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「女子高生がコンビニで買い物してたら、いきなり警察官に逮捕されて、後ろ手に手錠を掛けられました ~ 私は何も知らないし、何もやってない!」  作者: 白河・DG・夜舟
20XX年 9月6日

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13/23

20XX年 9月6日 精神病院に移送完了

 地下駐車場に、彼女を乗せた車が入っていった。

 女子高生は、後ろ手に手錠を掛けられ、アイマスクを外されることもないまま、左右の男たちに腕を取られるがまま、車から降ろされた。

 と、大人の女性たちの声が聞こえる。

「移送、完了致しました」

「了解。対象者を受理しました」

 女子高生を連れてきた男たちと、事務的なやり取りの後。

 男たちの固い腕が放され、代わりに女性たちの柔らかい手が、女子高生の腕を掴んだ。

「さあ、行きましょう。アイマスクは、部屋についたら外してあげますからね」

 そっと引かれて、女子高生は連行されて行くしかなかった。

 何も見えない。

 ここがどこかも分からない。

 これからどうなるかも分からない。

 後ろ手に手錠を掛けられていて、アイマスクを自分で外す事も出来ない。

 左右を挟むのは女性たちに変わったからといっても、そのまま逃げられる訳もない。

 女子高生は、ただ、従うしか、なかった。


     ~ ・ ~


挿絵(By みてみん)


 部屋に入れられたあと、アイマスクを外して貰えた女子高生。

 十畳ほどの部屋の中に、ベッド、洗面台、テーブルとイスなど、生活に必要なものは一通りそろっていた。

 外部との通信用に、電話とナースコールも備えられている。

 病院の個室。

 女子高生は、自分が病人として扱われるのだという事に気が付いた。

 彼女を連れてきた女性たちは、スーツを着ていることから、看護師というわけでなさそうだ。恐らく、この病院に常駐している警察関係の職員なのだろう。

「上着は脱いでもらうわね。でも、そこのハンガーに掛けておくから」

 警察の留置所の時と、同じだ。身体検査の後、きっと下着姿のままで、また手錠を掛けられちゃうんだ。

 抵抗しても、無駄だと知っているので、女子高生は素直に身を任せた。

 彼女たちは手際よく、女子高生のブレザーとワイシャツを脱がせていく。

 キャミソール姿にさせられて、再び手錠を後ろ手に掛けられた後で。

「この赤い蝶ネクタイは、必要なのよね?」

 女性職員はそういって、再び首元に付けてくれる。

 なにも、言わなくても、そうしてくれた。

 警察の留置所で受けた、あの冷たい扱いではない。

 いや、あの時お世話してくれた女性職員は、規則だからと冷たかったけど、その中であっても、優しく接してくれたんだ、と思う。

 私は、人間として扱われている。

 自分ではどうにもできない状況への恐怖に震え、ありえない理不尽に対して精一杯抗ってきた女子高生にとって、その優しさは、身に染みた。


     ~ ・ ~


 警察署員らしい女性職員が、部屋を出て行った。

しばらくすると、白衣を着た女性職員が入って来る。恐らく、看護師なのだろう。

「ここは病院で、あなたは患者だわ。拘束するのはしかたがないけど、手錠はあまりにもひどい扱いよね?」

 そんな事を言いだし始めた。

 どんなに抵抗しても、どんなに暴れても、いや、だからこそ、拘束されてしまうんだ。

 嫌というほど思い知らされた女子高生は、ただ頷くこと位しか出来なかった。

「患者さん用の拘束具に交換するから、そこに座ってください」

 丸椅子の上に座る彼女の後ろに、看護師が回り込んで。

 そのまま手錠を、外してくれた。

「え?」

 半ば諦めていた女子高生が、驚く。

「痛かったでしょう? よく頑張ったわね」

 看護師は優しく声を掛けてくれた。

「手で、お互いの、手首を掴んでいてくれる? そう、そのままでいてね」

 背中側にパットがついている帯状のベルトで、看護師は女子高生の二の腕を固定し、そのまま手首にもベルトを掛けた。

「痛い所とか、ない?」

 女子高生は手や腕を動かしてみた。

 相変わらず不自由ではあったが、擦れたりするということはなさそうだ。

 看護師が頷くと、室内の内線電話で通話を始めた。


挿絵(By みてみん)


     ~ ・ ~


挿絵(By みてみん)


 もう一人の看護師が、トレイに乗せた食事を運んできた。

 温かい湯気が、いい匂いを運んでくる。

 彼女に拘束具を施した看護師が、椅子に座るように促して、彼女は真向かいに座る。

「ゆっくりでいいからね。ここは病院で、あなたは患者なんだから」

 優しく声を掛けて、スプーンで白米を掬い、女子高生の口元に運ぶ。

 美味しい。何て、美味しいんだろう。

 今朝は、刑務所で朝の点呼が終わったあと、そのまま着替えさせられて、車に乗せられて、だったので、まだ食事をとっていない。

 食事を出されたとしても、また、惨めな思いをしながら、口を直接つけて食べなければならないのだと思っていた。

 こうして、優しく食べさせて貰えるだなんて。

 味噌汁も、加減しながら椀を持ってもらえる。

 おかずも、どれも本当に美味しい。

 女子高生は、夢中で食事を続けた。


     ~ ・ ~


挿絵(By みてみん)


