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家にいる人  作者: 亀


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第六十六章 いつものように

土曜日の朝、息子から電話が来た。


「父さん、今日、やっぱり行けない」


周は台所で湯を沸かしていた。


「仕事?」


「うん。昨日、急に予定が変わって」


「そうか」


「来週なら行けると思う」


「分かった。無理しなくていい」


電話を切ったあと、周はしばらく立ったままだった。


劉が居間から聞いた。


「来ないの?」


「今日は来られないって」


「そう」


劉は少し残念そうだった。


昨日から魚を買うかどうか考えていた。


「じゃあ、魚は?」


「まだ買ってないだろ」


「冷蔵庫にあるよ」


「それなら今日食べればいい」


劉は冷蔵庫を開けた。


「二人じゃ多いかな」


「残ったら明日食べればいい」


それで話は終わった。


以前なら、周は息子に何度も聞いていたかもしれなかった。


「本当に仕事なのか」


「いつになったら来られる」


「仕事ばかりして大丈夫なのか」


そんなことを考えた。


けれど、今は電話が終われば、それ以上は追わなかった。


昼過ぎ、周は近所の市場へ出た。


帰り道、張に会った。


「周さん、買い物?」


「そう」


「息子さん、帰ってきた?」


「今日は仕事で来られなくなった」


張はうなずいた。


「うちも似たようなもんだ」


張の息子は最近、別の町で働いていた。


以前は月に一度くらい帰ってきていたが、最近は二か月に一度になった。


「忙しいの?」


「そうらしい」


「張さん、前はもっと心配してたよな」


「今も心配してるよ」


張は笑った。


「ただ、心配しても帰ってくるわけじゃないからな」


「そうだな」


二人は道端に立ったまま、少し話した。


張は最近、息子から連絡が来ない日が続いても、自分から何度も電話しなくなったという。


「最初は、何かあったんじゃないかと思ってた」


「分かるよ」


「でも、一日二日連絡がないくらいで何か決まったわけじゃない」


周はうなずいた。


「連絡がないことと、悪いことが起きたことは同じじゃないからな」


「そう」


張は買い物袋を持ち直した。


「でも、母親のほうはまだ電話する」


「うちも同じだ」


二人は笑った。


家に戻ると、劉が魚を焼いていた。


「張さんに会った」


「何か言ってた?」


「息子があまり帰ってこないって」


「みんな忙しいね」


「そうだな」


劉は魚を裏返した。


しばらくして、


「でも、帰ってきたら帰ってきたで、今度は何を食べさせるか考えるんだよね」


と言った。


周は笑った。


「それも心配の一つだろ」


「心配というより、癖かもしれない」


劉はそう言って、魚を皿に移した。


二人で昼食を食べた。


午後、周は庭に出た。


昨日掘った場所を見ていると、劉が後ろから来た。


「結局、何を植えるの?」


「まだ決めてない」


「昨日からそればっかり」


「そのうち決める」


劉は土を見た。


「昔、息子が小さいときも、こうだったね」


「何が?」


「何かを始めると、途中で別のことをやりたがった」


周は笑った。


「そうだったな」


「あなた、よく怒ってた」


「俺も覚えてる」


「『最後までやれ』って」


周は黙った。


確かに、何度も言った。


宿題。


習い事。


受験勉強。


途中でやめようとするたびに、


「始めたなら最後までやれ」


と言った。


その言葉が間違っていたとは、今でも思わなかった。


ただ、すべてのことに同じ言葉を使えばいいわけではない。


続けることが必要なときもある。


やめたほうがいいときもある。


本人にしか分からないこともある。


「今だったら、あまり言わない?」


劉が聞いた。


「分からない」


周は答えた。


「そのときにならないと」


劉はうなずいた。


その日の夕方、息子から短いメッセージが届いた。


「今日は急に仕事が入ってごめん。来週はたぶん大丈夫」


周は少し考えてから、


「気にしなくていい。仕事があるなら、そっちをやればいい」


と返した。


しばらくして、


「ありがとう」


と返ってきた。


周は携帯を置いた。


その夜、テレビでは誰かが料理を作っていた。


劉は画面を見ながら、


「これ、簡単そう」


と言った。


「作るの?」


「分からない」


「じゃあ、作らなくてもいい」


「そうね」


二人はテレビを見続けた。


息子が来る予定は、また一週間先になった。


庭には、まだ何も植わっていない。


けれど、周が掘った土は、昨日より少し柔らかくなっていた。

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