俺の魔素量、どうやら測定限界を振り切っているらしい
「登録ですね。それではこちらの用紙に、お名前と年齢をご記入ください」
受付嬢のエルフから羊皮紙と羽ペンを受け取り、俺はさらさらと文字を書き込んだ。
『レオン・ドラグハルト』――ではない。
家名なんてとっくに捨てた。
ただの『レオン、15歳』とだけ記入して提出する。
「はい、確認いたしました。次に、冒険者としての適性と初期等級を判定するため、こちらの『魔力測定水晶』に触れて魔素を流し込んでください」
受付嬢がカウンターの上にコトンと置いたのは、メロンほどの大さの透明な水晶玉だった。 なるほど、この世界の「ステータスの代わり」である魔素量を測るわけか。
「あの、これって上限はどれくらいなんですか?」
「この水晶はギルド本部の特注品でして、最大で魔素量『1000』まで測定可能です。金級のトップクラスの方でも500前後ですから、まず振り切れることはありませんよ」
ニコリと微笑む受付嬢。
その言葉を聞いて、俺は少し嫌な予感がした。
俺の現在の魔素量は、死の森で魔物を喰らいまくったおかげで『数千』に到達している。
だが、ここで手加減して「無能な見習い」扱いされるのも面倒だ。適当に少しだけ流し込んで、銀級あたりの評価をもらっておくか。
「じゃあ、触るぞ」
俺はそっと、水晶玉に右手を乗せた。
その瞬間だった。
――ピキッ。
俺が魔素をコントロールする間もなく、体内に蓄積されていた莫大な魔力が、無意識のうちに水晶へと吸い込まれてしまった。
透明だった水晶が、直視できないほどの暴力的で蒼い光を放ち始める。
「えっ……? あ、あれっ!?」
受付嬢が慌てて立ち上がる。
次の瞬間、パァンッ!! と弾けるような破砕音がギルド内に響き渡り、魔力測定水晶が粉々に砕け散った。
シンッ……と、喧騒に包まれていたギルド内が一瞬で静まり返る。
「あー……悪い、割れちまった。弁償はする」 「ば、馬鹿な……測定限界の、1000を振り切った……!? あ、あり得ません! そんなの、白金級の英雄クラスでも……ッ!」
腰を抜かした受付嬢が、信じられないものを見る目で俺を凝視している。
周囲の冒険者たちも、割れた水晶と俺の顔を交互に見て、ざわめき始めた。
「おいおい、嘘だろ……?」
「あんな優男のガキが、白金級以上の魔素量を持ってるってのか?」
そんな驚きの声が上がる中、ドンッ! と乱暴にテーブルを蹴り倒して立ち上がった男がいた。
全身に傷跡のある大柄な戦士。腰に下げた認識票は『銀級』を示している。
「インチキだろ。ギルドの魔道具が劣化してたか、そのガキが何らかの細工をしたに決まってる」
男はズカズカと俺に歩み寄り、見下ろすように鼻で笑った。
「おいガキ。そんなに魔素があるなら、俺とちょっと揉んでみろよ。銀級の『剛腕のバッシュ』様が、本物の力ってやつを教えて――」
「ステータス、オープン」
俺は男の言葉を遮り、小さく呟いた。
男の頭上に、半透明のウィンドウが展開される。
====================
【名前】 バッシュ 【レベル】 - 【HP】 90/90 【魔素量】 60/60 【筋力】 42 【体力】 38 【敏捷】 25
(……なんだ。ただの雑魚か)
銀級といっても、この程度のステータス。
【筋力80】【敏捷90】の俺からすれば、寝ている赤子と大差ない。
「おい、聞いてんのかテメェッ!!」
無視されたと激昂した男が、丸太のような右ストレートを俺の顔面に放ってきた。
周囲から悲鳴が上がる。
だが、俺の眼にはその拳が、アクビが出るほどのスローモーションに映っていた。
俺は避けることすらしない。
飛んできた右拳に対し、軽く右手の『人差し指』を突き出した。
――ゴキァッ!!
「アギャァァァァッ!!?」
男の拳が俺の指に激突した瞬間、悲鳴を上げたのは男の方だった。
ステータスの絶対的な差。
指一本の『体力(防御力)』を、男の『筋力』が下回った結果、男の手首がへし折れたのだ。
「痛えか? じゃあ、お返しだ」
俺は泣き叫ぶ男の額に指を当て――ピンッ、と軽くデコピンを放った。
ドゴォォォンッ!!
「が、ぼァッ!?」
大柄な戦士の身体が、まるで大砲で撃ち出されたかのように宙を飛び、十メートル先のギルドの壁に激突して白目を剥いた。
めり込んだ壁には、クモの巣状のヒビが入っている。
「…………は?」
「な、なんだ今の……。バッシュが、デコピン一発で……?」
ギルド内に、先ほどよりも深い沈黙が落ちた。
誰の目にも、俺が強大な魔力を纏って攻撃したようには見えなかったはずだ。ただの物理の暴力なのだから。
「えっと……水晶の代金は、あいつの持ってる金から引いといてくれ」
俺はポカンと口を開けている受付嬢に向かって、平然と言い放った。
「そ、それじゃあ次は、俺の連れの登録を頼む。ニア、こっちに来い」
「は、はいぃっ! ぼ、坊ちゃん、また何かやっちゃったんですか!?」
おずおずと進み出てきたニアに、俺はこっそりと【数値化】のスキルを向けた。
そういえば、死の森でレベル18まで上がった彼女のステータスを確認していなかった。
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【名前】 ニア 【レベル】 18 【HP】 65/65 【魔素量】 550/550 (↑500 UP!) 【筋力】 15 【体力】 20 【敏捷】 25 【知力】 85 (↑77 UP!) 【スキル】 治癒(Bランク/熟練度E)
「……ぶっ」
俺は思わず吹き出しそうになった。
レベルアップによる恩恵が魔法使い(ヒーラー)適性に全振りされた結果、なんと彼女の【魔素量】は550、【知力】に至っては85に達していた。
さっき受付嬢が言っていなかったか?
「金級のトップクラスでも魔素量は500前後」だと。
つまり、このボロボロのメイド服を着てオドオドしている少女は、すでに国家騎士団の隊長クラスを凌駕する膨大な魔力タンクと化しているのだ。
「あー……悪い。この子の魔力測定は、新しい水晶を用意してからにしてくれ。また割れちまうからな」
「へ? わたし、何かするんですか?」
きょとんとしているニアを見ながら、俺は確信した。
俺という規格外の前衛と、金級を凌駕する魔力を持つ後衛。 神ゲーのシステムが生み出したこのパーティは、すでにこのクソゲー世界における最強のバランスブレイカーだ。
「よし、登録が終わったらさっそく依頼を見に行こうぜ。美味い飯を食うための、資金稼ぎ(レベリング)の時間だ」
周囲の冒険者たちが道を開ける中、俺たちは意気揚々とギルドの掲示板へと歩き出した。




