第37話 通信魔導網、最初の実戦運用
通信魔導網が初めて「試験」ではなく「実際の警報」を送ったのは、完成予定を三日残した夜だった。
その日、エレナは研究院の臨時観測室にいた。
北部とカルディア、さらにエルグラン王国から届いた観測記録を照合するためである。
壁一面には帝国北部の地図が広げられ、各観測所の位置には小さな金属札が打たれている。そのうち、帝都から北へ延びる主要街道沿いの六地点だけには、青い糸が結ばれていた。
仮設通信線。
本来なら三日後から正式な連続運用を始める予定だった。
まだ送れる情報は少ない。
異常なし。
魔力低下。
急激な低下。
回復。
観測所番号。
それだけだった。
けれど、馬で半日かかる報告を数十秒以内に送れる可能性がある。
「第四中継所、応答確認しました」
若い測定技師が記録表へ印をつける。
「第五は?」
「今、返ってきます」
受信器の白い表示石が、短く二度、間を置いて一度光った。
青年がすぐ符号表を確認する。
「第五中継所、正常です」
「六番観測所まで?」
「そこが一番遠いので、あと一回確認します」
彼は最近、ほとんど通信設備の研究室に住みついていた。
正式な通信班はまだ設立準備中だが、二重周波数識別方式を提案して以来、実質的には中心人物の一人になっている。
名前はノア・ベルク。
二十二歳。
元は精密魔導核研究室の測定担当で、特別に目立つ技師ではなかった。
少なくとも、本人はそう思っていたらしい。
「ノアさん」
エレナが呼ぶ。
「はい」
「第五と第六の間、昨日より減衰が大きくありませんか?」
ノアは測定板を見る。
「……本当だ。昨日が十二・一パーセント、今日は十五・八」
「気象条件は?」
「ほぼ同じです」
「中継器の魔石残量は?」
「八割以上」
「では記録しておいてください。故障か環境変化か、今は決めません」
「はい」
エレナはまた地図へ目を戻した。
こういう小さな変化が気になる。
今までなら、その場ですぐ調べたかもしれない。
けれど今夜の目的は、通信網の全体確認と国外データの整理だ。
一つ気になることがあるたびに自分で追い始めれば、何も終わらない。
「主任」
リナが温かい茶を机へ置いた。
「ありがとうございます」
「飲んでくださいね」
「飲みます」
「今」
「はい」
最近は先回りされる。
エレナは素直にカップを取った。
ほんのり薬草の香りがした。
「それにしても」
リナは壁の地図を見る。
「本当に線になりましたね」
「まだ仮設ですけど」
「最初は箱二つだったのに」
「箱二つが六か所になっただけです」
「十分すごいです」
「中継器、かなり大きいですよ」
「そのうち小さくするんでしょう?」
「たぶん」
「ほら」
「何です?」
「もうその顔です」
エレナは苦笑した。
確かに小型化したい。
維持費も下げたい。
符号数も増やしたい。
いつかは文字も送れるようにしたい。
けれど。
今は。
まず、壊れず動くこと。
それだけだ。
「六番から来ます」
ノアの声で、皆が受信器を見る。
短い光。
長い光。
短い光。
「六番観測所、通常応答」
「時刻は?」
「午後九時四十七分十八秒」
「送信から?」
「四十三秒です」
エレナが頷く。
「十分です」
「もう少し縮められます」
「今日は縮めなくていいです」
ノアが少し残念そうな顔をする。
自分でも分かる。
昔の自分を見ているようだった。
「正式運用前に触りすぎて壊したら、本末転倒です」
「……はい」
「改善案は明日まとめましょう」
「分かりました」
そこで。
受信器が、勝手に光った。
誰も送信試験をしていない。
短く二回。
間。
もう二回。
さらに。
長く一度。
観測室の空気が一変した。
ノアが椅子を引く。
「第二警戒符号」
リナが地図を見る。
「どこから?」
受信器が続けて観測所番号を送る。
ノアが読み取った。
「六番です」
帝国北部。
最前線の仮設通信観測所。
