第33話 不死なる者への一撃
エネルギービームが突然巨大化し、その威力はまったく新しい次元へと一気に跳ね上がった。
千早は再び、それを押し返すために必死に耐え始めた。凄まじい熱がさらに彼女の肌を焼いていく。
「っ、痛い!」
それでも、攻撃に抗い続ける彼女の笑みは、興奮するほどに大きくなっていった。
「でも、楽しい! やっぱり面白くなってきた!」
一方、暁継は困惑した様子でその場にいる者たちを見つめていた。彼らはただそこに立っているだけで、千早を助けようとはしていない。
どうして誰も助けないんだ? あのままだと、明らかに危ないのに。
暁継は彼らの表情をさらに注意深く観察した。誰もが相変わらず落ち着いていて、目の前で起きていることなど、まるで何でもないことのように見ている。
誰も反応してない。こいつら、本当に普通の人間なのか?
そのとき、暁継は千早のエネルギーが再び激しく膨れ上がるのを見た。彼女の目まで淡く輝き始め、力はさらに増していく。その表情に浮かんでいるのは、捕食者のような笑みと純粋な興奮だけだった。
「これ、最高! もっと力をくれればくれるほど、私は強くなるんだから!」
千早は再び主導権を取り戻し、巨大な爆発が学園へ向かって押し戻されるのを防いだ。
その一方で、はるか上空にいた新たな凪紗が、狂ったように笑った。
「あははは! あなた、なかなか面白いじゃん。そうやって派手に暴れるの、ほんと好きなんだね? もしかしたら、私たち気が合うかも」
千早は迷うことなく叫び返した。
「はっ! 毎日私と戦ってくれるなら、私は全然構わないよ!」
玄士は戦場全体で起きている一つ一つの動きを見届けてから、口を開いた。
「冬花、あの生徒は無茶をしているが、シグナは見事だ。報告書にあった通りだな。実際に見ると、なぜ彼女がデス・アイランド遠征の候補に選ばれる可能性があるのかも分かる」
冬花は目を細めた。
「ふん。彼女がそこへ行くことを認めるのは、まだ早いわ。でも、確かにあれが千早よ。彼女のシグナは身体を素早く回復させる。そして、危険が大きくなればなるほど、彼女自身の力も強くなるの」
「そういうことか。つまり、それが君の狙いだったんだな。こちらが動く前に、彼女の力を引き上げるつもりだった」
「その通り。でも、戦いへの飢えが、後になって彼女自身に悪い影響を与えることもある。だから、ここでその衝動を燃え尽きさせる必要があるの。今回はそのために、あえて好きに戦わせたのよ」
再び上空では、新たな凪紗が両手を上げた。
「へえ、へえ。戦いたいの? じゃあ、それ以上のものを見せてあげる」
新たな凪紗は怪物のさらに多くの手を動かした。それらは両側から千早を取り囲み、攻撃を放つためにエネルギーを集め始める。
千早はすでに巨大なビームを押し返すことだけで手一杯で、それらを防ぐ方法がなかった。
「なるほど。そういうことね?」
怪物のエネルギーが目にも止まらぬ速さで彼女へ向かって放たれた。しかし、攻撃が彼女に届く寸前、それらは突然、空中で凍りついたかのように停止した。
千早は笑った。
「でも、私が一人じゃないってこと、忘れてるよね。……まあ、一人だったらよかったんだけど」
新たな凪紗は感心したような表情を浮かべた。
「へえ?」
意識を集中させた彼女は、すぐに誰が邪魔をしたのかに気づいた。下を見ると、凪がすでに両手を上げていた。凪は素早く手を動かし、攻撃を放った怪物の手へ向ける。
攻撃は突然、互いに反対方向へ弾き飛ばされ、怪物の手と、そこから放たれた攻撃そのものを完全に破壊した。
再び自由に動けるようになったことを確認すると、千早はすぐさまエネルギービームを本体へ押し返し始めた。
彼女の肌に残っていた火傷の跡が、自然に癒え始める。焼け焦げた肉が元へ戻り、手や顔を覆っていた火傷も、次第に完全に消えていった。
「いっけぇ!」
興奮した声を上げながら、千早は剣を振るい、ゆっくりとビームを学園から逸らしていった。
ビームは空を引き裂きながら進み、やがて大爆発を起こした。遠くの空間そのものが、何度もガラスが砕け散るようにひび割れていく。
その瞬間、再び大地が揺れた。凪はあまりにも眠そうにしていたため、今にも倒れそうになったが、玄士が絶妙なタイミングで彼女を支えた。
凪は彼を見上げた。
「ありがとう」
その近くでは、千早が再び学園の屋上へ降り立っていた。荒い息を吐いていたが、それでも興奮に満ちた笑顔は消えていなかった。
「先生! 今の見た? すごくカッコよくなかった?」
暁継は、千早がやったことを目の前で見て、驚きに目を見開いていた。
本当にただの人間の女の子なのか? それなのに、何事もなかったみたいに笑いながら戻ってくる? どうしたら、こんなに強くなれるんだ?
