのくらいずれます?」


「最大三十七分」


 エレナは。


 その数字を見て。


 少し考える。


「大陸規模なら」


「十分近い?」


「可能性はあります」


 でも。


 何かが。


 気になる。


「低下地点と上昇地点」


「はい」


「距離」


 地図を見る。


 上昇地点。


 全部。


 低下が強かった北西や北部とは。


 かなり離れている。


「もし」


 エレナが言う。


「消えてないなら」


 ノアが。


 地図を見る。


「移ってる?」


「分かりません」


 でも。


 言葉にすると。


 少し。


 怖い。


 魔力が減ったのではなく。


 別の場所に。


 集まっている。


 その場合。


 低下だけでなく。


 上昇も。


 災害になる。


「魔力が多いなら」


 リナが言う。


「良いことでは?」


「多すぎても」


 エレナは答える。


「たぶん問題です」


「どういう?」


「まだ分かりませんけど」


 魔導具は。


 適正範囲で動くように作られている。


 魔力が少なければ。


 出力不足。


 でも。


 多すぎれば。


 回路へ。


 想定以上に流れ込む。


「過充填」


 エレナが呟く。


「起こるかもしれません」


 ノアの表情が少し変わる。


「じゃあ」


「今まで低下しか危険だと思っていなかった」


「上がる側も?」


「確認が必要です」


 夕方。


 ハロルド。


 グレゴール。


 ミレイア。


 マティアス。


 アメリア。


 各分野責任者が集められた。


 エレナは。


 三つの上昇地点を示す。


「現時点で」


 最初に言う。


「同じ現象だとは断定しません」


 ハロルドが。


 少し笑う。


「最近、その前置きが増えたな」


「必要なので」


「分かってる」


「上昇が」


 グレゴールが地図を見る。


「本当に自然魔力なら?」


「設備にどう影響するか」


 エレナは答える。


「調べたいです」


「水道設備は」


「吸入制御がありますが」


「古いやつは?」


「かなり粗い」


「なら」


 グレゴールが。


 顎をさする。


「供給側が強すぎると、制御弁が追いつかん可能性はある」


「実例は?」


「知らん」


「そこを探します」


 アメリアも。


 少し考える。


「治療器具は?」


「基本は内部魔石」


「なら平気?」


「自然魔力補助型は分からないです」


「患者へ流れすぎたら困るわね」


「はい」


「むしろ不足より怖い場合もある」


 人へ。


 直接。


 作用するから。


 マティアス。


「農業結界は」


「過出力になる?」


「温度制御型なら、上がりすぎて作物を傷める可能性はある」


「寒さ対策が」


「逆に高温障害」


 これまで。


 誰も。


 あまり考えていなかった。


 低魔力。


 不足。


 そればかり。


「次から」


 エレナは言った。


「観測異常の定義を変えたいです」


「低下だけじゃなく」


 ノアが続ける。


「上昇も」


「はい」


 平常比。


 マイナス。


 プラス。


 両方。


「基準値を」


 ベルナールが言う。


「どうする?」


「最初は広く取ります」


「何パーセント?」


「五以上?」


「誤差増えません?」


 ノア。


「増えます」


「十?」


「小さい前兆を見逃すかも」


「じゃあ」


 ミレイアが割って入る。


「注意域五。異常域十。二段階にしたら?」


 エレナが。


 すぐ顔を上げる。


「それがいいです」


「ほら」


 ミレイアが笑う。


「全部一人で考えなくていい」


「今は考えてませんでした」


「考えようとしてた顔だった」


「……否定しません」


 新しい観測定義。


 平常比±五パーセント。


 注意。


 ±一〇パーセント以上。


 異常候補。


 ただし。


 測定器誤差。


 天候。


 局所魔力使用。


 設備近傍。


 それらを除外。


「かなり厳密ですね」


 リナが言う。


「後で困るより」


「はいはい」


 そして。


 過去記録。


 今度は。


 「弱った」ではなく。


 「強すぎた」。


 そういう記述を探す。


『魔導灯、異常に明るくなる』


『結界が鳴動』


『魔石、触れぬほど発熱』


『術式暴発』


『夜空に発光』


 そういう言葉。


 すると。


 出てくる。


 今まで。


 別の事故だと思っていた記録。


 カルディア。


 百五十年前。


『第五日、北東山村にて家屋結界過剰発光』


 エルグラン。


『山中採掘所、保存魔石三基亀裂』


 故国。


『北東街道関所、灯具破裂二件』


「同じ日?」


 ノアが聞く。


「ほぼ」


「低下してるのに?」


「地域が違います」


 エレナが地図を見る。


 低下。


 広く。


 上昇。


