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第10話 王宮へ納めた結界装置が止まりました

 精密魔導核研究室の主任になった翌朝、エレナの机には一通の手紙が置かれていた。


 見慣れた封蝋を目にした瞬間、昨日までの浮き立った気分が、ほんの少しだけ冷めた。


 ガイウスの工房で使っていた紋章である。


「どうして、ここに……」


「国外から研究院宛てに届いた郵便です。受付ではエレナさん個人への書状だと判断したそうですよ」


 リナが素材箱を棚へ戻しながら答えた。


「差出人、知っている方ですか?」


「元婚約者です」


 リナの動きが止まった。


「……あの?」


「たぶん、あなたが今想像した人です」


「読まずに燃やします?」


「研究室の主任が、私怨で郵便物を焼却してはいけません」


「そこは妙に冷静なんですね」


 エレナは苦笑しながら椅子へ座った。


 封筒を手に取る。


 懐かしいという気持ちは、不思議なほど湧かなかった。


 代わりに思い出したのは、婚約破棄を告げられた夜のガイウスの声だった。


『君がやっていた程度のことなら、弟子に覚えさせれば済む』


 その言葉を聞いたときには、胸の内側を削られるように痛かった。


 今は少し違う。


 もし本当に弟子たちだけで問題なく回っているのなら、それでいいとも思える。


 自分はもう、あの工房の人間ではないのだから。


「開けます」


「私に宣言しなくても大丈夫ですよ」


「なんとなく、一人で開けるのが嫌なんです」


「でしたら、ここにいます」


 リナは作業を続けながら答えた。


 過剰に心配するわけでもなく、興味本位で覗き込むわけでもない。その距離感がありがたかった。


 エレナは封を切った。


 便箋は三枚。


 一枚目の冒頭を読んだところで、思わず眉が寄る。


『エレナへ。


 そちらで少し名が売れ始めたことは聞いている。君もようやく、自分一人では得られなかった経験を積んでいるようだな。


 こちらも忙しいが、君に関係する問題が発生したため連絡する。


 王宮西棟の冷却装置、および王宮内の結界補助装置に不具合が出ている。


 君が以前担当していたものだ。


 研究ノートの該当箇所と、調整方法を至急送ってほしい。


 これは君個人の研究というだけでなく、我が工房の資材と設備を用いて生み出した技術でもある。その点は理解していると思う。


 なお、状況によっては一度王国へ戻ってもらう必要がある。


 君も感情的になっている時期は過ぎただろう。


 工房の問題を放置するような無責任な人間ではないと信じている。


 ガイウス』


 エレナは手紙を机へ置いた。


「……すごいですね」


 リナが言った。


「読んだんですか?」


「読み上げていませんけど、エレナさんの顔を見れば、あまり良い内容ではないのは分かります」


「私、そんな顔をしています?」


「昨日の主任就任のときより、ずっと分かりやすいです」


 エレナは自分の頬を押さえた。


 怒っている。


 たぶん、かなり。


 けれど婚約破棄の夜とは種類が違った。


 あのときは傷ついていた。


 自分の年月を否定されたようで、悔しかった。


 今は、呆れている。


「私、戻るとは一度も言っていないんですけれど」


「でしょうね」


「それどころか、今後一切、保守も修理もしないと確認しました」


「それも聞いています」


「ガイウス様も、好きにしろと了承しました」


「聞けば聞くほど、この手紙の意味が分からなくなりますね」


 エレナは便箋をもう一度取った。


 王宮西棟の冷却装置。


 それには覚えがある。


 正直に言えば、気になる。


 長期使用した場合の変換槽の偏りを、一度だけ懸念したことがあった。納品前に調整して安定させたものの、本来なら一年ほど経過した時点で詳細な点検をしたかった。


 しかし、それを行う前に追い出された。


「結界補助装置……」


 こちらも覚えていた。


 王宮全体を覆う大規模結界そのものではない。外部から供給される魔力を均等に分配し、本体結界の負荷を減らす補助装置だった。


 王国の王立魔導院が基本設計し、その一部をガイウスの工房が請け負った。


