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第35話 遠くの声を、魔導具で届けられませんか?

# 第35話 遠くの声を、魔導具で届けられませんか?


 北部からの報告が帝都へ届くまで、最速でも半日以上。


 通常なら一日。


 山間部では二日かかることもある。


 それまで、エレナはその時間を「仕方がないもの」として受け入れていた。


 馬は疲れる。


 街道には距離がある。


 夜間に走れば事故も増える。


 緊急伝令用の中継所を増やしても、移動そのものを消すことはできない。


 けれど。


 地図の上を移動するように見える魔力低下を前にすると、その半日があまりにも長かった。


「昨夜の西北部第三観測所の記録が、今朝届きました」


 若い測定技師が地図の上へ新しい紙を広げる。


「魔力低下開始が昨夜の八時十二分。最低値が八時五十七分です」


「北東部第二観測所は?」


「七時三十四分開始です」


「距離は?」


「直線で、およそ百八十キロです」


 エレナは二つの地点を線で結んだ。


 さらに別の観測所。


 その次。


 時刻を並べる。


「やっぱり、順番があります」


 リナが地図を覗き込む。


「北東から西へ?」


「少なくとも昨夜は」


「何かが移動している?」


「まだそこまでは言えません」


 エレナは慎重に答えた。


 大気の状態。


 地形。


 観測器の誤差。


 複数の要因で、測定時刻がずれる可能性はある。


 ただし。


 似た傾向が三度続いている。


「問題は」


 エレナは紙の端を指で押さえた。


「これを知ったのが、もう半日後だということです」


 もし本当に異常が移動しているなら。


 今この瞬間には、別の場所で同じ現象が起きているかもしれない。


 それでも帝都は知らない。


「観測所から、もっと早く情報を送れないでしょうか」


 若い測定技師が言った。


「鳥便?」


「天候に左右されます」


「中継馬を増やす?」


「限界があります」


 リナが少し考える。


「転移魔法みたいなのは?」


「人や物を長距離転移させる技術は、安定していません」


 エレナは答えた。


 短距離の物質移動に関する研究は存在する。


 だが莫大な魔力を必要とし、送り先の座標誤差も大きい。


 紙一枚を送るために、家一軒分の魔力を使うようなものだった。


「紙を送る必要はないんですけどね」


 エレナが呟く。


「内容だけ分かれば」


 そこへ。


 若い測定技師が何気なく言った。


「じゃあ、意味だけ送ればいいんじゃないですか?」


 エレナの手が止まった。


「……意味?」


「はい」


 青年自身、そこまで深く考えて言ったわけではなかったのだろう。


 皆の視線が集まり、少し焦った顔になる。


「いや、その、書類そのものじゃなくても、『異常あり』とか『異常なし』だけ先に分かればいいなら」


「続けてください」


「え?」


「今の考え」


 エレナの声が変わっていた。


 リナが「あ、始まった」と小さく言ったが、聞かなかったことにする。


「たとえばですけど」


 青年が慎重に言葉を選ぶ。


「魔力振動を遠くまで伝える方法なら、研究自体はありますよね」


「あります」


 魔力共鳴。


 二つの同質な魔石へ同じ調律を施し、一方へ振動を与えると、近距離ならもう一方にも弱い反応が出る。


 だが距離が伸びるほど信号は崩れる。


 音声ほど複雑な情報をそのまま運ぶのは難しい。


「声を送るんじゃなくて」


 青年は机の上にある鉛筆を一本取り、軽く叩いた。


「一回なら『異常なし』。二回なら『異常あり』。三回なら『緊急』みたいに、決めておけば」


 エレナは青年の手を見る。


 一回。


 二回。


 三回。


 単純な振動。


「……音ではなく、意味を送る」


「はい」


 青年は少し不安そうに笑う。


「ものすごく単純ですけど」


「単純だからいいんです」


 エレナは椅子から立ち上がった。


「複雑な波形を長距離で保とうとするから難しい。最初から数種類の信号しか使わないなら、多少崩れても判別できる」