 点。


 山地。


 高地。


 中央寄り。


「局地的に」


 ベルナールが言う。


「集まっていた?」


「その可能性が」


 エレナは答える。


「少し上がります」


 地図。


 今の観測地点。


 過去の発光地点。


 重ねる。


 完全ではない。


 でも。


 傾向がある。


 大陸中央。


 山脈。


 高地。


「ノアさん」


「はい」


「今の三つの上昇地点」


「はい」


「時系列で並べられます?」


「できます」


「低下地点も」


「一緒に?」


「はい」


 数時間。


 比較。


 低下開始。


 上昇開始。


 最大値。


 回復。


 ノアが。


 途中から。


 ほとんど喋らなくなった。


 紙へ。


 数値を書き。


 線を引き。


 消し。


 また書く。


 エレナは。


 口を出さない。


 しばらくして。


 ノアが。


 顔を上げた。


「主任」


「はい」


「これ」


「何です?」


「上昇地点」


 紙。


 三地点。


 最大上昇時刻。


 帝国南東。


 カルディア東部。


 エルグラン中央山系西端。


 順番。


 少しずつ。


 大陸中央へ近い地点ほど。


 上昇が早い。


「……偶然?」


 リナが聞く。


「まだ」


 ノアが答える。


 今度は。


 彼が慎重。


「でも」


 別の紙。


 過去記録。


 発光。


 破裂。


 過出力。


 同じような並び。


「もし」


 ノアが言う。


「魔力が」


 一度。


 言葉を止める。


「減ってる地域から」


 地図を見る。


「中央へ」


 エレナが。


 胸の中で。


 同じ言葉を。


 先に思った。


「流れてる?」


 ノアが言った。


 室内が。


 静かになる。


「川みたいに?」


 リナが。


 小さく聞く。


「地下だけでは」


 エレナが言う。


「説明できないです」


「大気も?」


「たぶん」


「地下と大気が」


「繋がっているなら」


 ベルナール。


「どちらも」


 エレナが頷く。


「同じ循環の一部」


 それは。


 前にも。


 仮説として。


 出た。


 でも。


 今は。


 少し。


 具体的。


 低下。


 上昇。


 地下。


 大気。


 山岳。


 発光。


「ただ」


 エレナが言う。


「一方向へ流れているとはまだ言えません」


「どうして?」


 ノア。


「低下地域全部の魔力量と」


「上昇側?」


「つり合っていません」


「量が足りない?」


「観測点が少ないです」


 だから。


 分からない。


「それに」


 エレナは。


 地図へ。


 別の印。


「上昇地点が」


 少ない。


 三つ。


 広い大陸で。


 たった三つ。


「どこか」


 リナが言う。


「もっと上がってるところがある?」


 エレナは。


 その可能性を。


 否定できない。


「観測していないだけで」


「大きく?」


「あり得ます」


 地図。


 空白。


 国境。


 山脈。


 人が少ないところ。


「中央」


 ノアが。


 指を差す。


「ここ」


 大陸中央高地。


 複数国の国境が入り組む山岳地帯。


 観測所。


 ほぼない。


「空白ですね」


 エレナが言う。


 そこへ。


 もし。


 集まっているなら。


 誰も。


 見ていない。


 翌日。


 国際合同魔導災害対策会議。


 臨時技術部会。


 エレナは。


 上昇データを共有する。


 最初。


 反応は。


 かなり悪かった。


「三地点だけで?」


 東方王国の代表。


「結論を急ぎすぎでは?」


「結論ではありません」


 エレナ。


「では何を求める?」


「観測です」


「また?」


「はい」


「もう十分測っている」


「低下だけを」


 エレナは。


 資料を出す。


「上昇を異常として見ていませんでした」


 カルディア代表が。


 自国データを見る。


「確かに」


 エルグラン側も。


「うちの中央山系」


 技師が言う。


「平常より十三パーセント高い。でも現場から障害報告がなかったから放置した」


「だから」


 エレナは頷く。


「次からは」


 低下。


 上昇。


 両方。


「そして」


 大陸地図。


 中央。


「ここ」


 各国代表の視線が集まる。


「観測所がほとんどありません」


「高山です」


 カルディア側。


「冬季は入れない場所もある」


「住民も少ない」


 エルグラン。


「だから今まで必要がなかった」


「はい」


 エレナは答える。


「でも」


 地図へ。


 三つの上昇地点。


 過去の発光記録。


「今は」


 少し。


 言葉を選ぶ。


「一番見たい場所です」


