他人のステータスを可視化してみたら、俺を虐げていた天才(あいつら)が思ったよりも弱すぎた
「……ふぅ、食った食った。ブラッドベアの肉、マジで上質なハラミみたいだったな」
血まみれの口元を手の甲で拭いながら、俺は大きく息を吐き出した。
朝日に照らされた森の広場は、凄惨な血の海と化している。
だが、俺の体内には、魔物たちから奪い取った莫大な魔素(MP)と経験値が、熱いマグマのように脈打っていた。
先ほどのレベルアップで得たステータスポイントを振り分け、現在の俺の能力値はこうなっている。
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[NAME] レオン [Lv] 15 [HP] 120/120 [MP] 240/240 [STR] 25 [VIT] 15 [AGI] 30 [INT] 4 [LUK] 1
「……さて。問題は、俺のこの数字が、この世界でどれくらいの立ち位置なのかってことだ」
一般的な成人の平均魔素量は『20〜30』。
それは知識として知っている。だが、筋力(STR)や敏捷(AGI)といった物理的なステータスは、この世界の誰も明確な数値として把握していない。
――俺のシステム(数値化)なら、この世界の人間のステータスも視れるんじゃないか?
そんなゲーマーとしての好奇心が湧き上がってきた、まさにその時だった。
「おい、冗談だろ……? なんであのゴミが、まだ息してやがる」
不意に、森の木々の隙間から、ひどく耳障りな声が響いた。
草葉を掻き分けて現れたのは、豪奢な軽鎧に身を包んだ若い男と、数人の護衛の騎士たち。
「……次兄、ライル」
俺は目を細めた。
長兄のザイアスの影に隠れ、いつも俺を嘲笑い、暇つぶしのように暴力を振るっていたドラグハルト家の次男。Bランクスキル【風刃】を持つ、鼻持ちならない男だ。
「チッ、父上に『一応、あの無能が死んだか死体を確認してこい』と言われて来てみれば……。なんで一晩経って生きてんだよ、目障りな」
ライルは心底不愉快そうに舌打ちをした。
彼らの視界には、俺の足元に転がるブラッドベアや大量の魔物の死骸が入っているはずだ。だが、彼らはそれが「俺が倒したもの」だとは微塵も思っていないらしい。
「運良く魔物同士の共食いにでも紛れ込んだか? まぁいい。俺が直々にその首を刎ねて、父上への報告の土産にしてやるよ」
チャキッ、とライルが腰の宝剣を抜く。
かつての俺なら、その音を聞いただけで恐怖に身体がすくんでいただろう。
だが、今の俺の心にあるのは、恐怖ではなく『純粋な好奇心』だった。
(……ちょうどいい。生きた実験台が向こうから来てくれた)
俺はシステムに意識を集中し、眼前のライルを強く睨みつけた。
神授の儀で「他人の魔力値を見るだけのハズレスキル」と蔑まれた、【数値化】の真の力。
対象の完全なステータス閲覧機能。
「ステータス、オープン」
小さく呟いた瞬間、ライルの頭上に、俺のものと同じ半透明のウィンドウが展開された。
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[NAME] ライル・ドラグハルト [Lv] - [HP] 45/45 [MP] 85/85 [STR] 12 [VIT] 8 [AGI] 10 [INT] 12 [LUK] 5 [SKILL] 風刃(Bランク/熟練度C)
「…………は?」
表示されたその数字を見て、俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
「なんだこれ。……低すぎないか?」
「あ? 今、なんて言った、このゴミ」
ライルが青筋を立てて凄んでくるが、俺の目には彼のステータス画面しか映っていない。
HP、45。 STR(筋力)、12。 AGI(敏捷)、10。
俺を散々殴りつけ、「才能の違いを教えてやる」とふんぞり返っていたエリートの数字が、たったのこれだけ?
一晩でSTR25、AGI30に達した今の俺から見れば、森の入り口にいる雑魚ゴブリンと大差ない数値だった。
「……あははっ、マジかよ」
俺は耐えきれず、腹を抱えて笑い出した。 なんだ、こんなもんだったのか。
この世界の連中が絶対視する『才能』なんて、神ゲーのステータスに置き換えたら、たったこれっぽっちのチンケな数字の暴力でしかなかったのか!
「何がおかしいッ!! 死に絶えろ、無能がァ!!」
俺の態度に激昂したライルが、スキルを発動させる。
風の魔力を纏わせた宝剣が、俺の首元をめがけて鋭く振り下ろされた。
――遅い。
あくびが出るほど、遅すぎる。
AGI30の俺の目には、ライルの剣の軌道が、まるで水中にいるかのようなスローモーションに見えていた。
「この程度のスピードで、よく今までイキれてたな」
スッ、と。
俺は首を傾けるだけで、必殺の一撃を紙一重で躱す。
空を切った剣勢に体勢を崩したライルの顔面が、ガラ空きになった。
「なっ……!?」
驚愕に目を見開くライルの鼻柱に向かって、俺は血濡れた拳を軽く突き出した。
STR25の、純粋な物理の暴力。
「が、ぼァッ!?」
鈍い破砕音と共に、ライルの身体が木の葉のように吹き飛んだ。
十メートル以上後方の太い樹の幹に激突し、白目を剥いて崩れ落ちる。一撃だ。スキルすら使っていない、ただのパンチ一発。
「ら、ライル様ッ!?」
「ば、馬鹿な! あの無能が、ライル様を素手で……!?」
護衛の騎士たちが、信じられないものを見る目で俺を凝視している。
俺は拳についたライルの鼻血を払いながら、彼らに向かってひらひらと手を振った。
「おい、その雑魚を連れてとっとと実家に帰れ。ついでにあのクソ親父とザイアスに伝えておけよ」
俺は、底冷えのするような笑みを浮かべて宣言した。
「次は俺から行く。お前らのチンケな才能、全部ぶっ壊してやるから、首洗って待ってろってな」
絶対に覆せないと思っていた理不尽の壁。 それが『たった一晩のレベリング』であっけなく崩れ去った瞬間だった。