「魔力低下?」
エレナが聞く。
「はい。それと……」
長信号がもう一度来る。
ノアの表情が変わった。
「急激な低下へ移行」
「確認符号を返してください」
「はい」
ノアが送信器へ手を置く。
帝都側から六番へ。
『受信確認』
送る。
数十秒。
返答。
『確認』
「繋がっています」
「低下率は?」
「この符号では送れません」
そうだ。
今の通信網が送れるのは、警戒段階まで。
詳しい数字は書面か、追加の短縮符号を使う必要がある。
「六番には追加符号表があります」
ノアが言う。
「低下率を五パーセント刻みで送れます」
「使ってください」
再通信。
待つ。
返る。
「十五パーセント以上、二十パーセント未満」
エレナの表情が固くなる。
「開始時刻?」
「今から約八分前」
八分。
今までなら。
まだ現地で伝令馬を準備している頃だ。
帝都が知るのは、早くても翌朝だった。
「農業部へ連絡」
エレナがすぐ言った。
「北部の保温結界を警戒運用へ。自然魔力取り込みを切る準備をしてください」
「はい」
「水道局にも。北部都市の揚水設備、独立魔石へ切り替え可能なものは待機状態」
「分かりました」
「中央治療院から北部治療所へ、重要治療器具の魔石残量確認を」
補佐官が次々書き取る。
そして。
エレナは一度止まった。
「通信線そのものも監視してください」
ノアが振り返る。
「通信?」
「魔力低下がもっと大きくなったら、信号にも影響するかもしれません」
「でも通信器は内部魔石式です」
「送受信そのものは。でも、周囲魔力の揺らぎが強くなれば波形に干渉する可能性があります」
「了解です」
観測室が動き始める。
誰かが走る。
扉が開閉する。
伝令が宮殿へ。
農業部へ。
軍へ。
治療院へ。
そして新しい通信線を使って。
帝都から北部へ。
警戒指示が返される。
『保温結界、独立駆動準備』
『重要設備、魔石確認』
『通信継続』
まだ文章ではない。
決められた符号。
それだけ。
けれど。
意味は届く。
「主任」
リナが地図を見たまま言う。
「これ、間に合いますよね」
「間に合わせます」
断言したあと。
エレナは自分で少し驚いた。
技術で全部救えるとは思わない。
自然相手なら、なおさらだ。
それでも。
今回は。
準備する時間がある。
そのことが大きかった。
北部では、警報が届いた時点でまだ気温は平年より少し低い程度だった。
だから農業担当者は、保温結界の蓄熱材を追加できた。
魔石も交換できた。
前回のように、結界出力が落ちてから慌てて人を集める必要がない。
都市の給水設備も同じだった。
自然魔力補助型の揚水器を、夜間だけ魔石単独駆動へ切り替える。
治療所では、緊急治療用の魔導器具を優先して充填。
冷蔵保管が必要な薬剤庫にも予備魔石を回す。
どれも。
異常が起きてからでは遅い作業だった。
「六番、低下継続」
ノアが報告する。
「二十五パーセント近いです」
「通信強度は?」
「……落ちています」
エレナが顔を上げる。
「どの区間?」
「第五から六番」
「さっきから減衰していたところですね」
「はい。受信強度、通常の六割」
「符号識別は?」
「まだできます」
「予備周波数へ切り替える準備を」
「分かりました」
ノアが操作する。
通信網は二重周波数識別方式。
ただし、予備として別の組み合わせも設定してある。
同じ環境ノイズがすべての周波数へ同じように影響するとは限らないからだ。
「主系統、もう一度」
光。
弱い。
「かなり潰れています」
「予備」
別の組み合わせへ。
光。
今度は少し明確だった。
「こっちのほうが通ります」
「切り替えましょう」
「全線?」
「第五―六番だけ」
「了解」
ノアの手が速い。
でも、焦ってはいない。
エレナはその様子を見て、少し安心した。
彼はもう。
ただ指示を待つ測定技師ではなくなり始めている。
深夜十一時過ぎ。
北部から次の報告。