「でも、距離は?」


 リナが聞く。


「試します」


「どこまで?」


「まず研究院の端から端」


「近いですね」


「失敗したら、もっと近くします」


 エレナは紙へ回路を書き始めた。


「送信側で一定の魔力振動を作る。受信側は同調させた魔石を使って、その振動だけ拾う」


「周囲の魔力ノイズは?」


 青年が尋ねる。


「周波数を固定します」


「今回みたいに自然魔力そのものが下がったら?」


 その質問で、エレナは手を止めた。


 重要だった。


 今回使いたいのは、まさに魔力異常が起こっている地域なのだ。


「自然魔力には依存させません」


 すぐに答える。


「送信も受信も、内部魔石だけで動かします」


「消費は増えますよ」


「構いません」


「主任が珍しい」


 リナが言う。


「今回は低消費より信頼性です」


 目的によって優先順位は変わる。


 そこを間違えない。


「まずは情報量を減らして、確実に届くことを目標にします」


 その日の午後。


 精密魔導核研究室の片隅で、最初の試作品が作られた。


 見た目は、とても新発明とは思えない。


 掌ほどの箱が二つ。


 一つが送信器。


 一つが受信器。


 中には同じ鉱脈から切り出した青晶石を、なるべく性質が近くなるよう選別して入れてある。


「同じ鉱脈にする必要あります?」


 リナが尋ねる。


「最初は条件を減らしたいので」


「量産するなら別の石でも動かないと困りますよ」


「分かっています。それは次です」


「主任、最近ちゃんと段階を踏みますね」


「昔も踏んでいました」


「一人で十段くらい飛ばしてから戻ることがありました」


「そんなことは……」


 言い切れなかった。


「少しだけありました」


「かなりです」


 送信器をエレナが持つ。


 受信器を青年が持つ。


 距離は五メートル。


「まず一回」


 送信器の刻印板へ触れる。


 短い魔力振動。


 少し遅れて。


 受信器の中央に埋め込まれた小さな白石が光った。


「点きました」


「一回ですね?」


「一回です」


「二回」


 二度。


 受信側も二度光る。


「……普通に動きましたね」


 リナが拍子抜けしたように言う。


「五メートルですから」


「では次」


「廊下の端です」


 距離を五十メートル。


 届く。


 ただし、二回目の信号が少し弱い。


「間隔を広げましょう」


「どのくらい?」


「今の二倍」


 再試験。


 今度は明確に二回分離した。


「次は?」


「別棟」


 研究院本館と精密魔導核研究棟。


 直線で約二百メートル。


 その間には石壁がある。


 人もいる。


 他の魔導具も動いている。


「実際の環境に近づきますね」


「はい」


 エレナたちは二組に分かれた。


 送信側。


 エレナとリナ。


 受信側。


 若い測定技師と別の研究員。


 時刻を合わせる。


「では」


 エレナが送信器へ手を置く。


 一回。


 待つ。


 返事は当然来ない。


 今の装置は一方向だ。


 受信できたかどうかも分からない。


 数分後。


 青年が走って戻ってきた。


「届きました!」


「強度は?」


「かなり落ちています。でも識別できます」


「二回は?」


「そっちも」


「間違えませんでした?」


「大丈夫です」


 エレナの顔が明るくなる。


「では一キロ」


「急ですね」


「段階を踏んでいます」


「今までの主任なら十キロって言ってましたね」


「リナさん」


「褒めています」


 帝都内での試験には許可が必要だった。


 そこで翌日、研究院と軍の倉庫施設を使い、約一・二キロ離れた地点で試験することになった。


 その話を聞いたハロルドが、試作品を見て首を傾げる。


「これで何を送るんだ」


「最初は四種類です」


 エレナは紙を渡した。


 一回――異常なし。


 二回――魔力低下確認。


 三回――急激な低下、警戒。


 長押し一回――詳細報告を伝令で送る。


 ハロルドが眉を寄せる。


「それだけ?」


「それだけです」


「観測値そのものは?」


