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この世界(クソゲー)のパワーバランスを把握する



「……はぁっ!? な、なんですかこれはッ!?」


 静寂を取り戻した森に、ニアのすっ頓狂な叫び声が響いた。  


俺が災害級の魔物たちを全滅させたことで、パーティを組んでいたニアのレベルは一気に『18』まで跳ね上がっていた。  


ステータスの概念を知らない彼女でも、自身の体内に満ち溢れる異常な魔素と身体の軽さには気付いたらしい。


「細かいことは後でいい。とりあえず怪我がなくて良かった。ここから先は『死の森』を抜けて、近くの街を目指すぞ」


「ま、街ですか? ドラグハルトの領地に戻るんじゃ……」


「戻ってどうする。あんなクソみたいな実家、俺から願い下げだ」


 俺は宝剣を腰の鞘に収め、森の出口の方角へと歩き出した。


 追放されたことで、逆に自由の身になった。  


この世界が俺の知るクソゲーと同じなら復讐するにしても情報集めはしておいたほうがいい。それに外の世界にはまだまだ未知の魔物や、隠されたダンジョンがあるはずだ。  


まずは街を拠点にして、この世界の現状と、自分の正確な立ち位置(強さ)を把握する必要がある。


「それに、美味い飯も食いたいしな」


「は、はいっ! どこまでも坊ちゃんにお供します!」


 レベルアップで無駄に【敏捷】が上がったニアが、ホバー移動のような滑らかな動きで俺の背中についてくる。


メイド服が破れてボロボロだが、妙に逞しくなっていて少し面白い。


     *


 死の森を抜け、半日ほど歩いて辿り着いたのは、防壁に囲まれた大きな商業都市『バルバトス』だった。  


活気あふれる大通りを抜け、俺たちが真っ先に向かったのは、剣と盾の看板が掲げられた大きな石造りの建物――『冒険者ギルド』だ。


 重い木扉を押し開けると、むせ返るような酒と汗の匂い、そして荒くれ者たちの喧騒が押し寄せてきた。  


俺はギルド内の壁に貼り出されている『等級(ランク)』の案内板を眺めながら、受付の列に並んだ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日は登録ですか?」


 受付カウンターに座る、愛想の良いエルフの女性職員が声をかけてくる。  


俺は頷き、この世界の冒険者制度について詳しく説明を求めた。


「はい、ご説明しますね。当ギルドの等級は、実績と実力に応じて下から順に上がっていきます」


 受付嬢の説明と案内板を総合すると、この世界の階級はこうだ。


【鉄級(アイアン)】 見習い。

【銅級(ブロンズ)】 ギルドが認定する『一人前』。一般的な兵士レベル。

【銀級(シルバー)】 数々の死線を潜り抜けた『熟練』。

【金級(ゴールド)】 才能ある者が到達できる『一流』の壁。騎士団の隊長クラス。


「そして、その金級のさらに上に、常人では到達不可能な『規格外』とされる等級が三つ存在します」


【白金級(プラチナ)】 国家の重要戦力とされる一騎当千の英雄クラス。

【黒鋼級(アダマンタイト)】 大陸全土でも数えるほどしかいない生ける伝説。

【神聖級(オリハルコン)】 歴史上、魔王を討伐した『勇者』のみに与えられた称号。


「なるほど。分かりやすいヒエラルキーだ」


 説明を聞きながら、俺はギルド内にたむろしている冒険者たちに【数値化】のスキルを使用し、片っ端からステータスを覗き見ていた。


 鉄級のチンピラたちは、全体的なステータスが「5〜10」程度。  


銅級(一人前)になると、「15〜20」くらいで安定している。  


隅のテーブルで静かに酒を飲んでいる、歴戦のオーラを放つ銀級(熟練)のパーティーで、だいたい「30〜50」といったところだ。


(なるほど。この世界の人間の強さは、ある程度『等級』とステータス数値が比例してるわけか)


 俺はここで、一つの疑問に行き当たった。  


この世界の人間に「レベル」や「ステータスポイント」の概念はない。なら、彼らの筋力や敏捷といった数値は、どうやって算出されているのか?


 その答えは、彼らの『魔素量(MP)』と『スキル』の項目を観察することで、すぐに紐解けた。


 この世界の戦い方の基本は、「体内の魔素を武器や肉体に纏わせて強化する」ことだ。  


魔法系のスキルを持つ者は、魔素を注ぐことで魔法の威力や発動速度を上げる。


剣士系のスキルを持つ者は、魔素を纏うことで斬撃の威力や身体能力を底上げする。  


つまり、俺の神ゲーシステムは、彼らの『生身の肉体』に『魔素による強化補正』と『スキルの威力』を総合して計算し、分かりやすい【筋力(STR)】や【敏捷(AGI)】といった数字に転換(コンバート)して視認化しているのだ。


(魔力で身体を強化した結果の『総合的な戦闘力』が、あの数値ってわけだ)


 それを踏まえて、現在の俺のステータスを振り返る。


====================

【名前】 レオン 【レベル】 38 【筋力】 80 【体力】 45 【敏捷】 90 (※魔素量は【魔物食らい】により数千に到達)


 銀級(シルバー)のトップ層が「50」前後であることを考えると、俺の『80〜90』というステータスは、おそらく【金級(ゴールド)の上澄み】といったところだろう。


「……はっ」


 自分が「最強」ではないと悟った瞬間。  


俺の口から、自然と笑みがこぼれていた。


 俺を虐げていた父や長兄ザイアスのステータスは、おそらくこの【金級】のど真ん中あたりだ。


今の俺なら、余裕で物理(ステータス)の暴力でへし折れる。


 だが、その上がある。  


【白金級】の連中は、おそらくステータスが100を超えてくるのだろう。


【黒鋼級】や【神聖級】に至っては、200、300の世界かもしれない。


 絶望? 違う。  


才能ガチャで決まるこのクソゲー世界の住人からすれば、「上がいる」ということは、「生まれ持った才能の壁」を見せつけられる絶望でしかない。


 だが、俺は違う。俺は『無限にレベルが上がる』バグプレイヤーだ。  


上がいるということは。敵が強いということは。


(まだまだ……無限に【レベリング(成長)】できる余地があるってことじゃねえか!)


 神ゲーのカンスト(レベル999)までは、まだまだ遠い。  


やり込み要素(エンドコンテンツ)がたっぷり用意された世界を前に、俺のゲーマーとしての血が熱く沸き立つのを感じた。


「登録手続きはどうしますか?」


「あ、ああ、悪い。俺と……このメイドの二人分、頼む」


 俺は興奮を抑え込みながら、受付嬢に銅貨を差し出した。


「待ってろよ、このクソゲー世界。俺がシステムの暴力で、残らず蹂躙してやる」


 こうして俺は、底なしのレベリング欲求と共に、冒険者としての第一歩を踏み出したのだった。


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