20XX年 9月某日 警察署長の自宅にある書斎
ああ、このにじみ出る羞恥心。これこそ、大和撫子のあるべき姿よ。
警察署長は、白いガウン姿で、ウイスキーグラスを片手に、書斎でモニターをニヤニヤしながら見つめていた。
目の前のモニターには、むき出しのトイレの前でモジモジしている、キャミソール姿の若い女性が映っている。
「これもすべて、大狼さまの思し召しであることよ」
署長の願いは、大狼さまが恐怖のうちに夜の闇を支配し、自分がその眷属となって、その顕欲に預かること。
いつから、そう、いつからだろう。声が聞こえるようになったのは。
長年の、たたき上げの刑事としてのカン。
そう、周囲には告げている。
そして、実際に実績を上げて、この地位まで上り詰めることができた。
長い間、その声がどこから来るのか、なぜ自分に聞こえるのか、分からなかった。
きっかけは、ある警視監からの個人的な誘いであった。
自分のようなノンキャリアに、なぜ? と、疑問が湧いたが、はるかに立場が、階級が上の相手に、そんな事は聞けない。
言われるがままに、都内某所にて待ち合わせたが、そこはどう見ても夜の接待の、しかもかなり高級な店に思えた。
金の心配はともかく、職務的に大丈夫なのか、と疑問が湧いたが「君にも、聞こえることがあるのだろう?」と言われて、なぜ呼ばれたのか、腑に落ちた。
この警視監も、若い女性のあるべき姿について、世を憂いている同志であった。
そして、そういう気持ちを抱えている者に対して、囁く声の存在を知っていた。
大神。
古来より大日本帝国を守護し、民をあるべき姿に保つ存在。
それは夜の支配者。高い権能を持ち、その眷属を操り、弱く虐げられるべき存在が秩序を乱すことを許さない。
狼神。
それはあまりにも禍々しく、昼の平穏に現れてはならない存在。故に、眷属を必要とし、代わりにその力の一部を授けて下さるのだ。
大神は狼神であられるのだ。
故に、恐れよ、弱き者よ。
故に、怖れよ、その牙を。
大狼は大咬であられるのだ。
それは鋭く、目に見えず、心を砕き、肉体を噛み裂く大いなる顎。
この日の本なる国を守護し、代わりに供物を求めるにふさわしき存在であられるのだ。
女どもよ、媚びよ。その麗しき身を差し出し、その精を身に受け容れよ。我々眷属も、その力の一端を身に帯びて、卑小なるお前たちにひと時の安らぎをくれてやろうぞ。
警視監は、若い女性たちのあられもない接待を受けながら、同じように接待されている署長に向かって、熱く語ったのだった。
その警視監の、いわば派閥に属するようになって。
さらに実績を上げて、今の地位に上り詰めた署長。
しかし、彼はいまだに、何も知らない女性が、こうして羞恥心に身を震わせるさまを観ることを至上としている。その辺りが、警視監との違いでもあるのだろう。