「今は送りません」


「低下率が五パーセントか二十パーセントか分からないだろう」


「だから詳細は従来どおり伝令です」


「二重に送るのか」


「はい」


 エレナは頷く。


「これだけで全部を置き換えようとすると、完成まで時間がかかります」


 今必要なのは完璧な通信ではない。


 半日後ではなく。


 異常が起きた瞬間に。


「来た」とだけ知ること。


 それだけでも価値がある。


「なるほど」


 ハロルドが装置を持ち上げる。


「軍なら使い道はある」


「でしょうね」


「敵襲、補給不足、撤退命令」


「それは別の信号体系を作ってください」


「軍用にするなら暗号化も必要だな」


「そこもです」


 ハロルドが少し笑った。


「まだ箱二つなのに、仕事だけは増える」


「私も今、同じことを思いました」


 一・二キロ試験。


 成功。


 三キロ。


 成功。


 五キロ。


 ここで最初の大きな壁にぶつかった。


「二回送ったのに、受信は一回?」


「はい」


 青年が記録を見る。


「二回目がノイズに埋もれています」


「周囲の魔力使用量は?」


「昼なので高いです。工房区画が近い」


「では夜に同じ条件で」


 夜。


 成功。


「つまり、都市部の魔力雑音が問題ですね」


「そうなります」


 エレナは受信器を分解する。


「受信側の選別が甘いです」


「周波数をもっと細く絞ります?」


「絞りすぎると調律誤差で受信できなくなります」


「じゃあ」


 若い測定技師が考える。


「一つの周波数で判別するんじゃなくて、二つ組み合わせるのは?」


 エレナが顔を上げる。


「二つ?」


「片方だけなら雑音。でも二つが決まった順番で来たら信号、とか」


 エレナはしばらく青年を見る。


「……それ、試しましょう」


「本当に?」


「良いと思います」


 青年の顔が少し赤くなった。


「主任が考えたほうがもっと良い案が」


「今の案より?」


「いや、まだ分かりませんけど」


「では比べます」


 以前のエレナなら。


 自分が主任なら、自分が答えを出さなくてはと思ったかもしれない。


 今は違う。


 良い案なら、誰のものでもいい。


「設計者欄、あなたの名前を入れてください」


「え?」


「二重周波数識別方式の提案者ですから」


「まだ成功してませんよ」


「失敗しても記録します」


「……そうでした」


 青年は照れたように笑った。


 二日後。


 二重周波数方式の試作二号が完成した。


 都市部五キロ。


 成功。


 七キロ。


 成功。


 十キロ。


 受信はした。


 しかし波形がかなり崩れている。


「限界が見えてきました」


 リナが言う。


「直送なら」


 エレナは地図を見る。


「でも、中継すれば?」


「中継?」


「受信した信号を、その場でもう一度送るんです」


 十キロごと。


 二十キロごと。


 街道の中継所や観測塔に装置を置く。


「馬の代わりに、信号を乗り継がせる?」


「はい」


「それなら北部まで何台必要です?」


「かなり」


「値段は?」


「かなり」


「維持は?」


「……かなり」


 リナが笑った。


「現実が追いついてきましたね」


「そこはこれから考えます」


 ただ。


 不可能ではない。


 十キロが届くなら。


 十キロを繋げればいい。


 エレナはすぐに大規模網を作ろうとはしなかった。


 最初の実地試験は、帝都から北へ約三十キロ離れた軍の補給拠点。


 中間に二つの仮設中継器を置く。


 送る内容は一つ。


『試験信号』


 符号は。


 二短、一長、一短。


「だんだん複雑になってきましたね」


 リナが言う。


「四種類では足りないので」


「そのうち文字も送れそうです」


「今は考えません」


 即答した。


 リナが目を丸くする。


「主任が?」


「今は観測情報を早く送るのが目的です」


「本当に成長しましたね」


「それを言う回数、多くないですか」


「実際多いので」


 試験当日。


 エレナは研究院の送信室にいた。


 隣には若い測定技師。


