第34話 戦場での役割
冬花は目を細めながら一歩前へ出ると、戦闘態勢を整えるように腕を構え直した。
「それなら、再生する暇も与えないくらい強力な攻撃を叩き込んで、一気に完全に破壊するのはどうかしら?」
玄士が答えた。
「俺もそう考えていた。あの怪物は、俺が頭部に与えた損傷をすでに再生し始めている。考えている時間はあまりない」
千早は剣を掲げながら、さらに笑みを深めた。
「じゃあ、私がやるよ」
冬花は手を上げ、彼女を止めた。
「いいえ。あなたには別の役割があるわ」
「別の役割?」
「ええ」
冬花は怪物の周囲で無秩序に蠢く無数の手へ視線を向けた。
「私の火力で、一撃で仕留められるだけの攻撃を叩き込むわ。でも、その前にあなたには邪魔なものを排除してもらう必要がある――あの手よ。おそらく、あいつらは核を守ろうとしてくる」
「なるほど。じゃあ、任せて!」
冬花は凪へ振り向いた。
「凪、千早を抜けてきた攻撃から私を守って。私が攻撃を溜めるには時間が必要だから」
凪はゆっくりと頷いた。
「……うん」
玄士は空を見上げた。そこでは、新しい凪紗が怪物から少し離れた場所で、自らのエネルギーによって作り出した足場の上に浮かんでいた。
「俺はあの憑依されている少女を相手にする。あいつが何もせず見ているだけとは思えない。あの女の対処法なら分かっている」
最後に、冬花は全員へ視線を向けた。
「みんな、理解したかしら?」
全員が頷いた。
一方、新しい凪紗は笑みを浮かべながら、彼らの様子を眺めていた。
「んー。何か企んでるみたいだね。まあ、何をするつもりでも……」
その目が暁継へ向いた。
「私の例外にも、見せてあげたほうがいいよね」
そして、視線をひび割れた空へ移した。
「もうすぐ結界は落ちる。そうしたら、このプロローグの後に待っているものと向き合うことになるんだから」
一行が作戦を開始しようとしたそのとき、怪物の無数の手が突然、一斉に彼らへ襲いかかり、上空からエネルギーの光線を放った。
凪はゆっくりと両手を上げ、エネルギーの球体を展開した。すべての光線を受け止め、その場で動きを止める。さらに別の手が次々と襲いかかってくるが、一つとして凪の防御を突破できなかった。
凪は光線をそのまま反射し、いくつもの手を破壊した。
冬花は片手を頭上高く掲げると、身体から赤いエネルギーを放ち始めた。
「それじゃあ、始めましょう。もうあまり時間はないわ」
頭上高くにエネルギーが集まり、ゆっくりと炎の槍へ形を変えていく。
玄士は横目で冬花を見た。
「張り切りすぎるな。レベル3以上は使うなよ。予定より早く結界を壊して、この場所全体を灰にするつもりはないだろ」
冬花は微笑んだ。
「あら、それは褒め言葉かしら。でも、私だってそこまで無茶はしないわ。何をすればいいのかは、ちゃんと分かっているもの」
千早が興奮した笑みを浮かべながら一歩前へ出た。
「それじゃあ! 私も思いっきり戦おうっと!」
全員がそれぞれの位置につき、いつでも動けるように構える。その背後から、暁継は彼らの姿を見つめていた。
何を話しているのか、ほとんど理解できなかった。でも……あれだけ短い時間で、ここまで状況を把握している。俺なんて、二人きりだったときは、あの怪物の手が一体どう動いているのかすら理解できなかったのに。
突然、暁継の頭にかすかな痛みが走った。周囲の景色が徐々にぼやけ始め、怪物の音も、雨の音さえも、遠くから響いているように聞こえてくる。
くっ……何が起きてるんだ?
再び、白髪の少女の姿が暁継の脳裏に浮かんだ。しかし、彼女の姿は完全には見えなかった。口が何かを伝えるように動いているのに、暁継には一言も聞き取れない。
何を言ってるんだ?……まさか、また警告なのか?
