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家にいる人  作者: 亀


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第一百一十二章 暑い日の知らせ

七月のある朝、周はいつもより早く目を覚ました。


蝉の声が、窓を閉めていても聞こえている。


台所へ行くと、劉が冷たい水をコップに入れていた。


「今日は暑くなりそうだね」


「朝からこれだからな」


周は水を一気に飲んだ。


朝食を済ませてから、庭へ出た。


白い花は、もうほとんど残っていなかった。


茎の先に小さな実のようなものがいくつかできている。


「花が終わったね」


劉が後ろから言った。


「そうだな」


「次はどうなるんだろう」


「分からない」


「またそれ」


劉は笑った。


周は植物の根元を見た。


枯れてはいない。


葉もまだ緑色をしている。


水を少しだけやって、家に戻った。


午前中、近所の王が来た。


手にはスーパーの袋を持っている。


「これ、余ったから」


「何だ?」


「トマト」


王は袋を台所へ置いた。


「うちの畑で採れすぎた」


「ありがとう」


「最近、暑いね」


「暑いな」


王は椅子に座った。


「息子の仕事、先週から時間が変わった」


「そうか」


「朝が早くなったから、最初は心配だった」


「本人は何て?」


「大丈夫だって」


「じゃあ、様子を見るしかないな」


王は笑った。


「周さん、最近そればっかりだな」


「何が?」


「本人が大丈夫って言ったら、それで終わる」


周は少し考えた。


「終わるわけじゃない。ただ、俺が代わりに仕事することはできないからな」


「それもそうだな」


王はしばらく黙っていた。


「昨日、息子から電話があったんだ」


「何かあった?」


「いや。仕事の話をしただけ」


「そうか」


「前は、電話が来たら何か問題が起きたと思ってた」


「今は?」


「普通に話せるようになった」


周は頷いた。


王は立ち上がった。


「じゃあ、俺は帰る」


「暑いから気をつけろ」


「周さんもな」


王が帰ったあと、周はトマトを洗った。


一つ食べてみる。


少し酸っぱかった。


「どう?」


劉が聞いた。


「ちょっと酸っぱい」


「じゃあ、冷蔵庫に入れておこう」


「うん」


昼過ぎ、電話が鳴った。


知らない番号だった。


周は一度見て、そのままにした。


しばらくして、もう一度鳴った。


今度は留守番電話に切り替わった。


確認すると、昔の仕事仲間からだった。


「周さん、久しぶり。今度、近くに行くから、時間があったら飯でもどう?」


周は番号を登録した。


その日の夕方、もう一度電話をかけた。


「もしもし」


「周さん?」


「久しぶり」


「元気?」


「まあまあ。そっちは?」


「俺もまあまあ」


二人は近況を話した。


昔の職場の話。


辞めた人の話。


まだ残っている人の話。


誰が昇進したとか、誰が別の町へ行ったとか。


何年も会っていない人の名前も出た。


そのうち、相手が言った。


「今度、みんなで集まるかもしれない」


「そうか」


「周さんも来る?」


「日が合えばな」


「じゃあ、また連絡する」


「分かった」


電話を切ったあと、周はしばらくスマートフォンを持ったまま座っていた。


昔の人間関係も、完全になくなるわけではない。


会わなくなった人がいて、また連絡を取る人もいる。


誰かが戻ってきても、昔と同じ場所にいるとは限らない。


それでも、名前を聞けば思い出すことがある。


夕方、劉が夕食の準備をしていた。


「今の電話、誰?」


「昔の仕事仲間」


「何かあった?」


「みんなで食事するかもしれないって」


「行くの?」


「日が合えば」


「そう」


劉はそれ以上聞かなかった。


夕食を食べていると、息子からメッセージが来た。


「今日は暑かった」


周は、


「水分取れよ」


と返した。


少しして、


「分かってる」


と返ってきた。


その二文字を見て、周は少し笑った。


昔なら、そのあとに、


「ちゃんと飲んでるか?」


「無理するな」


「帰ったら休め」


と続けていたかもしれない。


今は、そこで止めた。


スマートフォンを机に置く。


劉がそれを見ていた。


「何?」


「何でもない」


「息子から?」


「暑かったって」


「こっちも暑いよ」


「そうだな」


二人はそのまま夕食を続けた。


夜になっても気温は下がらなかった。


周は窓を開け、庭を見た。


白い花はほとんどなくなっている。


けれど、茎の先には小さなものが残っている。


これが何になるのかは、まだ分からない。


周はしばらく見てから、窓を閉めた。


明日の朝になれば、また何か変わっているかもしれない。


変わらないかもしれない。


どちらでも、朝は来る。


居間では劉がテレビを見ていた。


周は冷蔵庫から冷たい水を取り出した。


「飲む?」


劉が聞いた。


「飲む」


二人分のコップを持って、周は居間へ戻った。


外では、まだ蝉が鳴いていた。

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