 オルディス。


 ミレイア。


 そして、なぜかクロムウェルまでいる。


「陛下まで来なくても」


「国家通信になる可能性があると聞いた」


「まだ三十キロです」


「三十キロを瞬時に超えるなら十分だ」


「瞬時かどうかも、まだ」


「だから見に来た」


 エレナは少し困った。


「緊張します」


「私が?」


「はい」


「では外へ出ようか」


「それはそれで気になります」


「どうすればいい」


「静かにいてください」


「分かった」


 皇帝に対する頼み方ではない気がした。


 でもクロムウェルは本当に静かになった。


「送ります」


 エレナが送信器へ触れる。


 二短。


 一長。


 一短。


 魔力振動が流れる。


 見た目には何も起きない。


 光が空を走るわけでも。


 音が響くわけでもない。


 ただ。


 箱の中で、小さな青晶石が震えた。


 それだけ。


 時刻を記録する。


 待つ。


 今はまだ、向こうから自動で返事は来ない。


 成功したかどうかは、別系統の伝令で確認する必要がある。


「……何だか地味ですね」


 ミレイアが言った。


「私も思いました」


 エレナが答える。


「もっとこう、光が飛ぶとかないの?」


「無駄に魔力を使います」


「あなたならそう言うと思ったわ」


 数時間後。


 補給拠点から馬の伝令が到着した。


 紙には。


『受信時刻 午後一時十四分十七秒』


 送信時刻。


 午後一時十四分十二秒。


 五秒。


 三十キロを。


 五秒。


 エレナは何度も数字を見た。


「中継遅延を含めて五秒……」


「届いた?」


 リナが聞く。


「はい」


 声が少し震えた。


「届きました」


 研究室に歓声が上がる。


 若い測定技師は、自分の二重周波数回路が使われた受信記録を握ったまま、信じられないような顔をしていた。


「本当に?」


「本当です」


「三十キロですよ?」


「三十キロです」


「馬なら何時間も」


「五秒です」


 その数字を口にした瞬間。


 エレナ自身にも、ようやく意味が届いた。


 五秒。


 北部で異常が起きたことを。


 その日の夜ではなく。


 翌朝でもなく。


 起きた直後に知れる。


 まだ三十キロ。


 北部までは遠い。


 装置も大きい。


 中継器も必要。


 送れる情報も、ほんの数種類。


 それでも。


 道ができた。


「これ」


 クロムウェルが静かに言った。


「北部まで繋げられるか」


「今のままなら、中継所がかなり必要です」


「必要数は」


「街道沿いなら……」


 エレナは地図を見る。


 概算する。


「帝都から主要北部観測所まで、最低でも二十数か所」


「費用は?」


「まだ出していません」


「出せ」


「作るんですか?」


「必要性を検討する」


 クロムウェルは即答しない。


 それが嬉しかった。


 エレナが作ったから導入するのではなく。


 国家に必要か。


 費用に見合うか。


 そこを判断する。


「軍、農業、医療、外務にも用途を出させる」


「外務も?」


「国境の緊急連絡に使える」


「なるほど」


「ただし」


 クロムウェルが送信器を見る。


「これが広がれば、情報の速さそのものが変わる」


 エレナも分かる。


 商人。


 軍。


 役所。


 治療院。


 遠くの街。


 今までは、距離がそのまま情報の遅れだった。


 それが変わる。


「慎重に扱う必要がありますね」


「ああ」


「盗聴も?」


 ハロルドから言われたことを思い出す。


「対策が要る」


「暗号も」


「軍用は特に」


 仕事が増えた。


 また。


 でも。


 今度はエレナ一人で抱えるつもりはない。


「通信研究班を作りたいです」


 エレナが言う。


「精密核研究室とは別に?」


 オルディスが尋ねる。


「はい。私は最初の設計には関わりますけど、ずっと主任を兼ねるのは無理です」


 ミレイアが少し驚いた顔をした。


「自分から手放すの?」


「手放すというより、増やします」


