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珍品を銭に変えよ

水軍衆の振り分けが一通り終わると、少弐はもう一度、主だった船頭と商いを任せる者たちを清盛館へ集めた。


対馬へ向かう者。


琉球へ向かう者。


瀬戸内の輸送を担う者。


洲本や紀淡海峡を警備する者。


そして神戸で水先案内や荷揚げ、卸を担う者。


仕事そのものは決まった。


だが少弐には、もう一つ全員に理解させておきたいことがあった。


「一度、話を整理する」


少弐は大きな紙を広げた。


黒田孝高が横に座り、シレトクと渡辺も呼ばれている。


「まず西方艦隊が何をしたいのか」


船頭たちが少弐を見る。


少弐は少し考えてから、実に率直に言った。


「切実に金が欲しい」


黒田が目を閉じた。


「少弐様」


「大事なことだろ」


「間違ってはおりませぬが」


水軍衆から笑いが起きる。


西方艦隊には中央から予算が保証されている。


だが、それは軍港を造り、軍船を建造し、人員を養い、艦隊を維持するための金である。


交易まで中央の金を食い続けるようでは意味がない。


「だから交易は交易で稼ぐ」


少弐は最初に琉球を書いた。


琉球――砂糖と香木


「まず南」


少弐が言う。


「砂糖。それから香木」


小西屋の下請けとして坊津経由で琉球へ入り、まずこの二つを優先して確保する。


「最初は欲張らなくていい。航路を覚えながら、この二つを持って帰れ」


続いて朝鮮。


朝鮮――薬と工芸品


「朝鮮からは朝鮮人参」


少弐は筆を走らせる。


「それ以外にも医薬に使えるものがあれば集める」


さらに、


「朝鮮白磁」


「仏教関係の本」


「仏像」


「虎皮」


と並べていった。


寺院や公家、裕福な武家なら需要を見込める品々だった。


「何でも大量に買うな。最初は見本でいい」


売れるか分からない物を大量に抱える必要はない。


一つ。


二つ。


数冊。


数枚。


それを持って帰り、誰が欲しがるかを見る。


そして最後に北方。


少弐にとってはこちらのほうがよく分かっていた。


北方――ここでしか手に入りにくい物


「虎皮」


少弐が書く。


「セイウチの牙」


続いて、


「トナカイの毛皮」


「ラッコ」


「テンの毛皮」


そして、


「鷹」


シレトクが横から言った。


「鷹は良いものを選ばないと駄目だぞ」


「だからお前にも頼む」


「ん?」


少弐はそこで筆を置いた。


「ここからが大事だ」


これらを単に神戸へ持ってきて、市へ並べるのではない。


「京へ持っていく」


さらに、


「大和」


「摂津」


少弐は三つの地域を囲った。


「少量ずつ売ってみる」


誰が買うのか。


どんな物を欲しがるのか。


いくらなら買うのか。


公家。


寺社。


裕福な武家。


堺や京の豪商。


茶や香に金を使う者。


珍しい舶来品を好む者。


薬種を欲しがる者。


少弐はシレトクと渡辺を見る。


「これは二人に頼む」


渡辺が自分を指した。


「我々が売るので?」


「売るのもあるが、一番やってほしいのは客探しだ」


少弐は笑った。


「珍しい物に金を出せる金持ちを探してくれ」


シレトクも理解した。


「誰が何を欲しがるか調べるのか」


「そう」


少弐は頷く。


「虎皮を欲しがる奴に白磁を持っていっても仕方ない。仏典を欲しがる寺にセイウチの牙を押しつけても困るだろ」


「それは困るな」


「だから客の名簿を作る」


黒田の目が動いた。


「品ではなく、買い手の帳面を?」


「そうだ」


少弐は新しい紙を出した。


誰が。


どこにいて。


何を好み。


どれほど金を出せるのか。


以前何を買ったのか。


次に何を欲しがっているのか。


