ただのステータスゴリ押しが通用しないこともあるみたいです
「えっと……水晶の代金は、あいつの持ってる金から引いといてくれ」
壁にめり込んで気絶している銀級冒険者バッシュから視線を外し、俺は受付嬢に向かって平然と言い放った。
「そ、それじゃあ次は、俺の連れの登録を頼む。ニア、こっちに来い」
「は、はいぃっ! ぼ、坊ちゃん、また何かやっちゃったんですか!?」
おずおずと進み出てきたニアを登録しようとした、その時だった。
「――おいおい。俺のギルドで派手に暴れてくれたじゃねえか、新人」
野太く、だが静かな威圧感を持った声がギルド内に響いた。
奥の扉から現れたのは、顔に大きな傷跡を持つ、白髪混じりの初老の男だった。
彼が歩み出るだけで、騒いでいた冒険者たちがサッと道を空け、息を呑む。
「ギ、ギルドマスター! 申し訳ありません、すぐに片付けますっ!」
「いい、俺が対応する。……限界値1000の水晶を割り、うちの中堅であるバッシュを指一本で沈めたか」
ギルドマスターと呼ばれるその男は、俺の前に立つと、獲物を値踏みするような鋭い視線を向けてきた。
「俺はここのギルドマスターを務めている、ガウェインだ。お前のその力……ただ魔素の暴走で水晶が割れただけか、それとも本物か。俺が直々に確かめてやる」
「確かめるって、どうやって?」
「裏の訓練場へ来い。少し『模擬戦』をしようじゃねえか」
ニヤリと好戦的に笑うガウェイン。
俺は少し拍子抜けして、肩をすくめた。
(……模擬戦ね)
俺の現在のステータスは、【筋力80】【敏捷90】。金級の上澄みすら凌駕する数値だ。いくらギルドマスターとはいえ、老兵が相手になるわけがない。
まあいい。ここで実力を見せつけておけば、今後の面倒な絡みも減るだろう。
「いいぜ。あんたが怪我しても文句は言わないでくれよ」
*
ギルド裏の訓練場。
周囲を多くの冒険者たちが野次馬として取り囲む中、俺とガウェインは木剣を持って対峙した。
「いつでも来い、小僧」
木剣をだらりと下げ、全く構えようとしないガウェイン。隙だらけだ。
念のため、俺は彼に【数値化】のスキルを使用した。
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【名前】 ガウェイン
【レベル】 -
【HP】 150/150
【魔素量】 300/300
【筋力】 65
【体力】 50
【敏捷】 55
【スキル】 剣神(Aランク/熟練度S)
【等級】 元・白金級級
(元・白金級……!? なんだ、めちゃくちゃ凄い奴じゃねえか!)
白金級という肩書きは恐ろしいが、全盛期を過ぎた老体だからか、純粋なステータスは俺(筋力80/敏捷90)の方が遥かに上回っている。数値だけで言えば問題ないはずだ。
(悪いが、一瞬で終わらせてもらう!)
ダンッ!!
俺は【敏捷90】の暴力的な速度で地を蹴った。
野次馬たちの目には、俺が消えたように見えたはずだ。一直線にガウェインの懐に飛び込み、首筋めがけて木剣を振り抜く。
――勝った。
そう確信した瞬間。
「……力任せな、ガキの剣だ」
ガウェインの姿が、ふっと俺の視界から『ズレた』。
彼は俺の圧倒的なスピードを目で追うことすらしていない。ただ、俺が踏み込む直前の『気配』と『筋肉の動き』から軌道を完全に先読みし、最小限の半歩で回避したのだ。
「なっ!?」
空を切る俺の木剣。
体勢が前のめりに崩れた俺の足首を、ガウェインの足が軽く払う。
ただそれだけ。力なんて微塵も入っていない。だが、俺の突進の勢いと完璧に合わさったその一撃で、俺はあっさりと空中に投げ出され、背中から地面に叩きつけられた。
――トンッ。
「そこまでだ」
気づけば、ガウェインの木剣の切っ先が、寝転がった俺の喉仏にピタリと突きつけられていた。
「…………は?」
俺は信じられない思いで、喉元の木剣と、ガウェインを見上げた。
ステータスは俺の方が圧倒的に上だったはずだ。
スピードも、パワーも、俺の方が倍以上あった。なのに、俺は彼に一発の攻撃も当てられず、まるで子供のようにあしらわれ、一本取られた。
「お前さん、魔素量はバケモノ級だが……『力の使い方』が素人以下だ。力に振り回されて、無駄な動きが多すぎる」
木剣を引き、ガウェインが手を差し出してくる。
俺はその手を借りて立ち上がりながら、雷に打たれたような衝撃を受けていた。
(……そうか。分かったぞ。俺は勘違いをしていたんだ)
この『アエテルガルド』は、初期ガチャで才能が固定され、レベルアップも存在しないクソゲーだ。
だが、だからこそ――。
生まれ持った魔素量が増えないからこそ、彼らは「魔力を一滴も無駄にしない効率的な運用」を何十年もかけて極める。
身体能力の限界が固定されているからこそ、相手の動きを読み、地形を使い、完璧な立ち回りでカバーする。
つまり、この世界の実力者たちは、純粋な数値を補って余りあるほどの異常な『プレイヤースキル』を持っているのだ。
(たしかに、前世のゲームでもそうだった……!)
俺の脳裏に、前世の記憶が蘇る。
どれだけレベルを上げて【筋力】や【敏捷】をカンストさせようと、トップ層のプレイヤー同士のPvP(対人戦)では、ただステータスで殴るだけの奴は絶対に勝てなかった。
フレーム単位の回避。
相手のスキルのクールダウン(隙)を読む戦術眼。
リソース(MP)の完璧な管理。
そういった、プレイヤー自身の『操作精度と経験』こそが、真の強者を決定づけていたのだ。
「……あははっ、完敗だ。あんた、すげえな」
俺の口から、負けた悔しさではなく、心底楽しそうな笑いがこぼれた。
「俺は今まで、ただの『ステータスの暴力』で魔物を轢き殺してきただけだった。力があれば無双できると思ってた。……でも、違ったな」
「ほう? 負けてそんなに嬉しそうな顔をするガキは初めてだぜ」
「上がいるって分かって、ワクワクしてるんだよ。このクソゲー、まだまだ面白くなりそうじゃねえか」
俺は木剣を返し、ガウェインに深く頭を下げた。
「あんたのプレイヤースキル……いや、立ち回り、最高だった。もっと俺に、戦い方ってやつを教えてくれないか?」
俺には、無限にレベルを上げてステータスを伸ばせる『神ゲーのシステム』がある。
それに加えて、この世界の実力者たちが持つ究極の『プレイヤースキル』まで身につけたら――。
(ただのステータス馬鹿じゃない、文字通り『最強のプレイヤー』になれる!)
「ふん。生意気だが、素直なガキは嫌いじゃねえ。いいだろう、特別にギルドの訓練施設を使わせてやる」
「ありがとう、マスター」
才能固定のクソゲー世界。
だが、そこには彼らが血の滲むような思いで磨き上げた「技術」があった。
無限の【ステータス(力)】と、極限の【プレイヤースキル(技)】。その両方を手に入れるため、俺の新たなレベリングが始まった。




