20XX年 9月6日 人狼の目覚め
随分と、抵抗し続けたな。
我はようやく、目を覚ました。
状況は、彼女の目を通して、よく知っている。
全く、人族というのは愚かなものだな。
彼女が必死に自我を保とうと努力してきたのに、実にあっけなく手放させたのだからな。
まあ、この世界の人族は、まだ人狼の存在に、その恐怖に気づいていないようだからな。
にしても、我が完全に実体化するまでには、まだまだ新鮮な人族の血肉が足りていない。
それに、我が主シャードーラーン様も、まだかまだかと、供物をお求めのようだ。
そうだな、先ほどのオンナたちを供物とするか。アレなら、この不完全な身体でも侵喰できそうだからな。
筒状の滑らかな横穴から抜け出した我の元へ、人族の男が二人、駆け付けてきた。
適当に爪で風を呼び寄せ、切り裂いてやったら、あっけなく倒れた。
この程度で、か。いや、こ奴らは、戦士階級ではないのだろう。
~ ・ ~
彼女が元居た部屋に戻り、呼び出しのボタンを押す。
彼女の記憶というより、そういう仕組みになっているのだろうと推測したまでだ。
何も知らないオンナどもが、慌ててやって来た。
我の操るこの身体を知っているオンナどもは、あっけなく我の支配下に落ちた。
なんの自我抵抗も出来ないようだ。本当にこの世界の人族は、人狼の脅威に対してなんの対策も取っていないようだな。
壁に手をかざし、我が主シャードーラーン様より賜った権能を発動する。
「“ディメンション・ダンジョン”」
魔方陣と共に、次元の裂け目が現れた。
支配下に置いたオンナたちに命じて、その穴をくぐらせる。
じっくりと恐怖と絶望を味わわせ、我が主シャードーラーン様に供物として捧げたのちに、その柔らかな肉を、我が喰らい尽くしてくれよう。
しかし、この身体は、さすがに人族の目につき過ぎた。
もう、この身体は用無しだな。
彼女が人族の尊厳を保っているらしい、首元のリボンに手を掛ける。
が、外せない。我のこの世界における実体化が、まだまだ足りないらしい。
「この人族のオンナ、まだ絶望に飲まれずに意識が残っているのか」
思わず、口に出てしまった。
口に出した言葉は、この世界にとどまり続ける。それが世界の理というものだからな。
まあいい。どうせ、時間の問題だろう。
ダメなら、他の人族の身体を乗っ取れば済むだけの話だ。
ただ、ここまで我に馴染む身体は、そうそう見当たらないかもしれん。
手放すのは、少し惜しい気もする。
けたたましい警報が、部屋中に鳴り響いた。
先ほどの男たちが、衛兵に通報したのだろう。
本来なら殺しておくべきなのだが、まだこの不完全な身体では、無理ではあったので、やむを得ない。
我も次元の狭間をくぐる。
何事も、ほどほどというのが、長く生き残るコツでもあるしな。
全て思い通りに行くというのは、それはそれでツマラナイことでもあるのだ。
(本編完結)
本日23:00に、いくつかの裏エピソードと、後書きを添えて、完結させます。
もう少しだけ、お付き合いの程、お願い致します。
読み終わってからで結構です。どうか、ブクマと評価を、お願い致します。
あとがきにも、その辺の事情を加えようと思っておりますので。




