第二十章 返事のない日
林は、次の日から求人を探し始めた。
朝起きて、携帯を開く。
求人サイトを見る。
条件を見る。
給料を見る。
勤務地を見る。
そして、画面を閉じる。
「経験者優遇」
「三年以上の経験」
「若手歓迎」
「長期勤務できる方」
似たような言葉が並んでいた。
林は自分の履歴書を開いた。
仕事をいくつか変えている。
空白の期間もある。
何を書けばいいのか分からなかった。
それでも、一件応募した。
翌日、面接の連絡が来た。
久しぶりだった。
林は少し安心した。
母親にも言った。
「明日、面接に行く」
母親は笑った。
「そう。よかったね」
父親も、
「どこの会社だ?」
と聞いた。
林は会社の名前を答えた。
父親は、
「ちゃんと話してこいよ」
と言った。
それだけだった。
翌朝、林は少し早く家を出た。
面接には予定より早く着いた。
受付で名前を伝え、椅子に座って待った。
担当者が来た。
履歴書を見ながら、いくつか質問をした。
前の会社を辞めた理由。
仕事を続けられなかった理由。
空白期間。
希望する給料。
林はできるだけ正直に答えた。
面接が終わる頃、担当者が言った。
「結果は後日連絡します」
林は頭を下げた。
「ありがとうございました」
会社を出ると、外は晴れていた。
けれど、林の気持ちは軽くならなかった。
駅まで歩きながら、何度も面接の内容を思い返した。
あの答えでよかったのか。
もっと違う言い方があったのではないか。
前の仕事を辞めた理由を、どう説明すればよかったのか。
家に帰ると、母親が聞いた。
「どうだった?」
「普通」
「何か言ってた?」
「結果は後で連絡するって」
父親はテレビを見ていた。
林は自分の部屋に戻った。
三日経った。
電話は来なかった。
五日経った。
まだ来なかった。
一週間後、メールが届いた。
不採用だった。
林は画面を見たまま、しばらく動かなかった。
理由は書かれていなかった。
ただ、
「今回はご希望に添えない結果となりました」
とだけ書いてあった。
林は携帯を伏せた。
その日の夕食は静かだった。
父親が、
「どうだった?」
と聞いた。
林は答えなかった。
「面接したところ」
「駄目だった」
「そうか」
父親はそれ以上言わなかった。
しばらくして、
「次を探せばいい」
と言った。
林は顔を上げた。
「分かってるよ」
少し強い言い方になった。
父親は黙った。
母親も黙った。
林は箸を動かしながら、
「俺だって、何もしてないわけじゃない」
と言った。
父親は何も言わなかった。
食事が終わったあと、林は外に出た。
村の道を歩いた。
街灯は少なく、遠くの家からテレビの音が聞こえていた。
周の家の前を通ると、周が庭に出ていた。
「林」
「こんばんは」
「どうした?」
「ちょっと歩いてます」
周は何も聞かなかった。
林が自分から言った。
「面接、落ちました」
「そうか」
「はい」
少し沈黙した。
「次、探します」
「うん」
「でも……」
林は言葉を止めた。
周は待った。
「何をしても、うまくいかない気がしてきます」
周はすぐには答えなかった。
「そう思う日もあるだろ」
「周さんもありました?」
「あったよ」
「本当に?」
「本当だ」
周は笑った。
「ただ、俺の時代は、今とは違うからな」
林も笑った。
「そうですよね」
二人はしばらく黙っていた。
周は、
「仕事が見つからないことと、お前自身に価値がないことは、同じじゃない」
と言いかけた。
けれど、その言葉が少し大きすぎるように感じて、途中でやめた。
代わりに、
「今日はもう休め」
と言った。
林は頷いた。
「ありがとうございます」
家に帰ると、父親はまだ起きていた。
林が部屋へ向かおうとすると、
「林」
と呼ばれた。
「何?」
父親は少し迷ってから、
「明日も探すのか?」
と聞いた。
林は答えた。
「うん」
「そうか」
父親はそれ以上言わなかった。
林も部屋に入った。
机の上には、まだ求人票が残っている。
不採用のメールも携帯の中に残っている。
何も解決していない。
次の仕事が見つかる保証もない。
父親も、林がいつ仕事を見つけるのか分からない。
林自身にも分からない。
それでも、翌朝になれば、また求人を見る。
応募するかどうか考える。
面接に行く。
断られるかもしれない。
また探すかもしれない。
途中で疲れて、何日か何もしないかもしれない。
それもまだ分からなかった。
ただ一つだけ、
林はその夜、自分の携帯に求人サイトを一つ保存した。
そして、電気を消した。
家の中は静かだった。
誰も未来を決めていなかった。
そのことだけが、今の林には少しだけ楽だった。




