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家にいる人  作者: 亀


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第一百三十三章 空いた時間

十一月のある土曜日、周は朝から家の中を片づけていた。


寒くなる前に、使わなくなったものを整理しておこうと思った。


物置には、何年も使っていない工具がいくつかあった。


古い電線、壊れた扇風機、使いかけの塗料。


捨てるものと残すものを分けていると、奥から小さな段ボール箱が出てきた。


箱を開けると、昔の領収書や保証書が入っていた。


テレビ。


洗濯機。


冷蔵庫。


どれもかなり前の日付だった。


その中に、一枚の古い紙があった。


上海で働いていたころの給料明細だった。


周は紙を広げた。


金額を見ても、今となっては実感がなかった。


当時は、その金額から家に送るお金を決め、残った分で自分の生活をしていた。


食事も安いものを選んだ。


服もあまり買わなかった。


けれど、家に必要なものがあるときは、迷わず送った。


周は明細をしばらく見てから、元の箱に戻した。


捨てる理由もなかった。


だからといって、残しておく必要があるとも思わなかった。


結局、箱の中に戻した。


「何見てるの?」


劉が廊下から顔を出した。


「昔の給料明細」


「まだ取ってたの?」


「知らないうちに残ってた」


「捨てないの?」


「そのうち」


劉は箱の中を覗いた。


「昔のものって、結構あるね」


「そうだな」


「息子のものもあるでしょう」


「ある」


「どうする?」


周は少し考えた。


「本人に聞いてからでいいんじゃないか」


「もう聞いたら?」


「今、仕事が忙しいだろ」


「そうね」


二人はまた片づけを始めた。


昼前、近所の王さんが通りかかった。


「何してる?」


「片づけ」


「俺のところもやらないとな」


王は門の前から中を覗いた。


「親父のものがいっぱい残ってるんだ」


「親父さんの?」


「ああ。亡くなってから、ほとんど触ってない」


周は何も言わなかった。


「工具とか服とか、古い書類とか」


「捨てるのも迷うな」


「そうなんだよ」


王は門柱に手を置いた。


「親父は何でも取っておく人だったから」


「使わなくても?」


「使わなくても」


「それなら、似たようなものだな」


「俺もだんだん似てきた」


王は笑った。


「でも、息子から見ると、俺も同じなんだろうな」


「そうかもしれない」


「最近、娘に言われたんだよ」


「何て?」


「『お父さん、それいつ使うの?』って」


周は笑った。


「答えは?」


「分からない」


二人とも笑った。


王はしばらくして帰っていった。


午後、周は物置の片づけを続けた。


古い椅子を一つ、外へ出した。


脚が少しぐらついている。


捨てるか修理するか迷った。


結局、壁際に置いた。


まだ使えるかもしれない。


それだけだった。


夕方、息子から電話が来た。


「父さん、今日休み」


「そうか」


「久しぶりにゆっくりしてる」


「よかったな」


「研修、思ったより大変だった」


「そうか」


「覚えることが多くて」


「最初はそんなものだろ」


「うん」


息子は少し黙った。


「父さん、昔の物ってまだ残ってる?」


周は少し驚いた。


「あるよ」


「俺のものも?」


「ある」


「何がある?」


「学校のものとか、古い本とか」


「捨ててもいいよ」


「本当に?」


「うん。必要なものは持ってるから」


周は物置の箱を見た。


「分かった」


「でも、昔の写真は残しておいて」


「それはある」


「ならいい」


電話の向こうで、息子が何か飲んでいる音がした。


「父さん」


「ん?」


「昔、俺の部屋にあった机、まだある?」


「ある」


「あれ、まだ使える?」


「少し傷はあるけど」


「捨てないで」


「使うのか?」


「分からないけど、置いといて」


「分かった」


電話が終わった。


周は物置へ戻った。


息子の古い机は、壁際に置かれていた。


表面にはいくつか傷がある。


その中には、子どものころに鉛筆でつけた跡も残っていた。


周は雑巾を濡らし、机を軽く拭いた。


完全にはきれいにならなかった。


それでも、以前より少し明るくなった。


劉が後ろから見ていた。


「捨てないの?」


「本人が残しておいてって」


「じゃあ、残すしかないね」


「そうだな」


「何に使うのかしら」


「知らない」


「また知らない」


二人で笑った。


夜になり、周は古い明細の入った箱を閉じた。


昔のものを全部残す必要はない。


全部捨てる必要もない。


使うものは使う。


いらないものは捨てる。


決められないものは、しばらく置いておく。


それだけのことだった。


その夜、息子から写真が一枚送られてきた。


新しい仕事の研修資料だった。


机の上に、何枚もの紙が並んでいる。


周は写真を見て、


「忙しそうだな」


と送った。


少しして、


「うん。でも大丈夫」


と返ってきた。


周はそれ以上聞かなかった。


翌朝、また何か変わっているかもしれない。


変わらないかもしれない。


それは息子の時間だった。


周はスマートフォンを置き、翌日の買い物を書いた。


白菜。


卵。


油。


それから、そろそろなくなりそうな洗剤。


昔の給料明細は箱の中に戻ったままだった。


息子の机も、物置に残った。


家の中には、過去のものと、まだ使われていないものがいくつもあった。


周は、それらを全部今すぐ整理する必要はないと思った。


人の時間にも、物の時間にも、少し空いているところがある。


その空いた時間が、何に使われるのかは、そのときにならなければ分からなかった。

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