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家にいる人  作者: 亀


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第三十八章 老いていくこと

秋になった。


周の髪に白いものが増えていた。


本人はあまり気にしていなかったが、劉は時々、


「最近、白髪が増えたね」


と言った。


「年だからな」


「まだそんな年じゃないでしょう」


「じゃあ、何歳になったら年なんだ?」


劉は笑った。


「知らないわよ」


二人は朝食を食べながら、そんな話をしていた。


その日、周は病院へ行った。


大きな病気ではなかった。


以前から少し痛かった腰を診てもらうためだった。


帰ってくると、劉が聞いた。


「どうだった?」


「大したことない」


「薬は?」


「少し出た」


「ちゃんと飲んでよ」


「分かってる」


林は仕事から帰ってきて、その話を聞いた。


「病院行ったの?」


「腰を見てもらっただけだ」


「大丈夫?」


「大丈夫だ」


林は父親の顔を見た。


以前より少し疲れて見えた。


「無理しないでよ」


周は笑った。


「お前に言われるようになったか」


「俺だって心配するよ」


「そうか」


それだけだった。


夕食のあと、三人でテレビを見ていると、親戚から電話があった。


劉が出た。


「うん……そうなの」


しばらく聞いていた。


「子どもがいるから安心って?」


劉は少し黙った。


「そうね……」


電話を切ったあと、林が聞いた。


「何の話?」


「親戚の人がね、子どもがいれば老後も安心だって」


「そういう話?」


「うん」


周はテレビを見たまま言った。


「昔は俺もそう思ってたな」


林が父親を見る。


「今は?」


周は少し考えた。


「分からない」


「どうして?」


「子どもがいたって、遠くに住むかもしれないだろ」


林は黙った。


「仕事があれば仕事をする。家庭があれば家庭がある。病気になれば病院に行く。そういうことを考えたら、子どもがいるから全部安心ってわけでもないだろ」


劉が言った。


「でも、帰ってきてくれたら嬉しいでしょう?」


「そりゃ嬉しい」


周は笑った。


「それと、帰ってこなきゃいけないっていうのは別だろ」


林は何も言わなかった。


その言葉は、以前なら父親から聞くとは思わなかった。


翌週、林は親戚の家に行った。


そこには、以前話していた娘も来ていた。


「お父さん、最近病院行ったんだって?」


娘が父親に聞いていた。


「ああ。大したことない」


「無理しないでね」


「分かってる」


息子も隣にいた。


「来月、病院の日は俺が車出すよ」


「仕事は?」


「その日は休みを取る」


娘が言った。


「じゃあ、私も一緒に行く」


息子は少し考えた。


「二人で行かなくてもいいだろ」


「でも、私も行きたい」


「分かった」


二人の間で、それ以上の話はなかった。


林は少し離れたところから見ていた。


息子も娘も、それぞれ親のことを考えている。


住んでいる場所も違う。


仕事も違う。


親との関わり方も違う。


それでも、それぞれのやり方で関わっていた。


帰り道、林は父親に電話をした。


「もしもし」


「どうした?」


「何でもない」


「何でもないなら電話するなよ」


「いや、ちょっと声聞こうと思って」


電話の向こうで、周が笑った。


「変なやつだな」


「そう?」


「そうだ」


少し黙ってから、林が言った。


「父さん」


「ん?」


「将来、俺が遠くに住んだらどうする?」


「別にどうもしない」


「寂しくない?」


「寂しいだろうな」


「じゃあ、帰ってきてほしい?」


周は少し考えた。


「帰ってきたいときに帰ってくればいい」


「父さんから呼ばないの?」


「呼ぶかもしれない」


林は笑った。


「結局呼ぶんじゃん」


「親だからな」


二人は笑った。


電話を切ったあと、林はしばらく歩いた。


親が年を取っていく。


自分も年を取っていく。


それは、子どもがいるかどうかとは別の話だった。


誰かに頼りたいと思うこともある。


誰かに頼られたくないと思うこともある。


一人でできることもあれば、一人では難しいこともある。


家族だからといって、すべてを引き受けられるわけではない。


それでも、できることをする人もいる。


林はまだ、自分が将来どうするのか分からなかった。


結婚するかもしれない。


しないかもしれない。


子どもを持つかもしれない。


持たないかもしれない。


親の近くに住むかもしれない。


遠くに住むかもしれない。


今の仕事を続けるかもしれない。


別の仕事をするかもしれない。


どれも、まだ決まっていなかった。


家に帰ると、母親が夕食の準備をしていた。


「おかえり」


「ただいま」


「今日は遅かったね」


「ちょっと寄り道してた」


「そう」


林は手を洗った。


母親が聞いた。


「明日は仕事?」


「うん」


「じゃあ、早く食べなさい」


「分かった」


いつもの夕食だった。


特別なことは何もなかった。


ただ、食卓に三人がいる時間が、いつまでも同じ形で続くわけではないことを、林は少しだけ考えていた。


それでも、そのことを悲しいことだとは決めなかった。


時間が過ぎれば、生活の形も変わる。


そのときになれば、そのときの人たちが、そのときの生活を考える。


夕食のあと、周は薬を飲んだ。


劉が、


「ちゃんと飲んだ?」


と聞いた。


「飲んだよ」


「本当に?」


「本当だ」


林は二人の会話を聞きながら笑った。


父親は少し面倒そうな顔をした。


母親はいつものように確認している。


何年も続いてきた、普通のやり取りだった。


その夜も、特別な答えは出なかった。


ただ、それぞれが明日の生活を考えながら、いつものように眠った。

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