冬花は周囲を見回し、広がり続ける亀裂に気づいた。
「やったわね。結界がもう崩れかけている。このまま現実世界へ戻る前に、急いで終わらせないと。そうしないと、向こう側にいる生徒の命にまで影響する可能性があるわ」
玄士は千早を見下ろしながら頷いた。彼女のエネルギーはすでに急速に失われ始めていた。
「そうだな。そろそろ俺たちが動く時間だ。千早はもうすぐ、力の容量を使い切るところまで来ている」
冬花は手袋を整え、千早の隣へ移動した。凪もゆっくりと二人の後を追い、怪物と向き合う準備をする。
暁継は海斗を見つめた。頭の中は、目の前で次々と起きている出来事でいっぱいだった。
海斗、もう少しだけ耐えてくれ。
そのとき、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「暁継」
顔を上げると、玄士が集団の少し後ろに立っていた。
「さっき言ったことを覚えておけ。よく見ていろ」
暁継は答えなかった。ただ玄士が歩き続けるのを見つめていた。どうして玄士が、自分のような普通の一般人に「よく見ていろ」と言うのか、いまだに理解できなかった。
どうして?
玄士は足を止めたが、振り返らなかった。そのまま答える。
「ただ、君が見ておいたほうがいいと思っただけだ。もしかしたら、あとで答えが分かるかもしれない」
暁継はさらに混乱した。頭の中には、あまりにも多くのことが積み重なっていた。海斗の状態、凪紗の状況、そして今、目の前で戦いが始まろうとしている。
暁継は四人を見つめながら、自分がようやく安心していいのか、それとも警戒を解いてはいけないのかさえ分からなかった。
上空から、新たな凪紗が声を上げた。
「なるほどね。ここからヒーローたちがラスボスを倒すために集まるわけだ? それじゃあ、見せて――」
最後まで言い終える前に、千早が地上から以前よりも遥かに速い速度で飛び出した。そして、一瞬で彼女の目の前、空中まで到達する。
「喋ってないで、戦おうよ!」
千早は両手の剣を彼女へ向けて振り下ろした。新たな凪紗は笑い、巨大な赤いハサミの片方で即座に受け止める。
二人は怪物の頭上で互いに押し合い、その最中、新たな凪紗の笑みがさらに深くなった。
「ねえ、あなた強いじゃん。私のショーの脇役くらいなら、やってみる価値はあるかもね。そこは認めてあげる」
「脇役? それってちょっと低すぎない? 戦いでは主人公のほうが出番多いんでしょ? だから、私は脇役なんて嫌だな」
「あははは! あなた、気に入った! でも、今はあなたと遊んでる時間がないんだよね」
「え?」
その瞬間、新たな凪紗はハサミにエネルギーを込め、横薙ぎに振り抜いた。その一撃によって、千早は勢いよく吹き飛ばされる。
「へえ、これは新しいね」
その直後、さらに多くの怪物の手が千早へ向かって伸びてきた。しかし、届く前に千早はそのうちの何本かを斬り裂き、切断する。だが今回は、切り落とされた手がほとんど瞬時に再生した。
「再生した?」
手がついに千早へ襲いかかろうとした瞬間、冬花の炎を纏った槍が何本もその身体を真っ直ぐに貫き、そのまま爆発した。
千早は再び冬花の隣へ着地した。
「ありがとう、先生! でも、こいつ、本当にワクワクしてくる!」
「集中を切らさないで。早く終わらせるわよ」
「はい!」
凪紗は両腕を上げた。怪物の本体の頭部からさらに多くの手が現れ、その手のあちこちに追加の目が裂けるように開き、攻撃のためにエネルギーを集め始める。
「これでも味わってみなよ!」
それぞれの手からエネルギービームが放たれ、空から雨のように降り注ぎ、集団へ一斉に襲いかかった。
千早は一歩前へ出ながら笑った。
「私が斬るよ」
玄士が彼女を止めた。
「待て」
