第3話 雨の中の少女
シグナや能力、そしてこれからの未来について短く話したあと、暁継と海斗は再び通りを歩き続けた。
しかし、その直後、暁継は何かを感じた。身体が一瞬だけ震え、足が止まった。
彼は振り返り、周囲を見渡した。そこにあるのは、人々と走っている車だけだった。
暁継がついてきていないことに気づいた海斗も、振り返った。
「おい、暁継。どうしたんだよ? なんで止まった?」
「分からない。誰かに見られてるような気がしたんだ」
「え? 誰かに? 俺たち、尾けられてると思うか?」
暁継はもう少しだけ周囲を観察した。そして、再び歩き始めた。
「行こう。気のせいだったのかもしれない」
「分かった」
二人はそのまま少し歩き続けた。すると突然、暁継は雨の中に立っている何者かに気づいた。
通りの真ん中に、一人の白髪の少女が立っていた。髪は淡く光っているように見え、その服装も、暁継がこれまで見たことのないものだった。何かが、彼女をこの世界のものではないように感じさせていた。
暁継はすぐに足を止めた。わずかに目を見開き、彼女へ意識を集中させる。周囲にあったあらゆる音が少しずつ遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。
そして、柔らかな声の響きが耳に届いた。暁継は黙ったままそれを聞き、目の前で起きていることを理解できずにいた。
やがて、少女が動き始めた。動きはゆっくりとしていて優雅で、まるで宙に浮かんでいるかのようだった。少女は暁継へ向かって首を動かし、その顔がこちらを向こうとした――その直前で動きを止め、そしてようやく口を開いた。
「気をつけて」
彼女の唇からこぼれたのは、その言葉だけだった。
しかし、暁継が今聞いたこと、そして見たものを理解するより先に、
その瞬間をかき消すように、かすかな声が聞こえてきた。
「暁継……! 暁継!」
声は次第に大きくなり、はっきりと聞こえるようになっていった。
「暁継!」
暁継はようやく現実へ引き戻された。
先ほどまで消えていた車の音も、雨の音も、風の音も、周囲のあらゆる音が一斉に戻ってきた。
しかし今度は、風も雨もさらに激しくなっていた。人々はすでに雨宿りできる場所を求めて走り出しており、車でさえ突然の嵐の中を進むのに苦労していた。
海斗はすでに暁継の肩を揺さぶり、ぼんやりした状態から引き戻そうとしていた。
「暁継、いったいどうしたんだよ? ずっと別の場所に意識が飛んでるみたいに立ってたぞ。何度も名前呼んだんだからな」
「え……? ああ、うん」
「ほら、行くぞ!」
そして二人は走り始めた。
近くにある高層ビルの一つ、その屋上では、二人が走り去っていく姿を見つめている者がいた。暗闇の中に立つ女の姿。その口元には大きな笑みが浮かび、視線は下を走る暁継だけに向けられていた。
「いたぁ……私の可愛い例外」
しばらくして、暁継と海斗は駅へ到着し、すぐに電車へ乗り込んだ。
海斗は傘を閉じると、電車の窓から外を眺めた。外では風が唸り、雨はこれまで以上に激しく降り続けていた。
電車の中にいる人々も、すでに窓の外を見つめていた。突然の豪雨でずぶ濡れになっている人もおり、誰もこれほど急激に天候が変わるとは予想していなかったようだった。
「なあ、さっきまで晴れるって言ってたのに、天気どうなってるんだよ? 一瞬で変わって、今じゃ嵐が来そうじゃん。こんなの、今まで見たことないぞ」
暁継は複雑な表情を浮かべながら、まだ自分が見たものを整理しようとしていた。そして、電車の座席の一つに腰を下ろした。
海斗はしばらくその場に立っていたが、やがて暁継をまっすぐ見つめた。
「なあ、さっき何があったんだよ? ずっと別の場所に心が飛んでるみたいに立ってたぞ。何回も名前呼んだんだからな」
「俺……分からない。完全に別の場所へ引き込まれたみたいな感覚がして、それで、長い白髪の女の子を見たんだ。光ってて、通りの真ん中で浮いてた」
「え? 女の子? 浮いてた? 本気か? 俺には誰も見えなかったぞ」
海斗は何かを思いついたように、わずかに目を見開いた。
そして暁継のそばへ移動して隣に座ると、声を落とした。
「待てよ。もしかして、お前が見たのってアノマリーじゃないか?」
「アノマリー?」
「ああ。最近、いつもよりアノマリーに遭遇する人が増えてるらしいんだ。夜に家へ帰ってる途中で首のない幽霊を見たっていう男もいるし、空に浮かぶ奇妙な人影を見たって話もある。政府も、外に出るときはもっと注意するようにって発表したくらいだ」
普段なら、暁継はそんな話をさほど気にしなかっただろう。しかし今回は、すぐに答えることができなかった。頭の中は、まだ自分が見たものに占められていた。
海斗は座席に背を預け、格好をつけるように言った。
「まあ、殺そうとしてくる怪物じゃなくて、綺麗な女の子を見たんだからよかったじゃん。ははは」
電車が走り始める中、暁継は窓の外を眺め、さらに激しくなっていく雨を見つめた。
そして、海斗へ視線を戻した。
「なあ、海斗」
「ん?」
暁継の表情に、わずかな不安が浮かんだ。
「お前、シグナ使いのインタビューとか見てるだろ? でも、喋ったり歌ったりするアノマリーについて話してたことってあるか?」
「なんだよ、その質問。喋ったり歌ったりするアノマリー? はは、面白すぎるだろ」
「いいから答えてくれ」
「分かった、分かった。正直、俺にも分からない。そんなアノマリーの話なんて聞いたことないからな。普通、アノマリーって危険なものだろ? でも、喋ったり歌ったりするアノマリーがいるっていうなら……うん、確かに変だな」
暁継は再び視線を落とし、自分の考えを整理した。
「じゃあ、あの子は何なんだ? 普通、アノマリーは喋れないなら、どうしてあの子は話せた? それに、どうして『気をつけて』なんて言ったんだ?」




