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家にいる人  作者: 亀


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第一百二十四章 閉める前の日

張の店を閉める日が近づいていた。


朝、周が市場へ向かう途中、店の前を通ると、シャッターが開いていた。


中には張と息子がいた。


棚から工具を取り出して、古い箱に詰めている。


「おはよう」


周が声をかけると、張が振り向いた。


「おう。今日は少し片づける」


「もうすぐ閉めるんだな」


「来週には閉める」


張はそう言って、棚の奥から古い工具を取り出した。


「これは持って帰る」


「まだ使うのか?」


「たぶんな」


「たぶん?」


「分からないけど、捨てるとあとで欲しくなるかもしれない」


周は笑った。


「それはあるな」


息子が段ボールを運んできた。


「父さん、これどうする?」


「それは残す」


「これは?」


「捨てていい」


「これは?」


張は箱の中を覗き込んだ。


「……それも残す」


息子が笑った。


「結局、ほとんど残すじゃん」


「長く使ってきたからな」


「でも、家に置く場所ないよ」


張は黙った。


周は二人を見ていた。


店を閉めると決めても、物まで一度に手放せるわけではない。


仕事を終えることと、その仕事をしていた時間までなくなることは違う。


昼前、張が椅子に座った。


「少し休む」


「うん」


息子が作業を続ける。


周も箱を一つ持ち上げた。


「これはどこへ?」


「奥」


「分かった」


三人で片づけていると、店の前を昔からの客が通った。


「あれ、閉めるの?」


張が顔を上げた。


「そうなんだ」


「長かったね」


「二十年以上かな」


「自転車、何台直してもらったか分からないよ」


客は笑った。


「今までありがとう」


「こちらこそ」


それだけ話して、その人は歩いていった。


張はしばらく入口を見ていた。


「こういう人が来ると、閉めるって実感するな」


周は何も言わなかった。


午後になると、店の中が少し広くなった。


棚が一つなくなっただけなのに、以前より奥まで見える。


息子が言った。


「こんなに広かったんだ」


「物が多かったからな」


張は笑った。


「お前が小さい頃、この店の奥でよく寝てただろ」


「覚えてる」


「学校から帰ってきて、ここで宿題してた」


「うん」


「その机、まだあるぞ」


張が指差した。


古い木の机だった。


角が少し欠けている。


息子が手で触れた。


「これ、持って帰っていい?」


「使うのか?」


「分からないけど」


張は少し笑った。


「じゃあ、持っていけ」


息子は机の上に置いてあった小さな傷んだ定規を拾った。


「これも?」


「それはいらないだろ」


「じゃあ、捨てる?」


張は少し考えた。


「……やっぱり置いとけ」


「どっち?」


「まだ決めてない」


息子が笑った。


周も笑った。


夕方、周は家に戻った。


劉は夕食の準備をしていた。


「今日は遅かったね」


「張さんの店を手伝ってた」


「もう閉めるんだね」


「来週」


「寂しくなるね」


「そうかもしれない」


劉は包丁を置いた。


「でも、張さんも家にいる時間が増えるんじゃない?」


「体を休めるにはいいだろうな」


「息子さんは?」


「来月から別の仕事」


「じゃあ、みんな変わるね」


周は頷いた。


「そうだな」


夜、息子から電話があった。


「今、大丈夫?」


「大丈夫だ」


「来週の休み、まだ分からない」


「そうか」


「仕事の予定が出てからになる」


「分かった」


「帰れたら帰る」


「無理しなくていい」


「うん」


少し沈黙した。


「父さん」


「何?」


「この前の魚、美味しかった」


「また食べればいい」


「うん」


電話が切れた。


劉が台所から聞いた。


「来週は帰ってくるの?」


「まだ分からないって」


「そう」


それ以上、二人は話さなかった。


翌朝、周は庭へ出た。


小さな実の色が、さらに濃くなっている。


手を伸ばして、そっと触れた。


昨日より少し硬い。


何になるのかは、まだ分からない。


けれど、いつか何かになるのかもしれない。


周は手を離した。


遠くから、シャッターを開ける音が聞こえた。


張の店だった。


閉めると決めた店でも、最後の日までは開く。


周はしばらくその音を聞いていた。


そして、いつものように朝食の準備を始めた。

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