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京の四将――西方管区の再編

氏治は坂東へ帰らなかった。


兵庫表の戦況がひとまず落ち着いた後も京に残り、西国全体の軍制を組み直すことにしたのである。


呼び出されたのは四人だった。


佐野昌綱。


那須資忠。


松永久秀。


そして少弐冬明。


議題は明快だった。


西方艦隊と南方艦隊を、誰が、どこまで受け持つのか。


これまで小田家は必要に応じて艦隊を動かしてきた。


しかし領域も航路も広がりすぎた。


紀伊。


淡路。


四国。


瀬戸内。


中国地方。


さらに九州。


そのたびに坂東へ伺いを立てていては遅い。


氏治は地図を広げた。


「今日は船の話を決める」


最初に口を開いたのは佐野だった。


「殿。できましたら、私は陸に集中させていただきたい」


氏治は頷いた。


佐野の正面には織田がいる。


山城、大和を維持しながら、織田の西進を警戒しなければならない。


「船まで持たせると、かえって佐野の仕事が散るか」


「はい」


佐野は地図の京から大和へ指を滑らせた。


「織田がどこから動くかを見ておきたい。畿内の城、街道、寺社、国衆への備えだけでも相応の手が要ります」


氏治も異論はなかった。


「分かった。佐野は陸だ」


続いて那須を見る。


那須資忠は少し困ったように笑った。


「私も、欲張る余裕はありませんな」


「大友か」


「大友だけならまだしも、島津がおります」


九州の地図を指す。


豊後の大友。


南九州の島津。


どちらも軽視できない。


四国から九州を見ながら、その両者の均衡を読むだけでも容易ではない。


「南方艦隊まで私が持つのは構いませぬ。ただ、紀伊や淡路まで見ろと言われれば無理が出ます」


氏治は頷いた。


これで境界が見えてきた。


佐野は陸。


那須は南。


ならば残る西方海域をまとめる者が必要になる。


氏治の視線が少弐へ向いた。


「冬明」


少弐は嫌な予感がした。


「はい」


「お前がやれ」


「何をでしょう」


「西だ」


少弐は地図を見た。


氏治が指で囲う。


紀伊。


淡路。


そして、その先へ続く瀬戸内。


「西方艦隊の責任者は冬明とする」


少弐はしばらく地図を見ていた。


神戸を根拠にすれば、確かに動きやすい。


東へ出れば紀伊。


南へ出れば淡路。


西へ出れば播磨から瀬戸内。


中国方面へ向かうにも都合がいい。


「管区は?」


「まず紀伊と淡路を明確にお前の管区とする」


氏治は答えた。


ここを押さえれば、畿内と四国を結ぶ海路を一つの指揮系統にまとめられる。


そして氏治は松永久秀を見た。


「久秀」


「は」


「淡路を頼む」


松永は目を細めた。


氏治は続ける。


「ただし独立した大将にはせぬ」


そこで少弐を指した。


「冬明の下につける。西方管区の副責任者だ」


少弐が松永を見る。


松永も少弐を見る。


少し妙な沈黙が流れた。


やがて松永が笑った。


「なるほど。某が少弐殿の副将というわけですな」


「不満か?」


氏治が聞く。


「まさか」


松永は楽しそうだった。


「むしろ動きやすうございます」


淡路は重要だった。


神戸の真正面にあり、紀伊と四国を結び、瀬戸内の入口を押さえる。


そこに松永を置く。


軍事だけではない。


商人。


国衆。


寺社。


海賊衆。


四国諸将。


畿内の諸勢力。


松永久秀ほど、その間を渡り歩くのに向いた男も少ない。


氏治は役割を書き分けた。


佐野昌綱――畿内陸上管区。


対織田を第一とし、山城・大和方面の陸上軍事を担当する。


那須資忠――南方管区。


四国を基盤として大友・島津を監視し、南方艦隊を統括する。


少弐冬明――西方管区。


西方艦隊を統括。


神戸を主拠点とし、紀伊・淡路を管区に収め、中国方面へ伸びる海路を担当する。


そして、


松永久秀――西方管区副責任者。


淡路を中心に少弐を補佐する。


少弐が艦隊を率いて西へ出れば、松永が後方をまとめる。


少弐が神戸にいれば、松永は淡路から四国や畿内へ手を伸ばす。


氏治は四人を見渡した。


「これでいい」


佐野が陸を見る。


那須が南を見る。


少弐が西の海を見る。


その少弐を、淡路の松永が支える。


氏治は地図の中央――京へ手を置いた。


「俺はしばらくここにいる」


四人が氏治を見る。


「坂東へ帰れば、また西の判断が遅れる。今は京でやることがある」


織田。


朝廷。


公家。


堺。


畿内諸勢力。


そして西国へ広がり始めた小田家の勢力。


氏治自身が京に残ることで、それらを直接調整するつもりだった。


少弐は地図を見た。


京に氏治。


大和に佐野。


四国に那須。


淡路に松永。


神戸に自分。


ようやく形が見えた。


「つまり私は、船に乗っていればよいと」


少弐が言うと、氏治は首を振った。


「違う」


「違うんですか」


「船を動かす者を、お前が動かせ。」


少弐は黙った。


松永が横で笑う。


「筑前守殿。偉くなるとは、そういうことでございますぞ」


「官位は関係ないでしょう」


「さて、どうでしょうな」


氏治も笑った。


こうして小田家の西国軍制は、それまでの人を中心とした曖昧な分担から、初めて明確な管区へと変わり始めた。


陸の佐野。


南の那須。


西の少弐。


そして淡路の松永。


その四者を京に残った氏治自身が束ねる。


坂東から遠く離れた西国に、もう一つの小田家の軍事中枢が形を取り始めていた。

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