「しばらく、洗髪していないのよね?」

 看護師が、洗面台の前に座るように促した。

 洗髪なんて、それどころではなかった、この数日間だった。

 そんなこと、望むべくもなかった。

 人として、扱ってなんて貰えなかった。

 頭を濡らしてもらい、シャンプーで泡立って行く、女子高生の茶色の髪。

 人に、こうして頭を、髪の毛を触って貰える。

 丁寧に、清潔にして貰える。

 あまりの気持ち良さに、女子高生の口から歓喜のため息が漏れた。


 別の職員が、濡れた髪の毛をタオルで拭きとって、さらに顔も拭いてくれる。

 こんな風に扱われるだなんて、女子高生は思っても見なかった。

 これまでの、散々な目に遭った出来事ごと、キレイにぬぐい取ってくれているかのようだった。

 恍惚の表情を浮かべて、女子高生は目を閉じた。


挿絵(By みてみん)


     ~ ・ ~


 すっかり一息ついて、落ち着いた女子高生の元に、看護師を連れた医師がやって来た。

 また、私の名前とか住所とか、生年月日とか、聞かれてしまうんだろうか?

 そんなの、関係ないのに。

 私は、何も知らないし、何もやっていないのに。

 不安に思った女子高生だが、医師はアレルギーとか、病歴などを聞いて来た。

 本当に、患者に接するかのように、扱われた。

 ちょっと分からない、と答えると。

 現在の体調とか、不安に思っていることなどを聞かれた。

 この拘束を外して欲しいというと、医師は苦笑して、出来るだけ早く、そうなるようにしたいと思っている、と答えてくれた。

 私は医師だから、いつでも患者のためになるように考えている。

 患者が上手く気持ちを伝えられない事であっても、総合的に診断するから、出来るだけ協力して欲しい。でも、あなたの身体はあなたのものなのだから、無理強いはしない。

 そう、言ってくれた。

 私の身体は、私のもの。

 女子高生は、そう、小声で繰り返した。

 私、そう、自分に言い聞かせていたことが、あるような気がする。

「先生、私、記憶喪失なんでしょうか?」

 思い切って尋ねてみた。この先生なら、私の話をきちんと聞いてくれるかもしれない。

「そうかもしれませんね。まだ今の時点では分からないので、これから診断を進めていきましょう」

 安心するように、医師は頷いた。


挿絵(By みてみん)


     ~ ・ ~


挿絵(By みてみん)


 医師が去って、しばらくすると。

 女子高生のお世話をした、そして医師に付き添っていた看護師が、薬と水が入ったトレーを運んできた。

 見慣れない、薬。

 看護師は、優しく、でも事務的な手つきで、彼女の前に薬を並べていく。

 女子高生は、嫌な予感が胸をよぎった。

 何だろう、こんなに優しく扱われているのに。

 とても、嫌な予感がする。

 私の身体は、私のもの。

 嫌なものは、嫌だと言ってもいいんだ。

 女子高生は、そう、口にしてみた。

「私、飲みたくありません」

 看護師は、困った表情をして彼女を見つめる。

「どうして、飲みたくないの?」

 理由を聞かれて、女子高生は困った。

 嫌な予感がするのだ。飲みたくないものは、飲みたくない。

「なんとなく、です」

「この薬は、あなたのためなのよ? 医師の診断によって処方されているのだから、きちんと飲まないと、病状が良くならないでしょう?」

 病状。

 私は、病気なんかじゃない。

 ただ、何も知らないし、何もやっていないだけだ。

 なのに、どうして病人扱いされるんだろう。

 どうして、自由にしてくれないんだろう。

「でも……」

 そう、口には、出来ない。

 優しく、親切にして貰ったのに、そんな風には、言えない。

 ここでまた反抗したら、あの留置所や刑務所に戻されてしまうのかもしれない。

 それは嫌だ。もうあんな所には行きたくない。

「どうしても、飲みたくないの?」

 看護師が促すと。

「……分かりました。飲みます」

 女子高生は、頷くしかなかった。


挿絵(By みてみん)


     ~ ・ ~


 看護師が笑顔で、薬を飲ませてくれる。

 その笑顔をみると、胸の不安が少しだけ和らいだ。

 丁寧で安心できる手つきに、女子高生は素直な気持ちになる。

 そう、処方された薬を飲む、ただそれだけなのに。

 どうして私、反抗してしまうんだろう?

 なんでもない、事なのに。


挿絵(By みてみん)


     ~ ・ ~


 なんか、頭がぼぉっとする。

 どうしたんだろう。

 あの薬のせいかもしれない。

 やっぱり、何か入っていたんだ。

 飲みたくないって言ったのに。

 嫌だって言ったのに。

 どうして、私を自由にしてくれないの。

 どうして、私を閉じこめようとするの。

 どうして、私を……


 その様子を、看護師は冷静な視線で、観察していった。


挿絵(By みてみん)

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