 エレナは主に小型分配核の調整を担当している。


「何か危険なものなんですか?」


「止まったからといって、すぐ王宮の結界そのものが消えるわけではありません。ただ、補助装置がない状態で本体だけを長期間使うと、魔力消費が大きくなります」


「では、放っておいていい問題でもない?」


「はい」


 答えた途端、胸が少し重くなった。


 ガイウスを助けたいわけではない。


 工房へ戻りたいわけでもない。


 けれど王宮で働いている人々まで嫌いになったわけではなかった。


 誰かが困っていると分かれば、何も感じないほど割り切れてはいない。


「……ずるいですね」


「何がです?」


「こういう書き方をされると、断った私が無責任みたいに思えてくるんです」


 リナはしばらく黙ってから、棚の扉を閉めた。


「でも、エレナさんが壊したわけではないですよね」


「はい」


「保守契約も今はない?」


「婚約破棄の日に終了しています」


「でしたら、困っている人を助けるかどうかと、昔の工房へ戻る義務があるかどうかは別じゃないですか?」


 エレナは目を瞬いた。


「……そうですね」


「人を助けたいなら、それはエレナさんが選べばいいと思います。でも、『お前の責任だから戻れ』と言われて戻るのは違う気がします」


 単純な言葉だった。


 だからこそ胸へ入った。


 ガイウスの工房にいた頃、自分はよく二つのことを混ぜていた。


 困っているから助けたい。


 婚約者だから助けなければならない。


 工房のためになるから頑張りたい。


 自分がやらなければ誰かに迷惑がかかる。


 似ているようで、違う。


 その違いを、今になって少しずつ学んでいる。


「返事はすぐ書かなくてもいいですよね」


「もちろんです。というか、主任。今日は家庭用魔導灯の試験日です」


「あ」


「忘れていましたね」


「忘れてはいません。少し頭の端へ追いやられていただけです」


「それを普通は忘れていたと言います」


 リナの遠慮のない物言いに、エレナは笑った。


 手紙を折り直し、封筒へ戻す。


「では、仕事をしましょう」


「はい。その顔のほうが主任らしいですよ」


「主任らしい顔って何です?」


「魔導具のことしか考えていなさそうな顔です」


「褒められていない気がします」


「半分は褒めています」


 家庭用魔導灯の省力化研究は、軍用品とは違う難しさがあった。


 軍用なら多少高価でも、性能や耐久性が優先される。


 家庭用品ではそうはいかない。


 どれほど魔力消費が少なくても、一般家庭が買えない価格になれば意味がない。


 エレナが目標にしたのは、従来品とほぼ同じ価格帯を維持したまま、消費魔力を五分の一以下へ落とすことだった。


 最終的な目標は十分の一だが、まずはそこからである。


「白輝晶を使えば簡単なんですけどね」


 エレナが試作品を分解しながら言う。


「使わないんですか?」


「高いので。照明一台にこの量を使ったら、魔力代が安くなっても購入費で回収するのに何年もかかります」


「エレナさん、お金の感覚はあるんですね」


「どういう意味です?」


「ご自分のお給料だけは『多すぎる』と言い続けていたので」


「それとこれは別です」


「同じお金ですよ」


 リナに笑われながら、エレナは魔導核を作業台へ固定した。


 昨日まで考えていた新しい構造を試す。


 軍用魔導灯では、素材ごとの個体差を分類して回路を変えた。


 今回は逆に、その分類工程すら簡略化したい。


 一般用の商品を大量に作るなら、熟練技師が一つずつ選別する方法では追いつかない。


「ここで一度、流れを分けます」


 エレナは助手たちへ説明しながら刻印針を動かした。


「魔力が強く流れすぎる素材でも、先に二方向へ逃がせば発熱が抑えられます。その後でまた合流させるんです」


 測定担当の青年が図面を見ながら尋ねる。


「回路が長くなれば、そのぶん損失は増えませんか?」


「増えます。でも集中させたときの発熱損失よりは小さいはずです。そこを今から測ります」


「もし逆だったら?」


「今日の失敗作棚に一つ増えます」


 エレナが答えると、皆が笑った。


 研究室の壁際には、本当に一つの棚が作られていた。


