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家にいる人  作者: 亀


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第十九章 家にいる時間

李さんの甥が、村に戻ってきてから三か月が過ぎた。


名前は林だった。


二十八歳だった。


大学を卒業してから、町の会社で働いていた。


最初の会社は二年で辞めた。


次の会社は一年も続かなかった。


その後、別の仕事をいくつか経験した。


どれも長く続かなかった。


本人にも、理由を一つにまとめることはできなかった。


給料が低かった。


仕事が合わなかった。


人間関係がうまくいかなかった。


通勤が遠かった。


会社のやり方に納得できなかった。


それぞれに理由はあった。


けれど、仕事を辞めるたびに、次の仕事を探すことは少しずつ難しくなっていった。


そして今、林は実家にいた。


朝起きる。


朝食を食べる。


携帯を見る。


求人を見る。


応募する。


返事を待つ。


返事が来ない。


昼になる。


また携帯を見る。


夜になる。


親から、


「今日は何か見つかったのか」


と聞かれる。


「まだ」


それだけ答える。


次の日も同じだった。


ある朝、父親が言った。


「いつまでこうしているつもりだ」


林は箸を止めた。


「探してるよ」


「探してるって言うけど、もう三か月だぞ」


「分かってる」


「だったら、何でもいいから働けばいいだろ」


林は黙った。


母親が横から言った。


「あなたのお父さんも心配してるのよ」


林は小さく息を吐いた。


「俺だって心配してるよ」


「だったら……」


「分かってるって」


声が少し大きくなった。


食卓が静かになった。


林はそれ以上何も言わず、部屋に戻った。


父親は箸を置いた。


「何だ、あの態度は」


母親は答えなかった。


しばらくして、


「本人もつらいんじゃない?」


と言った。


「つらいからって、何もしなくていいのか」


「そういう意味じゃないでしょう」


「じゃあ、どういう意味だ」


母親も黙った。


二人とも、どうすればいいのか分からなかった。


その日の午後、林は外に出た。


目的地はなかった。


村の道を歩いていると、周と会った。


「林か」


「こんにちは、周さん」


「仕事はどうだ?」


林は一瞬、答えに迷った。


「まだ探してます」


「そうか」


周はそれ以上聞かなかった。


林は少し意外そうな顔をした。


「周さん、何も言わないんですね」


「何を?」


「早く仕事を探せとか」


周は笑った。


「俺が言ったところで、仕事が見つかるわけじゃないだろ」


林も少し笑った。


「そうですね」


二人は少し歩いた。


林が言った。


「でも、家にいると毎日言われるんです」


「親に?」


「はい」


「心配なんだろうな」


「分かってます」


林はそう言ってから、少し黙った。


「でも、分かってるからって、苦しくなくなるわけじゃないですよ」


周は答えなかった。


「仕事がないことも苦しいです。自分でも何をしたいのか分からなくなってくるし。そこに毎日、いつまで家にいるんだって言われると……」


林は言葉を止めた。


周はしばらく歩いてから、


「お前は、どうしたいんだ?」


と聞いた。


「分かりません」


林はすぐに答えた。


「本当に分からないんです」


周は頷いた。


「そういう時もあるだろ」


林は周を見た。


「周さんは、そういう時ありました?」


「あるよ」


「ありました?」


「昔な」


周は笑った。


「俺だって、何でも分かってたわけじゃない」


林は少し黙っていた。


「親には言えなかったけど」


「どうして?」


「心配させたくなかったから」


「今も?」


周は少し考えた。


「今は、心配させないことより、自分で考えることのほうが大事だと思ってる」


林は何も言わなかった。


二人は道の分かれ目まで来た。


「じゃあ、俺、帰ります」


「ああ」


林が歩き出してから、周は後ろ姿を見ていた。


家に帰ると、劉が聞いた。


「林君と会った?」


「ああ」


「元気だった?」


「元気そうには見えた」


周は椅子に座った。


「でも、かなり焦ってるみたいだ」


劉は黙った。


「親も焦ってる」


「そうでしょうね」


「二人とも、自分の不安を相手にぶつけてるんだと思う」


劉は少し考えた。


「それって、うちもそうだったのかな」


周は答えなかった。


子どもが小さかった頃。


成績が悪かった時。


進学先を決める時。


仕事を選ぶ時。


結婚の話をした時。


自分はいつも、


「心配だから」


と言っていた。


けれど、その心配の中には、自分自身の不安もあった。


子どもが失敗したらどうしよう。


周りから何か言われたらどうしよう。


将来困ったらどうしよう。


そんな気持ちがあった。


それを、


「お前のためだ」


という言葉に変えていたのかもしれない。


その夜、林の家ではまた話し合いがあった。


父親が言った。


「明日、町の工場に行ってみろ」


林は黙っていた。


「知り合いがいるから、話はつけてある」


「父さん」


「何だ」


「俺、そこには行きたくない」


父親の顔が険しくなった。


「じゃあ、どこなら行くんだ」


「分からない」


「またそれか」


林は俯いた。


「分からないけど、自分で探したい」


父親はしばらく何も言わなかった。


母親も黙っていた。


誰も納得していなかった。


けれど、その日は父親も、それ以上は言わなかった。


林は自分の部屋に戻った。


机の上には、昼間見ていた求人票が何枚か置いてあった。


どれに応募するかは、まだ決めていない。


何が正しいのかも分からない。


それでも、その夜だけは、自分で決めることを一つ残しておきたかった。


家の中では、両親が小さな声で話していた。


「本当に大丈夫かな」


母親が言った。


父親はしばらく黙ってから、


「分からない」


と答えた。


それから、


「でも、俺たちにも分からないことはあるんだろうな」


と言った。


その言葉を聞いた母親は、何も言わなかった。


家の中には、まだ不安が残っていた。


林も不安だった。


父親も不安だった。


母親も不安だった。


誰も問題を解決してはいなかった。


ただ、その夜は、誰も相手の人生を決めることができなかった。


それだけだった。

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