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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第四部「極東戦争編(3)」

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182 「新たな任務に向けて」

 ・竜歴二九〇四年十一月初旬


「よう。退屈してただろ」


「訓練に冬季装備の受領、それに幹部は書類仕事。する事は幾らでもありますよ」


 山岳要塞で待機状態の甲斐たちのもとに、彼らの上官の村雨(ムラサメ)少将がやって来た。

 甲斐と鞍馬は先に敬礼し、要塞の駅で彼を出迎える。

 村雨の隣には旅団参謀の伊吹もいる。旅団本隊が山岳要塞まで来たのだ。


「任務お疲れ様です。我々と交代ですか?」


「知っている癖に何を言う。俺たちも、前線でのお役御免でここまで下がってきただけだ。(イカズチ)らも、流石に寒くなってきたから下がらせた。明日にはここに着く」


「はい。報告は受けています」


 甲斐ではなく鞍馬が答え、甲斐の方は少し感心している。

 雷がよく後方に下がるのを納得したと思ったからだ。

 それが分かったのか、村雨が小さく笑みを浮かべる。


「報告はもう一つ追加だ」


 言葉と共に、隣に立つ伊吹が鞍馬に書類を差し出す。それを鞍馬が受け取り、そのまま甲斐へ。

 甲斐は紙面を見てから村雨へと顔を向け直す。


「軍からの敵後方への偵察要請ですか」


「真冬のサハの奥地では、騎兵は使えんからな。寒さで馬がすぐに死んでしまうそうだ」


馴鹿(トナカイ)のソリなら問題ありませんよ。北氷州では、犬ゾリも使うとか」


「相変わらずよく勉強しているな。だが軍からは、俺たちの足で見てこいとのお達しだ。『浮舟』の使用も途中までだ」


「白峰様は?」


 短く問うと村雨は小さく首を縦に振る。


「偵察だけならばと、既に我々の使用の了承を得ているそうだ。2枚目の紙面に書いてあるぞ。読んでから聞け」


「失礼しました。まずは僕ら第1大隊が、交代で第2大隊ですか。僕らだけじゃないんですね」


「戦争前の長距離偵察を評価したのは変わりないが、蛭子なら誰でもいけるだろうと安易に考えたのかもな」


「なるほど。それでは、立ち話もなんですから部屋へどうぞ」


「本国からの特配で面白いお茶が手に入りました。ご用意しています」


「そりゃあ楽しみだ」


 村雨は甲斐の方には「やっとか」という表情を見せるも、鞍馬の言葉には相合を崩した。

 そうして村雨らの部屋の準備はこれからなので、第1大隊の本部として使っている部屋に案内し、そこで部屋いっぱいに香ばしいかおりを漂わせる。


「この苦味、俺は苦手だな。香りは良いのに」


「本当です」


「それでしたら、こちらの砂糖を好みの量だけ入れて下さい。さらにまろやかにするには、濃い牛乳を入れると良いのですが……」


 鞍馬の言葉を最後まで聞かず、村雨が瓶の中に入った白砂糖を匙で入れていく。それが終わるのを待ち、隣に座る参謀の伊吹も村雨よりも多く砂糖を入れた。

 そして口を付け、二人はさらに何杯か砂糖を入れる。

 それを甲斐と鞍馬は内心だけでゲンナリとし、それを見ないように目を閉じて何も入れない自分達用の珈琲(カフェ)を口にする。


「流石は大要塞。と言うより後方の一大拠点だな。こんな嗜好品まであるとは」


「ええ。街中にあるものなら、大抵のものが揃ってます。部下の一部は、無いのは花街だけとぼやいてました」


「花街か。黒竜里かダウリヤそれが無理なら幌梅に、春浜まで出張っている連中を前進させるという話はあるな。鉄道に余裕が出たら、前進すると思うぞ。まあ、お前らには不要だろうがな」


