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食べるだけで、天才と呼ばれた兄の才能を越えてしまった件



「美味い。ファングラビットの肉は脂質が少なくて食いやすいが……ゴブリンの肉は少しクセがあるな。まあ、数字(ステータス)のためなら泥だって食ってやるが」


 血まみれの森の中で、俺の異常な「朝食」は続いていた。


 普通なら瘴気に当てられて即死するはずの魔物の生肉。  


だが、神ゲーのシステムである【魔物食らい】を通すことで、猛毒は極上の旨味に変換され、俺の身体に強烈なエネルギーを満たしていく。


『ピロリン♪』 【

『ゴブリンの肉』を摂取しました】

【スキルの効果により、最大MP(魔素量)が3上昇しました】


『ピロリン♪』

【『大蝙蝠の肉』を摂取しました】

【スキルの効果により、最大MPが2上昇しました】


 肉を噛みちぎり、飲み込むたびに、視界の端で無機質なウィンドウが踊る。  


それに合わせて、身体の奥底……丹田のあたりに、熱いマグマのような「力」が蓄積されていくのがはっきりと分かった。


「ステータス、オープン」


====================

[NAME] レオン [Lv] 12 [HP] 65/65 [MP] 215/215 (↑210 UP!) [STR] 15 [VIT] 10 [AGI] 20 [INT] 4 [LUK] 1


 ウィンドウに表示された[MP]の数値を見て、俺は思わず喉の奥で笑い声を漏らした。


 ――MP、215。


 この世界において、普通の成人の平均魔素量は「20〜30」程度だと言われている。  


俺を毎日のように木剣で殴り飛ばしていた長兄のザイアスの魔素量は「150」。


彼はその異常な数値とスキルから『十万人に一人の天才』と家中で持て囃され、次期当主としてふんぞり返っていた。


「あははっ……傑作だな。あのクソ兄貴が一生かけても増やせない『天才の魔力』を、俺は生肉を食うだけで超えちまったぞ」


 ふと、俺はウィンドウに並ぶ[STR(筋力)]や[AGI(敏捷)]といった項目を見て、ある決定的な事実に気がついた。


「……そもそもこの世界には、『ステータス』なんて概念は存在しないんだ」


 この世界の住人が強さを測る基準は、「スキルのレアリティ」と「魔素量」の二つだけだ。  


戦士は剣を振って肉体を鍛えるが、それはあくまで物理的な筋肉の話であって、明確な『数値』として身体能力を認識している者は一人もいない。  


当然だ。


レベルアップによる「ステータスポイントの割り振り」なんて概念そのものを知らないのだから。


 つまり、身体能力を数字として視認し、ポイントを振ることで世界の物理法則を無視して直接肉体を強化できるのは――この世界で俺だけなのだ。


 俺は完全に、このクソゲー世界の常識(ルール)から外れたバグ存在になっていた。


 圧倒的な万能感に浸っていた、その時だった。


 ――ズシン、ズシン、ズシン。


 森の奥から、木々をなぎ倒すような重い足音が響いてきた。  


周囲に漂う強烈な血の匂いに誘われてやってきたのだろう。  


茂みを掻き分けて姿を現したのは、体長3メートルを超える赤毛の巨熊――『ブラッドベア』だった。


「グルルォォォォォッ!!」


 大気を震わせる咆哮。  


死の森の中層に生息する凶悪な魔物。一般的な騎士が小隊を組んで、ようやく討伐できるかどうかのバケモノだ。  


昨日までの『無能な三男』が出会えば、一秒で肉片に変えられる存在。


 だが、今の俺の目には、こいつが「極上のステーキ肉」と「莫大な経験値」にしか見えなかった。


「ちょうど腹八分目だったんだ。デザート代わりに狩らせてもらうぜ」


 俺は血濡れの錆びたナイフを構え、地を蹴った。


ステータスの恩恵で、俺の身体は風のように軽い。  


大木をへし折るブラッドベアの剛腕を、まるで止まっているかのように余裕で躱し、その無防備な胸元にナイフを深々と――


 ――ガァンッ!!


