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家にいる人  作者: 亀


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第一百零九章 朝の庭

翌朝、周はいつもより少し早く目を覚ました。


まだ外は静かだった。


隣の部屋から、息子の寝息が聞こえる。


昨夜遅く帰ってきたばかりだから、今日はしばらく寝かせておこうと思った。


周は顔を洗い、台所で湯を沸かした。


劉はすでに起きていた。


「コーヒー飲む?」


「いらない。お茶でいい」


「息子は?」


「まだ寝てる」


「そう」


劉は朝食の準備を始めた。


炊飯器を開ける音、食器を置く音。


いつもの朝だった。


周は玄関を開け、庭へ出た。


昨日の夜に見たつぼみを探す。


朝の光の中では、昨夜よりはっきり見えた。


つぼみは開いていた。


白い花だった。


周はしばらくしゃがんで見ていた。


「咲いた?」


後ろから劉が言った。


「咲いた」


「白いね」


「そうだな」


「きれいじゃない」


「そうだな」


二人で花を見ていた。


「名前、分かった?」


「まだ」


「調べれば?」


「そのうち」


劉は笑って家の中へ戻った。


周も少しして戻った。


朝食の準備ができる頃、息子が起きてきた。


「おはよう」


「おはよう」


「何時?」


「七時半」


「結構寝たな」


「昨日遅かったからな」


息子は顔を洗い、席についた。


「庭、花咲いたよ」


劉が言った。


「本当?」


「見てきたら」


息子は食事を終えると、庭へ出た。


「ほんとだ」


スマートフォンを取り出して写真を撮る。


「何の花だろう」


「分からない」


「調べてみようか」


「別にいい」


「なんで?」


「名前が分からなくても、花は咲くからな」


息子は少し笑った。


「それ、父さんらしいね」


「何が?」


「昔なら、すぐ調べろって言ってたと思う」


周は少し考えた。


「そうだったか?」


「そうだったよ」


「覚えてるのか」


「覚えてる」


息子は花の写真をもう一枚撮った。


「でも、こういうのもいいね」


「何が?」


「分からないまま見てるの」


周は返事をしなかった。


朝食のあと、息子は居間で仕事の連絡を確認していた。


「今日、何時に帰る?」


劉が聞いた。


「昼過ぎには出る」


「もう?」


「明日仕事だから」


「そうか」


劉は少し残念そうだったが、それ以上は言わなかった。


周は息子のバッグを見た。


「忘れ物ないか?」


「大丈夫」


「充電器は?」


「入ってる」


「財布は?」


息子はポケットを叩いた。


「ある」


周は笑った。


「昔と同じこと言ってるね」


「そうだな」


「でも、今は自分で確認できるから」


「それならいい」


午前中、息子は近所を少し歩いた。


周も一緒に出た。


二人で市場まで歩く。


途中、古い文房具店の前を通った。


店先には小学生向けのノートが並んでいる。


息子が立ち止まった。


「この店、まだあるんだ」


「ずっとある」


「子どもの頃、ここでノート買ったよね」


「買ったな」


「数学のノート、よく買った」


周は笑った。


「使い切るのが早かったからな」


「父さんが何回も計算させたから」


「そうだったな」


二人とも笑った。


それ以上、その話を続けなかった。


市場では、息子が果物を買った。


「母さん、これ食べる?」


「食べるよ」


「じゃあ、買っていこう」


劉は家で果物を受け取った。


「こんなにいらないのに」


「余ったら父さんと食べて」


「ありがとう」


昼前になると、息子は帰る準備を始めた。


劉は小さな袋に果物を入れた。


「持っていきな」


「いいよ」


「一人で食べてもいいし、職場で食べてもいいから」


息子は受け取った。


「ありがとう」


玄関で靴を履く。


周は息子のバッグを見て、


「忘れ物ないか?」


と聞いた。


息子は笑った。


「大丈夫」


「そうか」


「じゃあ、行くね」


「気をつけて」


「うん」


息子が外へ出た。


少し歩いたところで振り返り、手を上げた。


周も手を上げた。


姿が角の向こうへ消えるまで見ていた。


家の中へ戻ると、劉が窓から外を見ていた。


「もう見えないね」


「うん」


「次はいつ帰ってくるかな」


「まだ分からない」


「そうだね」


劉は笑った。


午後、周は庭へ出た。


白い花は朝と同じ場所で咲いていた。


風が吹くと、細い茎が少し揺れる。


周は支柱を確認した。


昨日より少しだけ紐が緩んでいる。


結び直そうとして、手を止めた。


このくらいなら、そのままでいい。


周は庭の端に置いてあった椅子に座った。


家の中からテレビの音が聞こえる。


道路を車が一台通り過ぎた。


息子がいつ次に帰ってくるのかは分からない。


仕事の時間がどう変わるのかも分からない。


それでも、今日の朝には帰ってきて、花を見て、果物を買って、また自分の生活へ戻っていった。


周はそれを見送った。


そして、自分もまた自分の一日へ戻った。


白い花が、風の中で小さく揺れていた。

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