魔物を食えば、魔素すら無限に上がるらしい
「ハハッ、遅え! 遅えよッ!!」
薄暗い『死の森』に、俺の狂ったような笑い声が響き渡る。
迫り来る鋭い爪を紙一重で躱し、手にした錆びたナイフを魔物――ゴブリンの首筋に深々と突き立てる。
どす黒い血が噴き出し、醜悪な魔物がドサリと地面に倒れ伏した。
『ピロリン♪』
【経験値を獲得しました】
まただ。また脳内に神ゲーのファンファーレが鳴り響く。
俺は噴き出した血を拭いもせず、次の獲物を求めてギラついた目を周囲に向けた。
「次! 次はどこだッ! 俺に経験値を寄越せェ!!」
最初のファングラビットを倒し、レベルアップの快感を知ってから、俺は完全に時間の感覚を失っていた。
どれくらい森を駆け回っているのか分からない。
ただ、心の奥底にヘドロのように溜まっていた「怒り」が、俺を突き動かしていた。
「これは、前世で俺の企画を奪ったクソ同期の分ッ!」
――ゴシャァッ!!(ナイフの柄でゴブリンの頭をかち割る音)
「こっちは、木剣で俺の腹を殴りやがったクソ兄貴の分ッ!!」
――ザシュゥッ!!(飛びかかってきた大蝙蝠を両断する音)
俺はただ、八つ当たりをしていた。
前世で俺を見下してきたエリートたち。今世で俺を「才能がないゴミ」と虐げてきた父や兄。 絶対に覆せない理不尽への鬱屈とした復讐心を、すべて目の前の魔物にぶつけていた。
だが、現実と違うのは――俺が理不尽に怒りをぶつければぶつけるほど、確実に俺自身が『強く』なっていくことだ。
【レベルが上がりました】
【ステータスポイントを5獲得しました】
「全部、[AGI(敏捷)]に極振りだッ!」
ポイントを割り振った瞬間、身体が羽のように軽くなる。
数時間前まで、俺は兄の剣の軌道すら見えない最弱の無能だった。だが今は、ゴブリンの動きがまるでスローモーションのように見える。
努力が、痛みが、怒りが、すべて100%の『数字』になって俺に還元される。
最高だ。
やっぱりこのゲーム(システム)は神ゲーだ。
才能ガチャだけで決まるこのクソゲー世界を、俺の愛した神ゲーの力でメチャクチャにぶっ壊してやる!
無心で、ただひたすらに、時間を忘れて魔物を狩り続けた。
*
「……ふぅ、はぁっ、はぁっ……」
木々の隙間から、朝日が差し込んできた。 俺は血濡れのナイフを取り落とし、その場に大の字で寝転がった。
周囲には、数十匹に及ぶゴブリンやファングラビットの死骸が山を築いている。
一晩中、徹夜で狩り続けてしまったらしい。前世でエナジードリンクを片手にレベリングしていた頃と、何も変わっちゃいない。
「ステータス、オープン……」
空中に、見慣れた半透明のウィンドウが浮かび上がる。
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[NAME] レオン [Lv] 12 [HP] 65/65 [MP] 5/5 [STR] 15 [VIT] 10 [AGI] 20 [INT] 4 [LUK] 1 [ステータスポイント] 0
「レベル12……。一晩でここまで上がるか、普通」
筋力や敏捷は、おそらくすでに一般的な騎士や冒険者を凌駕しているはずだ。なにせ、岩を素手で粉砕できるレベルなのだから。
だが、俺の視線はある一点で止まった。
「……ん? スキルの項目が、光ってる?」
ウィンドウの端にある[SKILL]のタブ。そこを開いた俺は、思わず目を疑った。
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【所持スキル】 ・数値化(Lv: - ) ・魔物食らい(Lv: 1) ※NEW!
「ま、魔物食らい……? なんだこれ、新しいスキル……?」
いや、あり得ない。
この『アエテルガルド』の世界において、人間が持てるスキルは【一人につき一つ】が絶対の法則だ。
歴史上に数人だけ存在したという、規格外のバグ的存在である『勇者』ですら、確認されている個人としては保有していたとされる最大スキル数は3つだったとされている。
なのに俺は、レベルを上げただけで「2つ目」のスキルを後天的に覚えてしまったのだ。
震える指で、【魔物食らい】の詳細をタップする。
【魔物食らい(Lv: 1)】 効果:魔物の肉を喰らうことで、HPおよびMPを回復する。 追加効果:討伐した魔物のランクに応じ、自身の【最大MP(魔素量)】を永続的に上昇させる。
「――は?」
俺は間抜けな声を出して、その文字を二度見した。
「最大MP(魔素量)を、永続的に上昇させる……!?」
この世界における、もう一つの『絶対の法則』。
それは、生まれ持った【初期魔素量】は一生増えない、という残酷な現実だ。
だからこそ、俺のように魔素量が底辺の人間は、どれだけ努力しても強力な魔法や技を使うことができず、一生「無能」として生きるしかない。
魔物の肉を喰う?
普通なら絶対にあり得ない。魔物の体内には猛毒の瘴気が含まれており、人間が一口でも食えば内臓が腐り落ちて死ぬのが、この世界の常識だ。
「……だが、俺のシステムが『食える』って言ってんだ」
俺は迷うことなく立ち上がると、足元に転がっていたファングラビットの死骸から、太ももの肉をナイフで切り出した。
一晩中暴れ回って、腹も減っていた。
火を起こすのももどかしく、俺は血の滴るその生肉に、躊躇なくガブリと噛み付いた。
――美味い。
毒々しい見た目に反して、システムが介入しているせいか、最高級の霜降り肉のような濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。
『ピロリン♪』
【『ファングラビットの肉』を摂取しました。HPが回復します】 【スキルの効果により、最大MP(魔素量)が1上昇しました】
ウィンドウの[MP]の数値が、「5/5」から「6/6」へと変化した。
「あ、あははっ……!」
口の周りを血で染めたまま、俺は天を仰いで笑い出した。
これで、俺を縛り付けていたすべての『才能』の壁がまた一つ消え去った。
レベルを上げれば、ステータスは無限に上がる。
そのうえ魔物を食えば、ステータスポイントを割り振らなくても魔素量すら無限に増大していく。
この【魔物食らい】というスキルは、才能至上主義のこの世界において、完全にルール違反のチートだった。
「最高だ……! 最高の神ゲーじゃねえかッ!」
俺の視線の先には、数え切れないほどの魔物の死骸が転がっている。
普通なら目を背けたくなるようなその光景が、今の俺には「無限に魔力を上げてくれる極上のフルコース」にしか見えなかった。
「全部食ってやる。この森の魔物を狩り尽くして、食い尽くして……」
クソ親父。クソ兄貴。
お前らが俺からすべてを奪い、見下してきた分は、きっちり「数字」で精算させてもらう。
「俺の魔力が、お前らの自慢の才能を超えるまで……終わらねえぞ」
血まみれの口角を吊り上げ、最狂のレベリング狂いは、異世界の森で「朝食」を開始した。