『地表温度低下開始』
農業部から。
『保温結界、警戒運転中』
さらに。
『主力区画、現在異常なし』
前回と違う。
前回は。
寒くなってから対応した。
今回は。
寒くなる前に備えている。
エレナは自分の手のひらを見た。
何も触っていない。
現地にもいない。
泥の中で石板を運んでもいない。
それでも。
技術は働いている。
遠くで。
自分がいない場所で。
「主任」
補佐官が入ってくる。
「陛下がお見えです」
「今?」
「緊急報告を受けて」
少しして、クロムウェルが観測室へ入ってきた。
正装ではない。
夜の政務中だったのだろう。
ただ顔は完全に皇帝のものだった。
「状況は」
エレナが短く説明する。
「北部六番観測所で大気魔力が平常比二十数パーセント低下。通信線で発生から八分ほどで帝都へ通報されました」
「現地対応」
「農業保温結界は事前に独立駆動へ。水道、治療所、保冷設備も予備魔石へ切り替えています」
「被害は」
「まだ確認されていません」
「通信線は?」
「一部減衰があります。予備周波数で維持中です」
クロムウェルが地図を見る。
「つまり」
「今のところ、想定どおりです」
「今のところ、か」
「はい」
安心しきるには早い。
夜は長い。
低下がさらに進む可能性もある。
「必要なものは?」
「北部へ予備魔石を追加輸送したいです。今回は足りますが、同じ異常が続いた場合の備蓄が少ない」
「バルクへ回す」
「ありがとうございます」
「他は」
エレナは少し考える。
「通信中継器を一基、追加したいです」
「なぜ」
「第五と六番の間が長すぎます。今の距離だと異常時の減衰が大きい」
「設置できる場所は」
「街道監視所があります」
「人員は?」
「通信班から二名」
「通せ」
決定が早い。
エレナは頷く。
「それから」
クロムウェルがエレナを見る。
「君は今夜ここにいる?」
「はい」
「朝まで?」
「たぶん」
眉が動く。
「緊急対応です」
「分かっている」
「止めません?」
「止めない」
少し意外だった。
「ただし」
「はい」
「交代で休め」
「……はい」
「君が通信網より先に切れたら意味がない」
「私は設備ではありません」
「設備より扱いが難しい」
こんな状況なのに。
少し笑ってしまった。
空気が一瞬だけ緩む。
「では、一時間ずつ交代します」
「二時間」
「一時間で」
「君は休む時間まで短縮するのか」
「今夜だけです」
「一時間半」
「……分かりました」
「交渉成立だな」
近くにいたノアが必死に聞こえないふりをしていた。
エレナは少し恥ずかしくなる。
「陛下」
「何だ」
「皆さんいます」
「だから何だ」
「いえ……もういいです」
夜中。
予測どおり、北部の気温は急激に下がった。
ただし。
前回のような混乱は起きなかった。
農業保温結界は、自然魔力取り込みを早い段階で停止。
蓄熱材も追加配置済み。
種苗区画。
主力区画。
特に被害を出したくない畑から優先して守る。
都市の揚水器も落ちない。
治療所も暗くならない。
冷蔵庫も止まらない。
「最低地表温度、一・二度」
夜明け前。
農業部から報告が届く。
「前回より高い」
リナが言う。
「はい」
「被害は?」
「今のところ霜害報告なし」
誰かが小さく息を吐く。
歓声というほどではない。
でも。
部屋の緊張が少しだけほどけた。
「通信線は?」
エレナが聞く。
ノアが記録を見る。
「第五―六番区間、主系統は途中で識別限界まで落ちました」
「予備は?」
「維持できました。ただ、余裕は少ないです」
「成功ではあるけど」
「課題あり、ですね」
ノアが言う。
「はい」
エレナは頷く。
「記録してください」
「もちろん」
朝。
北部から正式な一次報告が届いた。
今回の急低下による農業被害。
現時点で軽微。
都市給水停止なし。
治療設備停止なし。
冷蔵倉庫の一部で補助系統へ切り替えたが、内容物への影響なし。
