20XX年 9月5日 反抗的な女囚を引き続き監視下に置く
ひどい夢を見た気がする。
でも、何の夢なのか、思い出せない。
それでも、朝が来て、刑務所の職員に起こされるのだから、眠ったことに変りはないのだと思う。
独房内で、シリアルに牛乳を掛けただけの朝食を、直接、口を付けて食べた後で。
女子高生は刑務所の職員に連れられて、4人部屋の集団房に連行されていった。
拘束具は、外して貰えなかった。
刑務所側としては、再び暴れ出す可能性があるので、まだ外すわけには行かない。
だが、そんな弱り切った彼女を、部屋の囚人たちは値踏みし始めている。
リーダー的な、30代の、ロングボブの、目つきがとても鋭い女性。
20代位の、とても体格の良いセミロングの女性。
そして40代位の、ショートカットでとても小柄な女性。
彼女たちは、何も言わない。
連行してきた刑務官も、何も、注意する事すらなかった。
ただ、やっかいものを、部屋の中に入れただけ。
この人たちは、昨日の騒ぎの時にも、いたと思う。
女子高生は、そう認識していた。
その張本人が、手を、腕を、拘束されたままで、こうしてやって来た。
私は、受け入れて貰えるのだろうか?
女子高生は、内心の不安を、うつむいて隠す位しか、出来なかった。
~ ・ ~
職員が立ち去ったのを確認した後。
大柄な女性が、女子高生の拘束具を、ベルトごと掴んだ。
少し吊るすように持ち上げられて、彼女は身動きが取れないと感じた。
その目の前で、目つきの鋭い30代位の女性が、迫力のある声で尋ねた。
「アンタ、一体何をやらかしたんだい?」
女子高生は、怖れに囚われた。
助けを求めたくても、ここは密室。
しかも、入口には40代位の小柄な女性が見張りに立っている。
警察の取調室は、法が、秩序があった。
最低限の配慮を、感じさせてくれた。
でも、ここはまた別の法が支配している。
暴力と、恐喝という、法が。
「わ、私は、何も知りません。何もやってないんです……」
声が震えそうになるのを何とか堪えて、女子高生は本心を声に出した。
「何もしていないのに、こんな所に寄こされる訳がないじゃないか」
目つきの鋭い女性の声は、あくまで厳しく、胸に突き刺してくるかのようだった。
「本当に、何も知らないんです。信じてください……」
目つきの鋭い女性は、女子高生の頬を軽く叩く。
「ねんねじゃないんだ。何も知らないだなんて、アタシを舐めてるのかい?」
そのまま、平手打ちされるのではないかと、女子高生は震えた。
でも、知らないものは知らないのだ。
でも、やってないものは、やってないのだ。
答えられないものは、答えられない。
「何も知らないし、何もやってない、です……」
ずっと堪えていた涙が、限界を超えて溢れてくる。
「泣いても無駄だよ。そんなものにほだされちまうような人生を、アタシは送ってないんだよ」
目つきの鋭さは、全く変わらない。
でも、涙の向こう側で、この人は責任感が強い人なんだと、女子高生はそう思った。
~ ・ ~
囚人たちには、それぞれに軽作業が割り当てられている。
無論、両手が使えない女子高生に出来る事は、ほとんどない。
ただ、何もしていないだろうという、嫉妬のようなものから、彼女たちはそれとなく守ってくれた。
夕食も、惨めな思いをしながら、直接口を付けて食べている女子高生が、好奇の視線に晒されないように、さりげなく周囲で壁になってくれた。
食べさせてくれるわけでは無い。
恐らく、そうした行為は禁止されているのだろう。
両手を後ろで拘束しているというのは、そういう懲罰の意味があるのだろうから。
それでも、さりげなくではあるけれど、人間味を感じることは出来た。
そんな彼女に、目つきの鋭いあの女性は「刑務所じゃ、反抗してもいい事なんか何も無いんだよ」と、 言い聞かせるように話してくれた。
でも。
でも、私は何も知らない。
でも、私は何もやってない。
~ ・ ~
不自由な彼女のために、下のベットが空けられた。
「お前はそこで寝な」
そう、目つきの鋭い女性が言ってきた。他の2人は、何も言わなかった。
緊張感が抜けて、そのまま女子高生は横になった。
両腕を縛られたまま、就寝するのは、だんだん慣れてきたのだと思う。
他人と同じ部屋で眠るという不安感は、なぜか感じなかった。
理由など分からないけど、この人たちに受け入れて貰えている。そう思えた。
きっと、もう少しすれば、何もかも思い出せる。
思い出せる……
(つづく)




