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家にいる人  作者: 亀


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第九十一章 帰ってきた人

十二月の中旬、劉の妹がやってきた。


昼過ぎ、玄関の外で車が止まる音がした。


劉が急いで外へ出る。


「来たの?」


「うん。道が少し混んでた。」


妹は小さな旅行鞄を持っていた。


周も玄関まで出た。


「久しぶり。」


「お久しぶりです。」


「そんなにかしこまらなくていいだろ。」


妹は笑った。


「姉さん、変わらないね。」


「あなたも変わらないよ。」


「そう?」


「少し太った。」


「やっぱり?」


三人で笑った。


妹の荷物を部屋へ運ぶ。


泊まる部屋には、朝干した布団が敷いてある。


「布団、干したの?」


「昨日ね。」


「ありがとう。」


妹は鞄から小さな袋を取り出した。


「これ、お土産。」


中には地元のお菓子が入っていた。


「わざわざ買わなくてもいいのに。」


「近くで買っただけ。」


「そう。」


劉は袋を受け取った。


夕飯まで時間があったので、三人で居間に座った。


妹は最近の仕事の話をした。


同じ職場に長くいるが、部署の人間が何人か変わったらしい。


「若い人が入ってきたんだけどね。」


「仕事できる?」


「まだ分からないよ。入ったばかりだから。」


「最近の若い人は……」


劉が言いかけて、少し止まった。


妹が笑った。


「何?」


「いや、何でもない。」


周はそのやり取りを見ていた。


以前なら、そこから誰かの話を長くすることもあった。


誰がどうした。


誰の子どもがどうした。


どこの家がどうなった。


今は、話がそこまで続かないことも増えた。


夕方、劉と妹が台所で料理をしている間、周は近所へ買い物に出た。


角の食堂の前を通る。


店は昼の営業を終えて、入口が閉まっていた。


その隣の道で、宅配の自転車が止まっている。


若い男性がスマートフォンを見ながら、誰かと電話していた。


「今向かってる。あと十分くらい。」


周は通り過ぎた。


スーパーで魚を買う。


帰りに、八百屋の前で知り合いの女性に会った。


「周さん。」


「こんにちは。」


「今日は魚?」


「うん。」


「妹さん、来てるんでしょう?」


「そう。」


「久しぶりね。」


「一年ぶりくらいかな。」


「いいね。姉妹って。」


女性は笑った。


「うちは兄弟みんな遠くにいるから、なかなか会わないよ。」


「電話は?」


「電話はする。でも、会うのとは違うね。」


周は頷いた。


「そうだな。」


女性は野菜を選びながら言った。


「でも、毎日会ってた頃は、こんなに話さなかったけどね。」


周は少し笑った。


「近くにいると、いつでも会えると思うからな。」


「そうそう。」


二人はそこで別れた。


家に帰ると、台所から料理の匂いがしていた。


「魚買ってきたよ。」


「そこ置いて。」


妹が答えた。


「何作ってる?」


「鍋。」


「また鍋か。」


劉が振り返った。


「寒いからいいでしょう。」


「そうだな。」


三人で夕飯を食べた。


昔の話がいくつか出た。


劉と妹が子どもの頃の話。


二人が親と一緒に暮らしていた頃の話。


周が初めて妹に会った頃の話。


「姉さん、昔から口うるさかったよね。」


「あなたが何もしなかったからでしょう。」


「そうだっけ?」


「そうよ。」


周は笑った。


「二人とも変わらないな。」


「周さんもね。」


妹が言った。


「何が?」


「姉さんに言われたこと、いつも最後まで聞いてる。」


劉が笑った。


「昔は聞いてなかったよ。」


「そうなの?」


「聞いてるふりしてた。」


三人で笑った。


食事が終わると、妹が皿を洗おうとした。


「置いといて。」


劉が言う。


「私がやるよ。」


「いいから。」


「じゃあ、周さんがやれば?」


妹が周を見る。


「俺?」


「三人いるんだから、誰でもいいでしょう。」


周は立ち上がった。


「じゃあ、俺がやる。」


「珍しい。」


「何でだよ。」


また笑い声が出た。


夜、妹が先に部屋へ入ったあと、劉と周は居間に残った。


「楽しかったね。」


「そうだな。」


「妹、前より少し変わったと思わない?」


「そうか?」


「前はもっと人のことを気にしてた。」


「今も気にしてるだろ。」


「でも、前ほどじゃない。」


周は少し考えた。


「人は少しずつ変わるからな。」


「そうね。」


しばらくテレビを見た。


やがて劉が言った。


「明日、妹を駅まで送る?」


「本人が一人で行けるなら、いいんじゃないか。」


「そうだけど。」


「聞いてみればいい。」


翌朝、妹に聞くと、


「一人で大丈夫。」


と言った。


「駅まで行くよ。」


「大丈夫だって。」


「そうか。」


「また来るから。」


劉は少し寂しそうな顔をした。


「今度はもう少し長くいればいいのに。」


「仕事があるから。」


「そうだね。」


朝食を食べたあと、妹は荷物をまとめた。


玄関で靴を履く。


「じゃあ、また。」


「気をつけて。」


「姉さんも。」


周にも頭を下げる。


「ありがとうございました。」


「また来ればいい。」


妹は笑って外へ出た。


車が見えなくなるまで、劉は玄関先に立っていた。


周が言った。


「寒いから入ろう。」


「うん。」


二人で家に戻る。


客が帰ったあとの部屋は、昨日より少し広く感じた。


布団はまだ敷いたままだった。


劉がそれを見て、


「片付けようか。」


と言った。


「少し置いておけばいい。」


「どうして?」


「また誰か来るかもしれない。」


劉は周を見た。


「息子?」


「息子とは限らないだろ。」


「そうね。」


二人で笑った。


昼過ぎ、周は布団を畳んだ。


物置へ戻す。


その途中で、棚の上に置いてある息子の写真が目に入った。


先月届いた、知らない町の夕方の空。


周は一度手に取った。


それから元の場所へ戻した。


来月には息子が帰ってくる。


一泊だけ。


その一泊のために、特別なことを準備する必要はない。


いつもの布団を出して、いつもの食事をする。


話したいことがあれば話す。


話さないことは、そのままでもいい。


家族だからといって、全部を知っている必要はない。


周は物置の扉を閉めた。


午後、劉が言った。


「妹から連絡来た。」


「もう着いた?」


「まだ。駅に向かってるって。」


「そうか。」


「また来るって。」


「それならいい。」


劉は携帯を置いた。


窓の外を見る。


冬の午後の日差しが、庭の一部だけを照らしていた。


しばらく二人とも何も言わなかった。


昨日まで三人だった家が、また二人になった。


それでも、昨日の話が消えたわけではない。


人が帰っていく。


また来る。


来られないこともある。


それぞれの場所に戻っていく。


周は湯を沸かした。


劉が湯呑みを二つ出す。


いつもの二人分だった。


それを見て、周は少し笑った。


「何?」


「いや。」


「変なの。」


「何でもない。」


湯気が静かに上がっていた。


外では、風に枯れ葉が一枚だけ動いた。


周は湯呑みを手に取った。


家の中には、またいつもの時間が戻っていた。

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