その数字を見たとき。
エレナはしばらく言葉を失った。
「主任?」
リナが呼ぶ。
「……前回は」
エレナは小さく言った。
「畑が凍ってから行きましたよね」
「はい」
「今回は、凍る前に知らせられた」
「はい」
「それだけなんですけど」
「それだけじゃないですよ」
リナの声は柔らかい。
エレナは報告書を見た。
新しい保温装置。
独立駆動への切り替え。
予備魔石。
現場の農家。
州職員。
医療従事者。
水道技師。
通信員。
全部が働いた。
通信網だけで救ったわけではない。
でも。
知らせが早かったから。
皆が間に合った。
「発明って」
エレナは呟く。
「新しい物を作るだけじゃないんですね」
「今さらですか?」
リナが笑う。
「最近、そればかり勉強しています」
「主任、国家魔導技師長になってから研究分野が人間寄りになりましたよね」
「人間寄り?」
「昔は回路と石の話ばかりだったのに、今は人がどう使うかとか、どう伝わるかとか」
「それ、褒めています?」
「かなり」
エレナも笑った。
そこへノアが、一冊の記録帳を持ってくる。
「主任」
「はい」
「通信線の全記録、まとめました」
「見せてください」
ページを開く。
送信時刻。
受信時刻。
信号強度。
周波数。
中継ごとの減衰。
切り替え判断。
かなり丁寧に整理されている。
「これ、ノアさんが?」
「班で分担しました」
「異常時の切り替え判断も?」
「はい。第五中継の担当が、主系統が落ちる前に予備を準備してくれていたので」
「その方の名前、ここへ入れてください」
「もう入っています」
エレナが見る。
担当者名。
提案者。
操作担当。
それぞれ。
ちゃんと残っている。
「……いいですね」
「主任がうるさいので」
「うるさい?」
「誰が何をしたか書けって」
「重要です」
「分かってます」
ノアは笑った。
「最近は、言われなくても書くようになりました」
そのことが。
通信が成功したことと同じくらい嬉しかった。
「ノアさん」
「はい」
「通信班の主任候補、引き受けませんか?」
青年の顔が止まった。
「……え?」
「正式な班ができたら」
「俺が?」
「はい」
「無理です」
即答だった。
エレナが少し驚く。
「どうして?」
「だって、主任が作った技術ですよ」
「全部ではありません」
「でも最初の回路は主任でしょう」
「『意味を送る』と言ったのはあなたです」
「それは」
「二重周波数識別方式も」
「思いついただけで」
「思いついて、試して、改善したでしょう」
「でも」
「それに」
エレナは記録帳を指す。
「今夜の運用判断、私は全部していません」
ノアが黙る。
「第五―六番の予備切り替えを準備したのも通信班です。中継担当への指示もあなたが出していました」
「主任の方針があったから」
「主任って、全部自分でやる人のことではないと思います」
自分へ向けても言っている。
「分からないことは相談すればいいです。私もします」
「国家魔導技師長が?」
「かなりしています」
近くにいたリナが頷く。
「本当です」
「リナさん」
「事実なので」
ノアはしばらく黙った。
「考えてもいいですか」
「もちろんです」
「即答しなくていい?」
「いいです」
「断っても?」
少しだけ意外な質問だった。
でも。
「いいです」
エレナは迷わず答えた。
「役職は、本人がやりたいかどうかも大事ですから」
ノアが少し安心したように笑う。
「……じゃあ、考えます」
「お願いします」
その日の午後。
北部から正式な被害報告が揃った。
農業部の試算では、前回と同規模の冷え込みだったにもかかわらず、試験区域の凍結被害は大幅に減少。
保温結界の改良。
農家の事前準備。
蓄熱材の配置。
そして。
早期警報。
複数の要因が重なった結果だった。
報告書の最後には。
『通信魔導網による警戒通知が、従来伝令と比較して約十時間以上早かったことが、事前対応に大きく寄与した』
