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家にいる人  作者: 亀


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第二十四章 決まったあと

面接から五日後の午後だった。


林は家にいた。


スマートフォンを机の上に置いたまま、求人サイトを見ていた。


通知が鳴った。


メールだった。


林は画面を開いた。


採用の連絡だった。


しばらく、その文字を見ていた。


何度か読み返してから、ようやく意味を理解した。


「採用……か」


小さな声が出た。


母親が台所から来た。


「どうしたの?」


林はスマートフォンを見せた。


「仕事、決まった」


母親は一瞬黙って、それから笑った。


「本当に?」


「うん」


「よかったね」


「うん」


母親は何度も頷いた。


「お父さんにも言ってあげなさい」


父親は庭にいた。


林が声をかけると、振り返った。


「どうした?」


「採用された」


父親は少し驚いた。


「決まったのか?」


「うん」


「そうか」


父親は笑った。


「よかったな」


それだけだった。


林は少し意外だった。


もっと何か言われると思っていた。


給料のこと。


仕事の内容。


いつから働くのか。


続けられるのか。


けれど、父親は何も聞かなかった。


少ししてから、


「いつから?」


とだけ聞いた。


「来週の月曜日」


「そうか」


父親は頷いた。


「じゃあ、それまでに準備しておけ」


「うん」


夕方、近所の人が家の前で父親に声をかけた。


「林くん、仕事決まったんだって?」


父親は笑った。


「うん。来週からだ」


「よかったねえ。やっと安心だ」


父親は少し黙ってから、


「まあ、本人が頑張るしかないけどな」


と答えた。


林はその言葉を聞いていた。


以前なら、父親が自分のことをどう話しているかを気にしていたかもしれない。


今は、少し違った。


父親が何を言うかより、自分が来週からどう働くかのほうが気になった。


その夜、三人で夕食を食べた。


母親は久しぶりに料理を多く作った。


「今日は少し多いな」


父親が言った。


「仕事が決まったんだからいいでしょう」


「そうだな」


林は笑った。


食事の途中で、父親が聞いた。


「給料はいくらなんだ?」


林は答えた。


「手取りだと、そんなに多くないと思う」


「そうか」


「最初はね」


父親は少し考えた。


「続けてみないと分からないな」


「うん」


母親が言った。


「仕事が決まったんだから、これで少し安心ね」


林は箸を動かしながら、


「うん」


と答えた。


でも、完全に安心したわけではなかった。


採用された。


それは事実だった。


しかし、仕事を続けられるかどうかはまだ分からない。


人間関係も分からない。


実際の仕事が自分に合うかも分からない。


給料だけで生活できるのかも、まだ計算していない。


林は食事が終わったあと、自分の部屋で給与の金額を紙に書いた。


家に入れるお金。


交通費。


携帯電話。


食費。


必要なものを一つずつ計算する。


思っていたより余裕はなかった。


それでも、以前とは違った。


「何もない」状態ではなくなった。


来週から仕事がある。


自分で稼ぐお金がある。


そして、自分で考える必要がある。


林は紙を見ながら、少しだけ不安になった。


それから、その不安をそのままにして、明日の予定を書いた。


健康保険のことを確認する。


通勤経路をもう一度確認する。


初日に必要なものを準備する。


そして、朝起きる時間を決める。


翌朝。


林は久しぶりに目覚ましをセットした。


午前六時半。


画面を確認して、スマートフォンを置いた。


まだ仕事は始まっていない。


だから、生活が変わったとは言えなかった。


ただ、来週から少し変わる。


それだけだった。

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