 政治代表の一人が。


 すぐ反応する。


「共同観測所を置く?」


「少なくとも」


 エレナ。


「現地測定は必要だと思います」


「国境地帯だぞ」


「分かっています」


「軍事的に敏感だ」


「それも」


「誰が入る」


 その瞬間。


 空気が変わった。


 技術ではなく。


 国家。


 エレナは。


 すぐには答えない。


 ここで。


 帝国が行くと言えば。


 疑われる。


 カルディア。


 エルグラン。


 どこでも同じ。


「混成隊」


 ベルナールが言った。


 皆が見る。


「一国だけで入るから問題になる」


 故国代表席から。


 静かに。


「各国の技師を一人ずつ出せばいい」


「軍人も?」


 誰かが聞く。


「護衛は必要でしょう」


「なら情報が」


「だから」


 ベルナールは。


 少し面倒そうに。


「測定器も共同管理すればいい」


 エレナは。


 その案に。


 すぐ乗った。


「記録装置を」


「複数鍵?」


 ノア。


「はい」


「一国だけでは開けない?」


「できます」


「面倒ですよ」


「面倒なくらいがいいです」


 政治的には。


 そのほうが。


 信頼される。


 会議。


 少しずつ。


 具体化。


 現地観測。


 国際混成隊。


 装置共同封印。


 生データは。


 帰還後。


 各国同時開示。


 途中報告は。


 国際共通符号で。


 最低限。


「エレナ技師長」


 カルディアの代表が言う。


「あなたは?」


「私?」


「現地隊に入る?」


 その質問。


 来ると思っていた。


 エレナは。


 一瞬。


 言葉を失う。


 行きたい。


 正直。


 かなり。


 自分の目で。


 見たい。


 測りたい。


 山の中央。


 魔力が。


 集まっているかもしれない場所。


 技術者として。


 行きたい。


 でも。


 国家魔導技師長。


 国際会議。


 帝都統括。


 各国連携。


 自分の役割。


「……まだ決めていません」


 そう答えた。


 以前なら。


 すぐ。


「行きます」


 と言っていた。


 会議後。


 研究院。


 リナが。


 すぐ聞く。


「行きたいんですよね」


「はい」


「かなり?」


「かなり」


「顔がすごいです」


「分かっています」


 山。


 観測。


 未知。


 新しい現象。


 全部。


 魅力的。


「でも」


 エレナは。


 机へ。


 各国からの資料。


「私が行ったら」


「帝都側?」


「誰がまとめるか」


「オルディス院長も」


「います」


「ミレイアさんも」


「います」


「外務も」


「います」


「じゃあ」


「でも」


 エレナは。


 少し。


 考える。


「国家魔導技師長だから行く」


「はい」


「は」


 違う気がする。


「たぶん、理由にならない」


 リナが。


 少し笑う。


「成長しましたね」


「言わないでください」


「でも」


 エレナ。


 笑う。


「本当に」


 そこへ。


 宮殿から。


 呼び出し。


 クロムウェル。


 行く。


 執務室。


 今日は。


 恋人。


 でも。


 先に。


 皇帝。


「中央高地」


 クロムウェルが。


 すでに資料を見ている。


「行くつもりか」


「……まだ」


「行きたい?」


「はい」


 正直に。


「かなり」


「止めたい」


 エレナが。


 少し驚く。


「皇帝として?」


「恋人として」


 はっきり。


 言った。


「危険だから」


「はい」


「高地」


「はい」


「国境」


「はい」


「魔力異常中心の可能性」


「はい」


「全部、嫌だ」


 エレナは。


 少し。


 胸が温かくなる。


 でも。


 同時に。


 仕事の話。


「でも」


 クロムウェルは続ける。


「皇帝としては」


 切り替わる。


「君だけを行かせない理由にはできない」


 エレナは。


 頷く。


「私も」


「うん」


「恋人だから危険な仕事をさせない、は」


「嫌?」


「少し」


「分かってる」


 クロムウェルが。


 少しだけ。


 苦笑。


「だから困っている」


「私も」


 二人。


 同じ。


 仕事。


 恋愛。


 今度は。


 ちゃんと。


 ぶつかる。


「では」


 クロムウェル。


「技師として考えよう」


「はい」


「現地で、君にしかできないことは?」


 エレナ。


 答えようとして。


 止まる。


「精密魔力核の調整」


「他に?」


「高濃度対応の」


 まだ。


 開発してない。


「観測設計」


「ノアたちもいる」


「はい」


「地質」


「専門外です」


「高地行動」