「例えば、虎皮を一枚持っていく」


少弐は言った。


「それを欲しがる奴が三人いたら覚えておく。次に北から虎皮が来たら、最初からその三人に声を掛ける」


香木なら香木。


白磁なら白磁。


鷹なら鷹。


仏典なら仏典。


「市場へ持っていって『誰か買いませんか』じゃない」


少弐は笑った。


「欲しがる奴のところへ持っていく」


黒田が感心したように頷いた。


「なるほど。珍品ゆえ、大量販売より顧客を押さえるわけですな」


「そういうこと」


だが少弐は、そこで紙を一枚めくった。


「ただし」


水軍衆を見る。


「これは一つ目だ」


「一つ目?」


「珍品を京や大和で売るだけじゃ、大きな商売にはならない」


虎皮や鷹を欲しがる金持ちはいる。


香木なら高値も付く。


朝鮮白磁も珍重される。


だが数には限界がある。


「本命は別にある」


少弐の指が対馬へ移った。


そして博多。


「ここだ」


北方から来る品。


朝鮮から来る品。


琉球から来る品。


坂東や四国から持ってくる商品。


それらをすべて神戸で売り切る必要はない。


「対馬と博多に集めろ」


少弐は言った。


「そこで中国から来る商人との取引に使う」


部屋が静かになった。


「俺が本当に欲しいのは――」


少弐は二文字を書いた。


銅銭。


そしてもう一つ。


銀。


「これだ」


珍しい品を集めることそのものが目的ではない。


珍品を売って終わりでもない。


物を交換し続け、最後に価値を貨幣へ変える。


「砂糖を持ってきました。虎皮を持ってきました。白磁を持ってきました。それだけで喜んでいたら商売じゃない」


少弐は水軍衆を見る。


「最後は銭か銀にして持って帰ってこい」


誰かが笑った。


「ずいぶん分かりやすい話で」


「分かりやすくていいだろ」


少弐も笑う。


交易網を作る。


遠くへ船を出す。


未知の海へ進む。


聞こえは壮大である。


だが西方艦隊を動かし続けるためには、利益が必要だった。


少弐は改めて整理した。


「だから二つだ」


一本目の指を立てる。


「京、大和、摂津で珍品を少量ずつ売る。シレトクと渡辺には、その客を探してもらう」


二本目。


「そして本命。対馬と博多に商品を集め、中国との交易へ回す」


砂糖。


香木。


朝鮮人参。


薬種。


白磁。


仏典。


仏像。


虎皮。


セイウチの牙。


トナカイ、ラッコ、テンの毛皮。


鷹。


それらを単独の品として見るのではない。


琉球、朝鮮、北方から集めた商品を束ね、中国との交易へ投入する。


「そこで銅銭と銀を引っ張る」


少弐は机を叩いた。


「珍品を集めて喜ぶんじゃないぞ」


水軍衆が少弐を見る。


「珍品を金に変えるところまでがお前たちの仕事だ」


黒田が横から静かに付け加えた。


「そして、その金が次の船を動かす」


「そういうこと」


少弐は頷いた。


金が入れば、次の交易ができる。


取引量を増やせる。


商館を拡張できる。


船乗りを厚遇できる。


そして中央から保証される西方艦隊予算とは別に、交易網そのものが自分で稼ぎ始める。


少弐は地図を見渡した。


北方。


朝鮮。


対馬。


博多。


神戸。


琉球。


一見ばらばらだった航路が、少しずつ役割を持ち始めている。


北と南から品を集める。


京・大和・摂津では、珍品に金を惜しまない顧客を見つける。


そして大量に動かせる品は対馬・博多へ集積し、中国交易へ投入する。


最後に欲しいものは明快だった。


銅銭と銀。


少弐が欲しかったのは、珍しい品を集めた宝物庫ではない。


珍しい品を銭へ変え、その銭でもう一度船を出せる交易網そのものだった。

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