第2話 俺が望む未来
海斗は笑顔を浮かべながら、暁継と一緒に歩き始めた。
「暁継、見てくれよ! 新しいMMORPGだって。しかも今回は、課金で有利になる要素がないらしいぞ!」
「うん。そういうのはいつも言ってるよな。課金要素のないMMORPGなんて、そう簡単には出ないだろ」
「いいからいいから、ちょっとくらい試してみろって! 俺、昨日買ったんだけど、めちゃくちゃ面白いぞ!」
「今はそんなことしてる時間ないよ。来週には試験があるだろ。ちゃんと勉強したのか? このままだと、来年は俺が先輩になってるかもな」
海斗の笑顔が、一瞬で消えた。
「くそっ、試験のことなんて思い出させるなよ」
海斗は暁継を見る。
「お前、俺の友達だろ? 勉強、手伝ってくれるよな?」
暁継は事情を察したように、小さくため息をついた。
「まあ、本気でやるならな」
「よっしゃ! 約束だからな! ふぅ……暁継みたいに頭のいい友達がいて助かったぜ、ははは!」
海斗はそのまま話し続けていたが、今度は暁継の意識が別のところへ向いていた。歩きながら、暁継は自分の家を振り返る。
海斗は不思議そうな顔で暁継のほうを向いた。
「おい! お前、ちゃんと俺の話聞いてるか?」
「うん……うん。ゲームの話だろ。聞いてるよ」
「じゃあ、買うだろ? 俺たち、一緒にゲームするの何か月ぶりだと思ってるんだよ」
暁継は、聞こえるか聞こえないかというほど小さく息を吐いた。
「ごめん。でも、今は買えないと思う」
「え? なんで? 金ないのか?」
暁継は母親のことを思い出した。友達と一緒にそのゲームで遊びたい気持ちはあった。それでも、これ以上母に負担をかけたくなかった。
「まあ……それも理由の一つかな」
海斗は笑いながら、暁継の首に腕を回した。
「だったら最初から言えよ。そんなの気にすんなって! 俺、バイトで貯めた金があるから、お前の分も買ってやるよ」
「本当にいいって。今はゲームしてる時間もないし」
「いいっていいって。二人で勉強して、それから遊べばいいだろ。ははは!」
「まあ、それなら断る理由もないかな」
そのとき突然、雷鳴が二人の会話を切り裂いた。いつもの雷とは比べものにならないほど、大きな音だった。
「うわっ!」
不意を突かれた海斗が叫んだ。
「な、なんだ今の!? 雷か?」
「どうしたんだよ、海斗。雷を聞くのなんて初めてじゃないだろ。まさか、怖いのか?」
海斗の顔が少し赤くなる。
「ち、違う! もちろん怖くなんかない! 俺は男だぞ。強い男は何も恐れないんだ!」
そう言い終えた直後、再び大きな雷鳴が空に響き渡った。
海斗はまたしても不意を突かれた。
暁継は呆れたような顔で海斗を見る。
「落ち着けって。もう子供じゃないんだから」
海斗は暁継を見返した。
「だから、雷なんて怖くないって言ってるだろ」
「はいはい。そうだったな」
海斗はスマホに目を落とし、天気予報を確認しているようだった。
「暁継、見てみろよ。サイトにはまだ今日の天気は晴れって書いてあるぞ。これ、やっぱり変じゃないか? 家を出たときは、いきなり天気が変わったんだぞ」
「うん。確かに珍しいけど、そういうこともあるだろ」
「まあ、これ以上ひどくならないといいけどな。風で傘を飛ばされて、びしょ濡れのまま学校に着くのは嫌だし」
「どうせもう駅は近いだろ」
暁継は空を見上げながら、二人で通りを歩き続けた。
数秒前まで晴れていたのに、急に天気が変わったのはやっぱり変だ。それに、さっきより明らかに雨も強くなってる。嵐でも来るのか?
暁継と海斗は交差点までたどり着き、信号が青になるのを待った。
すると突然、海斗が肘で暁継を軽くつつき、声を潜めて言った。
「暁継、見ろ!」
「ん? 何?」
暁継も同じ方向へ視線を向けた。
近くにある高層ビルのデジタルスクリーンには、広告が映し出されていた。そこには、青と黄色という異なる色の瞳を持つ、若く美しい少女が映っており、美容商品の宣伝をしている。
「天月莉羽音じゃないか?」
「天月莉羽音? 誰それ?」
海斗は勢いよく暁継のほうを振り向いた。
「マジで言ってんの!? 映画とか見ないのか? 有名なシグナ使いのインタビューとかも?」
「いや、あんまり。そんなのを見る時間がなかったから」
海斗は残念そうにため息をついた。
「まあ、お前ならそうだよな。でも、とにかく、あの人は有名なモデルでシグナ使いなんだ。すごい能力を持ってるって噂だし、かなり若い頃に覚醒したらしいぞ」
信号が青に変わり、人々が一斉に道路を渡り始めた。
「いやー、可愛いよな。俺もシグナに覚醒して、超能力とか使えるようになりたいぜ。アノマリーから人を助けるとか、めちゃくちゃカッコいいだろ。もしかしたら、秘密のシグナ学園に入学できるかもしれないしな」
海斗は暁継のほうを見る。
「お前は、いつかシグナに覚醒したらどうするんだ?」
暁継は前を向いたままだったが、一瞬だけ広告スクリーンへ視線を戻した。
「正直、考えたことないな。そこまで興味もなかったし」
「マジで? でも、アニメとかゲームみたいに超能力が使えるようになりたいって思わないのか? 普通の人に聞いたら、みんな即答で『なりたい』って言うと思うけどな」
「うん、分かってるよ。ただ、今まで必要だと思ったことがなかったんだ。今の俺が考えてるのは、卒業して、ちゃんとした仕事に就いて、成功することだけだから」
「おいおい、暁継。いい将来を見つけたいっていうのは分かるけど、普通に就職して、毎日決まった時間に働くなんて、退屈じゃないか? 俺は、人を助けて、みんなから認められるほうがずっといいと思うけどな」
二人は濡れた道を歩き続けた。車が通り過ぎ、しばらくの間、地面を叩く雨音が暁継の耳から遠ざかっていくように感じられた。
海斗が何を考えているのかは分かってる。正直、海斗の言うことも間違ってない。超能力を持って、有名になる。普通に考えれば、そんなのは格好いいし、俺だってすぐに受け入れると思う。でも、今の俺の頭にあるのは家族のことと、穏やかな生活だけだ。その責任を果たして、家族のこれからが明るいものになるようにできるなら、それ以外に何かを求める必要はない。