 すでに失敗した小型核が七個。


 それぞれに失敗理由を書いた紙が添えてある。


 それを見るたび、エレナは少し安心する。


 失敗しても、捨てられない。


 少なくとも、この場所では。


 試作を始めて二時間後。


 最初の測定結果が出た。


「四分の一まで落ちています」


 助手が目を見開いた。


「光量は?」


「従来品と同じです」


 エレナは数字を確認し、少しだけ唇を曲げた。


「まだ多いですね」


「主任」


「何でしょう」


「たぶん普通は、そこですごく喜びます」


「喜んでいますよ。でも十分の一には遠いです」


「ハロルド主任が言っていた意味が分かってきました」


「また何か言われているんですか?」


「秘密です」


 研究室に笑いが広がる。


 その声に混じって扉が叩かれた。


 入ってきたのは、研究院の事務官だった。


「エレナ主任、少々よろしいでしょうか」


「はい」


「王国から、追加の書状が届いております」


 エレナの手が止まった。


「またガイウス様からですか?」


「いいえ」


 事務官の顔は先ほどまでとは違い、少し緊張している。


「王国政府から、帝国政府宛ての正式な照会です」


 それなら私信ではない。


 エレナは工具を置いた。


「内容は?」


「王宮結界補助装置の故障について、こちらに滞在している技術者エレナ・ヴァリエ氏へ技術協力を要請できないか、とのことです」


 研究室の空気が静まった。


 個人からの手紙と、国家間の正式な要請では意味が違う。


「私を?」


「はい。ただし、これは外交案件になりますので、陛下と外務担当部局で対応を協議するとのことです。エレナ主任にも意向確認が必要だと」


 胸がざわついた。


 ガイウスの工房だけでは直せなかった。


 とうとう王国そのものが動いたということだ。


「分かりました」


 答えながら、エレナは机の引き出しへ入れた封筒を見た。


 同じ故障。


 同じ自分への要請。


 けれど、内容はまるで違う。


 ガイウスは「戻ってもらう必要がある」と書いた。


 王国政府は「技術協力を要請できないか」と、帝国を通じて正式に尋ねてきた。


 その違いが、エレナにはとても大きく感じられた。


 午後、エレナは皇宮へ呼ばれた。


 いつもの執務室には、クロムウェルと見知らぬ男性が一人待っていた。外務を担当する高官だと紹介される。


「座れ」


「はい」


 エレナは向かいの椅子へ腰を下ろした。


 机の上には、王国から届いた正式文書がある。


「内容は聞いたか」


「簡単には」


「王宮結界補助装置の一部が停止した。現在は本体結界だけで機能を維持しているが、この状態が続けば備蓄魔石の消費が大きく増えるらしい」


「おそらくそうなります」


「君なら直せるか?」


 エレナはすぐには答えなかった。


 これまでなら、「できます」と言おうとしただろう。


 期待を裏切りたくないから。


 今は違う。


「現物を見なければ分かりません」


 クロムウェルは頷いた。


「それでいい」


「ただ、以前の調整記録は持っています。設置時に気になっていた箇所もありますので、原因を絞ることはできると思います」


「王国へ戻りたいか?」


 質問があまりにも直球で、エレナは少し驚いた。


「技術者として、ですか?」


「どちらでもいい。君自身の気持ちを聞いている」


 少し考える。


 帰りたいのか。


 懐かしさはある。


 王都の通り。


 父と歩いた市場。


 何年も通った工房。


 そこにまったく何も感じないと言えば嘘になる。


 でも――。


「今は、戻りたいとは思いません」


 自分でも驚くほど自然に言えた。


「助けたくないわけではありません。王宮の人たちに恨みもありませんし、装置が壊れたままでいいとも思いません。でも、私が王国へ戻る必要があるのかは別だと思います」


 クロムウェルの表情は変わらない。


 ただ、続きを待っている。


「調整記録を整理して、こちらから技術資料を送ることはできます。王国の技師から詳しい測定値を送ってもらえれば、原因の特定も手伝えます。それで駄目なら、その時に次の方法を考えたいです」


