松永好みを探せ
神戸の港湾工事で見つかった古い焼物は、すぐに松永久秀へ持っていける状態ではなかった。
完形のものはともかく、少弐冬明が特に面白いと思った器には欠けや割れがある。
少弐は職人に修復を頼んだ。
傷を消す必要はない。
むしろ残してよい。
銀を使い、古い器が歩んできた時間そのものが見えるように接いでほしい。
ところが職人から返ってきた答えは、
「二月ほどいただきたい」
だった。
「二月か」
少弐は少し考えた。
ならば、その間にもう少し集めればいい。
松永が欲しがっているのは名物ではない。
堺へ行けば買えるものでもない。
見せた瞬間に、
――これは何だ。
そう言わせるものだ。
少弐は清盛館へ戻ると、二通の書状を書き始めた。
一通目の宛先は須知だった。
少弐は筆を取り、かなり乱暴な注文を書く。
――朝鮮へ入り、茶器を買い集めてほしい。
ただし、有名な品だけを探す必要はない。
茶碗。
壺。
瓶。
水を入れる器。
酒器。
皿。
用途は問わない。
高価である必要もない。
少弐が求めている条件は別だった。
――京や堺で、あまり見かけぬものを優先せよ。
さらに書き足す。
――茶器として作られたものに限らず。
ここが重要だった。
朝鮮の者が飯を食うために使っている椀でもよい。
酒を入れる瓶でもよい。
水を汲む器でもよい。
少弐自身、松永と話していて分かってきた。
あの老人が喜ぶのは値段ではない。
見立てる余地のあるものなのだ。
「須知なら分かるだろう」
少弐は呟いた。
そして最後に、
――形の妙なるもの、焼きの変わったもの、傷あるものも捨てず見よ。
と付け加えた。
割れているから価値がないとは限らない。
むしろ松永なら、傷を面白がる可能性さえある。
一通を書き終える。
次は北方だった。
宛先はハウキ。
こちらについては、少弐も少し考えた。
「茶器を探せと言っても仕方ないな」
北方で京の茶道具を探させる意味はない。
ならば逆でいい。
少弐は書いた。
――ハウキへ。
――頼みがある。
――そちらで使っている器の中から、何か面白いものを送ってほしい。
そして条件を書く。
――飲み物、または食べ物を置けそうなものなら、何でもよい。
木でもよい。
焼物でもよい。
骨でもよい。
角でもよい。
籠でもよい。
現地の者が普段使っているものでも構わない。
祭りで使うものでもいい。
「何でもいい、というのが一番困るか」
少弐は苦笑した。
そこでさらに説明を加えた。
――こちらでは見たことのない形なら、なおよい。
――高価なものを求めているわけではない。
――無理に珍しいものを作らせる必要もない。
――普段使っているものの中から選んでほしい。
少弐は少し考え、
――できれば、どこで、誰が、何に使っているものかも書いてくれ。
と加えた。
これは久秀へ話すためでもあった。
単に「北から来た器」では面白くない。
宗谷の漁師が魚を入れるもの。
樺太の者が酒を飲む器。
大陸側の集落で客に食物を出す皿。
そうした話まで付いていれば、茶会で久秀が自慢できる。
最後に少弐は、
――十でも二十でも構わぬ。
と書こうとして筆を止めた。
「……いや」
ハウキの性格を思い出す。
本当に大量に送ってくるかもしれない。
書き直した。
――まず五つほど頼む。
これでいい。
二通の書状を並べる。
朝鮮へは須知。
北方へはハウキ。
さらに神戸では古い須恵器を修復中。
淡路や瀬戸内の商人にも、変わった器があれば知らせるよう声をかけている。
少弐はそこで気づいた。
「……俺は何をしているんだ」
西方艦隊の責任者。
対中国方面を預かる立場。
従五位上筑前守。
その男が朝鮮と北方へ、
変な器を探して送ってくれ
という書状を出している。
原因は一人しかいない。
「松永殿だな」
少弐は笑った。
だが悪い話ではない。
朝鮮の器。
北方の器。
神戸の土中から出てきた古い器。
それらを同じ場所へ並べてみれば、少弐自身も見てみたかった。
松永久秀は、その中から何を選ぶのか。
高価な朝鮮の焼物か。
数百年眠っていた須恵器か。
それとも北方の誰かが普段使っている、名もない木の器か。
少弐は二通の書状を閉じた。
「さて」
須知とハウキの顔を思い浮かべる。
「何を送ってくるかな」
松永久秀の秘密の注文から始まった話は、いつの間にか朝鮮と北方まで巻き込んだ、奇妙な器探しになり始めていた。




