No.21 理不尽な王への怒り
目的の場所につき、正式な爆発方法である爆弾の魔方陣に傷をつける、ということを行った後、投げた。
しかし、何秒経っても爆発しなかった。五分経っても爆発しなかったので、不発弾らしかった。
「はぁぁぁああああ!?こっちも不発弾!?」
「みたいだな」
という結論を出しても、万が一の時のためある程度の間合いはとっていた。
不発弾と言えど、衝撃を与えれば爆発する確率は大いにあるのだ。
つまりあれは、危険物体Xということだ。
「……不発弾を爆発させる魔法とかないわけ?」
「…あるかも知れないが、俺は知らないな」
「適当に魔法かけたら爆発する?」
「かもな」
とか言ってみたが、今の俺に魔法は使えない。
使えるっちゃ、使えるらしいんだけど、まだその方法が分からないのだ。
というか、まだ試したことがなかった。
「……なぁ、炎系の魔法で一番基礎的なやつって、どうしたら使える?」
「基礎的……?一番、威力が弱いという意味か?」
「そーそー」
「それなら"第一火術:火炎"のことだな」
オズウェルはそう言って、手を前に差し出した。そして掌を空に向ける。
急すぎるその行動に俺はついて行けず、怪訝な表情でその行動を見守った。
すると次の瞬間、掌の10cm程上空に本が現れた。
その本は重力に従い、オズウェルの手に落ちる。そして自然にあるページが開く。
――この一連の光景。
もう慣れたと思っていたけど、そうでもなかったらしい。
未知のもの――いや本当に未知のものだけど――を見たかのように、俺は眼を瞬かせた。
「ほら、ルイチ」
「え?」
「え?…って、お前なぁ……」
本を覗き見てみると、さっき言っていた火炎の使い方が書いてあるようだった。
なるほど、俺のために出してくれたのか。
その本によると、ワーダライトの火の魔法は弱い位順に、"火炎""猛火""烈火""狂炎"の四種類がスタンダードなようだ。
火の最強魔法で"火難火葬"なんていうものがあるみたいだけど。
「う~ん……、イメージって?」
「火の魔法を使う場合は、火をイメージするんだ。今回は火炎だから、弱い火でいいぞー」
「………火、ねぇ」
「うん?なんだ、見たことないのか?」
「見たことくらいあるに決まってるだろ!」
いやまぁ、イメージの方はこの際どうでもいいや。
問題はそれ以外にあるのだから。
予想はしてたよ、予想は!!
ゲームとか漫画とかでも、コレは付き物だし!姉貴もなんか喚いてたし!
でも、現実で本気でやったら、痛くね!?
「なぁなぁ、オズウェル。これってやっぱり……」
「当たり前だろ?」
「呪文とか、恥ずすぎるって……!」
「呪文は無意味に思えて、結構重要なんだぞ?」
「うんまぁ、この本にもそう書いてあるけど……」
簡単に言うと言霊ってやつ。
魔力を整え、魔法を安定させる役割があるみたいだ。しかも、威力も変わるようで。
確かに、とても重要。でもハズい。
"朱の象徴、朱の源、今此処に集え、火炎"
うん、シュール。
「……しゃーない。呪文は許容しようじゃないか。だけど!この手の動きはなんだよ!」
「魔力の集約と道標の役割を持っているんだが?」
「イタイわー」
「十字を切るだけだろー」
「傍から見たら、イタイんだよっっ!」
空中に人差し指と中指で十字を描く。
何も無い空中に行う、一見何の生産性もない無意味な行動。詳しく言うと、意味はあるようだが。
元いた世界から見ると、異形。
この世界では、普通。
俺は元の世界にいた期間の方が確然として長いのだから、異形に見える。
「まぁまぁ、文句ばっか言ってないで、一度やってみたらどうだ?」
「…そう、だな」
軽く咳払いをする。
気恥ずかしいが、好奇心がそれに勝ってきた。
「えーっと…、朱の象徴、朱の源、今此処に集え、火炎!」
と、なかなかな棒読み加減で言った後、少し気後れしながらも、空中で十を切った。
すると、炎が十を切った場所から現れ、一直線に爆弾の方へと向かった。それはもう、もの凄い速さで。
炎が爆弾に到ったとき、一瞬変な音が鳴った。
何とも言えない、今まで聞いたことのないような音。
しかし、その音に俺が疑問を持つ前に、オズウェルが叫んだ。
「やばい……!!砂漠の盾!!」
「え……?」
オズウェルに強く腕を引かれた。
目の前に何やら大きなものが現れ、俺とオズウェルの前に佇んだ。
同時に、雷鳴のように爆弾が爆発する音が轟いた。
手榴弾のように小型な爆弾が、これ程までに爆音を発するのか。
そんな疑問が頭に浮かぶと同時に、もの凄い熱風と衝撃が襲い掛かった。
吹き飛ばされるのではないかと思う程の威力。
しかし、オズウェルが腕を掴んでいてくれたので、そんな事態にはならなかった。
目の前にある物体が、盾の役割をしているようだ。
そんな盾は、めしめしと不気味な音を立てていた。
永遠続くのかと思われた破壊の現象は、五秒もしない内に終了した。
が、俺の心臓は、十秒たっても元の速さには戻らなかった。
しばらくすると目の前の盾らしきものは、ばらばらと崩れていき、最終的に砂になって何処かへ地面へと落ちた。
手で掬ってみたが、一見するとただの砂のようだった。
多分、オズウェルが魔法で出したものだったのだろう。
「…な、んだったんだ……?」
「……忘れてた」
「はい?」
「いや、なんでもない」
「……一先ず、任務完了でオーケー?」
「まぁ、威力は規格外だったが、成功だろう」
なんとなく後味が悪い感じで終息したが、当初の目的は達成したので良しとした。
が、零矢だけは許さない、と心の中で決めた。
何故なら俺がこんな目にあってるのは、零矢のせい、で大体あってる気がするからだ。
こっちは死にそうになったんだから、あの憎き顔面にこの拳を一発くらいはめり込ませても、文句はあると思うがないことにしておこう。
なんていう怒りをふつふつと溜め込みながら、城に帰還したのだった。