「分かった」


 クロムウェルは外務高官へ顔を向けた。


「その方針で返答しろ。本人の帰国は現時点では認めない」


「認めない?」


 エレナは思わず聞き返した。


「私、行きたいと言っても駄目なのですか?」


「今の状況で、君一人を旧雇用先へ送り返すつもりはない」


「旧雇用先ではなく王宮ですよ」


「装置を受注した工房が関わることになるだろう」


「それは……そうですが」


 クロムウェルは机に置かれたもう一通の紙へ目を向けた。


「ガイウスから私信が来たそうだな」


 エレナは驚いた。


「なぜご存じなんですか?」


「国外から研究院職員へ届いた郵便について、危険物の検査記録は残る。内容までは読んでいない」


「そういうことですか」


「何と書かれていた?」


 一瞬迷った。


 隠す必要もない。


「研究ノートを送れ、と。それから必要なら王国へ戻ってもらう、と書いてありました」


 クロムウェルの顔から、わずかに温度が消えたように見えた。


「命令か?」


「本人はお願いのつもりかもしれません」


「君にはどう見えた」


「命令に見えました」


「なら、それが答えだ」


 短い言葉だった。


「君はもう彼の工房の従業員ではない。まして婚約者でもない。呼ばれたから戻る義務はない」


「はい」


「助けたいなら助ければいい。それは君が決めることだ」


 リナと同じことを言われた。


 けれどクロムウェルの声で聞くと、胸の奥へさらに深く入った。


「陛下」


「何だ」


「もし私が、王国の装置を直すために技術資料を渡したら、帝国にとって損ではありませんか?」


 国家魔導技師として働き始めた以上、気になっていた。


 自分の技術は、もう自分だけのものではない部分もある。


 クロムウェルは少し考えた。


「君が王国にいた頃に作った装置の保守情報なら、帝国の機密ではない」


「でも、今の私なら以前より良い修理方法を考えられるかもしれません」


「その場合は、どこまで共有するか研究院と相談すればいい」


「……禁止はしないんですね」


「人命や王宮の安全に関わる旧設備を、技術優位のために故意に壊れたままにさせる趣味はない」


 いかにもクロムウェルらしい答えだった。


 冷徹皇帝。


 そう呼ばれているのに、冷たいと感じることは最近ほとんどない。


 むしろ余計な情に流されないからこそ、誰に対して何が公平なのかをよく考えている。


「ありがとうございます」


「礼を言われることではない」


「知っています。でも言いたかったので」


 クロムウェルがほんの少し目を細めた。


 その日の夕方。


 研究室へ戻ったエレナは、王国の王宮技師へ送るための質問票を作り始めた。


 装置停止直前の魔力値。


 各変換槽の温度。


 魔石の残量。


 停止した箇所。


 異音の有無。


 最後に整備を行った日時。


 思いつく限り書き出す。


「これ全部、返事が来るんですかね」


 リナが覗き込んだ。


「来なければ直せません」


「王国側、大変そうですね」


「技術者なら分かってくれると思います」


 エレナは最後に、一文付け加えた。


『現地での再現作業は、王宮所属技師または正式に指名された技術者が行ってください。旧ガイウス工房との雇用関係はすでに終了しているため、同工房からの個人的な指示には対応いたしません』