 おっさんらしく最後に村雨は笑みを浮かべる。

 それに鞍馬が、しれっとした表情で返す。


「風紀は守っていますよ」


「部下にも示しが付きませんからね」


 甲斐も苦笑まじりで続いた。

 それに村雨はため息で返す。隣の伊吹は、半目がちに見るだけだ。


「部屋でこっそりなら構わんぞ。高級将校や指揮官でも、息抜きは必要だ。酒も解禁しているんだろ」


「はい。酒保にあるものは全て。前線はどうですか?」


「俺たちが離れる時点で、似たようなものだった。これから長い冬だからな。だが、とにかく防寒具を優先したので、暖房器具が十分に届いてない。だからここと違って、嗜好品は品薄だ」


「列車は竜都の市電のように通過していきますが、50万もの大軍だと大変ですね」


「50万と口で言うのは簡単だが、アキツ本国でも人口が50万を超える都市など数えるほどだ。それが突然出現したようなものだからな」


「確かに」


「それで我々はいつ?」


 甲斐と村雨が話していると延々と上の視線での話が続きそうなので、鞍馬が両者の言葉が止まった隙に挟み込んだ。

 すると二人とも無駄話をしていたとすぐに気付き、両者湯呑みに口をつける。


「明日から5日間の休暇をやるから、その間に必要なものを準備させる。そこからお前ら自身で準備を整え、来週には出てくれ。それまでに正式な命令書が前線と後方の両方から届く。俺も、諸々の書類を用意しておく。装備は全部ここに置いて明日朝にここを発って、春浜で命の洗濯をしてこい。参謀本部が色々と用立てしてくれる予定だし、西方の最新の合成獣(キメラ)が手に入ったからと南鳳財閥が金を出してくれている」


「そんなに優遇されたら、過酷な任務かと思ってしまいそうです」


「実際、並の兵は不可能なほど過酷だからな」


「ですが去年の長距離偵察では、精鋭だけとはいえ徒歩のみでした」


「季節はもう少しマシだっただろ。今月半ばともなれば、夜に歩き回っていたら氷漬けになるぞ」


「そうですね」


 言い合っても仕方ないので、甲斐は短い返事の後また湯呑みに口をつけた。




「と言うわけだ、大隊諸君」


「再度の出征からまだ1ヶ月ほどだと言うのに、優遇されておりますな」


 鞍馬が説明し甲斐が言葉を続けると、部屋に集まっていた大隊幹部を代表して磐城が感想を口にした。


「これからこき使うって事でしょう」


「任務の詳細は命令書待ちですか?」


「第4中隊をどう動かせば良いのか、気になりますわね」


 他の幹部も口々に続く。

 それを脇に座る朧がぼーっと眺めていたが、何かを思いついたらしく挙手。

 それに甲斐が一瞥する。

 挙手するほどだから何かあるのかと思ったからだ。


「みんなで偵察、ですか?」


「どの規模でするのかは僕も聞いていない。だが、去年僕らが行った時よりも大規模なものだろう」


「そもそも、どこを偵察するのかも伝えられていません」


 鞍馬が補足すると、朧が腕を組んで首を大きめに傾ける。


「何にせよ、少人数の方が良いと思うけどなあ。あ、でも長期間だったら荷物持ちがいてくれたら楽か。『浮舟』は途中、なんですよね?」


 朧の言葉に鞍馬が短く「その予定です」と返すも、甲斐の方は違っていた。朧だけでなく全員を見る。


「ある程度、現場の裁量は認めてもらえそうだから、命令と現地の状況次第だな。ただ僕としては、どういう命令であれ部隊を前と後ろに分けるつもりだ。第4中隊は拠点とする場所で『浮舟』と共に後方支援が一番だろうからな」


「そうですわね。真冬用に無蓋の『浮舟』に簡易天幕を付ける準備も進めています。野営もより簡素化できるかと」


 天草の言葉に甲斐も頷く。

 『浮舟』に簡易天幕を付けるのは前々から考えていたもので、山岳要塞に着いたら南鳳財閥の作業員が待ち構えていた。

 これは、冬の寒さとは言わないが風を遮り、場合によっては専用の暖房器具を設置すればかなりの寒さを凌げると考えられている。

 だが今は具体的な内容が分からないので、何かが出来るわけではない。

 だから甲斐は、表情も緩やかにして改めて全員を見回す。


「まあその前に、村雨さんからは命の洗濯をしてこいとのお達しだ。今は休暇を楽しむ事を考えろ。では、解散」


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