第38話 虚空での告白
その瞬間、暁継の白いオーラが前方へと爆発するように広がり、周囲を照らし出した。
そのエネルギーは彼の身体の輪郭に沿うように広がっていき、今度は誰の目にも明らかなほど強くなっていた。彼の腕の裏側には、見たこともない形をした紋章がゆっくりと浮かび上がり始めていた。
暁継は目を見開いた。自分の身体から、今まで見たこともないものが生み出されていく。その光景に、完全に呆然としていた。
「これが……彼女の力なのか?」
冬花は横から暁継を見つめ、同じように驚きを隠せずにいた。
この子……突然シグナに目覚めたの? いや……この子からは、シグナエネルギーをまったく感じない。それなのに、これは一体どういうこと?
突然、空気を震わせるように攻撃音が響き渡った。千早だった。彼女は今も一人で無数の手と戦い続け、その巨大な手を容赦なく斬り裂いていた。
「はははは! あはははは! もっと! もっとよ!」
冬花は、さらに制御不能になっていく状況を見て、顎に力を込めた。そしてすぐに、再び暁継へ視線を向けた。
「そこの君! 一体、何をしたの?」
「え? 俺は……何が起きたのか分からない。でも、俺にも何かできると思う」
「何かできる? 自分のシグナが何なのかも分かっていないんじゃないの?」
「シグナ」という言葉を聞いた瞬間、暁継は目を見開いた。そしてすぐに自分の腕へ視線を落とした。
「待って……これが、シグナなのか?」
「え? 本当に? 君の手にシグナ・マークがあるわ」
暁継はようやく、腕の裏側に浮かんでいる紋章に気づいた。白いオーラに包まれているせいで、かろうじて見える程度だった。
「これが……シグナ・マーク?」
そのとき、暁継の頭の中にレノヴィアの声が響いた。
「暁継、怪物に意識を集中して。エネルギーを感じて、それを指先へ導いていくの。そうすれば、ようやく身体の内側にある力を、外へと顕現させられるから」
暁継はテレパシーで彼女に答えた。
「身体の内側から、外へ?」
「そう。心を落ち着かせて、エネルギーを導いて。私が力を生み出すから、最後にそれを使うのは暁継だよ」
「分かった。やってみる」
「でも、その前に……あの火の女の人に、任せてほしいって伝えてくれる?」
「え?! 任せてほしいって、どういうことだよ? 俺はまだ、これをどう使えばいいのかすら分からないぞ」
「分かってる。でも、今の彼女はかなり追い詰められてるみたい。槍にちゃんと力を込められていない。あの怪物を倒すには彼女の力が必要なの。そうしないと、きっと悪い結果になる」
暁継は躊躇した。その視線は冬花の顔へと向けられる。彼女は今の状況を見つめながら、どうするべきか迷っているようだった。
そして暁継の視線は、再び空で激しく戦い続ける千早へと向いた。
最後に、戦場から漏れてくる攻撃から彼らを守り続けている凪へと目を向けた。
最初からずっと、俺たちを守るために戦ってくれている。俺は全部をみんなに任せてきた。だから今、本当に俺を頼ってくれるというのなら……俺も、誰かを守れるかもしれない。俺も、ちゃんと責任を背負えるかもしれない。
暁継の表情が、決意を固めたものへと変わった。
「レノヴィア、まだ聞こえてる?」
「うん」
「君の言う通りにする。俺は君を信じてる。だから、力を貸してほしい」
「分かったよ」
混乱の最中、冬花はすでに苛立ちを募らせていた。
「そこの君! いい加減、何をしているのか説明してくれない?」
「俺の言う通りにしてほしい」
「え? どういう意味?」
「俺があの怪物を倒すのを手伝う。だから、できる限り槍へのチャージに集中してほしい」
冬花の表情が困惑に変わり、それからさらに怪訝なものになった。あまりにも突拍子もないことを言われ、彼女は反論しようとした。
しかし、そのとき彼の真剣な表情が目に入った。その瞳に宿る決意。そして、彼の身体を包んでいる見たこともない力。
冬花は言葉を止めた。
そして再び、千早へと視線を向けた。
もう玄士を待っている時間はない。私たちは、本当に一般人を頼るしかないの? ここまで追い詰められたということ……?
