第六十二章 帰り道
十二月のある夕方、周は市場からの帰り道で、昔の同僚に会った。
相手の名前は李だった。
二人は同じ現場で働いていたことがある。
李は今、近くの小さな工場で働いているという。
「まだあそこで働いてるのかと思ったよ」
李が言った。
「もう辞めたよ。体がついてこなくなった」
「そうか」
二人は歩きながら話した。
李は最近、息子と少し揉めたという。
「仕事を変えたいって言うんだ」
「今の仕事が嫌なのか?」
「よく分からない。本人もはっきり言わない」
周は何も言わなかった。
李は続けた。
「俺としては、せっかく見つけた仕事なんだから、もう少し続ければいいと思うんだけどな」
「そう言ったのか?」
「言ったよ」
「息子は?」
「黙ってた」
李は少し笑った。
「昔の俺も、親父に同じことを言われたよ」
周も笑った。
「じゃあ、今度は自分が言う番か」
「そういうことだな」
二人はしばらく歩いた。
交差点のところで、李が足を止めた。
「でもな、周さん。最近ちょっと分からなくなってきたよ」
「何が?」
「俺が心配してるのか、それとも、自分の言ったことを聞いてほしいだけなのか」
周は答えなかった。
李も、それ以上は話さなかった。
信号が変わる。
二人はそれぞれ別の道へ進んだ。
家に帰ると、劉が夕食の準備をしていた。
「遅かったね」
「李さんに会った」
「誰?」
「前に工場で一緒だった人」
「まだ働いてるんだ」
「うん」
周は手を洗った。
夕食を食べながら、李の息子の話をした。
劉は箸を動かしながら、
「仕事を変えるって、簡単じゃないね」
と言った。
「そうだな」
「でも、続けるのも簡単じゃない」
周は少し笑った。
「それもそうだな」
二人はそれ以上、結論を出そうとはしなかった。
食事のあと、劉は洗った皿を片付けた。
周は玄関に置いてあった古い靴を見つけた。
靴底が少し剥がれている。
「これ、もう捨てるか」
「まだ履けるよ」
「でも、もう古い」
「じゃあ、次の靴を買ってからにしよう」
「そうだな」
周は靴を元の場所に戻した。
外では、自転車の音が通り過ぎていった。
誰かが仕事から帰ってきたのだろう。
誰かは仕事を続ける。
誰かは辞める。
誰かは家に帰る。
誰かは帰らない。
周は以前なら、そういう話を聞くたびに、どちらがいいのか考えていた。
今は、そう簡単には決められないと思う。
同じ仕事でも、働く人によって事情が違う。
同じ家でも、そこで暮らす人によって考えていることが違う。
夜、周の息子から短いメッセージが届いた。
「今日は少し早く終わった」
周は、
「そうか。ゆっくり休め」
と返した。
少しして、
「そっちもね」
と返ってきた。
周は携帯電話を置いた。
劉がテレビを見ながら言った。
「息子から?」
「うん」
「何だって?」
「今日は早く終わったって」
「そう」
それだけだった。
テレビの音が部屋に流れていた。
周は湯を沸かし、二人分の茶を入れた。
外はもう暗い。
明日になれば、またそれぞれの仕事や用事が始まる。
今日話したことが、明日には何も変えないこともある。
それでも、人は時々誰かと話し、また自分の生活に戻っていく。
周も茶を飲みながら、明日の買い物のことを考えていた。