「得意ではありません」


「外交」


「現地より帝都のほうが必要かもしれません」


 言えば。


 言うほど。


「……私」


 エレナが。


 少し笑う。


「行く必要、あまりないですね」


「ないとは言わない」


「でも」


「必要度は高くない」


「はい」


 悔しい。


 少し。


 本当に。


「行きたいです」


「知ってる」


「でも」


 エレナ。


 資料を見る。


「行かないほうが」


「役割としては?」


「妥当だと思います」


 自分で。


 言えた。


 クロムウェル。


 少しだけ。


 ほっとした顔。


 でも。


 すぐ消す。


 皇帝として。


 公平。


「恋人としては」


「はい」


「かなり嬉しい」


「やっぱり」


「仕方ないだろう」


「はい」


 エレナも。


 少し笑う。


 現地隊。


 混成。


 帝国から。


 ノアの通信班員。


 山岳環境技師。


 精密測定技師。


 カルディア。


 気象観測技師。


 エルグラン。


 鉱山・地下魔力専門。


 故国。


 結界測定技師。


 ローディア。


 農業気象研究者。


 そして。


 護衛。


 医療。


「ノア本人は?」


 クロムウェルが聞く。


「帝都に残します」


「理由」


「通信網統括が必要なので」


「本人は行きたがる?」


「たぶん」


「君と同じだな」


「嫌な言い方」


「似ている」


「否定しません」


 翌日。


 観測隊。


 正式決定。


 エレナは。


 現地統括ではなく。


『帝都技術統括』


 現地へは。


 行かない。


 その代わり。


 装置設計。


 観測規格。


 緊急停止条件。


 通信手順。


 全部。


 各担当と。


 詰める。


 そして。


 最後。


 現地隊へ。


 言った。


「一つ」


 皆が見る。


「無理に測らないでください」


 若い帝国測定技師が。


 少し笑う。


「技師長が言います?」


「私が言うから意味があります」


「なるほど」


「観測器が壊れたら」


「回収?」


「捨ててください」


「本当に?」


「命より高い観測器はありません」


 そこ。


 以前の自分なら。


 少し。


 言えなかったかもしれない。


「データが途中でも」


 エレナは続ける。


「帰ってきてください」


「分かりました」


 現地隊。


 出発。


 朝。


 帝都北門。


 馬車。


 装備。


 共同封印された観測核。


 国旗が。


 複数。


 一台の車列へ。


 並んでいる。


 エレナは。


 見送る。


 行きたい。


 やっぱり。


 かなり。


 でも。


 今は。


 それでいい。


 昼前。


 最初の報告。


『第一中継地点到着』


 国際共通符号。


 問題なし。


 夜。


 第二。


『山麓宿営地到着』


 問題なし。


 翌日。


 第三。


『高地進入』


 通信。


 少し弱い。


 でも。


 届く。


 エレナは。


 帝都の通信室で。


 紙を握る。


「主任」


 ノアが。


 横から。


「行きたかったです?」


「かなり」


「俺も」


「でしょうね」


「でも」


 ノアが。


 通信器を見る。


「こっちに残ってよかったかもしれません」


「どうして?」


「現地に行ってたら」


 少し笑う。


「ここの通信調整、誰がやるんです?」


 エレナも。


 笑った。


「本当ですね」


 夜。


 最後の定時通信。


 いつもより。


 少し遅い。


 一分。


 二分。


 三分。


 受信。


『第四中継点通過』


 続けて。


『観測地点まで、残り一日』


 そして。


 もう一つ。


『途中、大気魔力平常比プラス六』


 エレナの表情が変わる。


 ノアも。


 すぐ見る。


「注意域」


「はい」


「まだ中央じゃない」


「はい」


 プラス六。


 小さい。


 でも。


 上がっている。


 今まで。


 見ていなかった。


 上がる側。


「明日」


 ノアが言う。


「もっと上がる?」


「分かりません」


 エレナは。


 地図を見る。


 現地隊の位置。


 中央高地。


 その奥。


「でも」


 少し。


 胸が。


 重くなる。


「何かは」


 言葉を選ぶ。


「ありそうです」


 魔力は。


 消えているのではなく。


 どこかへ。


 集まっているのかもしれない。


 そして。


 その「どこか」が。


 大陸中央の。


 誰も測ってこなかった空白地帯だとしたら。


 次に必要なのは。


 仮説ではない。


 現地の。


 数字だった。

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