「え? 待てってどういうこと? それに、あなたに私を止める権利なんてあるの?」
「あそこを見ろ。凪がもう対処している」
千早が同じ方向を見ると、凪がすでに両手を上げていた。その頭上には、紫色のエネルギーの球体が形成されている。
「へえ? 何するつもりなの?」
ビームがその球体にぶつかった瞬間、空一面で無数の爆発が入り乱れた。
上空の新たな凪紗が笑った。
「あはは! 綺麗な花火じゃん」
しかし、煙が晴れると、彼女の表情が変わった。
「ん?」
ビームはその場で止められ、空中に凍りついたように静止していた。凪はゆっくりとそれらを操り、方向を反転させると、そのまま新たな凪紗へ向けて送り返した。
「なるほどね。あの眠そうな凪って子、本当に厄介なシグナを持ってるじゃん」
新たな凪紗の目が暁継へ向いた。そこには、驚きと疲労が入り混じった彼の表情があった。
でも、よく考えたら……あの子たち、私が気づかないうちに私を助けてくれてるじゃん。
彼女は再び迫り来るビームへ意識を戻し、両方のハサミを握り締めながらエネルギーを込めていく。
「だぁけぇど、私の大事な例外の前で負けるわけにはいかないんだよね」
彼女がハサミを左右へ振り抜くと、巨大な青と赤の二重斬撃が放たれた。それは迫っていたすべてのビームを真正面から切り裂き、巨大な爆発を次々と引き起こす。衝撃波が空気を切り裂くように広がっていった。
空は煙で覆われ、集団と新たな凪紗、双方の視界が遮られる。
「さて、次は何が来るのかな」
彼女がそう言い終えた瞬間、玄士が煙の中を突き抜けた。凄まじい速度によって煙の一部を吹き飛ばしながら、その姿を現す。
彼女は不意を突かれた。
「あら、やっとまた出てきたじゃん」
彼女は両方のハサミを構え、防御の姿勢を取った。
「じゃあ、あなたがどれくらい――」
最後まで言い終える前に、迫ってくる玄士を見た。まず彼女を包んだのは、不穏な感覚だった。玄士を取り巻く濃い緑色のエネルギーを感じ取ったのだ。
前より強い。こいつ、力を隠してたんだ。危険だ。今のこの身体じゃ、あれを受け止めきれない。
彼女はすぐさま後方へ高く跳び、玄士の攻撃を紙一重でかわした。玄士の拳はそのまま怪物の本体の頭部へ叩き込まれ、巨大な衝撃波を発生させる。怪物は激しく震え、体勢を崩し、頭部の中央には深い穴が穿たれた。
怪物は痛みに唸りながら、前後へよろめいた。
玄士は目を細め、新たな凪紗へ視線を向けた。彼には、彼女の身体の中で二つの淡いエネルギーが衝突しているのが見えていた。
やはりそうか。ここまで近づいて分かった。あれは本来の身体じゃない。奪われた身体だ。中には二つのエネルギーがある――人間のエネルギーとアノマエネルギー。それが互いに衝突している。これでは宿主の身体に負担がかかる。
その瞬間、怪物の手がさらに生え始め、その速度はどんどん上がっていった。すべての手が玄士へと狙いを定めている。
右側から一本の手が玄士へ向かって飛び出した。玄士は強烈な拳を叩き込み、それを爆発させる。すると今度は、背後から別の手が突然現れた。鋭い横蹴りを叩き込み、その手の顎を破壊する。
四方八方からさらに多くの手が襲いかかる。玄士は怪物の手の上を渡るようにして、その間を縫っていった。その動きはあまりにも速く、暁継には無数の手の間を走る彼の姿が、一瞬一瞬の残像としてしか見えなかった。
俺たちが苦しめられて、悪夢にまで見たあの怪物を……一人で相手にしてる。こんなの、理解できない。これが、俺に「よく見ていろ」と言った理由なのか? それでも、何も説明がつかない。
それに、どうしてもあの白い髪の少女のことが頭から離れない。あの「例外」って何なんだ? さっき見たあの姿は何だった? それに、あの子が言っていた「本当に、いいの?」っていう言葉は、どういう意味なんだ?
