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11.授業体験1

流れ星現象からはや半月が経とうとしている今、状況を利用して便利な暮らしを作ろうとする考え方が生まれた。企業の就労時間の変更がその大きな例だった。学校現場でも、先生の見た目から年齢がわからないから、年寄りだからと言って嫌われることがなくなった。


そんな時、僕の通う高校で、両親の授業体験が企画された。クラス25人の両親のどちらかが、3日間自分の子供のクラスに入るというものだ。しかも、生徒の側には転校生として伝えられるから、授業参観とは違う普段の様子が見えるというのが狙いだ。最後のほうはみんなの親がきていることぐらいわかってくるから、体験という名目は伝えることになるだろうけど、なぜかうちの割り当てが一番最初だった。


「今日は、転校生が来ます。」

と、担任の先生が言って、ちょっと向こうに立ち去った後、連れられてきたのは僕の母、ナナちゃんだ。たぶんびっくりしたらいけないことは直感でわかっていた僕は、興味なさそうな表情を演じていた。

「たべ ななです。北の街から来ました。」

と、かなり適当な自己紹介をした。確かにナナちゃんの出身は北の雪深い街だ。北の街の方言もまだ話せるからこんな演技ができるのだろう。

「多部さん、前の学校で部活は何やってた?」

クラスの一番人気の女子、西口さんが興味津々に聞いている。

「演劇部だったんだ。地区大会に出たこともあるよ。」

と、答えている。どこまで本当なのかがかなり気になったけど、

「さっきから気になってたんだけど、杉田くんって、いつもずっと本読んでるの?」

と、探りを入れ始めた。

「あ、うん。いつもあんな感じ。あんまり話す人いないみたいだし。」

と、答えた西口さんに、沼田さんが、

「リコ、多部さんだっけ?次は体育だよ。移動しないと、男子着替え始めちゃう。」

と、声をかけた。西口さんが、

「そうだね。2組行こっか。」

と、言って動き始め、すぐに沼田さんに、

「ねー、多部さんに、杉田のこと聞かれたんだけど。」

と、小声で耳打ちした。コソコソと話している気でも、男子がほとんどのこの教室では丸聞こえだ。その言葉を聞いて、ナナちゃんに向き直って沼田さんが、

「多部さん、杉田くんと知り合いなの?」

と、聞いた。

「いや、家が近いだけ。」

と、答えている間に二人に連れて行かれてしまった。あれから何を話していたんだろう。1日中気になっていたけど、聞いたら、盗み聞きしていたのがバレて恥ずかしいから、そんな話題に持って行くなんて、僕にはできなかった。それに、学校でのこの状況。家でこの話題なんてしたくなかった。僕の気持ちを察してかどうかは分からないけど、ナナちゃんは、学校のことは何も話さなかった。

次の日、僕は早めに学校に行くことにした。早めに支度をしていたら、ナナちゃんが、

「今日、何かあるの?」

と、聞いてきたから、

「うん。ちょっとね。」

とだけ答えて急いで出てきた。後から考えたらかなり不自然なことをしてしまった。でも、これをしてでも隠さないといけない日課がある。それは、朝の机の汚れ拭きだ。毎日、朝学校に来ると、机の上に消しカスがたくさんあったり、やたらと土埃まみれだったり、チョークのカスが散らかっていたりもする。こんなところは見られたくないから、ホームルーム前に掃除をしてから授業に臨む。

「おはよう。杉田くん、早いね。」

と、聞き覚えのある声が聞こえた。ナナちゃんが前の扉から入ってきた。

「うん。」

まだ教室には僕たち二人しかいない。

「私、昨日来たばかりだし、緊張しちゃって、早く来ちゃったんだけど。杉田くんはいつも朝こんなに早くに来てるの?ホームルームまで30分もあるよ。」

と、分かっていることをわざと聞いて来た。

「いや、今日たまたま早く起きただけ。いつもはギリギリばっかり。」

と、僕が答えた。

「そうなんだ〜。よかった〜ホッとした。」

と言って、微笑んだ。すると、向こうの方から、誰かの足音が聞こえた。

「あ、席に戻った方が…。」

僕が言い終えるより先に、西口さんが入って来た。

「お、誰かいると思ったら、多部ちゃん、早いね〜。」

と、僕も視界に入っているのに、見えないみたいに言った。これがいつもの僕のクラスだ。

「あ、ニシちゃん、おはよう。」

と、答えて、西口さんが次の話題を振る前に、

「私、かなり早く来たつもりだったんだけど、教室来たらもう杉田くんいたんだよ。びっくりしちゃった。」

と、話し出した。すると、西口さんの雰囲気がガラッと変わって、小声で何かナナちゃんに言った後、

「確かに。勉強家は違うよね。私なんて、ちょっと時間あったら寝ることしか考えてないわ。」

と、わざとらしく言った。それに気づいているのか、西口さんのテンションに合わせるようにナナちゃんも微笑んで頷く。その後も二人は雑談を続け、僕はそれに耳を傾けつつ、問題集を解いていると見せかけて眺めていた。だんだん空いている席が埋まり始め、ホームルームの時間が近づいているのが雰囲気でわかった。そろそろ課題の提出をしないといけない。カバンを持って廊下に出る。教室の入り口前でナナちゃんと西口さん、沼田さんのグループにすれ違った。真横を通る西口さんは、すれ違う瞬間、僕の耳元で、

「邪魔だ、死ね」

と、低い声で呟いた。僕がハッとしたのを見て気づいたのか、聞こえていたのかはわからないけど、ナナちゃんは、西口さんの腕を掴んで、

「ニシちゃん、今日学食行く?」

と、どうでもいいことを言って話をそらした。これもいつものことだ。西口さんはナナちゃんとか他の人には笑顔で接するのに、僕の前だけ違う表情を見せる。このクラスの奴らはみんなそんなもんだと思っているし、半年も過ぎたら、もう慣れてしまった。でも、昨日来たばかりのナナちゃんには慣れる前に戸惑うだろうな。

「リコ、これから何する?」

沼田さんの声が、かなり遠くから聞こえた。

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