「人を?」


「はい」


 若い測定技師を見る。


 彼が少し身構える。


「二重周波数方式の研究、続けたいですか?」


「もちろんです」


「では通信班へ参加してください」


「俺が?」


「あなたの案です」


「でも主任が」


「私は国家魔導技師長の仕事も、治癒瓶も、農業設備もあります」


 言ってから。


 改めて多いと思った。


「……自分で言うと多いですね」


「やっと気づいた?」


 ミレイアに言われる。


「前から知っています」


「ならよし」


 その日の夜。


 新しい試作品の横で、エレナは通信符号表を作っていた。


 一回。


 二回。


 三回。


 それでは足りない。


 短信号。


 長信号。


 その組み合わせ。


 まだ文字を一字ずつ送るほどではない。


 けれど。


 観測所番号。


 警戒度。


 魔力低下開始。


 回復。


 その程度なら十分送れる。


「主任」


 リナが覗き込む。


「これ、そのうち文章を送れますよね」


「理論上は」


「声も?」


「今の方式では無理です」


「最初に言ってた、遠くの声」


 エレナは少し笑った。


「声そのものを送らなくてもいいんです」


「意味が届けば?」


「はい」


 むしろ。


 そのほうが今は強い。


「遠くの人が『異常が起きた』と伝えたいなら、その意味が五秒で届く。それで十分です」


 リナは符号表を見る。


「でもいつか、本当に声も送れたら面白いですね」


「いつかは」


「クロムウェル様と離れていても話せますよ」


 エレナの手が止まった。


「どうしてそこでクロムウェル様が出るんです?」


「分かりやすい例です」


「もっとあるでしょう」


「北部へ出張した主任と帝都の陛下」


「仕事の連絡なら」


「仕事以外も」


「リナさん」


「はいはい」


 笑いながら離れていく。


 エレナは符号表へ目を戻した。


 でも。


 少しだけ想像した。


 遠く離れていても。


 声を聞ける。


 今日何があったと話せる。


 そんな魔導具。


 欲しいと思ってしまった。


「……いつか、ですね」


 小さく呟き。


 エレナはまた仕事へ戻った。


 数日後。


 仮設通信器は、北へ六十キロまで延びた。


 中継四か所。


 送信時間、十一秒。


 さらに。


 北部の異常監視に使う最初の試験線を、主要街道沿いに設置する計画が正式に承認された。


 完成には時間がかかる。


 それまでは馬も使う。


 新技術が、いきなり古い仕組みを全部消すわけではない。


 でも。


 一つずつ。


 届く距離は伸びていく。


 そして、その夜。


 通信試験とは別に集められていた大気魔力観測の最新結果が、研究院へ届いた。


 エレナは地図の上へ時刻を書き込んでいく。


 北東。


 西北。


 さらに西。


 異常は場所を変えている。


 ただし。


 今回。


 北だけではなかった。


「主任」


 若い測定技師の声が低くなる。


「カルディア王国から、技術教育計画の準備報告と一緒に観測資料が送られてきました」


「観測資料?」


「向こうでも、大気魔力が落ちています」


 エレナの手が止まった。


「いつ?」


「二日前です」


「場所は?」


 地図へ印をつける。


 帝国国境の外。


 南西。


 これまでの異常地点とは、遠く離れている。


「同じ現象ですか?」


「まだ断定できません。でも」


 青年が別紙を置く。


 魔力濃度の落ち方。


 回復までの時間。


 周期。


 似ている。


 あまりにも。


 エレナはしばらく地図を見つめた。


 北部だけの問題ではない。


 帝国だけの問題ですらない可能性が出てきた。


 遠くから、意味を届ける技術が必要だと思った。


 そして。


 皮肉にも。


 その技術が完成し始めた瞬間。


 遠くの国から届いた最初の重要な情報は。


 世界のどこかで、同じ異常が起きているという知らせだった。




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