冬花は疲れたように小さく息を吐き、暁継へ向き直った。
「槍へのチャージに集中するわ。でも、あなたが言うほど頼りになるというなら、ちゃんと期待に応えてちょうだい。結界が崩れるまで、あと三分しかない。本当に私たちを助けられるの?」
暁継は頷いた。
「できる」
冬花はもう一度手を上げ、千早が槍へ力を込め続ける中、自らもさらにエネルギーを槍へと送り込んだ。
「なら、やってみなさい。あなたが何をするのか見せてもらうわ。私はこのまま槍のチャージを続ける」
暁継は目を閉じ、腕を伸ばしてゆっくりと手のひらを開いた。胸の奥からエネルギーが湧き上がり、身体の中を通って腕へと流れていくのを感じる。そのエネルギーが身体を駆け抜けるたび、焼けるような感覚が広がっていった。
「あっ……熱い! 何だ、これ……!」
「まだ私の力に慣れていないから。今は、どうか耐えて」
突然、千早が戦っている空中の戦場から弾き飛ばされた複数の光線が、彼らのいる方向へと飛んできた。
凪が間一髪でそれらを食い止めた。
「先生……攻撃がさっきより強くなってる。私……もう、あまり長くは抑えられないよ」
状況が急速に悪化しているのを見て、暁継は再び意識を集中させた。すでにエネルギーの大部分が腕へと集まっており、もう片方の手でその腕を支えた。
「頼む……俺ならできる……」
「もう少しだよ。今度は、頭の中でそのエネルギーの形を思い浮かべて。それを、その空っぽの場所に顕現させるように命じて」
暁継は顎に力を込めた。身体を駆け巡る圧倒的な感覚は、これまで以上に重くなっていた。立っていることすら難しいほどだった。それでも、持てる意志のすべてを使って、その苦痛に耐え続けた。
すると突然、暁継は暗い場所に立っていた。
そこには、果てのない虚無だけが広がっていた。静寂がすべてを覆い尽くし、その場所には命の気配がまるでなかった。
何もない……これが、レノヴィアの言っていたエネルギーを思い浮かべるってことなのか? それなら、この空っぽの場所にエネルギーを顕現させないと。
でも、どうやればいいんだ?
突然、暁継の隣にレノヴィアが現れた。その身体は、暗闇の中に浮かぶ幽霊のようにも見えた。
「レノヴィア?」
彼女は暁継との距離を縮めると、彼の肩に身体を預けるように寄り添った。そして両手を伸ばし、暁継の腕に触れた。
「さっき言ったよね。エネルギーを顕現させるには、それを形にできるだけの強い意志と、この力に合った本当の願いが必要なの」
その言葉を聞き、暁継は暗闇へ向けたままの自分の手を見つめた。
「自分が何を望んでいるのかは、もう言った。でも、この力に合ったものって……そんなの、どうやって分かるんだ?」
レノヴィアは首を横に振った。
「さっきの願いは、あくまで全体的な目標だったの。それは最初の層にすぎない。二つ目は、自分自身のためのもの。でも、この力に選んでもらう必要はないよ。この力のために、自分で何かを選ぶの。力に目的を与えられるような願いを」
暁継は数秒間その場に立ち、今の自分が本当に望んでいるものを探した。
「振り返ってみれば、俺は何度も失敗してきた。母さんを助けられなかった。妹との関係をちゃんと築くこともできなかった。そして、あの怪物との戦いで最も追い詰められていたとき、俺は何の役にも立てなかった」
その事実を改めて認識し、暁継の表情がわずかに曇った。
「でも、俺が考えていたのは、ずっと他の誰かのことばかりだった。自分が何を望んでいるのかなんて、ちゃんと考えたことがなかった」
レノヴィアは横から暁継を見つめ、小さく微笑んだ。
「なら、今がそのときだよ。あなたは、自分自身のために何を望んでいるの?」
「俺は……今まで、そんなこと考えたことなかった。でも、もし一つだけあるとしたら……」
暁継は前を見つめた。
「もう、無力なまま失敗したくない」
その瞬間、暁継の腕からエネルギーが噴き出し、白い輝きを放ちながら、目の前の暗闇をゆっくりと照らし始めた。しかし、そのオーラが広がるにつれて、次第にその色が変化していく。鮮やかな青と明るい紫が混ざり合うような色へと変わっていった。その中心では白いオーラが揺らめき、新たに生まれた力をまるで自らの居場所として受け入れるかのように、その中を流れていた。
暁継は目の前に広がった信じられない光景に、目を見開いた。
「これが……俺の願いの形なのか? 本当に、うまくいったのか……?」
レノヴィアは頷いた。
「うん。本当に必要だったのは、自分の願いを認めて、それを口にすることだけだったんだよ。でも、もうそれを使って、みんなを助けるときだよ」
「そうだな。みんなが待ってる。今度こそ、俺は失敗しない」