暁継は首を振り、必死に意識を目の前の戦いへ戻そうとした。
そのことは後で考えればいい。あいつらが怪物を倒して、海斗と川瀬さんの二人を助けられるなら、それでいい。今はそれが一番大事だ。
暁継の視線は再び玄士へ向いた。玄士は両手だけに濃い緑色のエネルギーを纏わせ、次々と手を殴り、蹴り飛ばしていく。その結果、彼は怪物の手の半分を一掃することに成功した。
下からその戦いを見ていた千早は、口を大きく開けたまま立ち尽くしていた。しかし、その目は強烈な興奮に輝いていた。
「うわっ! うわっ! うわぁっ!! あの人、誰!? こんなに強いなんて知らなかった!」
千早は冬花のほうを振り向いた。
「御園先生! どうして今まであの人のこと教えてくれなかったの!?」
冬花は何かを知っているような目で千早を見た。
「まあ、あの人は目立ちたがるタイプじゃないからね。今回の任務を無事に終えたら、もっと彼のことを知る機会もあるでしょう。それまでは戦いに集中しなさい。もうすぐ次の段階へ移るわ」
「はい!」
千早は再び玄士へ視線を戻し、頭の中で考えを巡らせた。
もしかして……もしかしたら、あの人が私の探していた相手なのかも! さっき失礼なこと言っちゃったの、今になって悪かったって思えてきた!
怪物はさらに攻撃的になった。玄士の攻撃を受けたことで、その手は今や一秒ごとに生え始めていた。
玄士は周囲に積み重なっていく手を見ながら、拳を握り締めた。
「一点を狙う攻撃では通用しない。さらに攻撃性が増している。それに、再生能力を考えると、結論は一つだ」
玄士は怪物の頭部から飛び降り、集団のもとへ降りていった。
千早はすぐに玄士へ向かって駆け寄った。顔には隠しきれない興奮が浮かんでいる。
「今のすごかった! 私も一緒に戦っていい?」
「今はその時じゃない。でも、俺の言う通りにしてくれれば、後でそのための隙を作る」
「本当に!? それなら、私、あなたの指揮下に入るよ!」
冬花が一歩前へ出た。
「それで? もっと近くで観察して、何か分かったの?」
「ああ。まず、あの少女はアノマリーじゃない。普通の人間が、何者かに憑依されている」
「憑依? それなら、なおさら厄介ね。身体を傷つけずに、彼女を解放する方法も考えないと」
「それは後で考える。今は怪物を最優先にするべきだ。結界も、もう長くは持たない」
玄士は、無秩序かつ凶暴に暴れ回る怪物へ目を向けた。
「問題は再生能力だ。どれだけ切り刻んでも、すぐに再生してしまう」
千早は不思議そうに首を傾げた。
「それで? どうすればいいの?」
「このアノマリーには核があるはずだ」
「核?」
「ああ。本体の頭部、その中心のさらに奥に、他の場所ほど強いアノマエネルギーの変動を感じない一点がある。そこが核のはずだ。そこまで辿り着いて破壊すれば、あの再生能力を失わせられる。あるいは、そのまま完全に消滅させられるかもしれない」