「……チッ、硬えな」


 ナイフが刃こぼれを起こし、火花が散った。  ブラッドベアの筋肉は鋼のように硬く、初期装備のなまくらでは、ステータスによる筋力(STR)を乗せても致命傷に至らない。


「ゴアァァッ!」


 苛立った熊の裏拳が迫る。  


俺は大きくバックステップを踏んで距離を取った。


「物理攻撃が通らないなら……さっき食って増やした『魔素』を使えばいいだけの話だ」


 俺はこの世界で何のスキルも教わっていない。当然、魔法なんて撃てるはずがない。  


だが、俺にはあの『神ゲー』のシステムがある。


「開け、スキルツリーッ!」


 俺が空中に向かって叫ぶと、ステータス画面の隣に巨大な樹形図のウィンドウが出現した。  


レベルアップで獲得していた【未振分のスキルポイント】は「11」。


 俺は迷わず、基礎戦闘ツリーの初期スキルを選択した。


【SPを5消費し、アクティブスキル『魔力撃』を取得しますか?】  ▶はい   いいえ


「確定(エンター)だ!」


『ピロリン♪』

【スキル『魔力撃Lv1』を取得しました】


 次の瞬間、脳内にスキルの発動方法が本能として書き込まれる。


 【魔力撃】――自身の魔力(MP)を武器にまとわせ、切れ味と威力を爆発的に高めるスキル。  


この世界では、長年の修行を積んだエリート騎士しか使えないはずの高等技術だ。


それを俺は、システムからのダウンロードだけで一瞬にして習得してしまった。


「さあ、有り余ってる天才(アニキ)超えの魔力(MP)の使い道だ。飛ぶぞ?」


 ブラッドベアが、地響きを立てて突進してくる。  


俺は刃こぼれしたナイフを構え、体内で暴れ回る200以上のMPを、惜しげもなく刃に注ぎ込んだ。


「――【魔力撃】ッ!」


 ブォンッ!!  


錆びたナイフから、蒼く輝く高密度の魔力の刃が1メートル以上も伸びた。  


まるで、SF映画に出てくるレーザーブレードだ。


「ギャウッ!?」


 突進してきたブラッドベアが、俺の持つ異常な魔力の気配に怯え、ブレーキをかけようとする。  


――遅い。


「ごちそうさまだ」


 すれ違いざまの一閃。  


鋼よりも硬いはずの巨熊の胴体が、熱したナイフでバターを切るように、いとも容易く両断された。


 ドゴォォォンッ!!


 上半身と下半身が泣き別れになった巨熊が、地響きを立てて沈黙する。  


大量の血しぶきを浴びながら、俺は蒼い光を放つナイフを軽く振って血糊を払った。


『ピロリン♪』

【経験値を獲得しました】

【レベルが12 → 15に上がりました】

【ステータスポイントを15獲得しました】

【討伐対象とのレベル差ボーナスにより、SP(スキルポイント)を5獲得しました】


 けたたましく鳴り響くレベルアップのファンファーレ。  


それを聞きながら、俺は倒れたブラッドベアの分厚い肉に視線を落とす。


「……こいつの肉、霜降りの牛ハラミみたいで美味そうだな」


 ただのゴミとして追放された無能な三男は、たった一晩で『天才の兄』すら凌駕する力を手に入れた。  


だが、まだまだ足りない。こんなものでは終われない。


 前世の俺が、あの神ゲーでカンストまで何万匹のモンスターを狩ったと思っている?


「さあ、どんどん食って、どんどんレベルを上げようぜ。このクソゲーを、俺のステータスで完全に制圧(クリア)するその日までな」


 静寂を取り戻した森の中で。  最狂のゲーマーは、さらなる獲物を求めて口角を三日月のように歪ませた。


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