そう書かれていた。
十時間。
五秒や四十秒という試験記録より。
エレナには、その十時間のほうが重く感じられた。
誰かが畑へ走る時間。
魔石を運ぶ時間。
装置を切り替える時間。
患者を別室へ移す時間。
水を確保する時間。
情報そのものが人を救ったのではない。
人が動くための時間を。
技術が作った。
夕方。
クロムウェルが研究院へ再び来た。
「被害報告は見ました?」
「ああ」
「前回よりかなり少なく抑えられました」
「通信網の効果が大きいと書いてある」
「通信だけではありません」
「分かっている」
「保温装置も、現地の方も」
「全部含めて成果だ」
エレナは少し笑った。
「最近、私より言うのが早いですね」
「君が毎回『私一人では』と言うから覚えた」
「そんなに言っています?」
「かなり」
クロムウェルは机の上の通信記録を見る。
「正式運用を早められるか」
「一部なら」
「危険は?」
「第五―六番区間の減衰が大きいです。中継所を一つ増やせば改善すると思います」
「それ以外は」
「今の符号数なら運用可能です。ただ」
「ただ?」
「通信そのものが、魔力異常の影響を受けます」
エレナは記録を示す。
「内部魔石式にしたので止まりはしません。でも、周囲魔力が急激に下がった時間帯に、信号の一部が弱くなりました」
「原因は」
「まだ分かりません。空間中の魔力状態が、伝達波そのものへ影響している可能性があります」
「通信が必要なときほど、通信が弱くなる?」
「最悪の場合は」
「困るな」
「かなり」
だから。
成功だけでは終われない。
「改良します」
「君が?」
クロムウェルがすぐ聞く。
エレナは一瞬止まり。
それから。
「通信班が」
言い直した。
クロムウェルの口元が少し上がる。
「良い答えだ」
「私は助言します」
「それでいい」
「……陛下」
「何だ」
「私、かなり成長していません?」
「自分で言うようになったか」
「皆さんが言いすぎるので」
「なら私からは言わない」
「少しくらいは言ってください」
「難しいな」
二人で笑った。
夜。
正式な通信班設立申請が作られた。
責任者欄。
エレナは自分の名前を書かなかった。
代わりに。
『主任候補 ノア・ベルク』
その横に。
『技術統括助言 エレナ・ヴァリエ』
とだけ記した。
まだ本人は返事をしていない。
だから候補。
決めるのは彼だ。
それでいい。
エレナは書類を閉じる。
そのとき。
受信室から走ってきた通信員が、扉を開けた。
「技師長殿」
「どうしました?」
「六番観測所ではありません」
「どこから?」
「第三中継所です」
「故障?」
「いえ」
通信員は少し戸惑った顔をしていた。
「受信した符号が、登録されているものと違います」
エレナの表情が変わる。
「違う?」
「はい。二つの周波数が、こちらで設定していない間隔で繰り返されています」
「回数は?」
「同じものが十二回」
「ノイズでは?」
「最初はそう思いました。でも」
通信員が記録紙を差し出す。
「間隔が、ほぼ一定です」
エレナは紙を見る。
主信号。
副信号。
間。
再び。
同じ。
同じ。
同じ。
自然現象にしては、揃いすぎている。
「第三中継所の装置を止めて再確認してください」
「もうしました」
「それでも?」
「受信します」
クロムウェルも記録を見る。
「外部から?」
「可能性はあります」
エレナは答えた。
「でも、この周波数帯を使っているのは、今のところ帝国の通信試験網だけです」
「なら誰が送っている」
「分かりません」
エレナはすぐに結論を出さない。
ただ。
胸の奥に、嫌な感覚が生まれる。
通信網は。
こちらが遠くへ意味を送るために作った。
けれど。
もし。
こちらが送っていない信号が返ってきているのなら。
それは。
遠くのどこかから。
別の何かが、こちらへ意味を送ろうとしている可能性すらあった。




