第12話 みんな、どこへ消えた?
暁継と海斗は階段を上り続けていた。一歩一歩、ゆっくりと慎重に足を進めていく。
二人は上りながらずっと足元を見つめ、ほんの少しでも音を立てる可能性のあるものがないか、慎重に確認していた。
ようやく次の階の踊り場まで辿り着くと、二人は足を止めた。目の前の廊下は、完全に荒れ果てていた。
窓は割れ、床にはガラスの破片が散らばり、壁の一部も壊されていた。
そこら中に血が飛び散り、床や壁の一部を赤く染めている。
「暁継……これ、まずいぞ。まだ、こんなことが起きたなんて信じられない」
「分かってる……でも、他に選択肢はない。川瀬さんの無事を確認しないと」
二人が先へ進んでいくと、そこにはまったく音がなかった。まるで学園そのものが完全に空っぽになったようだった。聞こえてくるのは、外から響く風と雨の音だけだった。
海斗は教室の一つの前で足を止め、囁いた。
「暁継、ここにまだ生きてる人がいると思うか?」
「分からない。でも、閉まってる教室は確認しない。音を立てる危険は冒せない」
暁継はゆっくりと振り返り、再び歩き始めた。
「行こう」
「分かった。行くよ」
二人がさらに廊下を進んでいくと、床には生徒たちの鞄がいくつも落ちていた。二人は道を塞ぐものを一つずつ慎重に避けながら進んだ。
やがて、前方に開いている教室を見つけた。扉は枠から叩き壊され、どこにも見当たらなかった。
暁継は海斗と慎重に視線を交わし、二人で警戒しながら教室の中を覗き込んだ。
そこも同じだった。教室は完全に荒れ果てていて、生徒の姿は一人も残っていない。ただ、血だけが残されていた。
「ここは……誰も助からなかったみたいだ」
海斗は息を呑んだ。
「あ、あの怪物……一瞬でみんな殺したんだ。急いだほうがいい。本当に、次に何が起こるか分からない」
「そうだな。念のため、次の教室に生存者がいないか確認しよう」
二人はそのまま進み、通り過ぎる教室を一つずつ確認していった。しかし、どの教室も例外なく、すでに外にいるあの怪物の犠牲になっていた。
海斗はすでに荒い呼吸を繰り返し、正気を失わずに歩き続けるだけで精一杯になっていた。それでも暁継は、凪紗の無事を確かめるという決意を胸に、足を止めずに進み続けた。
二人は左へ曲がり、別の廊下へ入った。そこには窓が一つもなく、他の場所とは違って、何も壊されていなかった。
海斗は驚いたように目を見開いた。
「ここ……ちゃんと綺麗なままだ」
暁継は警戒を解かなかった。
「気を抜くな。まだ安全だと決まったわけじゃない」
「う、うん……そうだな」
二人が先へ進んでいくと、ほとんどの教室の扉は閉まっていた。そして、その中からは一切音が聞こえてこなかった。
周囲に音がないせいで、二人が慎重に踏み出す足音さえ、やけに大きく感じられた。
海斗は心配そうな表情を浮かべながら、囁いた。
「暁継……俺、ここってさっきいた場所より危ないんじゃないかって思い始めてる。静かすぎるんだ……。一つでも間違えたら、俺たち……」
暁継は振り返らず、そのまま前へ進み続けた。
「俺も気づいてる。変だな。この辺りにいた人たちは、どこへ行ったんだ? まだ怪物に襲われてないみたいだけど」
「そうだよな……それが逆に怖いんだよ。ほら、凪紗のクラスって分かるだろ? もう近いのか?」
「遠くはない。今はそのまま進もう」
その先に、二人はようやく扉の開いた教室を見つけた。
「暁継、あそこにある」
「確認しよう」
扉は完全には開いていなかったが、中へ入って中の様子を確認するには十分だった。
二人は扉の横に立ち、慎重に中を覗き込んだ。
今度の教室は完全に無傷だった。何もかも、普通の状態に見えた。
海斗は困惑したように教室を見回した。
「え? ここは何ともないみたいだけど……じゃあ、生徒たちはどこにいるんだ?」
暁継はようやく教室の中へ入り、周囲を見回した。
そして、机の上にあるものに気づいた。
「海斗、見てくれ」
「何?」
「生徒の鞄がない。教科書も、筆記用具もない。それに、先生の教材まで机の上に置かれてない」
「待て……本当だ。じゃあ、ここは今日授業がなかったってことか?」
暁継は首を横に振った。
「いや、それはおかしい。今朝、俺たちが来たとき、この階に上がっていく生徒を何百人も見た」
「マジかよ……これ、どうなってるんだ? 怪物に襲われてないなら、それに暁継はここに来る生徒たちを見たんだろ? じゃあ、みんなどこに行ったんだ?」
海斗は頭を掻きながら、不安でいっぱいの表情を浮かべた。
「天気に、あの怪物、それに今度は生徒たちが消えた……もう、頭が追いつかない」
暁継は教師の机へ向かい、周囲を慎重に確認した。
「ここまで来ると、街で起きているアノマリーと関係している可能性も考えたほうがいい。外にいるあの怪物も、アノマリーなのかもしれない」
暁継は、白髪の少女のことを思い出した。彼女が言った一言一言と、これまでのやり取りをすべて思い返す。
暁継は拳を握りしめ、海斗へ視線を向けた。
「あの白髪の少女……もしかしたら、これから起こることを何らかの形で知っていたのかもしれない。だから、俺に逃げろと言ったんだ」
「そうだよな。だから俺も、外に出ようって言ったんだ。でも、もう遅い……そういえば、あの少女、また見たのか? もし話ができるなら、この状況をどうにかする方法が分かるかもしれない」
「いや。見てない。今のところ、俺たちは自分たちだけで何とかするしかない」
暁継は扉のほうへ振り返った。
「生徒がここにいた痕跡は見つかった。死んだ人もいれば、消えた人もいる。だったら、川瀬さんの教室を確認しよう。彼女が見つかれば、ここで何が起きたのか、何か分かるかもしれない」
海斗はためらいがちに頷いた。
「そうだな……行こう」