その姿はゆっくりと消えていき、暁継の意識が現実へ戻ってくる。
暁継はぼんやりと一行へ視線を向け、徐々に現実へ意識を戻していった。
でも、シグナ使いたちがここにいる。俺が危険にさらされるなんて、どうしてだ?……
暁継の身体から、ごくかすかな白いオーラが滲み出始めていた。しかし、本人はそれに気づいていなかった。
だが、玄士はそれに気づいた。まるで目で見たというより、何かを感じ取ったかのように暁継へ振り向き、その目を細める。
あの生徒、暁継……もし、あいつが持っているものが俺の考えているものと同じなら……
そして玄士は再び空の新しい凪紗へ視線を戻した。その表情が、さらに険しくなる。
あの女は何かを知っている。聞き出す必要があるな。
突然、冬花が叫んだ。
「みんな! 始めるわよ!」
冬花は頭上に浮かぶ槍を見上げた。
「フレア、レベル1!」
掲げた手からエネルギーが奔流となって流れ出し、槍へ吸い込まれていく。炎はさらに熱く、激しく燃え上がり、冬花が力を溜め続けるにつれて、武器そのものがゆっくりと巨大化していった。
その力の増大を感じ取った怪物の手が、冬花へ向かって一斉に伸びてくる。
千早は凄まじい速度でその手へ飛び込み、一瞬で次々と切り裂いた。
「はっ! 私がいる限り、そうはさせないよ!」
怪物の腕へ着地すると、そのまま勢いよく走り出す。二本の手が彼女の前に現れ、同時に光線を放った。
千早のエネルギーがさらに強まる。彼女はその力を剣へ込め、一閃した。二本の光線をまとめて両断し、切り裂かれた光線が彼女の背後で爆発する。
「まだまだ!」
千早は二本の手の間を、相手が反応する暇もないほどの速度で駆け抜けた。二本の手が彼女を追おうと振り返った頃には、すでに真っ二つに裂け、そのまま爆発していた。
怪物の本体へ向かって進むにつれ、その手はさらに激しく、無秩序に動き始めた。無数の手が千早の前方へ集まり、互いに重なり合いながら進路を塞ぐ。
手のひらに埋め込まれた無数の目が、すべて千早を真っ直ぐ見つめながら、強烈な黄色い光を放ち始めた。
千早は止まらなかった。しかし、それらが何をしようとしているのかはすぐに理解した。
またさっきみたいに、攻撃を一つにまとめて巨大な光線にするつもりだ。
千早の笑みがさらに深まり、興奮に目を見開いた。
「それなら、もっと面白くなるじゃん! 今度はどっちが勝つか、確かめようよ!」
無数の手が同時にエネルギーを放つ。それぞれの攻撃が一つへと集まり、巨大で途切れることのない光線へ変わっていく。千早のエネルギーも、さらに一段階強まった。
今度は、彼女の頭の上に狼の耳が形作られ、背中の下部から尻尾が生え始めた。どちらも、完全に千早自身のエネルギーで構成されている。
「そう! これだよ! これこそ私の獲物――本当の危険!」
千早は巨大な光線へ正面からぶつかり、剣で受け止めた。二つの力が激しく押し合う。
突然、さらに多くの手が千早の両側を通り過ぎていった。彼女には目もくれず、そのまま冬花へ向かって下降していく。
千早は動くのが間に合わなかった。
まずい! これを失敗したら、玄士は私と一緒に戦ってくれなくなる!
手が冬花へ迫ったその瞬間、突然、空中でぴたりと停止した。紫色のエネルギーがそれらを包み込み、完全に動きを封じていた。
すでに凪が止めていた。
手は一つ、また一つとエネルギーの球体へ重なり、その表面に噛みつきながら、無理やり突破しようとする。
しかし、手が噛みつくたびに、その衝撃は逆に自分自身へ跳ね返った。一つ、また一つと、手は自らの攻撃によって自分自身を潰し始める。
上空から千早が叫んだ。
「ナイス、凪!」
「うん……私が止めてるから……そのまま続けて」
千早は意識を再び巨大な光線へ向けた。強化された剣をその中へ突き入れ、攻撃そのものを切り裂いて真っ二つにする。そのまま前進しながら、進路を塞いでいた残りの手も次々と斬り裂いていった。
千早が切断した光線の一部はそのまま学園へ向かって突き進んだが、途中で凪によって止められた。
冬花の隣にいた玄士は、彼女たちの一挙一動を注意深く見つめていた。
「どうやら、俺の助けは必要ないみたいだな」
冬花は誇らしげに頷いた。
「当然でしょう。私の生徒たちだもの。どうして『玄士さん』みたいな、教える気のない怠け者で、そのうえ人付き合いも苦手な講師の助けが必要なのかしら?」
玄士の眉が、その言葉にわずかに動いた。
「それはともかく」
玄士の視線が、上空から戦いを見ている新しい凪紗へ移る。
「あの女、何も仕掛けてこないな。これは予想していなかった」
「何か企んでいるのかしら?」
「確かなことは分からない。ただ、何もしないというのは、良い兆候にも悪い兆候にもなり得る」
玄士は目を細めた。
あいつが邪魔をしてこないなら、こいつらが作戦を進めている間に情報を引き出すいい機会だ。
玄士はわずかに身体を沈め、跳躍の準備をした。
「玄士さん? 何を――」
冬花が言い終えるより先に、玄士は空中へ飛び出し、新しい凪紗のいる方向へ一直線に向かった。
冬花はため息をついた。
「はぁ……まあ、好きにしなさい」
冬花の視線は、空中でなお怪物の手を切り裂き続けている千早へ向いた。
「それじゃあ……フレア、レベル2!」
冬花は槍へさらに多くのエネルギーを注ぎ込んだ。熱が一気に増し、炎が激しく燃え上がる。頭上の槍はさらに巨大に、そして長く成長し、その衝撃によって広大な屋上全体へかすかな衝撃波が走った。
その熱が、屋上の反対側にいた暁継にまで届いた。彼は突然押し寄せてきた熱から目を守るように、反射的に片手をかざした。
この熱が……ここまで届いたのか?
衝撃波がようやく収まると、暁継は顔を上げた。そして、その表情が驚愕に染まる。
学園の上空には巨大な炎の槍が浮かんでいた。その大きさは、もはや怪物そのものに匹敵しそうなほどだった。
「何だよ、これ!? いくらなんでもデカすぎる……」
その頃、空中にいた玄士は背後から感じる力の急激な増大を察知し、振り返った。その表情には、明らかな失望が浮かんでいた。
落ち着けと言ったのに、結局、全然手加減してないじゃないか。
玄士は再び新しい凪紗へ視線を戻し、距離を詰め続ける。
後はあいつらに任せる。俺は俺の役割を果たすとするか。




