↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「女子高生がコンビニで買い物してたら、いきなり警察官に逮捕されて、後ろ手に手錠を掛けられました ~ 私は何も知らないし、何もやってない!」  作者: 白河・DG・夜舟
20XX年 9月5日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/23

20XX年 9月5日 彼女の見た夢

挿絵(By みてみん)


 妹の体温を感じながら、私は絶望と向かい合っていた。

 昨日見た夢は、他人事だった。

 今は、自分の事に思えた。

 だって、Rroookoooが側にいるから。

 この子を、守らなきゃ。

 だって私が、お姉ちゃんだから。


 腕は後ろで拘束されたままだ。

 妹も同じ。

 私達、悪いヤツラに捕まったんだ。

 だって、コイツが食べやすいように、私も妹も薄いキャミソール姿だから。

 そして、この絶望が形を変えたイキモノの、生きたエサにされているんだ。

 胸の赤い蝶ネクタイだけが、私を私でいさせてくれる。

 私を、人間でいさせてくれる。

 妹を促して、何とか立ち上がる。

 背中を向けたら、だめだ。

 絶対に目を逸らしたら、だめだ。

 恐怖に飲まれてもだめだ。

 この子を、妹を、守らないと、だめだ。


 絶望が形を変えたそのイキモノは、荒くて臭い息を私たちに吐きつけて、ランランと瞳を光らせて、ゆっくり迫ってくる。

 無機質なコンクリートの部屋は狭くて、私達はすぐに壁際に追い込まれてしまった。もう、後ろには下がれない。


挿絵(By みてみん)


 私の頭など、一齧りで噛み切ってしまえそうな牙と口。

 金色の瞳。

 長く尖った、大きなイヌ科の耳。

 全身を黒い剛毛で包まれた、軽自動車程の大きさはあるだろう、巨大な狼。

 そいつが、わたしと妹を値踏みしている。

 妹の身体が、拘束された私の腕に、手に、すり寄ってくる。

 逃げられない。いや、守らなくちゃならない。

「娘、お前は、我を恐れないのか」

 無機質なコンクリートの部屋中に共鳴するかのように響く、低い声。

「私は、恐れない。だって、お前の事を、知っているから」

 そう。私はコイツを知っている。

 人狼。夜に紛れて、人を喰うケダモノ。

 恐れ、おののき、疑念、不安……

 人の心の弱い部分をつつき、信頼を破壊し、バラバラにして、喰うんだ。

 そう。私はコイツを、よく知っている。

「お前は、我を恐れないのだろう。だが、そこの小娘はどうだ?」

 妹は、守らなければならない。どうしても、絶対に。

「妹は、私が守る」

 大きな人狼は、大きく鼻を鳴らした。そうやって、私を怯えさせようとしているかのように。

「このまま喰っても、面白くないな。娘よ、我と取引をしようではないか」

「取引?」

 心が、揺れる。

 ロクなものではないのは、分かっている。

 でも、妹を、守るためには、話だけでも聞いた方が良いのだと、思う。

「お前は人狼の花嫁となる。代わりに、お前の妹は家に帰してやろう」

「花嫁……?」

「そうだ。お前は我を受け入れ、我の代わりに人族の社会に潜り込むのだ。そうすれば、お前の妹は家に帰してやろう」

 甘い言葉で誘って、罠に嵌めるつもりだとしか思えない。

「信頼できない」

 人狼が、愉快そうに笑う。

「契約を結ぶ。我々は、契約を重視する。契約を裏切る事はない」

 そういって人狼は、怯える妹を、ねめつけるような視線で見つめた。

「幼過ぎて喰い応えが無さそうな娘だな。しかし、我が主シャードーラーン様は、幼く無垢な魂が恐怖と絶望に染まる(さま)を眺めるのを好まれるのだ。お前が我の提案を断るのなら、その娘は生ける供物として、我が主に捧げることにでもしようぞ」

「そんな事はさせない」

 私は、妹を隠すように、人狼の前に立ちはだかった。

「フハハ、気に入ったぞ、娘。ならば、お前にも人族として生き残るチャンスをくれてやろう。ここを出たお前たちは、ここで起こった事の全てを忘れ去るのだ。だが、お前が人族の元で暮らし続け、絶望に心が囚われてしまうまでは、お前の身体はお前の意識の元にある。我はその様子を、この空間でじっくりと見物させて貰おう」

 人狼は再び笑い、私を見つめる。

「妹はそのまま還してやる。お前は、人狼の花嫁として、我を愉しませろ」

 私は、頷くしか、無いのだろうか。

 他に妹を助ける方法を、思いつくことが出来ない。

 私は、何も知らない。

 私は、何もできない。

 コイツの言いなりになって人狼の花嫁になるしか、妹を助ける方法を、思いつかなかった。

 それでも、それでも、必死に考え続けた。

「妹の無事を確かめる方法が無いわ」

「花嫁殿の妹君を、契約に反して裏切る事などせぬ。だが、お前の言い分を聞いてやる道理も無い。お前が人族の元に戻ったのち、自分で確かめるが良かろう。我が契約をたがえたとお前が知った時は、お前は人狼の花嫁から解放される。それで良かろう」

 私は、頷くしか、無かった。

「では、契約を結ぶぞ」

「……分かったわ」

 私が頷くと同時に、腕や手の拘束がほどけた。

 私は拘束されたままの妹を抱きしめて「大丈夫、大丈夫だよ」と優しく言い聞かせた。

「お姉ちゃん……」

 妹は、私の胸に顔をうずめて、ひとしきり泣いた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。