 書いてから、少しだけ迷う。


 以前の自分なら消したかもしれない。


 角が立つ。


 冷たいと思われる。


 そんなことを考えて。


「消します?」


 リナが尋ねた。


 エレナは首を振った。


「いいえ。必要なことですから」


 自分で選ぶ。


 助けることも。


 断ることも。


 その境界を曖昧にしない。


 それが今の自分には必要だった。


 一方その頃、王国。


 王宮の結界管理室では、ガイウスが額に汗を浮かべながら巨大な魔力計を見つめていた。


「また落ちたぞ!」


 王宮技師の怒声が飛ぶ。


「第三分配槽の出力、基準の六割! 本体結界への負荷が上がっています!」


「分かっている!」


 ガイウスは怒鳴り返した。


 分かっている。


 数値が悪いことは。


 装置が正常ではないことも。


 だが、どう直せばいいのかが分からない。


「ガイウス殿」


 王宮技師長が険しい表情で近づいてきた。


「先ほどの調整で、むしろ数値が悪化したように見えるが」


「一時的なものです」


「昨日もそう聞いた」


「もう少し時間をください」


「時間なら与えている」


 技師長の声は静かだった。


 静かだからこそ、怒鳴られるより怖い。


「これはあなたの工房が納入した設備だ。設計者として責任を持って修復できると、あなた自身が言ったから任せている」


「できます」


 反射的に答えた。


「なら、いつまでに?」


 ガイウスは言葉に詰まった。


 そのとき、管理室の扉が開いた。


 一人の役人が書類を持って入ってくる。


「技師長。帝国への照会手続きが正式に受理されました」


「そうか」


 ガイウスの顔が強張った。


「帝国?」


 技師長が振り返る。


「陛下の許可を得て、アルヴァレス帝国へ技術協力を要請した。エレナ・ヴァリエ殿が現在、帝国国立魔導研究院に所属していることも確認済みだ」


「なぜ勝手に!」


 思わず声が大きくなった。


 周囲の全員がガイウスを見る。


 技師長の眉がゆっくり寄った。


「勝手に?」


「これは、うちの工房の問題です。エレナに連絡するなら私が――」


「違う」


 言葉を切られた。


「これは王宮の安全に関わる国家設備の問題だ。あなたの工房の面子を守るための故障ではない」


「しかし、あいつは私の工房にいた技師で――」


「過去形だろう」


 鋭い一言だった。


 ガイウスは黙った。


「しかも調べたところ、現在のヴァリエ殿は帝国国立魔導研究院の精密魔導核研究室主任だそうだ」


「……主任?」


 聞き間違いだと思った。


 あのエレナが。


 工房の奥で細かな部品ばかり触っていた女が。


「さらに先日、帝国軍が正式採用した新型長時間魔導灯の主任回路設計者でもあるらしい」


 知っている。


 記事は読んだ。


 だが、「一つうまくいっただけだ」と自分に言い聞かせていた。


 それなのに。


 研究室主任。


 国家研究機関で、自分の部屋と部下を持つ立場。


「何かの間違いだ」


 無意識に口から出た。


 技師長が冷たい目を向ける。


「何が?」


「あいつは……まだ二十歳です。そんな重要な役職を任せられる経験なんて」


「年齢と、この装置を直せるかどうかに何の関係がある?」


 答えられない。


 技師長は大きな結界装置を見上げた。


「少なくとも我々は今、彼女が残した調整方法を誰一人として再現できていない。それが現実だ」


 また出力警報が鳴った。


 赤い魔導灯が管理室を染める。


 ガイウスはその光の中で立ち尽くした。


 必要ないと言った。


 細かな部品を弄っているだけだと言った。


 代わりなら弟子にできると。


 その自分が今、王宮の真ん中で、エレナが作った装置一つ直せずにいる。


 技師長が部下へ命じた。


「本体結界への魔力供給を一段上げろ。帝国から回答が来るまで補助装置は停止状態で固定する」


「承知しました!」


 人々が一斉に動く。


 その中でガイウスだけが、役割を失ったように立っていた。


 そして初めて。


 ほんの一瞬だけ。


 自分がエレナを追い出したあの夜、取り返しのつかない判断をしたのではないかという考えが、頭の片隅をよぎった。

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