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第13話 失うことを恐れた少女

海斗と暁継は慎重に教室を出ると、凪紗の教室へ向かって歩き続けた。


薄暗い廊下を進む中、暁継の後ろを不安そうに歩いていた海斗が、小さな声で呟いた。


「暁継……」


「何?」


「もし凪紗が見つからなかったら、どうする? その後、俺たちはどうすればいい? ここから出ることすらできないんだろ?」


暁継の表情がさらに険しくなった。海斗の悲観的な考えを気にしているわけではなかった。その可能性を無視するわけにはいかないと分かっていたからだ。


「海斗、正直、俺にも分からない。でも、凪紗が見つかってほしいと思ってる。答えを知ってるかもしれないからってだけじゃない。川瀬さん自身を失いたくないんだ。俺はもう、妹のそばにいてやれなかった。何があったのかも、無事なのかも分からない。もう同じことを繰り返したくない。今は、ただ願うしかないよ」


海斗はしばらく暁継の背中を見つめていた。そして初めて、その顔にかすかな笑みが浮かんだ。


「暁継、たまに思うんだ。お前みたいに、もっといい人間だったらよかったのにって。生きるか死ぬかって状況でも、本当に大切な人のことを気にかけてる。正直、俺だったらこんな状況で他の誰かの心配なんてしてなかったと思う。そういうところが俺は自分勝手なんだよな。羨ましいよ」


暁継は足を止め、静かに息を吐いてから海斗のほうを振り返った。


「どうしたんだ? そんなの、俺の知ってる海斗らしくないだろ。お前は今も俺についてきて、助けてくれてる。俺を置いていくことだってできたのに、そうしなかった。これだけは言っておくよ。俺たちが生きてここから出られたら、そのときにまた羨ましがればいい。今は、どっちが優れてるかなんて関係ない。同じ状況の中で、俺たちは二人とも無力なんだから」


暁継は再び振り返ると、歩き始めた。


「行こう」


海斗は目を見開きながら、その背中を見つめた。そしてようやく笑みを浮かべると、小さく呟いた。


「くそ……お前、アニメのキャラからそんな台詞を覚えたなんて、今まで言ってなかったじゃねえか」


「台詞じゃない。ただの事実だよ」


二人は歩き続けた。その途中で、念のため通り過ぎるたびに開いている教室を確認したが、どの教室も同じだった。生徒の姿はどこにもなかった。


しかし、次の廊下へ曲がる前の最後の教室に差しかかろうとしたとき、中からかすかな音が聞こえてきた。


暁継と海斗は同時に足を止めた。


「暁継……今の、聞こえた?」


「聞こえた……川瀬さんの教室に着く前に、誰か見つかるかもしれない」


二人は顔を見合わせ、ゆっくりと教室へ近づいた。扉はほんの少しだけ開いていて、二人が通れるほどではなかった。


しかし中を覗いてみると、教室は完全に空だった。人の姿は一人も見えない。それなのに、生徒たちが話しているようなかすかな囁き声だけが聞こえていた。


海斗はさらに困惑したように目を見開いた。


「何だよ、これ……声は聞こえるのに、どうして? まさか、この学校には幽霊までいるのか?」


暁継は見える範囲の教室を隅々まで探したが、何も見つからなかった。


「ここまで来ると、もう驚くことすらできないな。ここには本当に誰もいない。どんどんおかしくなってる」


「ゆ、ゆっくり扉を開けて、もう少しよく見てみるか?」


暁継は真剣な横目を海斗に向けた。


「絶対にやめろ。これ以上危険を冒すつもりはない。幽霊だろうが幻覚だろうが、確かめようとした瞬間に殺されるかもしれない」


「それは最悪の考えだったな。なんで俺、そんなこと考えたんだろ」


暁継は扉から離れた。


「次の廊下に川瀬さんの三年生の教室がある。急ごう」


「分かった。行く」


ようやく角を曲がり、次の教室が並ぶ場所までたどり着いた。今度は再び窓のある区画だった。


しかし、二人ともその場で凍りついた。窓は粉々に砕かれ、床や壁には血の跡が残っていた。外へ続く割れたガラスには、生徒たちの制服の切れ端まで引っかかっていた。それは、凪紗が生きていることを願っていた二人にとって、あまりにも嫌な光景だった。


「暁継……これ、本当にまずいぞ」


暁継の顔に、初めて本物の不安が浮かんだ。目の前の光景を見て、また自分が失敗してしまうかもしれないという恐怖がさらに深まった。


その視線はすぐに凪紗の教室、三年三組へ向いた。手放したくない希望に、必死にすがりつく。まだ可能性はある。そう自分に言い聞かせ続けた。


「まだだ。教室を確認しよう。こんなの、ありえない」


その声はほとんど囁きで、今までよりもさらに小さかった。ここまで保っていた冷静さが、少しずつ崩れ始めていた。


海斗はその変化に気づいたが、何も言わなかった。凪紗が生きている可能性がどれほど低いのか、すでに分かっていた。


暁継はしばらくその場に立ち尽くしていた。脚が今までになく重く感じる。これ以上先へ進みたくなかった。そこに何が待っているのか、見たくなかった。


やがて、暁継は無理やり足を動かした。教室の最初の割れた窓まで近づく。中を長く見ることはなかったが、それでも十分だった――血と、荒れ果てた教室が目に入った。


暁継はすぐに視線を地面へ落とし、拳を握り、顎に力を込めた。悲しみ、怒り、自分自身への失望、そして逃れられない無力感。すべてが頭の中でぶつかり合っていた。叫びたかった。それでも、叫ぶことはできなかった。学校全体が牢獄と化し、二人の身体だけでなく、感情までも閉じ込めていた。


海斗はためらいながら、さらに先へ進んだ。教卓から教室の奥まで、より注意深く中を確認していく。そしてついに、暁継が確認していなかった場所へ視線が届いた。


その瞬間、海斗はすぐに暁継のほうを振り返り、その名前を小さく呼んだ。


「暁継……暁継」


その声を聞いて、暁継が顔を上げる。すると海斗が、近くに来て見るよう手招きしていた。


暁継はゆっくりと近づいた。


「あそこ見ろ」


暁継の視線が教室の奥へ届いた瞬間、その目が驚きに見開かれた。そこには凪紗と、二人の生徒が隠れていた。凪紗はすでに怯えた少女を抱きしめ、落ち着かせようとしている。その隣には、一人の少年がいた。


暁継はすぐに教室の扉へ向かい、中へ入った。三人は別の何かが教室に入ってきたのだと思い、不意を突かれた。


暁継はためらわなかった。教室の中で起きていることも、外で起きていることもすべて無視して、すぐに凪紗のもとへ歩いていった。


凪紗は暁継を迎えるために立ち上がろうとした。しかし、その前に――


突然、凪紗の身体は暁継の腕に包まれた。暁継は彼女を強く抱きしめた。


凪紗の目が大きく見開かれた。


「暁継……くん?」


凪紗もクラスメイトたちも、そしてちょうど教室に入ってきた海斗でさえ、暁継がそんな反応をするとは思っていなかった。


暁継は自分が何をしているのか考えていなかった。ただ、圧倒的な安堵だけを感じていた。


「川瀬さん……本当に、生きててよかった」

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