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商船であり、軍船である

対馬へ向かう者が決まった。


琉球へ向かう南方遠航組も決まった。


だが、それで水軍衆の振り分けが終わったわけではない。


清盛館の庭には、まだ大勢の船頭、水主、海衆が残っていた。


遠航組へ名乗り出なかった者の中には、家族を連れて神戸へ移ってきた者も多い。


長期間家を空けたくない。


瀬戸内から出た経験がない。


自分は外洋より島伝いの航海のほうが得意だ。


理由は様々だった。


少弐はそんな彼らを見渡した。


「安心してくれ。残った者にも仕事はある」


むしろ、西方艦隊の日常を支えるのはこちらだった。


少弐は瀬戸内の地図を広げる。


「まず、瀬戸内」


兵庫津から西へ指を動かす。


「警備と運搬だ」


兵庫津へ入る商品。


兵庫津から出る商品。


四国から来る塩、紙、砂糖。


播磨から出す品。


さらに西国から来る商船の護衛。


「商船を襲う連中が出たら追い払う。それから荷が増えれば、お前たち自身にも運んでもらう」


つまり瀬戸内警備・運搬組である。


次に少弐は淡路島を指した。


「洲本」


さらに紀伊水道。


「ここは別にする」


淡路。


紀伊。


四国。


大阪湾。


複数の海域が接する場所だけに、軍事的にも重要だった。


「洲本を中心に、紀伊―淡路間を哨戒してくれ」


不審船の確認。


商船の護衛。


密輸の監視。


戦になれば敵船の動向を探る。


「ここは商売より、少し軍の仕事が多い」


淡路や阿波出身の水軍衆から手が挙がった。


そして最後。


少弐は兵庫津そのものを指した。


「ここも人がいる」


黒田が苦笑する。


「現在、最も切実かもしれませぬ」


港には船が溢れている。


新しく来た船は、どこへ入ればよいか分からない。


どこが浅いのか。


どの潮なら入れるのか。


どの船着場へ行けばいいのか。


どこの倉へ荷を運ぶのか。


港が急激に大きくなった結果、それを案内する者まで不足し始めていた。


「神戸では水先案内をしてもらう」


少弐は言った。


「入ってくる船を捌く。それから荷揚げ」


さらに、


「近隣への卸もやってくれ」


兵庫津で荷を下ろして終わりではない。


須磨。


播磨各地。


有馬方面。


必要なら京・大坂方面へ向かう商人へ荷を渡す。


港から周辺へ商品を流す仕事である。


「つまり船に乗らない仕事もある?」


一人が尋ねた。


「いくらでもある」


少弐は笑った。


「今の兵庫を見ただろう。むしろ陸が追いついていない」


水先案内。


荷役。


倉。


卸。


近距離輸送。


船の修理。


瀬戸内を知る者なら、その経験はいくらでも使える。


これで大きく四つに分かれた。


対馬を中心とする北方・朝鮮交易組。


坊津から琉球へ向かう南方遠航組。


瀬戸内の警備・運搬と、洲本・紀伊―淡路間を守る近海組。


そして、


神戸港そのものを動かす水先・荷役・卸の港湾組。


だが少弐は、そこで話を終わらせなかった。


「最後に一つ、全員に覚えておいてほしい」


水軍衆が少弐を見る。


「今から作る西方艦隊は、普通の水軍とは少し違う」


黒田も黙って聞いていた。


「軍船だけを並べて、戦が始まるまで港で待っている艦隊にはしない」


少弐は港を指した。


「普段は商売をする」


荷を運ぶ。


交易する。


水先案内をする。


商船を護衛する。


港を使って金を稼ぐ。


「だから普段のお前たちは、商人であり船乗りだ」


だが少弐は、そこで声を変えた。


「ただし――俺たちの交易網の縄張りを荒らす者が出たら話は別だ」


海賊。


無断で商船を襲う水軍。


交易路を力ずくで奪おうとする勢力。


商館を襲う者。


坂東の船だけではない。


坂東と約定を結び、その航路を使っている商人たちを脅かす者も含まれる。


「そういう連中は叩く」


少弐は明言した。


「商売の話で済むなら商売で片づける。交渉で済むなら交渉する。港を使わせれば収まるなら、それでもいい」


一拍置いた。


「それでも刃を向けてくるなら、今度はこちらも軍として出る」


水軍衆の顔つきが変わった。


「西方艦隊は、商と軍を分けきらない」


少弐は一隻の船を指すように手を動かした。


「昨日まで砂糖を積んでいた船が、今日は兵を乗せることもある」


「荷を運んでいた船が?」


誰かが尋ねた。


「必要なら軍船になる」


「では軍船も交易を?」


「できる船ならする」


黒田が少弐の意図を理解して補足した。


「常に全船を軍船として維持するのではない、ということでございましょう」


「そうだ」


純粋な戦闘艦はもちろん置く。


だが、それだけで海を支配するつもりはない。


普段から海を走っている船が必要だった。


どの港に何隻いるのか。


どこで不穏な動きがあるのか。


どの航路が危険なのか。


それを最初に知るのは、軍港に停泊している軍船ではない。


日々、荷を積んで海を走る船乗りたちである。


「お前たちは商売をしながら海を見る」


少弐は言った。


「何かあれば知らせる。小さなことならその場で対処する。大きな相手なら神戸から艦隊を出す」


そして、はっきりと言い切った。


「時には商船。時には軍船だ」


静かになった水軍衆を見回す。


「俺たちが守るのは海そのものじゃない」


少弐は地図の上を指でなぞった。


神戸。


瀬戸内。


対馬。


朝鮮。


室蘭。


水府坊。


明川。


坊津。


琉球。


そして、いつか伸びるであろう五島、中国、ルソン、シャム、マラッカ。


「この道だ」


船が往来する道。


商品が動く道。


人が行き交う道。


「この交易網を使って一緒に商売する者とは仲良くする。新しく入りたい者とも話をする」


そこで少弐は拳を地図へ置いた。


「だが、この道を荒らして儲けようとする者には、西方艦隊が出る」


つまり、この艦隊の力は大砲の数だけではない。


普段から交易路を走る無数の船。


各地の港にいる商人。


水先案内人。


船大工。


荷役。


商館。


そして、必要になれば武装して集まる水軍衆。


そのすべてが一つの網になる。


少弐は最後に笑った。


「商売しているときは、しっかり稼いでくれ」


そして腰の短筒を軽く叩いた。


「戦になったら、しっかり守ってくれ」


水軍衆から笑いが起こった。


西方艦隊は、こうして軍船だけの艦隊としてではなく生まれようとしていた。


交易によって日々海を走り、交易を守る必要が生じたとき軍へ変わる。


商船であり、軍船である。


商人であり、水軍である。


神戸を根拠とする新しい西方艦隊の性格が、この日初めて明確な言葉になった。

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